ハリー・ポッター -Harry Must Die- 作:リョース
ハリーは唖然としていた。
新学期に入ってから、まだ二週間とたっていない。
だというのに、ハリーはグリフィンドール寮から二〇点も引かれてしまった。
原因はもちろんスネイプだ。いつにもまして機嫌の悪い彼は、ハリーの顔を見るたびに点数を引いていったのだ。「その髪の色が不愉快だ! グリフィンドールから五点減点!」などと理由も適当であり、相当機嫌が悪いことがわかる。
それもハリーと顔を合わせるまでは普通だったということなので、原因は確実にハリー自身だ。ハリーは今年も課外授業があるとしたら、いったいどんなことをされるのかと不安で仕方なかった。
唖然とする前に落胆したのは、スネイプの前に行われたロックハートの授業だった。
ダメ教師。その一言が彼にはぴったりだ。
教科書は彼の執筆した小説。
その物語を演劇調に再現するのが、彼のお気に入りの授業だった。
これはいったい将来なんの役に立つのだろう。たかだか十二歳前後の少年少女がそう思ってしまうほど酷いものだった。クィレルは単純につまらなかったが、これはつまらないとかそういうレベルでは収まらない。酷い。
そしてロックハートお気に入りの女優は、もちろんハリー・ポッターだ。
「ん夢の競演ッ! んあはァーン! 素ン晴らしい! ハンッ、スァム! そこで君には『トロールとのトロい旅』で出てきたヒロイン役のジェシカの役をやっていただきたく」
「先生、授業してください」
「そう! ここで私はこう言います! 『素敵なお嬢さん、私は旅の魔法使い。あなたと一緒になることはできない……』するとハリー! ああ、君じゃなくて私が助けたお嬢さんフランソワーズの台詞ね。彼女はこう言ったので、君もそういうのです! 『ああっ! ロックハートさん素敵! 一晩限りの愛でもいいの! 抱いて!』とッッッ!」
「あーはいはいセクハラですよー」
「そして狼人間というものは多大なる誤解を受けた一族なのです彼らは吸血鬼に対抗する闇の一派の片割れであり私がならず者退治をした実はその彼は吸血鬼一族の姫ヴァンプちゃんの恋人で彼女は『ロックハートさんあなたの殺した狼人間は私の恋人ギルデロイなのです私は貴方が憎くてこの身が塵と化してしまいそう私のギルデロイを返して』と言いました私はもちろんこう言いましたよ『それは私だ』とねそうするとヴァンプちゃんは『あなただったのですか』というのでハリーきみはそこで『まったく気づかなかった』と言うメイド吸血鬼のパイアーちゃんの役をやっていただきたいのですすると私が『暇を持て余したロックハートの遊び』というので君はすかさず」
「長ァァァ――いッ! 長いよ鬱陶しいよお! そしてもはやヒロインですらないのかよ! もう配役というか大筋がわけわかんないよ! 助けてロン! 助けてハーマイオニーッ!」
そういうわけで彼女は大変疲れた状態で魔法薬学を受ける羽目になったのです。とパーバティがハリーを庇ったところ、スネイプは苦虫を茶碗一杯噛み潰したような顔をして、ハリーいじめをやめてくれた。
その反応から教師陣もロックハート症候群にかかってしまっているらしい。迷惑な話だ。
ハリーはというと、スネイプのねちねちした攻撃からは逃れられたが、ロックハートとのやり取りを逐一説明されたことで余計なダメージを負っていた。
「どんまいだわよハリー」
「落ち着きなってハリー」
「そうだぜ、カッカしたって健康によくないぜ」
「全くだぜ、落ち着かないと大きくなれないぜ」
「双子は余計なお世話だよ」
一日を終えてもなお怒りが収まらないハリーを、ハーマイオニーとロンが慰め、ウィーズリーズがからかう。
余計なことをするなと怒られるが、不機嫌なハリーはそのままソファに横になってしまった。
皆があーあと零して去ってゆく中、ハリーは一人考える。
『あの声』はなんだったのか。
大変聞き覚えのある、独特な感覚だった。
だからハリーも、どこかで聞いたことがあるはずなのだ。
英語だった。それは間違いない。ただ、ハグリッドのように訛っていたのだろうか。それとも、日本人の喋る英語みたいに妙に形式ばった説明臭い英語のようだっただろうか。一瞬しか聞けなかったために、詳細が思い出せない。分からない。
だが、聞き過ごすことができない。
『殺す』などと。
冗談で言える言葉ではない。
何せヴォルデモート一派が好き放題猛威を振るった《暗黒時代》から、まだ十年と少ししか経っていないのだ。あまりにも深い爪痕が残る中、それを気軽に口にできる人間などそうはいないだろう。
