カミーユ・フォレスティエ
本作の主人公。スパイファミリーの世界にTS転生した元現代日本人。なんやかんやで秘密警察になったかわいそうな奴。現在15歳。
警備
なぞの組織が運営する超能力研究所の平職員。責任重大なのに突然ワンオペになり苦しんでいる。
<007>(アーニャ)
なぞの組織によって生み出された超能力者。こんなところから逃げ出したい。
カミーユ・フォレスティエはTS転生者である。
そして、東国<オスタニア>の秘密警察である。
かつて21世紀の日本でのほほんと暮らしていた男だったが、何の因果かSPYxFAMILYの世界に女として生れ落ちた。平和と惰眠をむさぼる2週目の人生をと思ったが、東国<オスタニア>と西国<ウェスタリス>の大冷戦時代に生まれたのが運の尽き。
いつのまにやら、暴行盗聴脅迫拷問etc…東国内にはびこるスパイや不穏分子を狩るためなら何でもありの超法規組織、国家保安局<SSS>もとい秘密警察に所属する羽目になってしまった。
そんなカミーユ・フォレスティエの容貌はとてもよく整っている。
ティーンの若者が初心な女の子を口説くためのお世辞などではなく、誰が見てもはっきりとわかる事実としてカミーユは魅力的だ。
東国によく馴染んでいながらもどこか異国情緒のある顔立ちは作り物のように整っていて、すらりと伸びた暗い茶髪は思わず触ってみたくなるほど艶々としている。訓練によって鍛えられた身体は、細く引き締まっていながらも女性らしいなめらかな肌で目を惹きつける。
カミーユがすこしおしゃれをして街を歩いていたならば、「お嬢さん、お茶でもいかが?」と声をかけられつづけてしまうことだろう。相手の印象に残りやすいのは、秘密警察の一員としてはすこし困った特徴でもあった。
しかしカミーユはそれをどう利用すればいいか心得ている。
小さなバッグひとつ分の下準備とわずかな時間があれば、カミーユはあっという間に別人になれる。ウィッグとメイクを巧みに使いこなし雰囲気を変え、大胆にファッションを変えて堂々とふるまうと、それが先ほどまでの美しい少女だとは誰も思わない。共通するのは、とても魅力的であるという一点だけになるからだ。
印象を自在にコントロールする能力に長け、なおかつ男心をくすぐる仕草というものをなぜか我がことのように理解しているカミーユにかかれば、秘密警察にとって邪魔な政治家や他国からやってくる外交官たちは、なかったはずの弱みをみずから生み出してしまうことになる。
ゆえに、女性諜報員としてもプロフェッショナルの域にあるカミーユ・フォレスティエは、国家保安局にとって重要なカードの一枚足りうるのだ。
もっとも、優れた武器を持っていたとしても使いたいかどうかは別の話。
標的の外交官とあられもない姿を晒す自身の写真を片手に、カミーユは思うところをこらえている。今さら減るものではないとはいえやはり気分が悪い。それに、下心とはいえ好意を向けてくる相手を踏みにじるのは心が痛んだ。
しかしそれとこれとは別のことだ。この仕事に辟易しているなんて内心を漏らそうものなら、カミーユ・フォレスティエはすべてを失うことになるだろう。
そんな話はさておこう。
カミーユによって作り出された
以降、秘密警察によって研究機関の調査が行われることとなった。
理念や研究内容はもちろんのこと、職員や顧客のリストからパトロンの存在に至るまで綿密な調査を行わなければならない。これが氷山の一角であることは明らかであり、石の下で眠る害虫たちを一網打尽にしてやる必要があった。
そこで国家保安局はカミーユに任務を下した。
職員のひとりと親密な仲になり、研究機関内部の情報を収集すること。ひいては国家保安局が踏み込んでも問題ないように下準備をして、掌握の起点をつくること。すなわち、“
そうしてカミーユは責任重大な任務を引き受けることとなった。
魅惑的な女性のふるまいを完ぺきにこなしながら偶然をよそおい接近。あっという間に標的の職員と恋仲になると、枕元で愛を囁きながら盗聴器をしかけて尾行し、研究機関の位置や構成員などあらゆる情報を収集しつづけた。
そして、近々研究所の移転がされる予定だと知ったカミーユは、機密資料を確保するべく施設に侵入する運びとなった。とにかく、とにかくだ。
