何かがおかしい。
そう俺が思い始めたのはつい最近のことだ。
稲妻に影達が帰ってから大体一ヶ月が過ぎた。
影達が来た理由はなんとなくわかっていた。
『過去に引き摺られていないか確かめたい』そんなところだろう。
過去を知った者たちに思われているだろうこと。
『そんな経験をしつつ長年生きてきたことによる精神の摩耗が無いわけがない』
そして今回、稲妻や璃月の知り合いが俺に対して何らかの探りを入れて来ることもなんとなくわかっていた。
『本当に精神的に問題ないのか』
それを確かめるために。
早い話が俺は疑われていた。
もちろん摩耗についての対策をしているから今も平気に生きていられるわけではある。
だが、それがどんな対策なのかは誰かに言えたもんじゃない。
それが周りにバレると何を言われどんな風に思われるのか。
正直あまりバレたい秘密ではなかった。
しかし、影達が出した結論はおそらく
『問題ない』
だった。
何も言われず何も思われなかった。
ラッキーだった。
初めて隠し通すことが出来た。
危なかった。
今回ばかりはバレるわけにはいかなかった。
本当に良かった。
そんなわけがない。
ありえない。
雷神二人に岩神、璃月七星に甘雨に八重神子。
遠くから魈だって見ていた。
完全に隠し通せるなんてありえるわけがない。
誰も何も言わない?
それからも今まで通りの生活が出来た?
そんな馬鹿な話があるだろうか。
隠し通せたのだからそれで良い。
常人相手ならその考え方でも問題ない。
だが今回は相手が相手だった。
俺はすぐにアルベドの元に訪れることにした。
こういう時に頼りになるのはアイツだ。
アルベドは物事を客観的に見る天才と言ってもいい。
たとえ当事者だとしても事情を話せば何かしらの考えを話してくれる。
そこから何かヒントが得られないのかと。
すぐさま冒険者としての活動を無期限で休むことを冒険者協会に告げに行く。
もし俺がここで冒険者の活動を無期限で休んだりすれば、事情を伝えなければならないだろう。
しかし、何も事情を言わなくても無期限の休みが取れてしまった。
『なにか事情があるのだろう』
と言われながら。
不気味に思いながらすぐさまアルベドのところへ向かう。
急いで行動しなくては、何かが手遅れになりそうな気がして。
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「おや?なんの連絡も無しに君がいきなり来るとは思わな……その表情。何かあったのかい?」
「ハァ……ハァ……!ア、アルベドッ…!悪いッ…!一つ聞きたいことがあるッ…!」
アルベドはいつもと変わらず錬金術に関する研究を行っていた。
そんなアルベドは俺を一目見るとただ事ではないことを悟ったのか表情を変える。
「うん。だけどまずは一旦落ち着いて。お茶でも入れよう。まずはそれを飲んで落ち着くといい。人は焦っているときほど目的を達成することが難しくなる生き物だからね」
「……そうだな。ありがたく貰う」
「あぁ、すまない。君は人では無かったね。うっかりしていたよ」
「…今お前からのその軽口が何よりも励ましになったとだけ伝えておく」
「お礼は嬉しいけど、せっかくならお茶代も欲しいところではあるかな」
「だったらお茶代は璃月の七星にツケておけ。そっちのほうが貰える額の桁が一つ増やせる」
「流石に七星にツケるのはダメじゃないかい?」
お茶を飲み、自分を落ち着かせてからアルベドに自分の身に起こっている出来事を話した。
ちなみに鍾離達の正体についてはアルベドいわく『神の瞳を持ってないのに元素力を扱える時点で確証に近い想像は出来てる』とのことらしい。
アイツ本当に自分の正体を隠す気あんのかってつくづく思う。
「なるほど……。たしかにそれはおかしいね。僕もおかしいと思うよ」
「本当か?」
「うん、おかしいよ。だって僕はそのことを聞いて『まったくおかしなところなんて無い』と思ったんだ」
「……どういうことだ」
「僕は今、君の話を聞いてまず最初に登場している人物を別の人に変えて考えてみたんだ。そして、そんな話はありえない、おかしいって思ったんだ。でも君の話を聞いたときにはそんな風に思うことすら無かった。君以外だとありえない話なのに君の話になった途端何も思わない。これは異常だと思う。まるで君が関わっている話だけ無理やり『問題ない』と思わされているような感じがする」
「俺が…関わっていると…」
「うん…そうだな…。まずはテイワットで噂になっているであろうあの旅人を訪ねてみるっていうのはどうだろうか」
「…あの旅人を?」
「彼女は僕たちとは少し違う特殊な人物でね。君みたいに神の瞳無しに元素の力を扱えるんだ。なにか手掛かりが掴めるかもしれないよ?それに…」
「…何をするにしても情報が足りない…か?」
「そういうこと。どう?役に立ちそう?」
「ああ。助かった。恩に着る」
「お茶代は?」
「七星が嫌なら往生堂でもいいぞ」
「僕の目的は君からモラを貰うことだから往生堂からも要らないかな」
「ったく、コイツは…」
さて、雑談もそれくらいにしてそろそろ旅人を探しに行きますか。
「じゃあ、俺は行くわ」
「うん、気をつけて」
何かしらの情報が得られると良いんだがな…。
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………行ったかな。
確かに彼からの話はおかしいところがあった。
それも二つ。
一つは彼に話しても大丈夫だと思ったから話した。
だけど、もう一つは話さないほうが良いだろうからね。
もし僕の予想が正しければ、会話ぐらいならすぐに覗かれるだろうから。
…さて、僕もそろそろ準備をしておこうかな。
流石にこの話を聞いて、無関係な人物として過ごすのは気が引ける。
彼には恩もあるしね。
僕なりに探ってみるとしよう。
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「うん、やっぱり気付いてくれた。この世界のイレギュラー二人。いわばダブル主人公だ。そんな君たちなら気付いてくれると思ったよ」
「まぁでも、こんなにわかりやすい違和感なら…あの二人ならすぐに気付いて当然かな?」
「でもつまらないなぁ…。このままじゃ僕の思ってた通りのストーリーだ。筋書き通りの物語は行き当たりばったりの物語に劣る。ようはこの物語には刺激が足りないんだ」
「見ている人が衝撃を受けるような展開。それがない。そしてそんな物語は面白くないんだ」
「授業で使うような歴史の教科書と嘘だらけの面白おかしく作られた歴史の本。どっちか片方を買わなきゃいけないとして前者を買う人は居ない」
「僕は作る。面白おかしく作られた嘘のような真実だらけの教科書をね」
「……それにしてもこの団子牛乳。悪くない味だ。甘くて美味しい」
「あー…まぁでも」
「ミルピコには劣るかな」