パレメルモニアから出てからというもの、俺は何も考えずにただフォンテーヌの街を歩いていた。
本来は例の依頼のために調査をするはずなのだが、どうにもそんな気分にはなれなかった。
そうして、フォンテーヌをぶらぶら歩いていると
「おーい!!」
「ん?」
何処からともなく知り合いの声が聞こえてくる。
いや、ここに居てもおかしくは無いのか…。
「久しぶりだな!璃月以来か?」
「パイモンに…それから蛍?お前ら、なぜフォンテーヌに?」
「冒険者教会からの依頼。貴方も同じ内容の依頼を受けているんじゃない?」
「あー…まぁ俺も似たようなやつだ。今、フォンテーヌで起きてる件の調査だろ?」
「そう。…ねぇ、もしよかったら私達と一緒に行動しない?」
「…お前らと?」
「うん、このままだと一人で調査するんでしょ?なら一人より三人のほうが効率良いでしょ?」
思わず目を細めつつ遠くを見るような表情をしてしまう。
とりあえず歩きを再開すると横に蛍とパイモンがついてくる。
思わずため息を吐きながら蛍に聞いてみる。
「………レオか?」
「わかるんだ。うん、貴方のことを気にかけてって言ってた」
「……そんな事を言うような奴は大体わかる」
「そっか。…レオさんがね?『カイのやつが「彼の剣から違和感が感じられる。ある種、迷いのようなものが」と言われた』って」
「……アイツら」
「それから、ソルさんからも似たようなことを言われたね」
「フレデリックもか…」
「ねぇ、悩みって何?私が聞いても良い?」
「悩みがあるなんて俺は言ってない」
「『どうせアイツのことだろうから「悩みがあるだなんて俺は言ってない」とでも誤魔化してくるだろうがな』ってソルさんが言ってたけど、本当だったみたいだね」
「ハァ……俺をいじめて楽しいか?」
「草むしりの依頼をしている時よりはかな?」
「…少なくとも、面白い話じゃない…まぁ、お前らなら良いか」
雨が降りそうな天気の中傘も用意せずに会話を続けた。
「ナヴィアって居るな?棘薔薇の会の」
「ナヴィア?知ってるよ、それなりに仲が良いからね」
「俺は…アイツの大事なものを守れなかった。だから、償ってやる必要がある。だが、俺にはどうやって償ってやれば良いかがわからん。少なくとも今俺が持っている悩みはそれだ」
「そっか…」
「なら、一度ナヴィアと向かい合って謝ってみるっていうのはとう?」
「…謝る?ナヴィアは、少なくとも俺の謝罪を欲しがってるようには見えなかった」
「謝ることの条件に、相手の感情が必要?」
「謝罪を嫌がる可能性が無いわけじゃない」
「なら、何もせずにここで立ち止まったままで居るの?」
蛍は歩く俺の前に回り込んで、俺と正面を向かい合うようにストップをかけてくる。
「やみくもに踏み出した一歩が目的地の方向に進んでるとは限らない。目的地から離れていく可能性だって、無いわけじゃない」
「その理屈は違う。貴方の悩みに関しては、進む方向に前も後ろも無い。歩き続けた先に目指した目的地が無かったとしても、進まずにいたときとは景色が違って居るはず。そしていずれ、必ず目的地にたどり着くことは出来る。たとえそれが遠回りだったとしても」
「………何が言いたい?」
「貴方は目的地から離れることを恐れているわけじゃない。前に進むのを恐れているだけ。その一歩を踏み出す勇気がないから。本当は自分でも気付いているはず」
「……。」
「少なくとも私にはそう見える」
「……好き放題言いやがる」
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それは璃月で起こった例の騒動が解決したあとでの話。
本来繋がるはずのない2つの世界が繋がるという問題が起こったことに対しての情報を交換を行うためにお互いの世界の仮の代表が会談を行うことになった。
テイワット及び璃月の代表として璃月七星である天権の凝光に元岩神の鍾離…騒動の重要参考人として蛍とパイモン。
対するはイリュリア連王国の第2連王レオ・ホワイトファングに用心棒兼重要参考人であるソル・バッドガイ。
蛍に関しては最初に会談への参加を断っていたものの両陣営からの頼みにより、渋々参加したといったところではあったが。
その会談が終わりを迎えようとした時、レオ・ホワイトファングより一つの会話が開始された。
「カイ・キスクという男が、この国に来たな?