つまりカミーユ・フォレスティエは…わたしはいま、しっかりと集中しなければならないのだ。
(なにをしているの、カミーユ。わたしはなにもみていない。ほうっておくべきよ。だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ)
そうは思えど手元にある研究資料から目を離せない。
紙面に形どられたインクの染みが文字となり、文章となって脳内で意味を成す。
添えられた写真の被写体は特徴的で見覚えのある容姿をしていた。
今はまだわたしの知る姓名ではないのだろうが―――
誰にも人間扱いなどされず、ただの実験動物として飼われ観察されている子供。
わたしはこの子のことを知っている。
アーニャ。
被験体No.<007>。
組織の実験によって生み出された、幼い超能力者。
人の思考や心を読めるバケモノとして資料に記録されている、まだたった3歳の女の子。
悠長にしている時間などどこにもないというのに、わたしはすでに数分も立ち尽くしてしまっている。
(…かかわってもリスクしか生まれない)
明日にでも、国家保安局がこの施設に踏み入る手はずになっている。突入の隙に処分されてはいけない最重要資料はすでに抜き取った。あとはここを出ればわたしの任務は終わりだ。余計な波風など立てるべきでないことは、それこそ子供にだってわかるはずだ。
それでも脳裏で誰かがささやきかける。このまま見過ごせば、この子はどうなってしまうのか。
わたしが任務を順調に進めたこともあり、秘密警察は施設を無事に掌握し研究成果を確保するだろう。だが、国家保安局が<007>を
人としてでなく、武器として生き続けなければならない日々が待っているのだ。
(……………っ!)
わたしの足は出口とは別の方向に動き出していた。
このようななんの利益ももたらさない寄り道は、警備に見つかる可能性を引き上げるだけの行為とわかっていた。秘密警察としてあるまじき背信行為にほかならないと、わたしもわかっていた。
しかし、現にわたしは<
そしてケースロックとダイヤルロックの二つの鍵で厳重に施錠された扉の前にしゃがみこんで、はやる心臓をなだめながら開錠を試みている。任務にも安全にも多大なリスクしかないというのに、とうにすり減らして無くしたはずの良心のために危険を冒し続けている。
(わたしは、なんてバカなことをしているんだ!)
わたしは自分の行為を内心でなじった。いつ巡回がやってくるかもわからない緊張感がわたしの肩にのしかかり、口がからからに乾いていく。理性がわたしを散々に罵倒しつづけている。
もはやすでに錯乱していると言っても差し支えない思考回路とは別に、染みついた技能が迷いなく手先を動かす。道具はそれに応えるようにかちゃかちゃと音を立て、踊るようにピッキングを完了させた。
扉をわずかに開けたままにして、わたしはするりと<007>のいる部屋の中へと潜り込む。読心能力者の相手などしたことはないから通じるかもわからないが、これだけ錯乱した思考であれば自分の正体が割れることはないように思えた。
突然侵入してきた見知らぬ女に対し、怯えたようにこちらを見る<007>に向かって、わたしは極力何も考えず早口ででまかせを告げる。
「引っ越しの時間よアーニャちゃん。この家は移転することになったの。わたしはその前に、あなたの部屋を移しに来たのよ。いまからわたしは家具をまとめるから、そこでじっとして待っているのよ」
誰に対してかもわからない言い訳を終えて、わたしはこれ見よがしに<007>の前に紙切れを置き、壁のすみにある家具をもたもたといじりだす。どうやって運べばいいんだろうな~などと、先に続くはずのない思考を空転させ続ける。
…が、一向に動く気配がない。
なにが起きているのか見当がついたわたしは、あわてて補足を脳内に思い浮かべる。
(あ!出口までの道がかいてある紙を落としちゃったかもしれないなぁ!で、でもまさか、誰かがそれを拾って逃げるなんてありえないしいいかなぁ!と、とびらの鍵も開いているから今ならほんとに逃げられちゃうかもしれないなぁ~!)
ハッと息を呑む気配がする。あと一押しが必要だ。
(け、けど、そうなったとしてもわたしは、ちょうど目をそらしてるから気がつけないだろうな~!とってもと~っても油断しているから、ぜったい逃げられちゃうだろうなぁ~!)
