□ 決闘都市ギデオン 【
決闘都市ギデオンを囲む城壁の上に一人の男、ウリエルが立っていた。
それなりの高さのある城壁の上は強めの風が吹いているがウリエルは意に介せず腕を組んで立っていた。
「今日は良い天気だ、風もあって絶好の飛行日和だ。
俺の翼も調子が良いしな」
その言葉通りウリエルの背中には大きな純白の翼があった。
この<Infinite Dendrogram>には数は多くないが実際に翼のある亜人の人間範疇生物もおりレジェンダリアにほど近いギデオンは亜人もそれなりに多く特別目立つ物ではないが左手の甲にあるエンブリオの紋章と合わせると彼はかなり特異存在である。
この<Infinite Dendrogram>はフルダイブ型のVRMMOゲームで自ら意思で体を動かすため体格等がリアルとかけ離れると動く際に違和感が生じそれが原因で辞めてしまう人も少ない。
決闘都市ギデオンにいる決闘ランカーの一人である第四位のジュリエットのように翼のエンブリオであれば自由に扱うことも出来るだろうがウリエルの翼は天使のモチーフが好きだったから生やせるなら生やそう位の軽いノリで生やしたものである。
「マスター、やはり止めた方がよろしいのではないですか」
ウリエル一人だった城壁に突然彼と同じ様に翼の生えた人が現れた。
男性にも女性にも見える中性的人物は【火炎天使 ウリエル】偶然にもマスターと同じ名前のガーディアンのエンブリオだ。
因みに性別はマスターであるウリエルも把握していない。
「そんなこと言うなよエリー、折角STRを高くする為に【壊屋】をカンストさせたんだから今の状態でちゃんと飛べるか確かめておかないと何が足りないか分からないだろ。
そういう訳で骨は拾ってくれよな、アーイ、キャン、フラーイ!」
言うが早いかウリエルは駆け出し翼を広げて城壁から飛び出した。
「マ、マスター!」
□
デンドロ内の時間でウリエルの飛び降りる1ヶ月程前。
彼はデギオンの東にあるクルエラ山岳地帯でレベル上げをしていた。
彼の戦闘は高火力の天属性の炎の魔法を使うウリエルことエリーを後ろに置いて自身は槍を使った前衛兼中衛として戦っていた。
「あらかた倒したな、ちょっと休憩しようか」
「はい、マスター」
周囲にいたモンスターを経験値に変え一時的に空白地帯になった場所で見晴らしの良い所を探し休憩する。
「マスター、お茶です」
「ありがとう、エリー」
アイテムボックスから出したお菓子とエリーが入れてくれたお茶を飲みながらゆっくりしているとウリエルが口を開く。
「そう言えばさ、エリー」
「何ですか? マスター」
「俺結構レベル上がったじゃん」
現在のウリエルのレベルは253で下級職4つをカンストし今は上級職の【
「そうですね、レベルで言えば既にカンストの500の折り返しには来ましたね」
「だから、今なら飛べるんじゃないと思ってさ」
「は?」
「STRも1000超えたから行けると思うんだよねー」
それなりに物理ステータスの上がる下級職に上級職の中でも比較的STRが上がり安い【剛槍士】のお陰でウリエルの既に1000を超えおりレベル0の状態の数値が10前後であることを考えると彼の筋力は常人の100倍以上あることになる。
余談であるが過去に胸筋が2メートル超えれば人間も羽ばたいて空を飛べると言った学者もいたらしいので不可能ではないかもしれない。
「だからさ、今のSTRなら飛べるんじゃないかと思って実際に飛べるエリーにご意見頂こうという訳さ」
【火炎天使 ウリエル】現在第四形態のtypeガーディアンのエンブリオだ。
天使をモチーフにしたエンブリオであるウリエルの主な能力は聖属性と天属性の炎による火力の高い魔法攻撃と飛行能力の2つであり攻撃性能は高めであるが耐久力に関しては同じ形態のガードナーと比較すると低めである。
余談だが誕生した時の第一声は「私は貴方のエンブリオ【火炎天使 ウリエル】、奇しくもマスターと同じ名前ですね。私のことはエリーとでもお呼び下さい」でありそれ以降ウリエルは自身のエンブリオをエリーと呼んでいる。
「私が飛んでいるのはスキルの効果なので物理学に則って飛んでいる訳ではないのではっきりとは言えませんが確かにマスターの今のステータスならずっとは無理でも飛べるかもしれませんね」
