ハニーデュークスの女の子   作:雪羊

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組み分け帽子とホグワーツのご馳走

 

 

ホグズミードの暗いホームを眩いライトで照らしながら紅色の汽車が滑り込んでくる。ヘーゼルは巨大な森番ハグリッドの横で光に目を細め、乗客たちが降りてくるのを胸を高鳴らせて待っていた。

 

 

「ハリー!」

 

 

見慣れた黒いくしゃくしゃ頭を見つけて呼びかけると、もう仲良くなったらしい赤毛の背の高い男の子と話していたハリーもヘーゼルを見つけ、満面の笑顔で駆け寄ってきた。

 

 

「ここにヘーゼルの住んでる村があるんだね?うわぁ僕やっと来れたよ。」

 

 

ハリーは目を輝かせて感動している。

 

 

「初めまして。私ヘーゼル・フルーム。今日からホグワーツに入るの、よろしくね。」

 

ハリーの後ろからついてきてそわそわしていたロンにヘーゼルがにっこり笑いかけると、ロンの顔はみるみる髪と同じくらい赤くなった。

 

「ロナルド・ウィーズリー。ロンて呼んで。」

 

ロンが名乗るとヘーゼルはやっぱり!と手を叩いた。

 

「あなたフレッドとジョージの弟ね?ふたりは私のパパとママのお店の常連さんよ」

 

 

 

 

「おい、君マグル育ちだって言っただろ?何でこんな可愛・・・ヘーゼルと知り合いなんだい?」

 

大声で一年生を集めていたハグリッドに続いて暗い道を歩きながら、ロンがハリーを小突いて問いかけた。

 

「あー・・・ヘーゼルは幼馴染なんだ。彼女の両親は魔法使いと魔女なんだけどホグズミードでお店をしてて忙しくって、それで・・・なんて言ったっけ?親戚のスクイブ?のおばあさんの家に預けられることが多くて、それが僕の家の近所なんだよ。」

 

 

ハリーの説明はいかにも練習しました、と言わんばかりでヘーゼルはひやひやしたがロンは気にしなかったようだ。

 

 

ハリーとヘーゼルが双子であることは決して口外してはいけないと口酸っぱく言われていたし、入学前にホグワーツの校長であるダンブルドアから直々の手紙で釘を刺されていた。

 

 

 

ハリーとロン、そしてヘーゼルが声をかけたハーマイオニーが4人でボートに乗り込んで待っていると後ろからハグリッドの怒る声が聞こえてきた。どうやら列にだいぶ遅れてきた一年生がいたらしい。

 

ヘーゼルがちらりと目をやるとプラチナブランドの髪の青白い顔の男の子が、同じ一年生と思えないほど身体の大きな二人を後ろに引き連れて不満そうな顔をしながらボートに遅れて乗り込むところだった。

 

 

「僕、あの前にいる男の子にダイアゴン横丁で会ったことがある。」

 

「ありゃろくな奴じゃないぜ。多分あいつスリザリンだ。」

 

ハリーが呟くとロンが顔を顰めてみせた。

 

 

 

するとヘーゼルがあら、とロンの方を振り向き悪戯な顔で言った。

 

「ロンはもし私がスリザリンになったら友達になってくれないの?」

 

「も、もちろんどの寮になったって友達になりたいさ」

 

 

ロンがわたわたと答えるとヘーゼルは満足気に微笑んでハーマイオニーと話し始めた。ハーマイオニーはヘーゼルが育ったホグズミードに興味津々だった。

 

 

 

 

いよいよホグワーツへ到着し、厳格なマクゴナガル先生に迎えられるとヘーゼルは緊張で手が汗ばむのを感じた。

 

アンブロシウスもアイラもハグリッドも、ハニーデュークスへやってくる上級生たちも、みんな組み分けの儀式で何をするのか教えてくれなかった。

 

みんなどこか笑いを堪えるような顔をしていたので、まさか双子のフレッドが言うようにトロールと取っ組み合いさせされるということはないと思うが・・・

 

 

 

「君があの有名なハリー・ポッターなのかい?」

 

 

どこか気取った声に現実に引き戻されて横を見ると先程の青白い顔の男の子がハリーに話しかけているところだった。

 

「僕はドラコ・マルフォイだ」

 

珍しい名前をロンが笑ってしまったのでドラコは怒った顔で口を開きかけたが、その時、ヘーゼルとばちっと目が合った。

 

 

途端、驚きと嬉しさをないまぜにしたような表情で青白い顔がいっきに綻んだ。ヘーゼルはその瞬間初めてドラコが端正な顔立ちをしていることに気が付いた。

 

 

 

「どうして?列車の中でも最後までずっと探してたのに・・・」

 

「私ホグズミードに住んでるからホグワーツ特急には乗らなかったの。あの、ごめんなさい、私たちどこかで会ってたかしら・・・?」

 

 

思わず口から溢れた風だったドラコにヘーゼルはおずおず言った。ヘーゼルはドラコに全く見覚えがなかった。もしかしてハニーデュークスのお客だっただろうか?

