サプライズ聖女理論~突如聖女が現れて、全員殴り飛ばしたら崩壊する計画ならば、それは十分に良い計画とは言えない~   作:ATライカ

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突如聖女が現れ、邪龍神をブン殴る!!

 邪悪な魔力の発生源を確認するために謁見の間から飛び出した聖女とセシリアは、魔力が飛んでいった方向を見れる場所へ行くために、なぜか無人の城をひた走る。

 

「セシリア様!こっちです!」

 

 飛行船で突入した時に大雑把な構造を把握していた聖女がセシリアを先導していく。そして、一旦中庭に出ると、城壁の矢狭間から平原が一瞬見えた。

 炎をあげる飛行船がほど近くにあり、そこから更に遠くでは不気味な黒い光がどす黒く輝いているのが見え、それを見た聖女とセシリアは冷たい手で体中をまさぐられるような悪寒を感じた。

 

「本当に……」

 

 復活するの?とセシリアが呟きかけ、最悪の事態を考えたくないと彼女は首を振る。聖女も、嫌な気配がだんだんと大きくなるのを感じながらも、城壁に沿って走り、やがて物見塔の入り口へとたどり着くと、その扉を蹴破って侵入経路を確保する。

 そして、二人は古くヒビが多い螺旋階段を登っていく。その途中、螺旋階段の壁に空く矢狭間を通り過ぎる度、平原の様子が刻一刻と変化していくのが見えてしまう。

 最初は巨大な魔法陣が浮かび上がるだけだった。

 次はその上で闇の光が収束する様に集まり。

 やがてその輝きが無くなり夜空よりも暗い漆黒の球体が現れる。

 

「聖女様……」

 

 不安に思ったセシリアがそう呟くと、彼女の数段上の階段を登っていた聖女が矢狭間から外を見たとたん振り返る!そして、驚きに目を見開いたセシリアのことを胸に抱き、壁へと彼女のことを庇う様に押し付けた!

 

「耳をふさいで!」

 

 聖女のその言葉の通りに、セシリアは慌てて耳をふさぐ。その瞬間!

 

ォォォォォォオオオオオオオオ!!!!

 

 地獄の底から響くような吠え声!

 そのあまりの音圧に古い物見塔が軋み、揺れ、細かく振動する!

 長い、永遠に続くかと思われた雄たけびはやがて止み、聖女はセシリアのことを離して彼女の顔を覗き込む。

 

「大丈夫ですか?」

「はい。何とか……」

 

 セシリアは顔を真っ青にさせて、憔悴した表情だった。相変わらず、舐めまわされるような悪寒は続いていて、それに加えて先ほどの咆哮。セシリアはもういっぱいいっぱいだった。

 聖女はセシリアのことを少しでも安心させるために彼女と手を繋いで、ゆっくりと螺旋階段を登っていく。セシリアの手も冷たかったが、聖女の手も冷たく、事の深刻さはそれだけでも明らかだろう。

 そしてたどり着いた、頂上の小部屋。

 

「ああ……、そんな……」

 

 そこの窓からみえる平原には巨大な魔法陣が浮かび上がり、その中心からは蛇の頭のような物が這い出ていた。赤黒く、まるで溶岩のように薄く光るそれは、粘液が滴るかのように身を崩れさせている。

 顕現の際の影響からか、燃え上がっていた飛行船は鎮火し、代わりにその中心で別な黒い光が輝いていた。邪龍神の心臓が光っているのだ!

 聖女はすぐに察する。不完全な邪龍神をあそこまで到達させてはならないと。

 

「あれは……邪龍神の……」

 

 セシリアもそれに気が付いたのか、聖女に寄りかかって体を震わせる。

 不完全な復活をした半身ですら、その大きさは馬何百頭か?家何十戸か?船何隻か?あまりに巨大すぎて見当が付かない。完全に顕現すればさらに巨大になるのは明らか。セシリアはそれを想像してしまい、へなへなとその場に座り込んでしまう。

 

「……」

 

 座り込むセシリアに気付かないのか、聖女は無言で物見塔の窓に手をかけ、邪龍神が蠢くのを眺める。あれは己が滅ぼさなければならぬ、そう決心しながら。

 だが、一方のセシリアは邪龍神に恐れおののき、覚悟を決めつつあった聖女の裾をつかみ、彼女の足に縋りつくように額を押し付けながら悲鳴を上げた。

 

「あれは……あれはいくら貴女でも無理です!逃げましょう!」

「我がやらねばならぬなら、やるまで」

 

 聖女は邪龍神を見つめながら静かに返す。だが、セシリアが納得するわけはない。

 

「でも、あれは……あれは……!」

 

 涙声になりながらセシリアは、短くも大冒険をした相棒のことを強く抱きしめる。そして、震えながら、彼女がここに留まってくれることを願った。彼女はきっと行ってしまう、そう分かっていても、この手を離すことはできない。

 その時、彼女は頭に柔らかいものを感じた。

 

「大丈夫」

 

