元帝君の友人になった男の話   作:じーじー

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私は、君を恨んだことなど無い

 

 

 

 

 

「すっっっげぇ!なんだよあれ!!クリティカルにカッケェ!!!特にあのでっけぇ大砲!!まるで母さんが読んでくれた絵本に載ってた海賊の船みてぇだ!!!!」

 

 

「なっ!執行官様が直々に用意なさった船に向かって…海賊の船みたいだと!?」

 

 

「ああ!カッケェよな!!」

 

 

「ば…!バカにして…!!!」

 

 

 

横でバカでかい声を出しながらそんなことを言い合っているファデュイの下っ端とシンのやりとりを横目に見ながら俺はファデュイが用意したという船を何も言わずに呆れた表情で見ていた。

横にいたシニョーラがそんな俺を見て笑みを浮かべながら伝えてくる。

 

 

 

「移動用の船としてはそれなりのものを用意したつもりなのだけど…気に入ってもらえなかったのかしら?」

 

 

 

そう言われてしまい思わず大きなため息をついてしまう。

いや、船を用意して貰えるってのは正直助かる。

冒険者に依頼が来て他国に赴く際に、移動は自分で用意しなくてはならない依頼などザラである。

その点今回の依頼はかなりの好待遇であるといえる。

 

 

 

「いや、とても良い船だな。気に入った。かなり俺の好みの船だ。『貴方は我々にとって色々な意味で大切な存在です!是非とも恩を売らせてください!!』と言われてるような気がして最高の気分だ」

 

 

「あらそう。ならもっと喜ばせて上げるけど…食事は船上で取れるものの中ではかなりの物らしいわよ。なんでも女皇陛下から『良質な待遇をすること』と念入りに釘を刺されてしまっているみたいで。どう?最高でしょう?」

 

 

「ああ、俺なんかには勿体ないな。誰かに譲ってやりたいくらいだ」

 

 

 

そんなことをこちらも話していると船の準備が終わったのかこちらに合図を出してくる。

 

 

 

「さて……シン。そんなくだらねぇヤツなんて無視してとっとと行くぞ。期待しておけ、飯は美味いらしいからな。」

 

 

「なっ!?本当か!?早く行こうぜ!」

 

 

「く、くだらないヤツ!?」

 

 

 

シンを連れて船に上がろうと歩く先に召使が腕を組んで待っていた。

思わず咄嗟に逸らしそうになる目を動かないように我慢していると後ろからシンが元気よくアルレッキーノに話しかけに言った。

…大体アルレッキーノと初対面のやつは底しれぬ威圧感に気圧されるってのに…コイツ無敵か…?

 

 

 

「なぁ!良い飯が食えるって本当なのか!?」

 

 

「もちろん、それなりのものを用意したつもりだ。量もかなり積んである」

 

 

「だそうだ、美味すぎるからって食い切るなよ。今から3日は船の上だからな」

 

 

「美味い飯…!肉とかあんのかな…!!」

 

 

「…本当に大丈夫なのか?」

 

 

「…食料を食い尽くされて餓死しないように神にでも祈ってろ」

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

出港してからは特に問題もなく船の上の生活を楽しんでいた。

といっても、ほぼ船の中でゆっくりしておくだけだが。

だが、フォンテーヌに着いたら依頼をこなさなければならない。

でもまぁ、今のうちにまったりしておくのもいいだろうなと思っている。

そんなこんなで一日目の船内生活をなんてことなく普通に終わらせ今は二日目の夜。

シンが『飯で食えるように!』と言って魚を大量に釣り上げた事以外に変わったことはなかった。

あの時のシンのドヤ顔っぷりとアルレッキーノの少し呆れた表情といったら…。

まぁ…淑女と俺の酒のつまみになったとだけ言っておこうか。

そんな二日目の夜。

 

 

 

「………。」

 

 

「ん?どこ行くんだ?自分の部屋に戻って寝ないのか?」

 

 

「ああ、夜風に当たりたくてな。」

 

 

「そっか。そういやオヤジも『先に寝てろ。俺は少し夜風に当たってくる』とかいってたっけか」

 

 

「まぁ、似たようなもんだ」

 

 

 

