ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

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ロンとマグルのサンドイッチ

 

 

 

 

 

ハリーは九と四分の三番線の人ごみを掻き分け、やっと空いているコンパートメントを見つけると重いトランクを階段から押し上げようとした。

 

 

 

しかしトランクは片側さえ持ち上がらず、ハリーは途方にくれた。こんなことなら強がらずダドリーにここまで見送ってもらえばよかったと思った途端、先ほどキングズ・クロス駅の前で手を振り別れたばかりの家族がもう恋しくて堪らなくなった。ペチュニアとバーノンは目を真っ赤にして何度もハリーをハグしたし、ダドリーはハリーの姿が見えなくなるまでいつまでも大きく手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

「手伝おうか?」

 

 

声をかけられ振り向くと先程改札口を通過する前にハリーに九と四分の三番線への行き方を教えてくれた赤毛の家族の、双子のどちらかだった。

 

「うん。お願い」

 

ハリーは答えながらなんて親切なんだろうと思った。母親といい双子といい、人を助けることを当たり前だと思っている様な一家だ。双子のおかげでハリーのトランクはやっと客室の隅におさまった。

 

 

「助かったよありがとう。僕、ハリー・ポッター、よろしく」

 

双子という点にも親近感を抱いていたハリーは、親切な彼らに自分から名乗った。

 

 

 

「ハリー・ポッター!」

 

 

双子が同時に驚きの声をあげた。

 

自分が魔法界で有名人であるということは知っていたが双子があまりにもポカンとハリーに見とれているので、ハリーは顔が赤らむのを感じた。

 

 

 

 

 

 

汽車が滑り出すと家々が窓の外を飛ぶように過ぎていくのをハリーは見ていた。ハリーの心は期待より不安が大きかった。大好きな家族と離れて、いつも守ってくれるダドリーもいない学校でやっていけるだろうか?ホグワーツに着けばヘーゼルがいてくれることが何とかハリーの心を慰めた。

 

 

 

 

双子のフレッドとジョージ・ウィーズリーはタランチュラを見に真ん中の車両まで行ってしまったが、同じコンパートメントに座ることになった彼らの弟、ロン・ウィーズリーも優しそうな少年だった。

 

ロンが本当は生き残った男の子ハリー・ポッターに興味津々なのに、いろいろ聞きすぎてハリーを傷つけないように気をつけてくれているのが伝わってきた。

 

 

 

ロンがハリーに興味を持ったのと同じぐらい、ハリーもロンに関心を持った。ペチュニアやバーノンがいない時にヘーゼルからどんな風に暮らしているのか聞いたことはあったが、ヘーゼルの魔法のお菓子以外ハリーはこれまでほとんど魔法を見たことがなかったのだ。

 

 

 

「君なんか、もう魔法をいっぱい知ってるんだろうな。きっと、僕、クラスでビリだよ」

 

ロンの家族がみんな魔法使いだと聞いて、ハリーはしょんぼりしながら気にしていたことを言った。ウィーズリー家が、ダイアゴン横丁であの青白い男の子が話していた由緒正しい「魔法使いの旧家」の一つであることは明らかだった。

 

 

「そんなことないさ。マグル出身の子はたくさんいるし、そういう子でもちゃんとやってるよ」

 

 

ロンが励ますように言った。

 

「それに僕だって、まだまともに呪文のひとつも使えないよ。入学前から魔法を使いこなしてる奴なんてそうそういないさ」

 

ハリーは驚いた。ヘーゼルがいつも驚くような魔法のお菓子を作ってくるので、魔法使いの子供はみんなそんなことが出来ると思っていたのだ。

 

 

ロンの言葉にハリーの心は随分軽くなった。どうやらアンブロシウスが言うようにヘーゼルが天才の部類であって、ハリーが他の子と比べ劣っているというわけではないらしい。

 

 

 

「君はマグルと暮らしてたって聞いたよ。どんな感じなんだい?」

 

 

ロンに聞かれてハリーはダーズリー家での生活を話して聞かせた。バーノンの会社が作っている穴あけドリル、ペチュニアがどんな風に料理を作るか、ダドリーの得意なマウンテンバイク・・・

 

 

話しているうちに家族が恋しくて泣きそうになってしまい、ハリーは慌ててロンの家族へと話題を切り替えた。

 

 

 

ロンは優秀な兄たちにコンプレックスを抱いているらしかった。ハリーも、ダドリーのことはもちろん大好きだったが、どうして僕はダドリーみたいに出来ないんだろうと思うことがあったのでロンの気持ちがわかった。

 

ハリーがそう言うとロンはそれで少し元気になったようだった。

 

 

 

 

「ところできみのふくろう、真っ白で綺麗だね」

 