背後にいるはずの<007>の顔が、ぱぁっと明るくなるのがなぜかわかる。そこまで思考を読んでようやっとあの子は、まるで音を殺せていない忍び足のまま扉にそっと手をかけ、極力わかりやすいように描かれた地図をみながら廊下をかけだしていく。
幸いなことに、わたしが事前に用意していた逃走経路までは子供の足でもそう遠くない。地図に“こじいんに行け”と書き添えておいたので、外に出てからは自分で何とかできるだろう。これで、あの子の未来はかりそめの平穏へと続くことになるはずだ。
そのままこっそりとあとを尾け、出口の扉へと手をかけた<007>を見てわたしは安堵した。
――――はずだった。
「な、何をしているっ!」
瞬間、外に出ようとする<007>と警備が鉢合わせをしてしまったのだと気が付いた。
本来では起こりうるはずのない、自分のシフトではぜったいに起こってはならない脱走を前に、警備はあわてて拳銃を抜いた。
おそらくあの警備は行われている研究内容など知らされていない。脱走したあの子のことを、超能力が使える危険なバケモノとしてしか認識できていない。もし脱走が起きてしまったとき、自分の身に降りかかる恐ろしい罰のことしか考えられていないのは明らかだった。
(あ、ダメだ殺される)
脳内に<007>が銃弾で撃ち抜かれる姿がイメージされる。
警備が引き金を引くのに必要とする焦りはすぐにでも満ちる。恐怖で硬直しているあの子は衝撃で吹き飛び、その先の壁には黒い弾痕と赤い絵画が描かれる。そしてぐったりと倒れたあの子を、わたしと警備は青い顔で眺めることになるだろう。
距離があるわたしが警備を無力化するには、仕込み拳銃を使うしかない。小口径かつ消音性のある弾丸を使っているとはいえ、もし他の警備が近くにいたとすれば発砲音を聞かれてしまうかもしれない。加えて死体を隠す必要も…いや、いい。あげようとすればデメリットなどいくらでも出てくるのはわかっていた。
こうなる危険性など、わたしはわかっていたはずなのだ。
それなのに任務の失敗率を飛躍的に跳ね上げる選択をとってしまった。わたしはきっと責任を取らされることとなるだろう。処分されるか無理を押し付けられて死ぬかのどちらかかもしれない。秘密警察にとってわたしなど、いつでも切り捨てられる駒にすぎないのだから。
それでもだ、そうだとしてもだ。
どうせならせめて安らかに逝きたい。
恐怖が限界に達したわたしだが、今さら迷うことはできなかった。
わたしは太もものホルスターから仕込み拳銃を抜き放ち、狙いを定める。
そして<007>は――――
「報告は理解した、カミーユ・フォレスティエ。一部の職員を取り逃す原因にはなったが、君はいつも通り優秀な結果を残してくれた。下がってよろしい」
恐ろしい上司へ噓を交えた報告を終えて、わたしは礼儀正しく部屋をでる。生きた心地がしなかったが、なんとか乗り切れたようだ。
命の危機を乗り切れて、体の一部が温かくなりかける。
あの後、終わりを覚悟してわたしは警備の頭を撃ちぬいた。
だが悪運に恵まれていたのかなんなのか、応援が駆けつけることはなかった。それからすぐさま死体を処理し、すぐさま外に出て秘密警察に連絡をした。優秀な秘密警察たちにフォローしてもらったおかげで、任務の失敗はなんとかまぬがれた。首の皮一枚、つながったというところだろう。
驚いてこちらを振り返ったあと、意を決して出口へと進んだ<007>の姿を思い出す。
わたしは根拠なく信じられた。
きっとあの子はかりそめの平穏へとたどり着けると、わたしは根拠なく信じられた。
そう祈ることができて、心の一部が温かくなる。
それがわたしたちの第一遭遇。
当時まだ15歳だったカミーユ・フォレスティエと、まだ苗字をもっていないアーニャのはじめての邂逅。
すなわち―――
わたしの
「……漏らすかと思った」
とりあえず、今日はよく眠れそうだった。
なんとか原作にたどりつけそうで胸をなでおろしてます。
書くためにいろいろと調べていますが舞台設定が面白すぎて筆が止まらないのでみんな書いて(懇願)