「や、やった!やったぞ!」
「俺達はついに倒したんだ!」
「見たか化け物共め!」
視線の先でオセルと跋掣が海に沈んでいく光景を見ていると、そんな声が聞こえてきた。
千岩軍もまた、目の前の光景を共有している者たちなのだ。
『絶対防壁フェリオンを使われた時はどうなることかと思ったがなんとかなった』
その安心感に場の緊張感が少しだけ緩くなるのをシュウは感じた。
そして…。
「……お久しぶりです、師匠」
「飛鳥く〜ん、なかなかグッドタイミングだったよ。少し見ない間に役者としての腕が上がったみたいで何よりだ」
「言いたいことは山ほどある。でも、僕は何も言わないでおきます」
「この雰囲気を壊さないようにするために?空気まで読めるようになったんだ?あの空気を読まない事で有名な飛鳥くんが」
「…師匠」
「運動音痴代表例は無くならねぇがな」
「フレデリックまで……。」
「ギアメーカーのコミュニケーション能力が低いという話ならば私も同感だ」
「残念だったな。鳥頭も同意見らしい」
「何度も言っているだろう。私はドラゴンだ」
彼らの久方ぶりの再会。
その実現もその場で起こっていた。
そんな場面を見ながら、シュウは気付く。
(ケイオスやロミオとは状況が違うアイツらがどうやってここに来たのかと思ったが…バトルメソッドチューリングの応用か…)
そんなことを考えるシュウに横から鍾離が話しかけてくる。
「みな、お前の友人か?」
「…まぁな」
「そうか…良き友をもったようだな」
「どうした、急に」
「懐かしむような表情をしていたのでな」
「そうか…そうだな…」
「……。」
「……。」
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オセルが海に沈む少し前。
カイは何処か落ち着かない様子だった。
そんなカイを見てシンは思わず話しかける。
「なぁ、どうしたんだよ?ちょっとおかしいぜ?なんか気になることでもあったのかよ」
「シン…何かが起こる予感がする。すぐにソル達と合流しないか?」
「何かってなんだよ?」
「うまく言葉に出来ないな…。これは勘でしかないが…胸騒ぎ…とは違うな…なんというか…何か大きなことが起ころうとしている気がする」
「でもよ、オヤジやパラダイムのおっさんがいるとこまで結構遠いんじゃねぇのか?」
すると横から彩麟が目を合わせずに話に入ってくる。
「ならば送っていこう」
「よろしいのですか?」
「…先程のお前の息子の礼だ」
「是非も無い!お願い出来ますか?」
「いいだろう」
「サンキュー!彩麟!」
「さんを付けんかバカ者」
「なっ!バカって言うなよ!」
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雰囲気が変わりつつある。
そんな中、ふと凝光は何かに気付き焦るようにシュウへと話しかける。
「ねぇシュウ…。今更の話ではあるけど…鍾離さんは大丈夫なの…?」
「何がだ?」
「鍾離さんは自身の持つ力で璃月を守ってくれていた。そしてその力を璃月の民は見ていた。少なくとも鍾離さんを見る目は変わるはず…。最悪、鍾離さんの正体がバレるきっかけになる可能性もないわけじゃない…」
「あぁ…そのことなら問題ねぇよ。あのケイオスってクソ野郎がなんとかしてくれている。詳しく話はソイツから聞け」
「クソ野郎って…酷いな。結構頑張って作った対応策だったんだよ?まぁいいや。とりあえず、現状は問題ないと思うよ。あー…えーと…」
「凝光でいいわ。礼儀をわきまえた自己紹介は要らないでしょう?」
「さっすがわかってるね凝光さん。長ったらしい自己紹介は相手の気持ちを不快にさせる時がある。ま、その話は置いといて、だ。僕がやったことは璃月の人達には少し認識のズレを作ったことかな」
「認識のズレとはどういうことだ?」
凝光に説明している途中、合流してきた申鶴が疑問に思ったことを口に出す。