 

惚けた表情のままドラコが何も言わないので二人は皆んなの前でしばらく見つめ合う形になった。

 

 

 

 

「うんん」

 

わざとらしい咳払いをするとハリーがドラコに手を差し出した。

 

「そうだよ。僕がハリー・ポッターで、この子は僕の幼馴染のヘーゼル・フルーム。どうぞよろしくね」

 

 

 

ハリーとドラコが握手すると、ヘーゼルも手を差し出した。ドラコは青白い顔をほんのり色付かせ、ヘーゼルの手を握り返した。

 

ヘーゼルはもう一度何処かで会ったか聞きかけたが、ホグワーツのゴーストたちが飛び込んできた騒ぎで聞けずじまいになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちただ帽子を被ればいいんだわ!」

 

「フレッドの奴トロールと取っ組み合いさせられるなんて嘘つきやがって!」

 

椅子に置かれた組み分け帽子を前にヘーゼルとロンは顔を見合わせて吹き出したが、ハリーは相当緊張しているらしく少し気分が悪そうだ。

 

 

ヘーゼルはハリーの背中をばしっと叩いてハリーなら大丈夫よ、と囁いた。

 

「ダドリーみたいだ」

 

そう言いながらハリーは弱々しく微笑んだ。

 

 

 

ヘーゼルの順番はあっという間に回ってきた。

 

 

 

「フルーム・ヘーゼル」

 

 

ヘーゼルの名が呼ばれると大広間が少し浮ついた。ヘーゼルは幼い頃からハニーデュークスの看板娘だったので上級生の多くが彼女を知っていたし、おまけにヘーゼルはやはりホグワーツでも目立つほど可愛かった。

 

 

帽子を被り視界が真っ暗になるとすぐにしゃがれた帽子の声が聞こえた。

 

 

「きみは迷うまでもないね。グリフィンドール!」

 

 

 

帽子が大広間に向かって叫ぶとヘーゼルは急いで帽子を脱ぎ拍手に迎えられながらグリフィンドールのテーブルへ駆け出した。

 

少し離れた席からフレッドとジョージが口笛を吹いて一際大きく拍手してくれたのでヘーゼルも笑いかける。

 

結局電車の中で仲良くなったハーマイオニーもネビルも、そしてハリーもグリフィンドールになった。ハリーは魔法界では有名人なのでグリフィンドールのテーブルは大興奮だっが、当の本人は組み分けが終わったことに安堵して気が付いていないらしかった。

 

 

組み分けが進み次はやっとロンの番だ。ハリーはテーブルの下で手を組み祈っている。

 

 

「グリフィンドール!」

 

 

ロンが帽子を被ると間髪入れず帽子が叫び、ヘーゼルもハリーと一緒になって大きな拍手で迎えた。ドラコ・マルフォイがスリザリンのテーブルからその様子を睨みつけていたが、ヘーゼルもハリーもロンも気が付かなかった。

 

 

 

 

 

「ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ!わっしょい!こらしょい!どっこらしょい!」

 

ダンブルドアの独創的な挨拶が終わるとテーブルの上の金色の皿がご馳走で満たされた。

 

 

ローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ゆでたポテト、グリルポテト、フレンチフライ、ヨークシャープティング、豆、にんじん、グレービー、ケチャップ、そして、ハッカ入りキャンディー

 

食べることが大好きなヘーゼルは全てを少しずつ皿にとった。ついでに隣のハリーのお皿にも次々と乗せていき、食べきれないと怒られた。

 

聞いてはいたがホグワーツの料理はどれもこれも美味しく、ヘーゼルは最高の気分でそれを味わった。しかしのんびりしてはいられない。この後きっとデザートがでてくるのだから、口直しをしておかなければ。ヘーゼルはハッカ入りキャンディーを口に放り込んで次の戦いに備えた。

 

 

程なくして今度はデザートが現れた。ありとあらゆる味のアイスクリーム、アップルパイ、糖蜜パイ、エクレア、ジャムドーナツ、トライフル、いちご、ゼリー、ライスプティングなどなど・・・。