 上から降ってくるのは、優しい声。セシリアが力を抜き、彼女のことを見上げると、そこには微笑みを湛え、こちらに手を伸ばす聖女。セシリアはそんな、この状況でも自分のことを慰めようとしてくれる彼女のことを見て唇を震わせ、何かを言いかけるが、意味ある言葉は何も出てこない。

 すると、聖女はゆっくりと跪いて、いつかのようにセシリアと目線を合わせ、それから彼女のことを優しく胸に抱いた。聖女の体は柔らかく、暖かかった。震えてもいなかった。そんな聖女に抱かれたセシリアは、強張った体から力を抜いていく。

 

「大丈夫ですから」

 

 そして、聖女はゆっくりとセシリアの頭を撫で、それによって彼女はとうとう涙を零し始める。僅かな嗚咽の声に、聖女は驚いたように眉を上げ、やがて下げていく。

 

「心配しないでください。セシリア様がいるなら私はどんな存在とも戦えます」

 

 その言葉に、セシリアは聖女の並々ならぬ覚悟を感じ取った。

 

「行くのですね?」

 

 セシリアは頬に涙を伝わせながら、聖女の胸を軽く押す。

 そして、少し距離を離した二人は視線を合わせる。

 

「はい」

 

 聖女は目を伏せながら、セシリアの問いに答える。

 遠くから、この世の終わりのような声が聞こえる。床に座る二人は、窓の外へ目を向けた。暗雲が立ち込め、月のない夜空の星々すら覆い隠されゆくのが見えた。

 聖女はそんな空を見上げ続け、セシリアは彼女の横顔へ視線を移す。

『聖女様』

 と口を開きかけて。セシリアは彼女の事を何も知らないことに気が付いた。

 でも、今更、何を聞くというのか?

 セシリアは目を伏せ、

『なら、せめて――』

 と、潤む瞳を上げて聖女に語り掛ける。

 

「聖女様。お名前を教えてください」

 

 聖女はその言葉に驚いた顔で振り返る。そして、優しく笑った。

 白い衣を身に纏う女性は、セシリアのことを引き寄せて抱きしめ、そっと彼女だけに、他の誰にも聞こえないように、囁いた。

 

「ラナ」

 

 ラナ(Lana)。光を意味する、遠い東の雪国の名前。セシリアは彼女のその名前は、彼女そのものだと感じた。そして、セシリアはラナの耳元で、自らも誰にも聞かれないように静かに、囁く。

 

「ラナ」

「はい」

 

 ラナは頷く。

 

「ラナ……」

「……セシリア」

 

 涙がまた溢れてきて、セシリアはこれ以上ラナの名を呼べなくなってしまう。だが、もしかしたらこれが最後かもしれないのだ。目を何度も瞬かせて、悲しみに息を詰まらせながらも、セシリアは必死に嗚咽を抑えようとする。

 小さい嗚咽を聞いたラナは抱きしめるのをやめ、涙を溢れさせるセシリアのことを見て、ゆっくりと彼女に近づき、額を合わせた。

 

「セシリア。泣かないで」

 

 ラナは彼女の名を呼びながら、涙をぬぐう。

 セシリアはやっと、ラナの顔を見ることができた。

 決意のみに満ちた表情ではなかった。

 使命感に溢れていても、僅かに恐怖や寂しさの色があった。

 だが、聖女は止まらない。止まれない。聖女であるが故に。

 セシリアは涙を零しながらも微笑み、ラナも笑みを返して頷いた。

 

「生きて……。生きて、帰ってきて」

「はい」

 

 二人は、見つめ合う。

 今だけは、不気味に震える空気も、世界の危機も気にはならなかった。

 やがて、ラナは立ち上がり、決意を示すかのように錫杖を打ち鳴らした。

 

「行ってきます」

 

 そして、聖女は聖なる衣を翻し、窓から飛び降りる。

 一度、城壁の上に着地し、その次に地面に降り立った。

 

 

 

 光なき大地は慄いていた。顕現した邪龍神に、この世の全てが恐れていた。

 邪龍神の方から吹く瘴気の風に、全てが揺れる。

 そんな中で聖女は、左手の天秤を胸の前で捧げる。

 

「天秤を掲げよ。我は月神の化身」

 

 暗雲たちこめる空から一筋の月光が落ちてくる、白き聖女に。

 

「錫杖を振るえ。我は月神の化身」

 

 振るわれた錫杖が(りん)と鳴り、その先に光芒が現れ出る。

 

「天の神。地の神。太陽の神。そして、月の神!」

 

 大いなる神に聖女は宣言する。

 

「ご照覧あれ!!!」

 

 振るわれ続ける錫杖が、複雑な光の円弧を作る。

 

「我は!!」

 

 声を枯らさんばかりに叫ぶ聖女の前に、もはや瘴気の風はなし。

 

「我は!!」

 

 聖女は錫杖を地に突き、しゃらんと打ち鳴らす!