「エリーもそう思うか! じゃあ、ちょっと飛んでみるか!」
「へ?」
「アーイ、キャン、フラーイ!」
困惑するエリーを尻目に言うが早いか立ち上がりそのまま力いっぱい飛び上がった。
5メテル程上昇した所で減速し始めたので翼を広げて目一杯羽ばたいた。
「おお!」
減速していた体が翼の羽ばたきに合わせて少しだけ加速して浮き上がる。
「浮かんだ! これなら飛べってうわ! あー!」
加速したことに感動している間にそのまま頭を下にして落下し始めたので慌てて羽ばたくがしっかりと飛ぶ練習をした訳でなく姿勢制御もなく何となくで羽ばたいても飛べる訳もなく逆に落下する速度に更なる勢いを付けて落ちていく。
鳥が初めて飛ぶ際最初から飛べる訳ではなく親鳥が飛ぶ姿を見て学び練習して飛べる様になるのだからむしろ最初の羽ばたきで上昇出来たのが奇跡である。
地面に追突する覚悟を決めて頭を抱えて少しでも頭部を守って身構える。
「あれ?」
いつまで経っても思っていたような衝撃がなく頭ではなく足を引っ張られるような感覚に恐る恐る閉じていた目を開くと地面から30センチ程と所で浮いているようで足のある方に目を向けると自身のエンブリオであるエリーが笑顔でウリエルの足を掴んで浮いていた。
「マスター、大丈夫ですか?」
声を聞いた瞬間にウリエルはうわ、やべっ。と思った。
まだゲーム内の時間で3ヶ月程の付き合いであるが今の声は滅茶苦茶怒っているのは理解出来たのでどうにか怒りを鎮めてもらおうと口を開いた。
「私のエンブリオにして地上で最も美しい天使のお陰でこうして五体ピンピンしてぇえ、ぶべっ、ペッ、ペッ、口に土が入った」
どうやら誉めて宥める作戦は失敗したようだ。
「マスター、貴方はそうやって直ぐに思い付きで行動しますね。
その高い行動力は貴方の美点ですがそれは同時に思慮の足りないという短所であってですね今のだって……」
むしろ火に油を注いでしまったようでお説教が始まってしまった。
これは一時間コースだなーとぼんやり聞いていると。
「聞いているんですか! マスター!」
「は、はいぃ!」
そうしてお説教は二時間程続いたそうだ。
□
その後、自分が飛べる様になれば戦術の幅が広がりから無駄にならない旨をどうにか伝えて説得してエリーの監修の元に飛行の練習の許可を得た。
まず飛行の練習に入る前にエリーに提案されて観察から始めた。
現実世界の方で動画サイト等で鳥の動画を見たりゲーム内では飛行するモンスターを観察しながら実際に翼を動かしたりした。
飛ぶ練習の中で彼が唯一苦手とする物があった。
「なぁ、これ本当に意味あんのか?」
「はい、これならマスターがケガすることなく安全に練習することが出来ますよ、ぷ、くくく」
その練習とは木の枝に結び垂らしたロープをウリエルの胴体に巻いて結び枝からぶら下がった状態で羽を動かし飛ぶ練習をするというものだ。
見られたら笑われるかドン引きの二択であろうと思いわざわざギデオンから離れた人のいないフィールドで行っていた。
「笑ってんじゃねぇよ」
見た目こそ赤ん坊のベッドの上につけるベッドメリーの様な状態で間抜けに見えるがちゃんと飛行の練習になっており不服であったが吊るされて練習していた。
ギデオンは闘技場を中心として栄えた街でありアルター王国の決闘ランカーの多くがこの街をホームとして活動している。
そしてランカーの一人でアルター王国決闘ランキング4位【堕天騎士】ジュリエット。
騎士系統の超級職としての高い肉体性能に呪術師系統を内包するため闇属性の魔法やデバフを使えエンブリオによる三次元軌道と風属性の魔法と隙のない万能型のビルドで比較的に決闘の盛んなアルター王国でも上位に付く女性である。
ここでいきなり彼女の名前を出した理由は彼女のエンブリオである【黒翼飛翔 フレーズヴェルグ】は翼のエンブリオであり空を飛べるという点である。
チュートリアルで直接翼を生やしたウリエルと違いエンブリオの能力として翼と飛行能力を持つジュリエットとでは同じではないだろうが何かしら飛行のヒントやコツが貰えないだろうかアポイントを取った上で人気店のカフェ水蜜糖のドーナツを手土産に尋ねたのだが思わぬ誤算があった。
「我が力の源泉は我が意を得て自由に動くもの成り」
(わ、わかんねえ~!?)
