トリニティの中にある救護室のベッドの上で包帯を巻かれた上半身裸状態の先生を見ながら小鳥遊ホシノは深く後悔していた。
どうしてあの時もっと早く先生を助けられなかったのか。アビドスの面々はホシノに責任はないと言うが、それでもどうしても思ってしまう。
「ごめんね。先生」
「謝るのはまだ早いですよ、暁のホルス・・・。いえ、小鳥遊ホシノさん」
「!」
掻き消えそうなホシノの謝罪はその足音と声により本当にかき消されてしまった。その声を聞いたホシノが瞬時にその声の主に銃口を向ける。
彼女は聞いた事があった。その声を、自分のことを騙した者の名前を。
「黒服・・・・・!」
「銃を収めてください小鳥遊ホシノさん。今回私は貴女に提案をしに来たのです」
「それを信じると思う?」
「先生が死ぬ事で私に何の得が?貴女と同じ様に私は先生の神秘も探求したいと思っています。それに、彼には壊滅したゲマトリアを再興するためにも入っていただきたいですしね。クックック・・・」
そこまで聞いてホシノは銃を下ろす。信用したわけではない。黒服が裏切る様な素振りを見せればホシノは問答無用で黒服を撃つ。
「先に話せ。それから返事をする」
「クックック・・・疑い深いですね。・・・まぁ、いいでしょう。では先ず貴女に質問ですが、どうしてトイレにまで先生を追ったのでしょうか?」
それは黒服には甚だ疑問だった。とんだ変態か心と体の性別が違う人でもない限り異性のトイレについて行くなんて発想は思い浮かばない。
「それは・・・」
「答えられませんか?なら私の仮説を二つほど紹介しましょう。一つは貴女がただ単にそう言う趣味の人だった。もう一つは何らかの理由で先生が襲撃されるのを知っていた」
ホシノの肩がピクっと跳ねる。
「クックック。どうやら後者の様ですね」
「うるさい。だったら何?笑いに来たの?先生が襲われるって分かってて助けられなかった私を」
「?不思議なことを言いますね。怪我はどうであれ、貴女は先生の命を救っているでしょう」
ホシノはゆっくりと先生の顔を眺める。女の自分でも可愛いと思ってしまう童顔で身長もキヴォトスにいる生徒にも負ける事がある先生はそれでもやはり先生として生徒には大人として向き合う格好良さがある。
「二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。 一人は泥を見た。一人は星を見た」
ふと、たまに先生が生徒に聞く質問を口遊む。
「フレデリック・ラングブリッジの不滅の詩ですか。同じ状況であっても物事のどの部分に目を向けるかによって、全く別のものが見えるという意味ですね」
「おじさんはどっちかな・・・・・」
先生に問いかける。
当然答えてくれるはずもない。
「おじさんは・・・・・」
思い出す。後ろに立つ黒服に騙されて実験台にされかけたのをアビドスや便利屋68、ゲヘナの風紀委員、トリニティのヒフミと一緒に助けに来てくれたことを。
思い出す。大人を信じられなかった自分を再び信じさせてくれた恩人を。
「星の光を見ていたいかな」
すっ、と緩んだ顔を元に戻して黒服を見る。
「クックック、結論は出たみたいですね。では今から私が挙げる方達をシャーレに招集して来てください」
不敵なな笑みを浮かべながら黒服は部屋を出る。
ホシノに生まれた一つの黒い感情にも気付かずに。