7000字くらい書いたから許して....許して.....
それとあと、中間試験が迫ってきているので次話投稿は再来週とかになりそうです...
馬車は自動車ではない。
あ、そこの君。『お前は何を言っているんだ』とか思ったでしょ? 馬車を自動車の劣化版コピーみたいにイメージしてる奴は今一度、馬車についてよく考えて欲しい。名前の通り、馬車は馬が車を引きずっている乗り物だ。原動機はピストンエンジンなどではなく、馬である。つまり一定の加速度や速度は保ちづらい。馬の足音に合わせてガン、ガンと引っ張られる感じで動くのである。車輪だってゴムタイヤなんて使ってない。木を丸く切っただけの代物である。その上路面もアスファルトじゃない。サスペンションも付いていない故、石畳などに整備された道はまだ良いが土と石ころの上を走るとなると揺れは半端じゃない。轍こそあるものの、外れることが多いためあまり頼りにならない。
もちろんその速度だって決して速いもんじゃない。首都高の限界速度が時速80km/hだった気がするが、そんな速度は一人乗り用の軍馬でしか出せないだろう。軍馬でさえも、速度を出して走っていれば当然バテるので、馬車は一定の落ち着いた速度で動くのが基本だ。
さらに、夜は馬を走らせることはできない。しかも盗賊の類に襲われる可能性も高い。動物が走らせている車両なのだから、自動車みたいに強引に突破なんてことは無理無理。じゃけん一般人は夜中は馬車での移動は避けましょうね〜。
だからまぁ、護衛任務を請け負ったギルドマンは哨戒という本旨もあって、ちょくちょく馬車の外に出て歩く。馬もそこまでスピードを出しているわけではないから、置いていかれるってほどでもない。早歩きすりゃ追いつけるのだ。
何もせずに目的地に到着するのをぼーっと待つのもいいが、馬車は馬車で揺れるし狭いし換気がクソ(これ大事。この世界の衛生基準って低いから臭いやつが多い)なのでちょくちょく外に出て歩いたほうが良い。
「てかあれじゃん、ヘレナももうランクC-2じゃん。早いなぁ...」
「やめて、子供の成長を見るような目で私を見ないで」
「この前昇級試験受けましたもんね、ヘレナ先輩。おめでとうございます」
今は俺とヘレナとレオで馬車街警備を行っている。業種こそ違うものの、全員がランクC。俺はC-5、レオはC-3である。このアルファベットの後についている数字だが、これはランク内での練度を表しているのだ。一概にランクCと言っても、その中にはなりたてのルーキーであったり熟練のベテランであったり、さまざまな練度の冒険者が存在する。そういう練度差を指標にしてくれるのがこのシステムなのだ。1-5までの練度指標があり、5がランク内で最も熟練した者に与えられる称号である。ランクCを意味する銅製の冒険者識別タグには星が練度の数だけ刻まれる。C-1はランクDから昇給したばかりのものが与えられる称号。そこから昇級試験をクリアすると、C-2、C-3、C-4と順に上がっていくのだ。C-5の次はランクB-1。
ヘレナは先日C-1からC-2の昇級試験に合格したのだ。彼女の首から掛けられた識別タグには新しい星の彫刻が伺える。
「C-2だったら前衛なしでもそこらへんの盗賊が相手ならなんとかなるだろうな」
「なんか僕の存在意義否定された気がするんですがそれは」
「盗賊ねぇ...」
「ヘレナ先輩も無視しないでください!?」
「盗賊ってこんな昼間から出るものなの?」
「あぁ、治安が悪いところや人気のないところだとじゃんじゃん出るぞ。行商人とかの馬車を襲えば相当な財産が築けるからな。まぁさすがにこんなガチガチに護衛された馬車を襲ってくるような奴はいないと信じたいが....」
「レオはどうなんだ、前所属していたパーティーで馬車護衛やってる時とか狙われたりしない?」
「....一度犯罪傭兵団に襲われたことはありましたが....盗賊はないですね」
「盗賊被害は無いのな。にしても犯罪傭兵団...?」
盗賊は格上は襲わない。それでも襲ってくるのならば依頼かプロかのどちらかだろう。
「裏社会で活躍してる組織ですよ。ヨゴレな仕事を高額でやってくれる傭兵団。暗殺任務とか妨害工作とか色々。僕が襲われた時はとある法衣貴族の方の護衛だったんですが....倒木で道を塞がれて、後ろから20人くらいだーっと来ましたね。正直怖かったです、展開早すぎて」