アイツは第1連王…いわゆる一つの国を治めるトップだ。
立場上では俺よりも偉い人間だ、ムカつくことにな。
そんなカイから言われたんだ。
『違う世界の国を見ることで、自分の中に新しい視点を持った考え方を得ることが出来る』
と。
俺はそれを聞いて
『俺はそんなことをお前かれ言われる筋合いなんてない。上から偉そうに物を言うな』
と思わず返してしまった。
その後、自分の辞書には【迷惑なおせっかい、助手席の母親】の欄に【カイ・キスク】の文字を追加されたのは言うまでもないがな。
だが、言っていることは間違ってない。
だから、自分の目で確かめることにした。
実際、別な世界が気になっていたし…この目で見に行ってみたいとは思っていたからな」
「結論から言うが、この国はおそらく良い国だ。
この璃月港に住んでいる人たちはお互いを支え合って、必死に前に進もうとしている。
言葉にするのは簡単だが、そんな国はなかなかない。
もしこれが璃月という国全てで見られる光景なら大変素晴らしいことだろう。
間違いない。
俺からのありがたいお言葉だ、もっと喜べ」
「だが一つ、この国を回っている中で気になったことがあった。
この璃月港を周っている間にな。
歩きながら、民達が話している内容をよく聞いていると…稀に聞こえてくる話があった。
岩王帝君の話の中に聞いたことのある名前の男の話をしていたのでな。
俺は気になって思わず話しかけてしまった。
『そのシュウという男についての話を聞かせてほしい』
と」
「それで、話を聞いてみれば…『我々を善意で助けてくださるお方』だの『彼はまるで軍神のようだ』だの『岩王帝君が居なくなられてから不安だったが、彼のような人がまだいるのならば…』だの…そんな話をされた。
なんでも人助けをすることに関してはアイツの右に出るものは居ないらしい。
アイツならそういうことをするだろうと思っていた。だからそれはまだいい。
問題はそこじゃない。
…人というのは親切にして貰ったことに対して感謝するものだ。
俺だってその一人だ。
だが、その親切がずっと続いていくと…いつしかその親切は当たり前になっていく。
施しをくれる神様に感謝する人の割合が100%とは限らない。
いつしかそれは50%になったり、果てには0%になったりもするかもしれない。
だから、俺は神様が気に入らない」
「ああ…誤解しないで貰いたいがそちらの七神が気に入らないというわけではない」
「人は神様の心配なんてしないものだ」
「俺はアイツの過去を知っている。どんなことが趣味なのか。好きな食べ物、好きな本、好きなタイプの人間、アイツ自身すら知らなさそうなことも」
「そして、アイツがどんな風に悲しむのかもな」
「あいつは人間だ。
人ほどに悲しむし、人ほどに泣く。
間違っても神様なんかじゃない」
「…これは一人のイリュリアの第2連王としてではなくアイツの友人として、伝えておく。
アイツは悲しいことや苦しいことを一人で誰にもバレずに抱え込んで、人知れず苦しむ様な男だ。昔から、傷口を隠すのは上手かった」
「誰かが助けなければ、アイツはいつか壊れるぞ」
「そして、それを今アイツにしてやれるのは…今アイツの側に居るやつだけだ。
正面からこんな事を誰かに頼む奴は居ない。
だから俺が言ってやる」
「アイツを、救え」