「おーい女将さん、肉持ってきたぞ肉」
「あぁらご苦労なこと!どれどれ...」
ギルドを出てから一番最初に俺が向かったのは行きつけのパブだ。いつもお世話になってるし、そのお礼に狩で得た肉はここに献上している。女将さんがそこそこの値段で買い取ってくれるし、その肉が料理として俺に格安で出されるのでこっちとしてもありがたい。
「解体は現地でしといたぜ」
「ありがとうねぇいつも...お礼にドラゴン肉のステーキ一皿無料にしとくわよ」
「おーそりゃありがてぇ」
「やったね!」
ヘレナも喜んでる喜んでる。いやーこういう交流って大事だなやっぱ。
ちなみにだが、肉ってこの世界だと保存が難しい。消費する場合、すぐ食うかジャーキーにするかの2択である。保存はギルドや貴族が所有する冷室(魔術師が気温を下げている冷蔵用の部屋)くらいでしか出来ない。そこでさえ肉は徐々に腐っていくので、食うなら早めに食ったほうがいいと言うのがこの世界の掟だ。冷蔵庫なんてこの世界には普及してないし、肉は足が早いからその日に捌ききれない奴らは配る他選択肢はない。
「それにしてもいつも通り綺麗に肉が切り取れてるわねぇ......ユリウスあんた、これ貴族街の高級料理屋に売った方が儲けられるんじゃないかい?」
「嫌だね。あそこに売ってもどうせよくわからん味付けの飯に加工されるだけだし。どうせ売るならシンプルで美味い料理を提供してくれる所がいいからな」
「ははっ、あんたみたいな男にそう言ってもらえるのは嬉しいねぇ。おいあんたら!今日はドラゴン肉の料理は全て半額だよ!」
女将さんの発言にパブ内はおおーっと盛り上がる。いつもと同じ値段で2倍の量が食えるってんだからそりゃ活気付くわな。
「さーて飲むぞ飲むぞー」
女将さんが背伸びしてメニュー札にドラゴン肉の料理を色々と追加していくのを横目に、俺は空いているカウンター席に座り酒盛りを始める。この機会にドカ食いしとかないとな。こんなチャンス滅多にないから。
「あ、ユリウスだ。仕事終わりかい?」
すると、1人の見慣れた魔術師が話しかけてきた。
「おー、エルマ。今日は狩に行ってきてな。ビッグボアをささっと討伐して帰ってきたわ」
「お疲れ様。よかったら僕と一緒に飲まないかい?」
「飲み過ぎんなよ?あと奢らねえぞ?」
「そんな金ないでしょ。自分の酒くらい自分で払うよ」
俺の横に座った僕っ娘の魔術師はエルマ。俺が所属しているパーティーの団長だ。そこそこ背の高い彼女の首からは、ランクC冒険者の識別タグが下げられている。彼女は水属性に光属性というなかなか珍しい組み合わせを持ち合わせており、戦闘でも属性を組み合わせた攻撃で敵を翻弄し、隙を突いて致命傷を与えるなかなか優秀な魔術師だ.......
ここまで聞くと「なんだよただの美女魔術師かよ」とか思うだろう?いや、そこは違いないんだが、その........ちょっとクセが強くてな.....
「........」
「だぁかぁらぁ〜ってねぇユリウス君聞いてるか〜い?あれーユリウス?ねぇユリウス〜?」
「エルマ先輩、お兄ちゃんにダル絡みしないでください」
.....エール2杯で潰れるクソ下戸なのである。
まだ飲み始めて一時間も経っていないのに、前後不覚になっているってどゆことだってばよ。
肩まで伸び、後ろで二つに分けて結んだ薄青色の髪を振り回しながら、俺に絡みつきながら酒臭い口でひたすら話しかけている。側から見れば、男に酔っ払ってしなだれかかっているただのヤバいやつだろうが、マーヴィンの人間は誰もが彼女の酒の弱さと性格の誠実さを知っているので、パブにいる他の客も苦笑いするだけでいる。
「エルマ、他の客も見てるぞ。そろそろ酔い覚ませ」
「僕はよっぱらっれなんないよぉ」
何言ってんだおめー。自覚ねぇのかよ..
「ちょっと女将さん水くださーい!エルマ先輩、いい加減お兄ちゃんから離れてくださいよもう」
酔っ払いを前に水をオーダーするとは、なかなか気が利く妹である。ナイスだぞヘレナ.....社会人になったら役立つ..あ、もう一応社会人かこいつ。
「ほら」
さぁエルマ、水でも飲んで酔いを覚ましてくれ.....
「んぐ、んぐブォヘアァ」
ああー撒き散らしやがった。酔っ払いの対処はめんどくさいのは前世から変わらねぇな...
そして男である俺のコンパニオン(保護者)が潰れるとその隙を狙ってくる輩もいるわけで。
「ぐへへ、そこの兄ちゃん。そんな下戸に構ってないでアタシらと呑まないか?」
「すまんな、俺は不潔な女は嫌いなんだ」
俺は下品に笑い異臭を放つ浮浪者らしき女たちにそう言い放つ。元日本人として腐ったウンコの匂いするやつには近づきたくねぇ....
「あとちなみに俺はそんな一筋縄じゃいかねぇぞ」
そう言いながらエルマと同じ俺のランクC冒険者の識別タグをチラつかせると、相手は舌打ちをしながら「チッ、お高くまとまりやがって」なんて言って退散していく。あーーーやっと息吸えるわ。息堪えるのって地味に大変なんだぞ。
「ねぇーユリウス〜僕って不潔な女〜?嫌い〜?」
去っていく浮浪者の背中を見ているとエルマは再び俺の肩に抱きつきながらそう尋ねる。まだ酔いが覚めてないみたいだ。
「お前はちゃんと風呂入ってるからな、清潔だし嫌いじゃないぞ」
この世界基準ではあり得ないほどの潔癖症を持ってしまったがこればかりはしょうがない。この世界の衛生基準が低過ぎるのは仕方があるまい。
「えへへー、それって告白?告白だよね?......よ〜し今すぐ君との愛を確かめるために宿hブヘァァ」
「勘違いすんな色ボケ」
両手をワキワキさせながら俺に襲い掛からんとするエルマをヘレナがグーパンする。うおっ今すげぇ音したぞ、ゴスって...
「うわーんヘレナちゃんひどいよぉ」
「ふん、調子に乗らないでください」
「.....エルマ、明日はミーティングあるだろ?早くクランハウスに戻って寝た方が....」
明後日から護衛任務だぞ...明日はそのミーティングだ。
「あ、そうだね〜...はい、これ私の分のお金。払っといてね〜。....じゃ、またねぇ」
エルマは急に立ち上がり、千鳥足でパブのドアへと向かっていく。
「うおっ大丈夫かフラついてんぞ」
「あうっ」
「あっちょっお兄ちゃん待って!」
危なっかしい足取りでパブを出る彼女を慌てて支えに行く俺と、それに焦って続くヘレナ。
すでに真っ暗になった夜道を、三人四脚みたいな感じになりながら進みクランハウスへと向かう俺たちであった.....