本格的やねぇ....。20人となるとなかなか気合の入った暗殺だ。いやー貴族社会って怖い怖い。
「冒険者に置き換えるとランクD-2、3くらいだった気がしますね。まぁ格下なので半分くらいはスキルで一掃出来ました」
「おっかねぇ......」
レオは軽戦士であるためこのパーティーだとなかなか目立たないが、C-3の実力はしっかりと持ち合わせている。いくら格下とはいえ、ランクE冒険者もそこそこの中堅である。そいつらをスキルひとつで10人倒せるって相当バケモンだぞこいつ。
♢♢♢♢♢♢
出発から数時間後。ようやく港湾都市ランカスターに到着した。高さ5mはあるだろう正門が前方に見える。
馬車は門を潜らず、城壁の外にある駅(馬車を止める場所)で止まった。
「アル様、こちらへ」
「助かるわね」
リリーと呼ばれたメイドが先に馬車から降り、仕えし主の手を取る。そのままステップの高い馬車から地上へと誘導。さすがメイド、一挙一動が様になっている。
ドレスを汚すこと無く無事に地面に降りたアーデルハイト子爵は御者に屋敷へ帰還するよう命令すると、馬車がさっていくのを見届け、反転し歩き出した。すると、流石に顔パスが効くのか、門の両サイドに陣取った門番たちは何も咎めることなく通してくれた。むしろ、「我らが領主様に、敬礼!」と、ビシッと敬礼を決めてくれた。やだかっこいい。
「門番の一兵士さえ彼らの領主の顔を知ってるなんて、すごいわね」
と、セシリア。
確かにそうだ。ここには写真なんてものは存在しないため、相手に直接会わないと顔はわからない。そんな世界で貴族、ましてや領主であるアーデルハイト子爵の顔をなぜたかが門番が知っているのだろうか?
「執務でこの街に来る頻度が高いから、顔を覚えられちゃったのよ。顔パスが効いて楽だわ」
と、当本人。
本来は一般に顔が割れているのはまずいんだろうけど....本人が嫌がってないのならいいのか...?
「それはそうと、ランカスターはもともと王家の直轄地だったのよ」
ランカスターは王国東部に位置する港湾都市、俺らが今到着したこの街の事である。歴史の長い街であり、やたら古風な建築物もしばしば見かける。古風の建物と最新の建物が入り混じっていてなんだか不思議な感覚になる。
「ランカスターは外国との交易が盛んでね。ここに行けば輸入品は安く手に入るわよ、覚えておきなさい」
さらっと自国の宣伝しやがったなアンタ..
「なるほど.....物資調達はここでやっておいたほうがいいのかも...」
エルマが俺の背中から呟く。うお、息が耳にかかってなんだかアレだな....あっいかんいかんヘレナがこちらを睨んでらっしゃる。さーせん。
「あっ本当だ、マーヴィンじゃ見ないような食べ物が売ってる」
「おー、輸入品が安いぜ」
「あっお兄ちゃんあれ見て」
「あれは.....ドラゴンフルーツ....?」
....ん?
「うん、しかも結構大きいよ」
あっあっあっ(嫌な予感)
「僕らがマーヴィンで買ったのよりも安いね」
「......」
「レオ、言わないでおくれ.....」
「ん?なんでみんなそんな暗い顔してるんだい?」
「エルマァ....」
市場を通り抜ける際にチラッと見えてしまった銀貨5枚で売られていたドラゴンフルーツ、アレは見なかったことにしよう。うん。別に銀貨5枚ありゃ貴族街の料亭のフルコース食べれたなぁなんて思っちゃいない。思ってなんかいないぞ本当だぞ。
♢♢♢♢♢
街を十分ほど歩くと軍港に到着した。歩いてくる途中から見えてはいたが、港は大小の軍艦でびっしりと埋め尽くされていた。ドックには(前世基準の)前弩級戦艦や戦列艦らしき艦が威風堂々と鎮座している。艦隊の中にはコルベット艦もおり、数もしっかりと揃えていらっしゃる。さすが元侯爵。財力が半端ない。
「うおーすげぇ!!!」
俺はというと、二つの人生で一度も見たことのなかった所謂「戦艦」という物を目にして大興奮である。男の子だからね、仕方ないね。あいや、この世界だと男は軍艦見て興奮しないからなぁ....むしろアクセサリー見て楽しんでっからなぁ....ヤベェ俺この世界で一生結婚できねぇわ。俺には妹がいるからするつもりないけど。
「お兄ちゃん興奮しすぎ」
唯一の希望だった妹からもやはり言われてしまった。泣くぞ?