俺は夜の飯を食い終えてしばらくしてから、小さめの酒瓶を片手に船のデッキに移動した。

手すりに体重を乗せ、海の景色をじっと見つめる。

思い返せば…昔何度もヘウリアに注意されたな。

『貴方は!!手すりが壊れて海に落ちたらどうするつもりですか!!!』

今でも、彼女の声をつい昨日のことのように思い出すことが出来る。

もう…聞くことは出来ない声であるはずなのに。

 

……。

気付いたら俺は深くため息をついていた。

自分の今の気持ちはなんとなくだがわかっているつもりではある。

正直…気が気じゃない…。

フォンテーヌに行く。

言葉にしてみると簡単かもしれないが、そう単純な話じゃない。

フォンテーヌに行くということはフォンテーヌにいる人に会うということ。

要は、フォンテーヌで会いたくない人物に会う可能性があるということに他ならない。

俺が会いたくないやつを嫌いってわけじゃない。

ただ……どんな顔をして会えば良いのかわからない。

この依頼を受けたときは何とも思わなかった。

今更会ったところで何も思わないと考えていた。

『会ったら会った時に考えればいい』ぐらいにしか考えなかった。

だが、実際にこう…フォンテーヌに向かってみるとわかる。

自分の中で、不安に近い何かが渦巻いている。

その何かを感じた時、素直に寝られなくなってしまった。

酒に頼ってみたが、正直気持ちが紛れはしなかった。

船のデッキまで出てきたのも、なんとなくだった。

しばらく海を眺め続けていたが……。

 

 

 

「やはり、フォンテーヌに行くのは嫌か?いや、【嫌になってきたか?】と聞くべきかな?」

 

 

 

そう、後ろから話しかけられる。

考え事をしていたからだろうか。

いつもなら気付いていたはずの気配に気付けなかった。

それとも…気付けないほどに気持ち的に追い詰められているのだろうか。

 

 

 

「……ペルヴェーレ」

 

 

「その呼び方で私を呼ぶとは…よほど思い詰めていると見える。兄さん」

 

 

 

おそらく後者なのだろう。

咄嗟にペルヴェーレという名前が出てくるあたり。

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

アルレッキーノは…いや、ペルヴェーレは俺の隣に来て俺と同じ方向を向き、同じ海を眺め始めた。

 

 

 

「兄さん…そんな呼ばれ方をされた時もあったな…。たしか、最初にその呼び方で俺を呼んだのは…」

 

 

「…クリーヴだ」

 

 

「…ああ、覚えている。今後も忘れはしないがな……」

 

 

 

ペルヴェーレが隣に来てからも、俺は気にすることもなく海を見続けた。

正直ペルヴェーレと何を話せば良いのか、俺自身よくわからなかった。

だが、ペルヴェーレはいつまで経っても隣から退く様子は無い。

お互い一言も喋らずに時間が過ぎていく。

すると不思議なことに、俺は自然と自分から口を開いていた。

何を言われたわけでも、何を言いたかったわけではないというのに。

昔の口調で

 

 

 

「不安なんだ。『何が』とは自分でも上手く言えないんだけど……そうだね…少しずつ言葉にしてみようかな」

 

 

 

ペルヴェーレはそれを聞いて何も言わずに頷いた。

 

 

 

「ファンテーヌで起こったあの出来事…原始胎海の水による一連の騒動が起こったあの時。僕は少しでも原始胎海の水による被害を抑えるために、璃月から急いでフォンテーヌに向かった」

 

 

「あの時はフォンテーヌ中で原始胎海の水による被害が起きていて、それは酷い有り様だった。僕はフォンテーヌ中を走り回った」

 

 

「そんな騒動の中、棘薔薇の会のボスであるナヴィアは僕に仮拠点となる場所をポワソン町に用意してくれた」

 

 

「騒動により、フォンテーヌの人々は疑心暗鬼に近い状態にあって…一部の人は僕に対する当たりも強かった。そんな中でもナヴィアは…ナヴィアさんは…優しくて…温かくて…」

 

 

「シルヴァさんにマルシラックさん、彼らには多くのものを貰った。励ましの言葉、向かう街への移動ルートに、足りない物資の補充。色んなことをしてくれた。知ってるかい?3人が用意してくれるお茶会のお菓子はとても美味しかったんだ。僕は3人に聞いたんだ。『どうしたらこんなに美味しいお菓子が作れるのか?』って」

 

 

「そしたら『お嬢様の努力です』『ですがこのお菓子が美味しいのはそれだけが理由ではない』『大人数で食べるから、このお菓子は美味しくなれるのよ』って答えてくれて。僕は…本当に幸せな時間だと思ってた」