そう、ウリエルにはジュリエット語が理解出来なかったのである。
正確には何となくニュアンスが分かる位で完全には理解出来ていない。
彼女が通称ジュリエット語と言われる中二言語を操るのはデギオンでは有名な話しであるがウリエル自身も元中二病を患っていたためまぁ分かるやろ位の気持ちであったが彼はその見た目から分かる通り天使等を好む光の中二病、対してジュリエットは堕天使やゴシック系を好む闇の中二病でありそうなれば使う中二言語にも差が出てくることは必定であり理解するのに四苦八苦していた。
どうにかこうにか理解した結果はジュリエットの飛行能力はエンブリオのスキルでありエリーと同様にある程度イメージで飛んでいるようで直接活用出来る様なコツは無さそうであるということだ。
結果的に後に残ったのは美味しそうにドーナツを食べるジュリエットと解読に疲れたウリエルだった。
別の翼のある亜人に話を聞きに行こうとしたがタイミングが悪かったのか探しても会うことが出来ずに話は聞けなかった。
比較的にレジェンダリアに近く交易も行われていることもありアルター王国の中でも亜人の多いギデオンではあるが空を飛べる翼のある亜人には普通のティアンの街は住みにくいようで定住している者は殆どおらずレジェンダリアからの行商の護衛として冒険者がいるか運悪く今は街には居なかったようだ。
そうして飛ぶ為の準備をしながら平行してレベル上げを行った。
先ずは元々就いていた【剛槍士】のレベルをカンストさせてから壊屋系統の【壊屋】と【
【壊屋】を選んだ理由としてはパワーが足りないなとなったからだ。
紐を付けた状態であるが高度を上げるのはちょっときつかったのだ。
なのでウリエルが把握する限りSTRが上がる壊屋系統のジョブについたのだ。
余談であるが壊屋系統はオブジェクト破壊に特化したジョブであり高いSTRとチャージ時間が長いが倍率の高いスキルで過去の戦争等で城門の破壊等で活躍している。
【魔術師】に就いたのはエンブリオであるエリーの助言だ。
【壊屋】のレベルをカンストして更なるSTRを求めて次はその上級職である【
STRについて現状既に2000近くで【壊屋】の上昇量を考えるとその上級職の【破壊者】までカンストして装備を整えたら下手すれば4000を超えるかもしれない。
一般的なカンスト前衛マスターは余程特化しない限り1つのステータスの数値が5000を超えるかどうか位だろう。
それも基本STRではなくENDやAGIのどちらかであり余程固定で遊ぶ程仲の良いパーティーメンバーがいない限りSTR極振りは推奨されていない。
その理由はここでは割愛させてもらうが流石にそこまで上げてSTRが足りないということもないだろうし今空いている最後の一枠は別のステータスを上げる事に使おうと思った所でエリーから【魔術師】はどうかと助言を貰ったのだ。
彼女曰く魔法スキルを使って上手く風を使えば空を飛ぶのに役立つのではないかという話だ。
このゲーム内の世界では帆船があるのだがその帆に風を送って船の動力のすることで無風の状態でも船を動かすこともあり上手く使えれば飛行の補助に使えるのではということだった。
他に良さそうなのが思いつかなかったこともありそれを採用した。
【剛槍士】の様な武器がメインのジョブスキルはジョブをサブにしていても対応する武器さえ装備していればスキルが使用可能なのでレベル上げにそれ程支障がないのも理由の一つだ。
ただ、【魔術師】のレベルがカンストするまでに【破壊者】の条件を満たすことが出来なかったウリエルは我慢出来ずにテスト飛行行うことにした。
渋る自身のエンブリオに対して何度も頭を下げて現状のステータスでの試験飛行の必要性を説きどうにか納得して貰った。
交換条件として安全確保の為に【救命のブローチ】を買うことになったので彼の財布重大なダメージが入ったが些細なことだ、たぶん。
そうして、飛ぶ為の準備をして冒頭に戻る。
□
デギオンの城壁から森がある南西方面に飛び降り翼を広げる。
広げた翼が風を受け落下の速度を落としつつ前に進む力に変える。体を水平にして足を肩幅に開いて飛ぶのに使わない手を体の横に付けて姿勢を正す。
そして体勢が整い落ち着いて来た所で名一杯羽ばたく。
「おお!」
羽ばたきに合わせて高度が上がり更に速度が増す。
それから二度、三度と羽ばたいていきより高く上昇して飛んでいく。
「マスター良かったですね」
そうして飛んでいると後ろからエリーが追いついて来た。
まだ飛ぶことに慣れていない彼に配慮して斜め前を飛び顔を余計な方向に向かせない様にしつつ視界の邪魔にならない位置から声を掛ける。
「ああ、スッゲエ気持ちいい」
空を切って進む時に肌に感じる風の感覚、自身のAGI以上の速さで空を進む普段では感じられないスピード感に<Infinite Dendrogram>を始めた時と同じかそれ以上の感動を覚えながら飛んでいく。
それから三十分程飛んだだろうか。
現在はギデオンの南西にあるサウダーデ森林の上空を飛んでいる。
前を向いている彼には見えないが既に三十キロ以上離れて今後ろを見れば小さく見えるギデオンに驚くだろう。
彼自身はまだそこまでの距離を飛んだ自覚はないが初めての本格的な飛行にテンションが上がっていることもあり彼が思っているより時間が経っている事もあるがそれだけじゃない。
この<Infinite Dendrogram>には翼が生えて飛行可能な亜人がいることは言ったが彼らは自身の翼だけではなく飛行に必要なスキルを持つジョブについている。
代表的な物に超級職である【翼神】や下級職の【
実際に翼を持つ亜人に今の彼のステータスを知った状態でこの光景を見せたら「えっ……何それ、怖」とドン引きされるだろう。
普通は先程飛行に補助が入るジョブに就いた状態でAGIを上げていくのだ。