「ふふ、私の艦隊の素晴らしさがわかるかしら?」
領主がドヤ顔でにやつきながらこちらを見る。はい!めっちゃ好きです!なんて雑には身分上位者には言えないが、本心ではある。
「えぇ、一艦隊でこれを揃えられるのはなかなか凄いと思います。つい見惚れてしまいました」
「うん、うん。見る目があるわね。この艦隊は私の第一艦隊よ。金と技術を注ぎ込んで揃えたわ。正直模擬戦なら王家の常備軍に余裕で勝てると思うの」
褒められて調子に乗っている領主様である。王軍に勝てるってマ....?ヤベェじゃんうち。反乱とか普通に起こせるじゃん。だが王家批判は平民がすると即座に首が跳ねるので、あえて自分の意見は示さずあくまで彼女の意見に同調したと言うことにしておこう。
「王家の艦隊は見たことがありませんが...領主様がそう言うのならそうなのでしょう。実際この艦隊の旗艦は目を見張るほどの規模ですから」
「んふふ、そうでしょうそうでしょう?旗艦のウィンチェスター級一等戦艦の3番艦「チャールストン」はね、排水量10000トンを誇る王国最大の戦艦なのよ。一子爵が持つ軍艦としては破格の規模だけど、うちって交易ですっごい儲かってるからなんとか建造費を絞り出せたわ」
旗艦。それは先程前弩級戦艦らしき艦と説明した艦のことである。艦隊の中でも一際図体が大きく、それによる威圧感を容赦なく振り撒いている。
「はえーすっごい、一万トンってどう動かしてるんですか?大型の原動機が必要ですよね?」
この時代には高圧缶や蒸気タービンなんていう代物は無い。というかピストンエンジンすらない。なのにどうやってこの巨体を動かしているのだろうか?奴隷に漕がせてるとか言い出さないだろうな....?
「魔導機関っていう魔石の魔力を動力に変換する装置を使ってるのよ。魔石の魔力を使って船体後部の回転式オールを回しているの。魔導機関を搭載した艦は運用コストがべらぼうに高いのがネックだけど、大陸を超えるような長距離航海はしないし、何より運用する価値があるから必要経費だわ。ま、王軍では維持費が高すぎて一隻しか就役してないらしいけど」
「うおおお....めちゃくちゃすげぇ艦持ってんなぁウチの領主」
「君たちが何を言ってるのかわからないけど、とにかくあれが凄いってことは分かったよ」
と、エルマ。まぁ一般人はそんな感じの反応が妥当だろう。
「残念だけど私は旗艦には乗らない。領主がうろついてりゃ水兵たちも落ち着かないだろうし、何より戦闘に邪魔だからね」
「せっかく強力な戦艦をお持ちなのに...では領主様は何処に搭乗なさるのでしょう?」
「装甲護衛艦」
さっとそう言ったアーデルハイト子爵はその言葉が指すであろう艦の方へ向いた。
「そうこう、ごえいかん...?」
小首を傾げるレオ。海戦に参加したことがない彼には馴染みのない言葉なのだろう。
「要人の護衛専用に設計された防御力ガッチガチの艦のことだな。戦闘と被弾を極力避け、搭乗する要人の警護に全振りした海上要塞みたいなもんだ」
「海上要塞...」
「ユリウスと言ったかしら。意外と詳しいのね。でも何処でこんな知識を?....まさか」
あっまずい。前世から引っ張ってきたミリオタ精神でペラペラと話してしまった。このままだとスパイ容疑とかで殺されかねんぞ。割とマジで。ほら、眉間に皺を寄せてんじゃん彼女。やばいって。
「は、はは....。あっと...その、軍艦に昔興味がありまして....王都の書庫でそれに関する書物を漁っていたらその存在に気づきましてね....へへ」
ちょっとこれ本気で危ない。これだと怪しさが増してしまうではないか。子爵の顰めっ面が怖さを増してきている。
「装甲護衛艦は私のウィンザー海軍しか採用していないはずだけど?というか発案者がうちの軍人だし」
あ......終わったやんこれ....あかん....
「ウィンザー海軍の機密がなぜ王都の書物に書かれているのかしら?しかも平民に公開できるほどの文章に」
「そっそれは....存じ上げかねますが...」
やばいぞ。エルマ!セシリア!助けてくれ!俺はまだ死にたくない!
