P3―希望ノ炎―   作:モチオ

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1-8 戦いよこんにちわ

『今だッ!全員総攻撃開始ッ!』

 

 戦場に響くは勇まし氷の女王の咆哮。

 

 砂ぼこりを巻き起こしながら戦士はここぞと敵へ襲いかかる。射抜き、切り裂き、そして押し潰す。断末魔すら許さぬ猛攻でターゲットは消滅した。

 

『よし、みんな初めてにしては上出来だ。だが岳羽。お前にはまだ戸惑いが見える。気持ちはわからんでもないが、戦場では気持ちを切り替えていけ』

 

 耳につけたイヤホンから美鶴先輩の言葉が聞こえた。

 

「はい。すみません」

 

 理が目覚めた次の日、学生の本文を見事果たしたオレたちは、その夜初めてタルタロスへと赴いた。今回の任務はタルタロス最下層部の調査という名目ではあるが、オレたち新メンバーの慣らしが主な目的だろう。事実、パーティー組立のオレたちには良いレベルだ。いの一番に理がペルソナを召喚し、次にオレが、そして最後にゆかりッチもついに召喚に成功させたのをみると、今日のノルマは実際のところ完了したといっても差し障り無いだろう。

 

 情報戦特化の風花がまだパーティーにいないため、相変わらず桐条先輩は後方支援。傷の癒えていない真田サンも、万が一に備える名目で入口に待機中だ。そのため臨時のリーダーを理に立てていた。今のところはまだ順調。敵とも数度しか遭遇していないため体力も精神もまだまだ万全だ。

 

「落ち込むことねえーって。ほらさっきオレが攻撃されたときゆかりッチが回復してくれただろ。そのお陰でオレっちはまだまだいけるぜぇ」

 

「ふふ、ありがと」

 

オレの意図に気付いたか笑う彼女。キツイ言い方だったが美鶴先輩の言わんとすることもわからんではない。が、世の中、正論だけじゃ生きていけない。それでも面と向かって言いづらいことを言ってもらってる分、ココは三枚目のオレがフォローしときましょう。

 

「でも以外だな。ほら、いつもの順平だったら、リーダーを決めるときにてっきり、オレにしろーって言うかとばかり思ってた。ね、結城くん」

 

 ここで言っているのは、探索前に桐条先輩直々にメンバーのリーダーを任命されたことを指しているのだろう。確かに前回は不満たらたらだったが、今のオレには逆に理がリーダーじゃないことの方が違和感を感じるのだから面白い。

 

 ゆかりッチの言葉に首をかしげる理。全く相も変わらずのポーカーフェイスだなお前は。

 

「オレっちも大人ってことですよ、えっへん」

 

「やっぱ先の言葉なし。アンタうざいわ」

 

「そんなー、そりゃないだろ」

 

 このくらいの階層ならこんなもんだろう、と笑うオレだったが、先に伸ばせない問題が差し迫っていることに若干の焦りを覚えていた。というのも、タルタロスに来た現在でも自分のペルソナの全容を確かめられずにいたからだった。今後するべきことを考えると、少なくとも自分の持つペルソナの現状を把握することは必須だ。しかし、タルタロスにいる間はスリーマンセルで動いている以上勝手には動けない。それじゃあ違う日にすればいいと言う簡単なことでもない。いくら美鶴先輩のペルソナが探査特化型じゃないとはいえ、もし自分のペルソナが思っていた以上に――少なくとも最終決戦時くらいに強力だった場合、その力に反応されないという保証はどこにもないのだ。その前に、影時間に一人で徘徊することは真田サンが怪我をした前例があるだけに許されないだろう。

 

 そしてそれは遅くとも風花加入する6月の満月には完了させなければならない。そして一番無難なのは、まさにその時なのだ。校舎をさまよっているだろう風花を助けるために、タルタロスになる前の学校で侵入し、みんながバラけ、しかも桐条先輩の探査能力も限界に来ている6月のその日が。もちろんその時には粗方調べ終わるつもりでいるが、無茶は禁物だ。功を焦ってもいいことなんか一つもない。

 

「あれ、別れ道だよ。ね、結城くんはどっちだと思う」

 

 どうも自分の考えに没頭していたらしい。前を見ると、今までずっと一本道だった通路が初めて別れ道になっていた。

 

「コッチに行ってみよう」

 

 理は右を指し、歩き始める。

 

「やっぱここって学校……なんだよね。ほら、この廊下とかそのまんまじゃない」

 

最初はたどたどしかった足取りもしっかりとしてきたゆかりッチが壁や通路をさしながら、改めてその異質さに驚いた様子だった。壁も通路も平時の学校そのまま、とは言えないが基本はそのままで、その上不気味な血液のアクセントもついているからそう思うのは無理はない。

 

 見慣れた光景になっていたが、そう言われると確かに違和感を感じずにはいられない。タルタロス。奈落を冠する入り組んだ迷宮は入るたびにその姿を変え、入るものを惑わせる。ニュクスが人の絶望を表すのなら、この世界を構成しているのは一体人のどんな感情なのだろうか。そう考えるとキリがない。

 

 それからもう何戦かすると大分みなに気持ちの余裕が見て取れるようになった。前を向くとどうやらゆかりッチが、理のプライベートを根掘り葉掘り聞いていたが、反応が薄い理は軽い頷きを返すだけ。

 

「ねえ、順平もそう思うでしょ」

 

まるで自分の言葉が正しいと言わんばかりの口調だった。まあ、ゆかりッチは顔は整っているし、それは将来は女優紛いのこともしてる訳だから世間から見てもそうなんだろう。それに男子からの支持も一定からは受けてるし、なんならこの歯に衣着せない性格が堪らないなんて奴も友人の中だけでも少なくはない。だからといってオレが心揺れるかは話が別なのだ。

 

「ん、ごめん聞いてなかった。でもゆかりッチ、オレが言うのもなんなんだけど、また敵さんがおいでなさったんで軽口はあとにしようぜ」

 

「……順平のくせに生意気」

 

 次の階へと続く階段と一緒にシャドウがいるのが見えた。どうも数体いるらしく、無視していくには敵の配置がばらけ過ぎている。無理に通ろうとした場合、最悪挟撃を受ける可能性もあった。

 

「二人共」

 

幸運なことにまだ向こうはこちらに気付いていないようだ。理は人差し指を口に当ててる。

 

「どうする理」

 

「一気に行こう」

 

理は前衛が一気に攻め立て、後衛が追撃する作戦を端的に伝え、飛び出すタイミングを計る。不意の強襲による敵の殲滅。作戦自体はなんてことないものだったが、経験の浅さを考慮すれば破格の出来だろう。理の指揮能力の片鱗に触れて、舌を巻く思いだった。

 

「今だ」と出されたGOサインに従い飛び出す。

 

 オレに音もなく切りつけられたシャドウは音もなく消滅し、それに気付いた残りのシャドウがこちらを向く。

 

遅いと、もう一体を理が剣を突き立てる。まだ消えてないシャドウをそのままに、最後の一体を目指し駆け、すでに出しておいたオルフェウスで瀕死のシャドウを焼き尽くす。

 

残りは一体は少し距離があったため、オレたちではひと呼吸では届かない。魔法を使うモーションに移るシャドウだったが、体の一部にゆかりッチが射った矢が刺さり一瞬体が硬直した。

 

「ナイス! ゆかりッチ!」

 

 その隙を理が見落とすわけもない。不慣れなはずの剣で一閃し、戦いはものの10秒も経たずに終わりを迎えたのだった。

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