「ということがあってだな。シュウは別に過去に引き摺られてなどいなかったようだ。俺の…いや、俺達の思い過ごしだったというわけだ」
「……そうなんだ」
鍾離からそんな話を聞いている彼女の名前は蛍。
テイワットの七国を旅している彼女は散歩中の鍾離とばったりであったようでそのような雑談をしていた。
そんな彼女は鍾離から『シュウ』という男についての話を聞いていた。
あまり納得のいっていない内心を隠すようにして。
彼女は七国を旅をする中で、色々な者たちからシュウについての話を聞いていた。
『シュウは優しい』とか『彼は私の命の恩人である』とか『飯を奢ってもらったことがある』とか。
彼についての話の例を出せばキリがないほどにだ。
蛍は彼に会ったことは無い。
しかし、彼女は一方的に彼を見たことがある。
彼女はシュウ自身が自分の過去を告白していた場所に偶然居合わせていたのだった。
それを彼自身から気付かれることもなく。
そこで彼女はシュウの過去を知った。
それを聞いた彼女には『彼は過去を少なからず引き摺って生きているのかもしれない』『彼が自分の壁を乗り越えるのは容易ではない』『それほどの経験をして本当に精神が摩耗していないのか』といった様々な考えが思い浮かんだ。
彼女は迷うこと無く鍾離に相談した。
自分一人だけでなく周りに聞いてみようと思っての行動だった。
鍾離とシュウの仲が良いという話は留雲借風真君より聞いていた。
その為、彼女は鍾離に話を聞いてみることが得策だと考えたためだ。
鍾離はその話を聞いて、驚くことも焦ることもせずに何かを思い浮かべている表情をしながら彼女にこう返した。
「彼には近々、稲妻の将軍や鳴神大社の宮司…璃月七星などの手を借りて探りを入れてみるつもりだ。彼を騙すような手口を使うのは申し訳ないと感じるが、仕方のないことだと思っている。普通に聞いたりしてもあいつはおそらくは…嘘をついたり、はぐらかしてきたりするだろうからな。慎重に見極めるつもりだ」
蛍はその言葉を聞いて少し安心したような気持ちになった。
彼らがそこまで言うのならば安心出来る。
そう思っていた。
そんな彼女が聞いた鍾離からの『思い過ごしだった』という発言はあまりにも不自然であった。
蛍はその話を聞いてすぐに鍾離から他に協力してくれた者たちの名前を聞いた。
そして、鍾離との雑談を終えて彼と別れた後。
蛍はすぐに璃月七星の者たちや影、八重神子と連絡を取ってみた。
するとどうだろうか。
帰ってきた返答は
『彼の剣からは迷いが感じられなかった』
『あやつは過去に縛られるような男ではない』
『シュウはそんなにヤワな男ではない』
といったものがほとんどであった。
そんなハズはない。
彼ら、彼女らは心の底から彼を心配していた。
それだというのに、鍾離達が彼と会う前と後では言う事が真逆なのであった。
その変わりようはまるで誰かから洗脳を受けたようなものであった。
しかし、シュウを心配して人達はそのような洗脳を受けるような者たちとは考えられにくいものであった。
あり得ないとしか言いようが無かった。
彼女は独自でシュウについて調べることした。
彼と深く関わった者たちに会いに行き、話を聞いて回った。
しかし、ほとんどの者は事情を話しても『彼ならば大丈夫だ』といった返答しか帰ってこない。
それでも彼女は話を聞いて回った。
彼女には、ある仮説があった。
彼女がスメールにおいてナヒーダと前草神との間に起きた出来事。
あれらの出来事から彼女は『自分はこの世界の理から外れた存在であり、この世界の者たちが受ける影響を受けない』という風に考えていた。
もしその考えが間違っていれば、今回の騒動も彼を知り、彼と関わりがある者たちの認識がおかしくなっているはずだと考えていたためであった。
もし、誰か自分と同じ意見の者が居ればその者に協力してもらうが…一人も居なかった場合はこの世界の者たちに何かしらの力が働いたと考えることにしたのだった。
そして…。
モンドにて彼女は彼についての認識がおかしくなっていない者を見つけた。
彼女の名前はエウルア。
モンドの西風騎士団の遊撃小隊隊長。
波花騎士であった。
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「…彼に関する事でそんなことが?」
事情を話した蛍は、エウルアからそう確認されていた。
「うん。やっぱりおかしいと思う?」
「おかしいというより普通はそう簡単に言うことを変えないと考えるのが自然と言うべきかしらね」
(……やっぱりエウルアは影響を受けてない)
彼女とそんなやり取りをする中で蛍はふと思った。
蛍の事前に調べた情報によると、エウルアにとってシュウは命の恩人と言っても差し支えないような存在であった。
そんな彼女は何故影響を受けていないのか。
そう思った蛍はエウルアにこう聞いてみた。
「エウルアはシュウのことどう思う?やっぱり心配したりする?」
聞かれたエウルアは少し考えた素振りを見せたあとこう言った。
「私は、彼に対して同情したり支えたいと思うとこが間違いだとは思わない。でも、私が自分の今ある立場に対して同情や慰めを受けたら…それはまるで自分が惨めであると言われているようなものでしょう?私だったら絶えられない。だから私は恩人である彼に対しては何も思わないようにしているの。だってそれは私にとって彼に対する最大の侮辱に見えるから。ただし、彼が助けを求めた時は…その時は他のすべてを捨ててでも彼を助ける。それが私が彼に出来る唯一の恩返しであるはずだから」
「そっか、エウルアは彼のことが大好きなんだね」
「ち、違うわよ!彼は…そう、彼も復讐の対象よ。恩もあるけど、それ以上に恨みもたくさんあるんだから。ああもう!彼についての恨みを思い出すととっても不快だわ!その場に居ないのに私をこんな気持ちにさせるなんて…この恨み、覚えておくわ!」
エウルアからそんな話を聞かされた蛍は自然と笑顔になっていた。
それと同時に新たな仮説も生み出していた。
(もし…彼に対しての特定の感情に対してのみ影響を受けているのだとしたら…)
蛍は少し考えたのちに、エウルアに協力を求めてみた。
その話を聞いたエウルアは即答でこう言った。
「もちろん手伝うわ。それで、どういう計画なの?」
驚きながらも蛍はエウルアに今後の計画を話すのであった。