「りょ、領主様、一旦落ち着いてですね...」
俺が視線を送るとすかさず助け舟を出してくれるエルマ。カッケェ。
「...まさか軍内部にスパイが...?」
ん?
「領外の人間には機密は漏らすなとは言ったけど...明確な基準は定めてないし...」
まさか.....これ勘違いで終わってくれるパティーン?
「いけない。帰ったら軍人らの身元調査をしないと...内通者がいる軍なんて大っ嫌いだわ」
「...」
「は、はは。ですよねー。さっ領主様、そろそろお時間ではないですか?」
引き攣った笑顔でエルマが子爵を装甲艦へ誘導する。メイドのリリーもそれに同調し、「アル様、出航のお時間が迫っています」と声をかける。助かるぜ。
「ふむ....そうね。そろそろ行かなければ」
「え、えぇそうです。では私たちは旗艦の方で待機して参りますね」
「えぇ、お願い。リリー、イリーネの所まで『追い風』を連れて行って。彼女らに艦内を案内するようにとも伝えておいて」
「はい、アル様」
メイドのリリーに俺たちの案内について言及すると、アーデルハイト子爵は考え事をしながら装甲艦へと向かって行った。護衛が離れたのを見計らってか、周囲に待機していた港湾警備隊らしき兵士たちが子爵の周りに駆けつける。素晴らしい警備体制だな。
「では、イリーネ様の元へ案内致しますので、ついてきてください」
と、歩き出したリリー。
「は、はい」
ぎこちなく返事をするエルマ。その顔からは恐怖と警戒心が見えて取れた。俺の不注意でこんな状況になってしまったのだから申し訳ない。
他のパーティーメンバーも緊張した顔つきで先頭を歩くリリーについて行く。それを見かねたのか、
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、機密が漏れることは確かに一大事です。ですがあなたたちが責められる筋合いはありません。安心してください」
振り返って微笑むリリー。優しさが地味に傷つく...!
「どうも...」
「.....」
リリーが前に向き直ったのを確認して、無表情でエルマが俺の横に寄ってきた。そして耳打ちをする。
「ユリウス、あとで話があるから」
「アッハイ、スミマセン」
前世知識とかさぁ......もうこれなんて謝ればいいの.....。
♢♢♢♢♢
「敬礼!」
ザッという軍靴が一斉に石畳を叩く音と共に、海岸で待機していた水兵や士官が一糸乱れぬ見事な敬礼をする。この世界だと兵士も女故、水兵のセーラー服が地味に眼福である。前世で死んでからセーラー服着た女の子なんて見てないからな。ノスタルジックな気持ちになってしまう。
「直れ」
黒髪の将校らしき軍人によってその掛け声が掛けられると、彼女たちは直立体制に戻る。
「よし、休め」
そして最後の号令で全員が足を肩幅まで開き、両手を後ろで組む。相変わらずビシって決まってらっしゃる。え、休めって言ってたよね....?休めって言われたらだらっと休むんじゃないの...?軍隊ってこえぇよ。
「イリーネ様。増援の護衛をお連れしました」
「うむ、ご苦労。あとは任せておけ」
「はっ。では私はここで」
そう言って去って行くリリー。あっ待って行かないで、こんなところで働かされるのは嫌だ!
「....ふむ。『追い風』と言ったか...長は誰だ。名乗れ」
怖っ!?第一印象めっちゃ怖い軍人さんじゃんか....これが男性だったらチビってたぞ俺。
「はっ、エルマ・ファルケンハインと申します。今回は何卒よろしくお願いいたします」
即座に背筋を正し、口調を変えて返事をするエルマ。切り替えが早い。
「エルマ、よろしく頼むぞ。私はイリーネ・フォン・プロイセン。この艦の副艦長を務める者だ。階級は上級大将だ」
そう言い右手を前に差し出すイリーネ上級大将。いかつい口調とは裏腹に、笑顔がすこぶる美しい。信じらんねぇ....なんでそんなにっこにっこしてるんですかねぇ...?
将校用の白い軍服から手首がチラッと見えたが、身体はそこまで鍛え抜かれてるわけじゃなさそうだ。多分魔力による身体強化などで筋力を補っているのだろうか。
「えぇ、短い間ですが。早速ですが艦内を案内していただけるでしょうか?領主様から貴方にそうしてもらうようにと言われていまして」
と、エルマ。
「あぁ、もちろん。元帥閣下も貴方達をお待ちのようだからな。では、こちらへ」
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