しかしハリーは、事実その言葉を聞いた。
殺意に満ちた声で。獲物を前にした捕食者のような声色で。
このままでは、間違いなく、誰かが殺されてしまう。
「ハリー」
「……、なんだい? ジニー」
思考の海を遠泳していたハリーを引き戻したのは、ウィーズリー家の末っ子。
七人兄弟で唯一の女性である、ジニー・ウィーズリーだった。
ロン曰く、ハリーに憧れて強い女になりたがっているらしいが……。勘弁してほしい。
「ハリー、迷ってるのね」
「え?」
「迷ってるように見える。私にはね」
内心を当てられてドキッとしたものの、別にバレて困るようなものでもない。
ハリーは笑って返した。
「そうだなあ。まあ、いろいろ悩みはあるよ。たとえば、今日の晩ご飯はなにかなとか。食べ終わった後ベッドの上でハーマイオニーたちと何の話をしよう、とか」
「うーん、そういうのじゃなかった気もするけど……まあいいわ。困ったときは相談するのが一番よ。気が楽になるし、問題が解決するかもしれないもの」
誰かに相談する。
去年までのハリーならば、まず間違っても選ばなかった手段だ。
誰も信じるに値しなかったのだから当然だが、しかし今は違うとはっきり言うことができる。
ハーマイオニーに、ロン。なんなら先生方の誰かだって構わない。
とにかく言ってみるだけタダなのだ。
言う価値はあるだろう。
「ありがとうジニー」
ハリーがそう礼を言うと、ジニーは真っ赤な髪の毛と同じ顔色に変化した。
湯気が出るのではというほど頬を染めたジニーは、どもりながらも言葉を残す。
「そう、それが一番よ。なんたって、私もそうやって解決したんだもの」
*
ハグリッドの小屋では、お茶会が開かれていた。
彼自らが育てて積んだグリーンティという種類のお茶だ。
名前の通り濃い緑色をしており、そしてお茶のくせにまた随分と苦い。
東方の友人からもらったんだと嬉しそうに言うハグリッドが微笑ましく、ハーマイオニーとロンはおいしく飲んでいるふりをするのに必死だった。
そんな中、ハリーはお代わりを一口飲んだあとに話を切り出すことにした。
例の、怪しすぎる声の事だ。
「なに? そーんな物騒なこと言っちょる奴がおるんか」
「ハリーまだ言ってるのかい、それ」
「ロンちょっとこっち来なさいな」
「え、あ、ちょ」
ロンをハーマイオニーが黙らせたうえで、ハリーは話を続ける。
「場所は廊下で、後ろは壁だった。なのに声が聞こえたんだ、ぼくら以外に人はいなかったのに」
「ゴーストじゃねえのか?」
「僕もそう言ったんだけど、ハリーは違うって確信してるみたいなんだ」
そう、違う。
ゴーストは、いわゆる木霊だ。
魔法式のように、生前の彼らの行動が封じ込められた現象に過ぎないのだ。
はっきり言ってしまうと、自ら考えて動いているわけではない。そう見えるにすぎないのだ。持っている情報を並べて組み合わせて会話などはできるが、その情報をバラして新たな情報を作り出して話す、といったことはできない。
死者は、所詮死者であることに変わりはない。彼らはそこを嘆くからゴーストなのだ。
つまるところ、彼らは物理的に現実へ干渉する手段がない。
それは声に関しても同じだ。
魔法界の人間にいくら言ってもわからないかもしれないが、声というのは声帯を振動させて空気を震わせ、その振動を鼓膜に伝えてはじめて声となって相手に届く。
だが先述の通り、ゴーストにはその手段は使えない。彼らの会話は、どちらかと言えばテレパシーに近いものがある。脳に直接認識させるという、直接的なようで随分と遠回りな手段をとっているのだ。
だからこそ、あるはずがない。
耳元で囁かれたかのような、あの声色。あの感覚。
ぞわりと総毛立ってしまうようなあの不気味な囁き声。
あんな冗談にもならない声を、ゴーストが再現できる道理がないのだ。
「うーむ、よう分からんこっちゃな。ホグワーツじゃ不思議なことは当たり前っちゅーが、ハリーの言うそれはもっと分からんこっちゃ」
「そうよハリー。魔法界でも声はすれども姿は見えず、なんてことは異常なことなのよ。『例のあの人』たちのせいで、縁起でもないことだってこともあるし、親しい人以外には言わない方がいいかも」
優しいハグリッドと信頼するハーマイオニーはそう言ってくれたが、ハリーはそれでも気になってしまう。どうしても頭の端っこに引っ掛かって、気になってしまう。
何故こんなにも気になるのだろうか。
空耳だったかもしれないというのにどうして、こんな。
釈然としないものを感じながら、ハリーは紅茶を飲んだ。