ロンが言うのでハリーは笑顔で頷いた。ダイアゴン横丁でハグリッドから誕生日プレゼントに買ってもらったふくろうに、ハリーは「魔法史」の教科書で見つけたヘドウィグという名前をつけていた。

 

 

 

「ロンの猫も真っ黒でとっても素敵だね。何ていう名前なの?」

 

 

ハリーが褒めるとロンは待ってましたとばかりに嬉しそうな顔をした。

 

 

ロンの持ち物は全てお下がりでぼろぼろだったが、ロンの隣に優雅に座っている黒猫だけは滑らかな毛並みが艶々と光っていた。

 

首の周りの長い毛がふわふわしてまるで小さな黒いライオンのようだ。

 

 

 

「レグルスって言うんだ。すっごく賢いんだけど小さな王様みたいに偉そうだからさ」

 

ロンが肩をすくめながら言った。

 

「随分前にうちに迷い込んできて家族みんなで飼ってるんだけど、今朝出発する時になって何故だか僕にどうしてもついてきたがったんで、しょうがなく連れてきたんだよ」

 

 

 

ロンは困ったような表情を作っていたが喜びを隠しきれていなかった。美しい猫をペットとして連れているのが誇らしくて仕方ないようだ。猫好きのヘーゼルがこのレグルスをみたら一瞬で骨抜きになりそうだ、とハリーは思った。

 

 

 

 

 

しばらくして車内販売のワゴンを見送ってハリーとロンはお互い持ってきていたサンドイッチを食べることにした。

 

 

ハリーが丁寧にきっちりと折られた包みを開くとペチュニア特製の色鮮やかなサンドイッチが入っていた。ハリーが小さい頃から大好きなふわふわしたたまごのサンドイッチが二切れと、ダドリーが好きなベーコンと野菜のサンドイッチが二切れだ。

 

 

ロンはハリーのサンドイッチにちらりと目をやると、デコボコの包みに入っていた自分のサンドイッチを開き耳元をポッと赤らめた。

 

 

「ママったら僕がコンビーフは嫌いだって言っているのに、いっつも忘れちゃうんだ。」

 

「わかるよ。僕、ベーコンが多すぎるって言うけどママはいつもダドリーと同じ量で作っちゃうんだ。ひとつ交換しようよ。」

 

 

ロンは、魔法なしでこんなに美味しいサンドイッチが作れるなんて!とペチュニアのサンドイッチに大感激だった。分厚く切られたトマトに瑞々しいレタス、スライスチーズ、こんがり焼いたベーコンはパンから少しはみ出して、片側のパンにはマヨネーズ、反対にはマスタードを薄く塗るのがペチュニア流だ。

 

 

コンビーフのサンドイッチも(少しパサパサしてはいたが)シンプルで美味しいとハリーは思った。不安だらけだったハリーにとってロンと一緒に笑いながらサンドイッチを食べるのは素敵なことだった。

 

二人が丁度食べ終わった頃、泣きべそをかいた丸顔の男の子と、フサフサした栗色の髪の女の子がヒキガエルを探してハリーたちのコンパートメントにやってきた。ハリーとロンがヒキガエルを見ていないことを伝えると男の子はシクシク泣きだしてしまった。

 

 

「きっと出てくるよ。僕はハリー・ポッター。君たちの名前も聞いていい?」

 

 

女の子はハーマイオニー・グレンジャー、男の子はネビル・ロングボトムと名乗った。

 

ハーマイオニーはマグル出身なのに教科書をすでに暗記していて、なんとハリーについて書かれた参考書も二、三冊読んだらしい。一気に話すハーマイオニーに気圧されながらロンはモゴモゴと二人に名乗ったが、ハーマイオニーも猫好きらしくロンのレグルスを沢山褒めたので悪い気はしないようだった。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーとネビルの二人を見送りハーマイオニーの話にでてきたホグワーツの寮の話や、ロンの好きなクィディッチの話をする内に汽車は徐々に速度を落とし始めた。

 

 

 

ハリーが窓からのぞくと、外は暗くなり、深い紫色の空の下には山や森が見えた。

 

 

二人は大慌てで上着を脱ぎ、黒い長いローブを着た。ハリーは緊張で胃がひっくり返りそうだった。ロンをちらっと伺うと、ロンもそばかすだらけの顔を少し青白くさせている。どこでも良いからロンと同じ寮になれるといいな、とハリーは思った。

 

 

母親の手作りサンドイッチを交換して食べることは、子供同士をすっかり友達にする魔法のような力があるものだ。

 

そして事実この二人は生涯親友となり、ロンはペチュニアに習いいつしかサンドイッチをマグル式の方法で作れるようになるのだった。

 

 

 

しかし今の二人はまだ出会ったばかり、ホグワーツ特急はやっとホグズミードに到着したばかりである。

 

 

 

 

 

 

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