 

「月の神の化身ぞ!!」

 

 聖女は天秤を暗き天に掲げる!美しき光が満ち溢れ、聖女の事を包み込んだ!

 

「神判!」

――JUDGMEN†――

邪龍神の罪は古来より確定している!滅ぼせ!

 

 聖女は邪龍神へと歩き始め、やがてその速度を上げて疾走する!

 一方の邪龍神も聖なる光を見れば、己が敵を滅ぼそうと身じろぎをする。邪龍神から放たれるは、無数の触手。げに恐ろしきは、その触手が通るたびに草原の草が枯れ、地面がえぐれ、死していくこと!

 聖女は歯を食いしばり、前へと走る。大きすぎる邪龍神は遠近感を掴み難く、ゆっくり動くように錯覚する触手も、その実あまりに高速!

 

「っ!」

 

 その触手の第一陣、無数の雨の如きそれを、聖女は手の内で一回転させた錫杖で打ち払い、光を生み出す。だが、触手の勢い余りあり、聖女はたたらを踏んでしまう。

 そこへ殺到する、致死の連撃!

 

「ぬぅうおおお!!」

 

 聖女は錫杖を的確に振り回し、その死を振り払う!

 そして、また疾走!走れ!彼の敵の下へ急げ!

 聖女は聖なる光の尾を引いていく!

 

ォォォォオオオオオオオオオ!!!!

 

 邪龍神は脅威を認め、もはやただの圧となる鳴き声を発する!

 聖女はそれに押し戻されそうになるも、真っすぐ前へと踏み出し続ける!

 だが、僅かに速度を緩めてしまった聖女へ触手が殺到!

 第一陣を打ち払い、第二陣をすり抜け、第三陣を薙ぎ払ったその時!

 一本の触手が聖女の左耳を吹き飛ばした!

 

「っ!るぅっああああああああ!!」

 

 飛び散る鮮血!溶けたかのように泡立つ元耳があった部分!

 然れども聖女、ひるまない!痛みに涙を零そうと!

 そして、無数の触手を掻い潜ってまっすぐ走る聖女へ、邪龍神は鎌首をもたげる。

 災厄の化身である奴は大口を開く。口内は光も脱出できない真っ黒な深淵。

 そこに大いなる力の奔流が渦巻き始めた。

 だが、聖女は止まらぬ!

 聖女は止まってはならないのだ!

 後に待つ、セシリアのためにも!

 聖女は天秤を掲げた!光が強くなる!

 

「私は!愛と秩序司る神の化身!」

 

 ラナは触手が織り込まれ壁のようになった障害を一閃!

 そして、今一度、錫杖を打ち鳴らし、一歩踏み出す!

 

「好きな人が!!」

 

 思い出すは、かつて遠くから見たセシリアの美しき笑み。

 地面から突き出してくる触手は無視し、前へ走る!

 

「帰ってきてって!!」

 

 一目惚れだった。伝え聞く話を聞いて、さらに好きになった。

 背中から迫る触手を振り返りながら撃ち落とし、また前を向く!

 

「言ったんだ!!」

 

 遠くから時々一目見られればそれでよかった。

 一際太い触手が地面を薙ぎ払い、聖女はそれを錫杖で上に逸らす!

 

「だから!!」

 

 ここまで関わり合うことになんて、欠片も思わなかった。

 

大ホールで目を合わせた時、やっぱり綺麗な人だなと思った。

自分が出来ないことをやってのけた時、本当にすごいと思った。

飛行船に乗る時、気を使ってくれたのは嬉しかった。恥ずかしくもあったけど。

飛び移るなんて危険なことをするのに付き合ってくれて、心強かった。

自分の名前を呼んでもらえるなんて、夢にも思わなかった。

 

 だから……、だからこそ!

 

「負けてやれるかぁぁぁぁぁ!!!」

 

 聖女は邪龍神にも負けぬ気迫で叫ぶ!

 投げつけられた土塊を、聖女は弧を描くように回り込んで回避する!

 

「例え、報われずとも!この身朽ち果てようと!」

 

 走れ!走れ!邪龍神はもうすぐそこだ!

 

「愛は、貫く!聖女ゆえに!」

 

 ラナは飛び上がり、右手の錫杖を振り上げた!

 邪龍神も敵を打ち滅ぼさんと顔をあげ、破滅のブレスを放つ!

 夜よりも暗い光なき闇芒が、白き怨敵へと襲い掛かる!

 

 だが!しかし!

 

 そのブレスは美しき白銀色の障壁に阻まれ、逸らされ、散らされた!

 ブレスは立ち消え、白銀色の障壁も割れたガラスのように散らばり、聖女の周りを舞う!

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

 燐光が振り上げられた錫杖に集まり、その柔らかき光を強くする!

 

ブレス阻まれし邪龍神、最期の瞬間、を仰ぎ見た。憎いほど美しい満月を。

「聖誅!」

――PUNISHMEN†――

邪龍神の頭蓋を、光の奔流が飲み込んだ!

 

 

 

 

 

 

 

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