誰も気付かない。
異変が起きているのに。
誰も気付かない。
違和感があるのに。
誰も気付かない。
存在しているのに。
「…んー…フフ…ハハハハハッ!」
誰も気付かない。
純粋過ぎる存在に。
誰も気付かない。
最初から存在したかのように。
「あぁ…傑作だ。この物語の主人公である彼はこの世界で頑張っている。自分の生きる意味を必死に探している。自分の生きる意味を持たないとまともではいられないってやつだ。だから誰かを助けて『これが僕の生きる意味です』と周りに主張している。冒険者という利用しやすい立場を利用している。飛鳥くんとは違う生き方だけど、一生懸命生きている。素晴らしいことだと思うよ。まぁ、それでも彼には中身がまだ無い。生きる意味を探すことが生きる理由になっているだけで彼自身に目的はまだない。生きる意味を探すのはあくまでも目的を見つける過程でしか無いからね。そういう意味では、まだ彼は主人公になれていない。」
誰か気付くべきだ。
彼は危険だ。
この世のどんなものよりも善であり悪でもある。
というより善と悪の区別がない。
「でも、僕がそれを言えた義理じゃないか。なんたって僕は主人公はおろか登場人物にすらなれていないような…」
この世界に純粋過ぎるオリジナルが出現したことに。
誰も気付かない。
「蝋人形なんだから」
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ファトゥスの一人、ドットーレ。
別名、博士。
彼は一つの課題に直面していた。
邪眼。
それは神の瞳が無くとも強力な力を使用できるようになる魔法のような存在。
しかし、邪眼には使用者に対して相応の対価を求める。
時にその対価は邪眼の使用者の命すら奪う。
彼は邪眼の対価を軽減、又は無くそうとしていた。
邪眼ではなく、作れる神の瞳を作ろうとしていた。
しかし、めざましい成果を得られないまま時間だけが過ぎていた。
彼は邪眼の研究を続けつつ情報収集を行っていた。
そんな彼の耳にとある二人の存在の話が入ってくるのに時間はそうかからなかった。
その二人は神の瞳を持つこと無く元素力を扱えるというのだ。
すぐさま彼は行動を開始した。
二人のイレギュラーに関する情報を集めるために。
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「なるほどね。彼は相変わらず問題事に巻き込まれるのが得意みたいだ」
彼を取り巻く状況をある程度確認したその存在は楽しそうに独り言を呟いていた。
「しかし、彼の物語には…なんというかこう…インパクトが欠ける」
「物語というのは何らかの問題を主人公が乗り越えたり運命に抗う様が面白いんだ」
「そして僕は面白い物語を作りたい。他の誰にも作れないような…まともな感性では作れないような面白い物語が」
「もちろん、親友である君のためにね」
「よし。それじゃあ、物語を開始しよう。第一章のテーマは…成長っていうのはどうだろう。…あぁ…いいねそれ…いい…。…ハハ…!!」
その存在は笑う。
これから自分が起こすべきことを考えながら。
まだ、誰も気付いていない。