「認識のズレ…別のような言い方をすると催眠や暗示の類かな。君たちにも掛けられた覚えがあるだろう?君たちがシュウに対する感情が普通ならありえない状態になっていたというアレだ。あの時と同じ方法で今回はこの璃月港の人達に催眠をかけたわけだ。催眠の内容としては…本来鍾離という人物に向けられるであろう感情を『往生堂の客卿に対する感謝』の感情に変えたってとこかな。あ、元々彼の正体を知っている人は対象外だけどね。そしてこの催眠はこれから解けることのない。絶対にね」
「我はその催眠とやらにかかった覚えがない」
「君は彼との付き合いが無かったわけだ。うーん…例えばの話だけど」
「果汁100%のジュースがあって、そのジュースを飲んでる人は沢山いるとしよう。ある日、そのジュースを作るために使っていた果物の数が足りなくて…仕方がないから他の果物を使ってジュースを作ったとする。でも、いつも使っている果物とは違うを果物を使うようになったらそのジュースは味が全然違うものになってしまうよね?そしたら、そのジュースが好きな人達はきっとすぐに味が変わったことに気付く。それじゃまずいんだ。だから僕は、その果汁100%のジュースを果汁80%にした。パッケージに100%と書かれていてもその違いに気付ける人は少い。でも、そのジュースの味を知り尽くしている人ならば味の違いに気付ける。僕がしたことはそういうことになるかな」
その言葉を聞いた申鶴は僅かに表情を明るくしケイオスに聞く。
「ならば、一段落ついたということでいいのか?」
その申鶴の言葉を聞いた時には、何処か周りの緊張は少し溶けつつあった。
とある者たち以外は。
そして、申鶴の言葉を聞いたケイオスは苦笑いのような表情を浮かべながらこう言った。
「あー…どうだろう…なんとも言えないかな…」
その言葉を聞いて神二人とシュウは何かを察していたような表情でケイオスの方を向いた。
「やはり…か」
「まぁ、そうでしょうね…」
「この感じ…まさかな…」
四人の発した言葉を聞き、察しの良い者から気付き始める。
そして考え始める。
オセル達には本の力があった。
ならばその本の力で奴らは何をしたか。
璃月港を襲ってきた?
……もっと璃月港を攻めて被害を出させるかと思ったが守りきれるほどの力しか使っていなかった。
ギアを作り、出現させ、璃月を襲わせた?
中途半端過ぎる。
襲わせるのならば、もっと強大な何かを生み出して襲わせれば良かった。
しかも、ギアを生み出したといってもせいぜいメガデス級に届かないくらいのギアしか生み出していなかった。
そもそもの話もある。
何故ギアなのか。
わざわざギアを生み出す理由がない。
もっと強大な新しい生き物を生み出せば良かった。
それでもオセル達はギアを選んだ。
まるでギアを試すかのように。
まるで本命を作る前の試作品であるかのように。
各々がそこまで思考した所で、全員が思考を止めざるを得なかった。
全員が驚き身を低くし倒れないようにする。
何故か。
大きな地面の揺れを感じたためだ。
いや、それは地面の揺れではない。
彼らが居る群玉閣
まるでテイワットそのものが揺れているかのような。
そしてその揺れと共に群玉閣に、目の前に現れた存在が居た。
「状況は読み込めないが…背徳の炎と…ほう、貴様まで居るとはな好敵手よ」
「……冗談だろ?」
かつて、何度も命のやり取りをした破壊神がそこには居た。
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その破壊神は揺れが収まると同時にこちらに向かってその爪で引き裂いてこようとする。
急いで出現させたアウトレイジでその爪を受け止める。
「久しいな、また会えるとは。嬉しいぞ唯一の我が好敵手よ」
「一度死んだのなら二度と蘇ってこないのがマナーってもんだろうが。しつけぇんだよジャスティス」
そんな会話をジャスティスとしながら力任せにジャスティスをはじき飛ばす。
その隙を見逃さずに、左からソルが右から影がそれぞれの武器で斬りつける。
だが、ジャスティスはその攻撃を右手と尻尾だけで受け止める。
「簡単に受け止めてくれますね…!」
「ふん、ぬるい攻撃だ…。それに…少し鈍っているようだな、背徳の炎よ」
「それはテメェにも言えるはずだ。寝起きで力が全開で出せてねぇだろうが」