なぜなら飛行は自然と速度が上り一瞬の判断が墜落や戦闘中の激突と命の危険に繋がる以上思考速度も上がるAGIを上げておけばそれだけ対処に余裕が出来るというもの。
少なくともウリエルの様にスキルの補助もなくSTRを上げて力で解決するなんて命が幾つあっても足りないなるような真似等到底出来ないのだ。
ステータスその物は十分にあるとは言えそれ程多くない時間での準備でこれほど飛べるのでウリエル自身に空を飛ぶ才能があったとは言えるだろうが死んでも三日で復活出来るマスターだからこそ出来る荒業でもあるだろう。
三十分の間に高度の変更や体を傾ける事で左右への移動を繰り返しながら飛行を楽しんでいたが彼のエンブリオであるエリーは流石にギデオンから離れ過ぎたと感じていた。
普段から小言が多いがエリー自身はやはりエンブリオでありマスターであるウリエルのやりたいことをやらしてあげたいと思っており楽しんでいるマスターに気を取られて気付いたら街から離れ過ぎていた。
「マスター、流石に街から離れ過ぎています。
そろそろ街に戻りましょう」
「えっ! いやいや、まだまだ行けるし大丈夫でしょ」
「いえ、今は初めて飛んだ嬉しさで興奮状態にあるので疲れを感じていないだけです。
それに飛ぶだけならもっと街の近くでも良いでしょう?」
そう言われて振り向けばギデオンの街は遥か彼方に小さく映り飛んで高い所にいるから見えておりもし地面の上に立っていればきっと街の影も見えないだろう。ウリエル自身が思うよりずっと離れている事に驚き冷静になる。
その冷静になった状態で改めて体の状態を確かめれば確かに翼や肩甲骨周辺の筋肉は我慢出来ない程ではないが確かに疲労が溜まっている。
今直ぐに飛べなくなるという程ではないが確かにそろそろ戻らないといけないだろう。
なにせ彼は確り飛んだのは今回が初めてであり一度地面に降りてから休んでから地面から飛び立つは最初に失敗していることもありウリエル自身まだ出来ると思っていないし高い木を探して飛び出すのも今回飛び立つのにギデオンの塀の上というそれなりに広く足場の良い高い場所から飛んだので失敗を考えると出来るだけギデオンの近い場所の方が不便がない。
それに先ずは彼自身はまだそこまで離れていないと思っていたのだからまだ飛んでいたいと大丈夫と言ったが現状はギデオンからかなり離れている。
最悪ログアウトすればセーブポイントのでもあるギデオンには一瞬で帰れるからそこは問題ではないが大きな街であるギデオンから離れるということはそれだけ強いモンスターが出やすいことを考えれば今の位置はいつモンスターに襲われても不思議ではない。
「そうだな、そろそろ戻ろ……!?」
なので一度デギオンに戻ろうとしたが既に遅かった。
ウリエルが言い終わる前に彼の持つスキルの《殺気感知》と《危険感知》の二つのスキルが警鐘を鳴らす。
この二つのスキルはそれぞれ自身への殺気や危険を自動で感知して知らせてくれる汎用スキルでジョブ【
閑話休題、ウリエルと違い《殺気感知》と《危険感知》を持っていないエリーだがエンブリオである彼女はウリエルから生まれた存在である為かある程度マスターの心の中を把握出来今も何かしらの危機を感知したことを理解しすぐさま周囲を見渡す。
「マスター周囲に敵影は見当たりません」
しかし空を飛び障害物もなく遠くまで見渡せる状況にも関わらず辺りに敵と思われる存在が見えない。
「違う、下だ!」
言われて下を見れば黒くて大きな何かがウリエルに向かって飛んで来ている。
「うわっと!?」
「マスター!」
飛んで来る何かをどうにか避けるが体勢を崩して高度を落としてしまう。
すぐに追いかけてきたエリーが掴み高度を維持する。
「大丈夫ですか、マスター」
「ありがとう、当たってないから大丈夫だが、つうか何だあれは?」
エリーに抱えて貰った状態で見上げればそこにいたの大きなカブト虫だ。
見た目は日本に生息する一本角のカブト虫ではなく角を三本持つその見た目アトラスオオカブトが近いであろう。
《看破》して出てきた名前は【
ワゴン車程とより一回り大きいサイズであり魔蟲種の中でも中々の大きさで有り巨大なサンドワームが出るカルディナならまだしもアルター王国では余り見かけずウリエルも初見のモンスターだ。
「でけぇカブト虫だな、STRとENDが3000オーバーとか純竜級一歩手前で完全にボスモンスターじゃねえか、なんでいきなり襲ってきたんだ?」
純竜級。
この<Infinite Dendrogram>内におけるモンスターの強さを表す指標のの一つであり主に亜竜級と純竜級の二つに別れており主にステータスの内1000以上が一つ有る物が亜竜級で5000以上有ると純竜級と呼ばれるが幾つかのモンスターは名前に亜竜や竜級、竜と着いている。
亜竜級の強さは大体下級職六人パーティーか上級職一人相当であり純竜級は上級職六人パーティー相当と言われているがこれはあくまでエンブリオを持たないNPC通称ティアンでの換算になるのでエンブリオを持つマスターつまりプレイヤーはエンブリオ次第では下級職一人で亜竜級を倒すことが可能であり相性次第ではジョブについていない状態のレベル0でエンブリオのみで討伐した例もあるが流石にこれは例外である。
一応その上には伝説級や神話級等あるが今は関係ないので割愛させて貰う。
「このあたりがあのモンスターの縄張りで私達がその上を飛んだことが気に食わなかったとかでしょうか」
このエリーの推測は正解である。
この【巨大三本角甲虫】はまだ成体になったばかりであり縄張りを獲得してまだ日が浅く気が張り詰めている状態でその縄張りの上空を飛ぶ相応のリソースを持つウリエル達を敵として判断した為に襲ってきたのだ。
ギデオンの直ぐ近くならそこをホームにしているマスターも多くそれ程強いモンスターはいないのだが運悪くウリエル達が飛んだ方向が南寄りだった事もありレジェンダリアから流れてきたこのモンスターの縄張りの上を飛んでしまったようだ。