 

 

ヘーゼルはものすごい勢いで片っ端からデザートをたいらげていく。みんなが家族の話で盛り上がっていたが、ヘーゼルの耳には全く入らない。

 

 

真剣な表情でひとつ食べては感動したり、何が入っているのかぶつぶつ呟いた。

 

 

「ホグワーツの厨房に絶対行ってみなくっちゃ。どれもこれも最高の出来よ。まったく恐ろしいわ・・・」

 

 

「僕は相変わらず君の胃袋が恐ろしいよ」

 

 

ハリーが呆れるように言った。その隣から見ていたロンはあんぐりと口を開けている。

 

 

「君、全部のデザートを二回ずつ食べたぜ。気付いてたかい?」

 

 

「多分私の大食いには魔力が関係あると思うんだ。」

 

 

そう言うとヘーゼルは舌を出した。初日からご馳走を前に我を忘れてしまったことが恥ずかしかった。

 

 

 

 

流石にお腹いっぱいになり、満足してふと来賓席を見上げると、黒髪で鉤鼻の先生が目に飛び込んできた。

 

来賓席にはハグリッドや、ホグズミードで見かけたことのある先生も沢山座っていたのに、ヘーゼルの目は何故かその先生ただ一人に吸い寄せられるようだ。

 

 

 

ターバン頭のクィレル先生越しに鉤鼻の先生がこちらを見た、と思った次の瞬間

 

「イタッ!」

 

隣にいたハリーが手でパシリと額をおおった。傷があるあたりだ。

 

 

「どうしたの?」

 

「ハリー大丈夫?」

 

ヘーゼルと同時に近くでハーマイオニーと授業の話をしていたロンと双子の兄、パーシー・ウィーズリーがハリーに尋ねた。親切で世話好きな性格らしい。

 

ハリーは何でもないと答えた。そんなことはないと思ったが黙っていた。きっと皆の前で心配をかけたくないのだろう。

 

 

「あのクィレル先生と話している人はだれ?」

 

 

ハリーの言葉に、ヘーゼルは胸をどきりとさせた。鼓動の音がやけに早いが、それがどうしてなのかはわからなかった。

 

 

 

 

セブルス・スネイプ

 

 

パーシーが教えてくれた名前を心の中で反芻する。

 

ずっと前から彼を知っていたような気がする。早鐘のように打つ心臓が、自分のものではないようだった。

 

 

 

大広間をでるまで見つめていたが、スネイプ先生がこちらを見ることは二度となかった。

 

 

 

 

 

 

「おやすみなさい。また明日ね。」

 

 

同室になったラベンダーとパーバティそれからハーマイオニーに挨拶すると、ヘーゼルは早々にベッドに横になった。

 

まだ眠れそうになかったしホグワーツに入ったら女子寮で友達と夜更かしすることがヘーゼルの憧れだったが、今はとにかくひとりになって考えたかった。

 

 

 

今日はいろんなことがあったはずなのに、今はもうスネイプ先生のことしか考えられなかった。

 

 

 

まさか・・・

 

「一目惚れ・・・?」

 

 

自分の口から出た言葉に驚いて枕に顔を埋めると足をばたばたさせて悶絶した。胸がきゅっと締め付けられるようだ。

 

マグルのプライマリースクールで好かれることは多かったが、一番格好良いのは兄同然のダドリーだったし、いちばん優しくしてくれる男の子は双子の弟のハリーだったので、ヘーゼルはまだ恋というものをしたことがなかった。

 

 

 

まさか大人の、それも先生に、自分が恋をするなんて。

 

 

 

 

 

 

 

しかし駄目だと思うほど、燃え上がるのが恋心というものだ。

 

 

今宵のホグワーツではスネイプ先生への初恋に悩むヘーゼルが、早々に寝てしまった新しい友の幼馴染が気になってしまうロンが、そして組み分けによって隔たれてしまった想い人との距離に悩むドラコが、そしてその他にも幾人かの恋する生徒が眠れぬ夜を過ごしていた。

 

 

 

恋に恋するお年頃、残念ながらこの中に叶う恋はほとんどない。

 

恋とはマダム・ポンフリーでも治せない流行病のようなもの。少年少女は失恋を乗り越えて強くなっていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴドリックも喜ぶだろう、君はグリフィンドールにぴったりさ」

 

 

一年に一度の晴れ舞台を終え、校長室の棚の上に戻された組み分け帽子が歌うように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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