「違うな、これは手加減というものだ」
ジャスティスも先程の自分と同じようにソルと影の攻撃をはじき飛ばした。
それなりの実力者であるはずの二人の攻撃を軽く受け止め押し返した。
だが、何故だろうか。
不思議と敵意をまるで感じない。
するとジャスティスはまるで説明するかのようにこちらに話しかけてくる。
「まぁ、待て。私にはお前達と戦う意志はない」
「…戯言だ」
「まぁ聞け。我はおそらく一度死んだ状態から蘇生されたのだろう。背徳の炎に完全に破壊された時の記憶がしっかりと残っている。しかし、今の我には感情というものがまるで無い…何も感じないのだ。殺意も敵意も無い。いきなり斬りつけた事については謝罪しよう。斬りつければ少しは感情が出てくるかと思ったが、微塵も感じない。…自分でも困惑しているくらいだ。あんなにあったはずの人への敵意が少しも残っていないなどな」
そう言われてから気付く。
先程の攻撃には殺気がまるで無かった。
通常、歴戦の戦士ですら殺気を完全に消すことは不可能だ。
そしてそれを、ジャスティスが殺気無き攻撃を仕掛けてくるなどありえないことであった。
感情が無くなっているとしか言いようがない。
それに、蘇生に関する感情の消失には前例があった。
「ザトーの時と同じ事が起こっているのかもしれないな」
その懐かしい声に振り返ると、そこにはかつての上司であるカイが居た。
彩麟も一緒に行動していたのか後ろに立っている。
「カイ…」
「俺も居るぜ!」
「…変わらねぇな、二人共。それで?ザトーの時と同じってのはどういうことだ?」
「今と似た前例がある、ということだ。ザトーは一度死んだ。だが元老院によって蘇生させられた。だが、その時に蘇ったザトーは感情を失っていた。それと同じことがジャスティスにも起こっている…と考えられる」
「ほう…?貴様はあの時の聖騎士の団長か?…しかしなるほど…混ざっているようだな」
「……シュウ。正直我々の今の状況でジャスティスとやりあって勝てる見込みは薄い。それに敵意が無いとなれば今のところは問題ないとも言える。どうする?」
「どうすると言われてもな…」
「シュウ」
「…?どうした鍾離」
「先に謝っておくが…すまない」
「すまないって…いや、ちょっと待て。お前まさかとは思うが」
「はいはーい!!特に行く宛もないなら私が引き取るってのはありかな!?」
「……胡桃」
そこには元気いっぱいに手を上げる明るい女の子が居た。
______________________
「いやー、常日頃鍾離さんが凄い人だとは思ってたし!もしかしたらとは思ってたけどね!まさか本当にそうだとは思わなかったよ!!で、どう?うちは葬儀屋なんだけどさ、うちに来ない?」
「我は構わんぞ」
「おお!一発OK!じゃあ決まりだね!一度死んだ人が来てくれるなんていい話が聞けそうだよ!あっちの世界に行くときに頼りになるのが鍾離さんだけっていうのが問題だったから助かるよ!」
「俺が構うに決まってんだろうが」
話が進みそうだったのですぐに止めに入る俺。
当たり前だ止めるに決まってんだろ何やってんだコイツは。
飛鳥なんて見てみろよ。
口を開けて呆然としてんじゃねぇか。
「あのなぁ…お前ソイツがどんなやつか知ってんのか?別な世界とはいえ世界を一度滅ぼしかけたようなヤツだぞ。新人をスカウトしてるのとじゃワケか違____」
「でも今のところは敵意とかもないし問題ないんでしょ?それに問題が起こっても鍾離さんの近くに居たほうが良いと思うけどなぁ」
「ケイオス?」
「僕はどうでもいいかなぁって」
「…凝光?」
「言ってることは一理あると言えるわね」
「……飛鳥?」
「わざわざ別世界とも言える場所からここまで出しゃばってきて言うのもなんだけど…最終的な判断はそちらに任せるよ」
「………カイ」
「お前がこの世界に居るのならなおさら私からは文句はないぞ」
「…………ソル」
「俺はもうソイツとはケリを付けた。後のことは知らんぞ」
「……………鍾離」
「…悪いが、俺が堂主を止められたことは一度もないのでな」
「………………冗談だろ?」
聞いたか?