「もしそうなら心の狭いカブト虫だな」
ウリエルの言葉が聞こえたのかどうかは解らないが旋回して戻って来た【巨大三本角甲虫】がこちらに向かってくる。
先程と違い下から上がるのではなく斜め上から彗星のように落ちてくるのでスピードは先程より早い。
「エリー、行けそうか?」
「やってみます、《ヒート・ジャベリン》」
エリーの手から繰り出された魔法で出来た炎の槍はこちらに向かって来る【巨大三本角甲虫】に命中するがその黒い甲殻に弾かれて殆どダメージを与えられなかった。
「投げろ!」
「はい!」
魔法が当たっても一切怯む事なく向かってくる【巨大三本角甲虫】を自分を抱えたまま避けるのは不可能の判断しエリーに自身を投げさせてその後反対側に回避行動を取りその間を【巨大三本角甲虫】は通り過ぎていく。
投げられたウリエルはそのまま羽ばたき【巨大三本角甲虫】から距離を取りつつエリーと合流する。
「あんま、効いてなかったけどいけそう?」
先程の攻撃も一番強い物ではないとは言え黒い甲殻の一部がちょっと焦げたかな位でHPも2%減ったかな位のダメージしか与えていない。流石にこのまま同じ攻撃を五十回以上も繰り返すのは彼らには厳しいだろう。
「最大火力の《クリムゾン・スフィア》なら二発……いえ三発あれば確実に仕留められると思います」
《クリムゾン・スフィア》。
魔術師系統天属性炎特化の上級職【
相手によっては亜竜級のモンスターですら一撃倒す事が可能である高火力な魔法であり普通の魔術師系のプレイヤーならエンブリオの相性もあるが切り札として使える魔法である。
エリーはエンブリオである為ジョブに就いているわけではないがエンブリオでなくてもモンスターがジョブと同じ魔法を使うことは一般的に知られている事でありゲームの中なのだからシステム的に使えることは何ら可笑しいことではない。
「そうか、厳しな」
「ええ、そうですね」
発言を聞いたウリエルは渋い声を出しエリーもまたそれに追従する。
《クリムゾン・スフィア》を三回若しくは運が良ければ二回当てれば倒せると思われるが現状ではかなり難しいと言わざるを得ない。
エリーが最大火力を出す場合幾つかのスキルを使うのだがそれが問題なのだ。
例えば《神秘の後光》発動時にエリーに後光が差し凄く目立つが発動中は魔法の威力が上昇するスキル。
他にも幾つかあるのだが一番倍率の高い《不動の神聖》は発動した時点で動けなくなり第四形態で上級のガーディアンであるエリーだがその能力は主に火力と飛行に振り分けられている為に防御力は同じ形態のガーディアンと比較しても低く【巨大三本角甲虫】の攻撃を受ければ下手すれば一撃で致命傷を貰いかねない。
普段であればウリエル自身が前衛を務めて足止めしてその隙に魔法を使い攻撃して倒しているがレベル上げで倒すモンスターは基本的に亜竜級以下のモンスターであり現在初めての本格飛行という点を差し引いても地上に居て万全の状態でもウリエルのステータスでは【巨大三本角甲虫】を足止めすることは難しい言わざるを得ない。
「よし、逃げるか」
「そうですね。
では私が囮になりますのでその間にマスターがログアウトするかそのままギデオンまで逃げて下さい」
「は? 駄目に決まってんだろ、一緒に逃げウワッ!」
正攻法で倒すのが難しいと判断して直ぐに逃げるとなるまでのは良かったもののその逃げ方で意見が別れた。
エリーはエンブリオである自身が囮になり【巨大三本角甲虫】を足止めしている間にウリエルに逃げる様に言うがそれに対して彼は全力で断り一緒に逃げる様に言う途中で【巨大三本角甲虫】の三度目の突撃が迫りこれを回避する。
「何を言っているのですかマスター、合理的に考えて先ずエンブリオである私がマスターの為にその身を挺すのは当然でしょう」
エンブリオは破壊や倒されることにより一時的に消えることがあっても時間さえあれば復活する。
マスターもゲーム内で死亡してもそのデスペナルティは現実で一日、ゲーム内で三日ログイン出来ないというものでこれを重いと見るか軽い見るかは意見が分かれるだろうが少なくともエリーはマスターが倒れるよりも自身が囮になることの方が合理的であると判断した。
「お前俺から生まれたのに何も分かってないな。
エリーを置いて逃げる位なら戦って死んだ方がマシだよ」
しかし、ウリエルはこれを正面から否定する。
聞きようによっては愛の告白の様にも取れるがそんな意図はない。
これは彼の内面によるものだが彼はモチーフとして天使が好きで自身のアバターも翼を生やして天使の様にしている。
これは幼少の頃に嵌った特撮番組が天使と悪魔を題材にしたものでありヒーロー側の天使応援している内に自然と天使やそのモチーフが好きになっていた。
ここで彼のエンブリオである【火炎天使 ウリエル】を見てみる。
彼が好きな天使を思わせる容姿に飛行能力と聖属性と炎属性の魔法を操り同一形態のガーディアンと比較しても高い攻撃力を誇る反面、耐久面は下級エンブリオと比較する程度しかない。
少し違うが彼と同じ様に特撮ヒーローからインスパイアされて生まれたエンブリオがいる。
アルター王国の決闘ランカーの一人であるマスクド・ライザーのエンブリオ、ヘルモーズである。
彼のエンブリオはバイクとヒーロースーツでありそのバイクと合体して更にパワーアップするという如何にも特撮ヒーローの様なエンブリオだ。
この二人のエンブリオを比較するとマスクド・ライザーは自身がヒーローになりたいという願望をストレートに表現しているがウリエルはどうだろう。
天使に憧れている彼のエンブリオが天使になること自体は普通であるが特撮ヒーローからインスパイアされたのであるならもっと前で戦えるようなステータスになってもいいのではないだろうか?