 

 

「でもある日、ポワソン町を原始胎海の水が襲った。色んな人が逃げて行く中、僕は逃げる人達を必死にカバーし続けた。途中、シルヴァさんとマルシラックさんが原始胎海の水に飲まれそうになった時も俺は咄嗟に障壁を作って守ったんだ。でも、そんな中…僕は取り残されて泣いている子供が原始胎海の水に飲まれそうになっているところを見つけた。でも、僕の障壁は間に合いそうになかった。そしたら、シルヴァさんとマルシラックさんは逃げることをやめてその子を助けに行ってしまって……」

 

 

「その後、ナヴィアさんは僕に『この街に居る人たちの被害がこれだけに留められたのは間違いなくシュウさんのお陰ね。本当にありがとう』って言ってきた。……でも僕は知っている。その後、誰にも気付かれないように一人で…ナヴィアさんのお父さんのお墓の前で泣き叫ぶ彼女の姿を……」

 

 

「僕は…最初に力を手に入れる時に…『ただただ強い力を欲しい。色んな人を守りたいから!』と子供のような理由で力を手に入れた。その力は色んな人達から必要とされ、仲間と呼べる人達を作り尊敬された。その尊敬はとても心地よいものだった。でもその力が引き寄せたのは良いものだけじゃなかった。その力に引き寄せられた者たちによって僕は仲間を失った。そのとき慢心があったわけじゃない。でも僕は求めていた力が時には守りたい者を失うきっかけになることを知った」

 

 

「次に…大切な家族が出来た。僕のことを大切にしてくれていた。血は繋がってなかったし、僕は人間で相手は仙人だった。それで僕は家族だと思っていた。行く宛もない僕を…みんな認めてくれていた。僕は力を見せびらかすようなことはせずに、ただ守るべき時に力を使うようにしていた。良くないモノを引き寄せ無いようにするために…。でもやっぱり駄目だった。守るべき時に力を使うようにしていたんじゃ予想外の事態に対処出来ないことを心の底から感じた。力を持っていても、その力が届かない場所では守りたいものを守れないことを知った」

 

 

「だから僕は…なるべく守るべき者の側に居るようにした。時には失われそうになる命を救い、その命を守り続けた。届かない場所に大切なものがあるのなら、届く場所に置けばいいと思った。でも、それでも駄目だったんだ。どんなに大きな受け皿でも、水を受け止められる量には限りがある。僕の力は無限大じゃない。限界だってあった。保守的になっていた僕は、受け止めきれないほどの力を前になすすべが無かった……。僕は…確かに多くの者を守ったかもしれない。でも…守りきれなかった者も多かった……」

 

 

「それでも…ただ失われることを諦めるなんて…そんなの悲しすぎるから…必死に抗った……。でも守れなかった。失いたくなんて無かった…!大切だった…!!みんな生きていたかったはずなんだ…!!シルヴァも!!マルスラックも!!結局誰も救えなかったヘウリアも!!!オーロラが見たいって…私達を外に連れて行ってって約束したクリーヴもッ!!!!みんなの記憶に残らせることしか出来なかったマハールッカデヴァータだってッ!!!!」

 

 

「…なぁ、ペルヴェーレ。…僕は…俺はどんな顔をしてナヴィアに会ったら良い…?どんな言葉をお前にかけてやれば良い…?どうやって彼女やお前に償ってやれば良いんだ……?」

 

 

「…………。」

 

 

 

ペルヴェーレは口を閉ざしたままだ。

俺は手すりから離れ、そのまま自室に戻ろうとする。

 

 

 

「私は、君を恨んだことなど無い。」

 

 

 

足が止まった。

 

 

 

「私から伝えられそうなことは…そうだな…。君は自分の質問の答えを出すのに、自分の言葉だけで答えを作り出そうとしている」

 

 

「君は話をするべきだ。少なくともフォンテーヌで彼女と……ナヴィア嬢と。自分以外の言葉を探すべきだ」

 

 

 

ペルヴェーレは俺の元に近寄り、そっと俺の顔に手を触れさせる。

 

 

 

「私は…最後でいい…最後に貴方の出した答えが何であるかを聞ければそれで…。だから…だからどうか……泣かないでくれ…。私は貴方に泣いてほしくて一緒にいるわけではない。貴方が泣いていると……私も……悲しいのだ……。」

 

 

 

 

 

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