ジャスティス、往生堂で世話になるってよ。
______________________
その後、バトルメソッドチューリングの効果が切れてきた飛鳥達は無事元の世界に戻っていった。
そんなに気軽に出来るものなのかと思ったが…。
なんでも『一度関わりを持ってしまった2つの世界を行き来するのはそんなに難しいことじゃない』とのこと。
なんだったら、ジャスティスの経過観察たまに遊びに来るらしい。
もはや何でもありだ。
それから一週間が経った後。
ジャスティスは話の流れの通り、往生堂のボディガード的役割を担っている。
話によれば、往生堂に対しての迷惑行為が一切無くなったのだという。
無理もない、あんなのがボディガードやってる場所に喧嘩をふっかけるやつは極めつけの愚か者だ。
七星はギアに荒らされた1部地域の復興支援と被害状況の確認に追われることとなり、凝光達が死んだ目をしながら頑張っているらしい。
彩麟さんは『私は璃月を離れてもう一度旅をする。とにかく、今は考える時間が欲しいのだ。だが、助けが欲しい時は名前を呼ぶと良い。お前がこの世界の何処に居ても必ず私が助けに行こう』とのこと。
ベッドマンことロミオだが…正直騒動の途中から姿が見えない。
一体何処にいるのか誰も見当がつかないのだという。
後はケイオスだが…スメールで草神の世話になっているらしい。
なんでもスメールで騒動を起こした際に草神と仲良くなったらしい。
それに仮にも法力を見つけ出した天才だ。
持て余しておくには惜しいとのこと。
そんなこんなで、以前とは何かしらが変化しつつも璃月をはじめとするテイワットは元ある姿へと戻りつつあった。
______________________
「………あれ?君は確かあの時のバリアを張ってた…どうしたの?僕に何か用?」
「…一つ気になったことがあってだな」
「気になったこと?いいよ、なんでも聞いて」
「お前は本当に正常な精神状態か?」
「どういう意味かな?」
「お前は確か『璃月の民に俺が岩神であることをバレないように認識をズラす』ということをしていたな」
「うん、言ったね」
「シュウかその話を俺に持ちかけた時に俺はアイツに小さな声で聞いた。『ソレは信用出来るのか?』と」
「それで?」
「答えは『大丈夫だ。コイツは前は精神状態がヤバかったが、今はもうすっかり元に戻ってるからな』というものだった」
「……。」
「事実、璃月の民は俺のことを元岩王帝君だと気付いていないし疑ってもいなかった。だから気の所為だとお前に言われればこの話はそこまでだ」
「なら、なんでその話を僕に?」
「いやなに…一つだけ言っておこうと思ってな」
「言っておく?」
「もしアイツに手を出したら…アイツになにかあった時は…俺は今ある立場をすべて投げ出してでもお前を許すことは無いだろう」
「……。」
「そう伝えておきたくてな。…不快にさせたのならば謝る」
「いや、いいよ別に。ただ一つだけ誤解があるようだからそれだけ解いておこうかな」
「聞こう」
「僕は別に彼に害を与えたいわけじゃない。彼に成長のきっかけを与えたいだけなんだ。それもドラマあるきっかけをね」
「…ドラマあるきっかけ」
「そう、第一章は無事終了した。そして物語は第二章に進んで行く」
「もう、誰にも止めることは出来ない」