そうならなかったのは彼にとって天使とは憧れであると同時にもう一つ意味が在るものなのだ。
それは初恋。
彼が嵌った特撮に出てきたヒロインがウリエルにとっての初恋なのだ。
そのヒロインは美しく天使であり主人公にヒーローとして戦う力を授けて互い支え合い主人公がヒロインを守る姿に自分もいつかヒーローになって守りたいと思ったのだが最終話にて主人公とヒロインがくっついたことにショックを受けて一週間寝込んだ。
彼にとって天使とはヒーローの象徴であると同時に守るべきヒロインであるのだ。
だからこそエンブリオの能力は戦う為の攻撃手段を有すると同時にその肉体面は守って上げる必要があるほどの脆弱さを兼ね備えている。
彼自身そこまでは気づいてはいないがだからこそ彼のエンブリオは男であると同時に女であもある。
仮に彼が自身の内面を見つめ直した時にはエンブリオの性別もはっきりするかもしれない。
尚エンブリオであるエリー自身は確りとそのマスターの内面を把握しているが特に指摘する気はない。
マスターから生まれたエンブリオである自身が求められた訳でもなくその内面を指摘すことは傲慢であると考えているからだ。
長くなってしまったがウリエルにとって天使とは共に肩を並べて戦うヒーローであると同時に守るべきヒロインであもあるのだ。
例え蘇ると言えども敵が強いから自身のエンブリオを置いて逃げること彼には出来ない。
これが現実であればまた違ったかもしれないが少なくともこの<Infinite Dendrogram>の中でそれをしたならば彼の酷く後悔するだろう。
「はぁ、わかりました。
ですがマスター、あれをどうにか出来るのですか?」
十秒程見つめあったであろうか説得は無理だと判断したエリーはため息をついて何か作戦があるか聞いた。
実際真っ当に正面から戦っても勝てる確率は低いと言わざるえない。
普段通りに地面に降りてウリエルが前衛をしようにも彼の現状のステータスでは【巨大三本角甲虫】の突進を止めるには些か物足りず下手すればエリー共々串刺しになってしまうだろう。
最大火力での攻撃ならそれなりにダメージを与えることは出来るだろうがそこまでの攻撃であれば回避されるであろうしウリエルが足止め出来ないとあれば自由に飛べる相手にはその命中率は決して高くないだろう。
「ああ、作戦はあるよ。
だからあいつの注意を引き付けてくれないか」
そうして簡潔に説明していく。
その間にも突進して来るが物理的に飛んでいる【巨大三本角甲虫】は一度通り過ぎると体勢をを立て直して戻って来るまでに十秒以上時間がかかる為に回避だけに専念すればAGIもそれ程高くないこともあり避けるのそう難しくなかった。
「我がマスターながら馬鹿なことを考えますね」
聞いた作戦に呆れつつも微笑みを浮かべる。
「ですがマスターの望みを叶えることがエンブリオである私の望み。
その願い果たさせて頂きます」
「オッケー、じゃあ任せた」
エリーの返事を聞いたウリエルはそのまま羽ばたき少しずつであるが高度を上げていく。
その様子に【巨大三本角甲虫】はどちらを狙うか逡巡する。
「貴方の相手は私です。《多重詠唱》《ヒート・ジャベリン》」
その逡巡を察した訳ではないが【巨大三本角甲虫】の意識を自らのマスターに向けさせない為に攻撃する。
先程と同じ《ヒート・ジャベリン》であるがその前に《多重詠唱》使ったそれは先程と違い一本ではなく三本の炎の槍が【巨大三本角甲虫】に突き刺さる。
エリーは看破を持っていないから解らないが三本とも当たっても与えたダメージは一本だけ放った先程よりも少ない。
理由は二つ。
一つは《ヒート・ジャベリン》の前に使った《多重詠唱》の補助スキル。
これは魔術師系のジョブが覚えるのだが魔法スキルを発動する前に使うことでその後に使うスキルを複数発動するというものという所だけ聞けば強い効果に聞こえるが言うほど余り使い勝手の良いものではない。
スキルのレベルが十であればそうでもないがレベル1の時で二つになるが威力は通常時の50%で魔力の消費量は一本当たり二倍になる非常に微妙なスキルだ。
その為に今の《ヒート・ジャベリン》は先程の物よりも一本当たりの威力は下がっている。
二つ目は【巨大三本角甲虫】の甲殻には幾つものダメージを減衰するスキルの効果が発動しており中途半端な複数の攻撃よりも強力な一の方がダメージが通るということだ。
とは言えダメージが少ない事は然程エリーにとっては問題ない。
今回ダメージを与えて倒すのマスターであるウリエルであり自身がするべき事はマスターの準備が整うまで【巨大三本角甲虫】の気を引くことであるため多少ダメージが少なかろう三本同時に打ち派手に見せてその意識を自分向けさせたのだ。
思惑通りに【巨大三本角甲虫】はウリエルではなくエリーの方を向き突撃してくる。
それを回避した後にマスターの下に向かわせない為に更に魔法を撃ち込んでいくのであった。
□
自身のエンブリオが【巨大三本角甲虫】を相手にしている間にウリエルは高度を上げる為に頑張っていた。
真っ直ぐ上を目指して垂直に飛べれば良かったが初めての本格飛行なこともありやり方が分からず仕方なく円を描きながらゆっくりと上昇していく。
「この位の高さでいいか」
かなり上昇し高度400メテル程の高さになった所で上昇を止めて高度を維持していく。
《瞬間装備》のスキルを発動しアイテムボックスの中から武器を取り出す。
取り出した武器はハルバード。
無骨な見た目のその武器は二メテル程の長さの棒に槍と斧が付き斧の反対側には突起が付いている。
この武器は【壊屋】になった時に買った物で【剛槍士】のスキルが使え尚且つ【壊屋】のスキルが使用可能なので購入している。
ここまで来たら気づいているかもしれないがウリエルの作戦を説明しよう。
そう、彼の作戦はタイミングを見計らい高い所から急降下して突撃からの攻撃でそのまま地面に叩きつけて倒すというものだ。
高高度からの急降下による重力加速度を利用した一撃にまだスキルのレベルは低いがそれでは単純に火力の高い【壊屋】のアクティブスキル、そして最後にそのまま地面に叩きつけるというウリエルの中では完璧な作戦なのだ。
幸い【魔術師】をカンストさせた後は今回の飛行次第では【破壊者】の取得を目指すことを考えていたこともありジョブは【壊屋】に変更していた為にスキル問題なく使用出来る。
まぁ、成功すればの話であるが。
現在の高さから急降下して時間にしてどれ程かかるのか?
避けられて攻撃が当たらなかったら?
攻撃が当たっても通用しなかったら?
等ガバガバな作戦ではあるがそれでもウリエルが思うには最良の作戦だと信じている。
ゆっくりと旋回しながらタイミングを見計らう。
その間にも【巨大三本角甲虫】とエリーの攻防は続く。
愚直なまでに真っ直ぐ突進を繰り返しそれを物理法則によらないスキルの力で縦横無尽動いて回避して合間で炎を飛ばしていくが微量なダメージにしかならない。
そうしてウリエルは観察して攻撃のタイミングを決めていく。
狙うはエリーが避けて通り過ぎた直後。
もう一度突進をする為に旋回する為に少しだけ減速するタイミグ合わせて攻撃する事を決める。
「ここ!」
スキル発動までのチャージ時間が長い【壊屋】のチャージも終わり何時でも発動出来る様になりそして急降下する。
【巨大三本角甲虫】との距離はおおよそ350メテル程、現実で最も速いとされる隼の降下速度は時速350㎧を超えて時速400㎧に迫り現在の距離ならば4秒かからない。
勿論ウリエルは隼ではなくベースは人間であるし先程の数値も最高速度であり初速零の状態からの加速だから更に時間は掛かるだろう。
それでも重力の力を借りて降下するウリエルは今日で一番速かった。
グングンと加速する中で顔に当たる風に目を細めてゴーグルとかマスクがいるなぁと考えながら【巨大三本角甲虫】と位置に合わせて微調整していく。
「《削岩穿》!!」
ぶつかるかる直前にスキルを発動しそのままハルバードを振る。
飛行する為に羽を広げて甲殻に覆われていない背中を狙ったつもりだったがAGIが高くないこともありハルバードの斧は少しずれて頭部に当たりその斧は【巨大三本角甲虫】に食い込んで突き刺さる。
「ぐうぅぅう!」
腕に返ってくる反動に顔を
「らぁぁあああ!」
ぶつかり一瞬の静止のあと踏ん張りの効かない空中で急降下してきたウリエルと旋回する為に減速していた【巨大三本角甲虫】のどちらの勢いが上かなど比べるまでもなく一人と一体はそのまま地面に向けて落ちていく。
そして減速すことなく地面に激突する。
激突の勢いで巻き上がる粉塵が徐々に収まるとそこには既に【巨大三本角甲虫】の姿はなく地面に横たわるウリエルの姿があった。
「マスター、大丈夫ですか?」
【巨大三本角甲虫】が消えたことが確認できエリーが戦闘態勢を解除してウリエルの傍に降り立つ。
「何とかな、ちょっと腕が痛いけど大丈夫っぽい」
「それなら良かったです」
「落ちた時は思った程衝撃がなかったけど……うわー!【救命のブローチ】が壊れてるしハルバードも駄目になってる、くそー【壊屋】用の予備とはいえ結構高かったんだけどなぁ」
死にかけた、いや【救命のブローチ】がその効果を発動している以上致死ダメージ即ちHPが0になるほどのダメージを受けている。
【救命のブローチ】は致死ダメージを受けた時にそのダメージを無効化する代わりそのダメージ量に応じて複数回10%の確立で破壊判定が行われるアクセサリーでその効果の高さから多く上級者のマスターが装備しているが入手手段が限られており流通も少ないこともあり値段は市場価格にて500万リル相当とかなりの高額だ。
被害を考えてすっかり落ち込んでいるとエリーが一度離れてから何かを持って戻ってきた。
「ご自分で判断したのだから自業自得ですよ、マスター。
それとこれをどうぞ」
そう言って差し出してきたのは一つの箱だった。
これは【巨大三本角甲虫の宝櫃】というアイテムで一般にボスモンスターと呼ばれるモンスターからドロップするアイテムであり箱を開けると中から討伐したモンスターに由来するアイテムが一つとモンスターのレベルに応じて換金アイテム等が最大で五つ程手に入る物で先程の【救命のブローチ】も低確率で手に入る。
「おお! よくやったエリー、これを売れば全額と行かなくても補填出来るぞ。
では早速宝櫃オープン!」
【【巨大三本角甲虫の全身鎧・ネイティブ】を獲得しました】
【【エメンテリウム】を獲得しました】
【【墓標迷宮探索許可証】を獲得しました】
「換金アイテムの【エメンテリウム】に【墓標迷宮探索許可証】どちらも悪くありませんね、マスター」
箱から出てきた内【エメンテリウム】は2万リルで売れる換金アイテムであり【墓標迷宮探索許可証】はその名前の通りウリエルのいるアルター王国の首都アルテアにある神造ダンジョン〈墓標迷宮〉に入る為の許可証でありせいきの手段であれば10万リルする代物であるためウリエルも持っていない為自身が使ってもよいし少し安くすれば買い手も直ぐに見つかるだろう。
「許可証を売るかどうか一先ず置いといて後はこいつだな」
そこには箱から出た最後のアイテム【巨大三本角甲虫の全身鎧・ネイティブ】があった。
【巨大三本角甲虫】の甲殻を使ったであろう金属とは違う光沢を見せる鎧は頭部にある三本の角が特徴である。
全身鎧・ネイティブとは天然物の全身鎧であり通常の防具職人が作る物と基本性能は同じであるがスキル構成に違いがあったりする。
「値段はわかりませんが亜竜級の全身鎧であれば数十万リルは下りませんね。
それに【巨大三本角甲虫】は聞いたことがないのでこの鎧に珍しいスキルが有ればもっと高くなるかもしれません」
「くっくっくっ、そうだな。
俺やエリーは装備出来ないからちょっと勿体無い気もするが【救命のブローチ】の損失を補填するために高く売れればいいな」
背中に翼があるためジョブに関係になく物理的に背中の開いたオーダーメイドでなければ装備出来ない為にウリエルは装備関係は結構苦労している。
「ま、とりあえず性能見てみるか」
【巨大三本角甲虫の全身鎧・ネイティブ】
・装備補正
END+20%
防御力+500
・装備スキル
《飛行》
※装備制限:合計レベル300以上
「んん?」
「どうか、いたしましたか?」
鎧のステータスを見て怪訝な声を上げるウリエルにエリーは声を掛けるが構わず気になる部分を見る。
《飛行》
MPとSP消費することで飛行可能になる。
「ふざけんな!」
「うひゃあ! ど、どうしたんですかマスター」
「どうしたもねぇよ。
俺は時間かけて飛べるように練習したのにこの鎧着るだけで空飛べるんだとよ!」
突然の大声に驚く自身のエンブリオを無視して更に続ける。
「今回上手く飛べたからここからステータスを調整してジョブを何にしようか俺だけの飛行ビルドだやっふーってワクワクしてたのに防具一つで簡単に飛べるとかマジで萎えるんだけど」
「は、はぁ」
突然切れたこともありエリーは生返事だ。
とは言えエリー自身は生まれた時からスキルにより飛行可能だったこともあまりウリエルに対して共感出来ていない為に上手いフォローも出来ていない。
「帰る」
そう一言とアイテムを自身のアイテムボックスに入れてウリエルはログアウトした。
尚数日後にログインして【巨大三本角甲虫の全身鎧・ネイティブ】を売却した際は100万リルもの値が付き大喜びして怒っていた事はすっかり忘れてしまっていた。