ハグリッドとのお茶会が終わった後日、今度はマクゴナガル先生とのお茶だ。
今度はお呼ばれではなく、ハリー自身が話があるのだと彼女に声をかけたのである。
「それで、話とはなんですかポッター」
「ええ。ちょっと突拍子もないことなんですけど、いいですか」
「ホグワーツ教師として、生徒の疑問に答えない道理はありません」
相変わらずな人だ。
その頼もしさにハリーは笑った。
他者を信頼することは、きっと弱さではないのだろう。
「なんかぼくにだけ変な声が聞こえるんです」
「ポッター。ポピーの治療は完璧です、医務室へ急ぎましょう」
「そうじゃないでーす。待ってくださーい」
ひとまず冗談はそのあたりにして、二人は紅茶と茶菓子のスコーンを置いた。
ジャムをつけすぎるきらいのあるハリーを注意してから、マクゴナガルは続きを促した。
結果、よくわからないということが分かった。
「誰も聞こえない声が、自分にだけは聞こえる……ですか。それは、なんとも奇異なる話ですね」
「そうなんですよ。魔法界でも縁起の悪いことだ、ということなので、ハーマイオニーには親しい人以外にはあまり相談しないほうがいいとも言われたんですが」
「そうですか……」
そっけなく言うものの、マクゴナガルの耳はほんの少し桃色に染まっていた。
なんだこの人、可愛いな。
余計な思考へそれそうになったものの、ハリーは懸命に意識をもとの線路に戻した。
脱線事故を起こすといつだってろくなことにはならない。
「まずそれは、いくつかの可能性をあげる事ができます」
「はい……」
「ひとつは、皆の言う通り幻聴。疲れから来るこれは案外ばかにできませんよ」
「で、ですけど先生!」
「最後まで聞かないならばここでお話をやめますが、如何でしょうミス・ポッター」
ハリーは黙った。
それはずるいんじゃないかな、と視線で訴えるも綺麗に無視される。
よろしい、とマクゴナガルは続けた。
「ひとつは、何者かが念話で語りかけてきたというもの」
「念話……?」
「要するにテレパシーのようなものです。悪戯目的で誰かがやったという説」
しかしそれにしては言葉選びが悪質すぎる。
マグル世界出身の者ならば躊躇いなく使える言葉かもしれないが、それでも十分に常識の範疇を飛び越えたレベルの暴言だ。他人に聞かれてしまえばまず問題になるだろう。
考慮したくないというのもあるが、まずこの案は置いておいても構わないだろう。
事実、本当にこれが原因だとしても、精神的にはともかく害はないのだから。
他にはあるのだろうかと問うと、最後の答えが返ってきた。
「ひとつ、本当にあなたにだけ聞こえる声だった」
「それは……」
「ええ。それはとんでもない事です。不吉な、不吉な前兆です。特にあなたの場合、かなり苦労することでしょう、ポッター。なにかあればウィーズリーやグレンジャーでも、私でも他の教師でもいいのです」
マクゴナガルはいったん言葉を切ると、微笑んでこう言った。
「頼りなさい。あなたにはもうそれができるはずですよ、ハリー」
収穫はなかったが、無駄ではなかった。
とにかく何か不吉なことが起きている。これからではなく、もう既に。
それがわかっただけでも十分だ。
どうやら、気の休まらない一年になりそうだ。
「え? 退院していない?」
薬草学の授業が終わった後、ドラコと話をしようとしたがスコーピウスとクライルの二人しかおらず、疑問に思って問いかけた答えがそれだった。
不安でおろおろしたスコーピウスは棘がなく、ドラコは本当は重傷だったのではと心配していたので一応慰めておいた。
その際の怯えようといったら、なるほどドラコが達観するのも頷ける。まるで赤ん坊だ。
純血一家の家庭環境がどういうものなのかはわからないが、おそらくマルフォイの家で彼になにかあったのだろう。そうでなければ、こんなトラウマを刺激されたような反応はしないはず。
兎にも角にも、ドラコが退院していないということなので、ハリーはセドリックを誘って見舞いに行こうと考えていた。昨日の夕方、彼は後で行くと言っていたが、その際の様子も聞いておきたい。
「え? セドリックも医務室?」
「知らなかったのかい? いまホグワーツは風邪が大流行してるんだよ」
医務室前の廊下で出会ったアーニー・マクミランが、耳から煙を吹き出しながら返答してきた。周囲にはまるでホグワーツ特急のような姿をした生徒が、ちらほらと見える。
これは《元気爆発薬》という魔法薬の副作用であり、耳から排熱することでものすごい煙が噴き出しているというあまりにあんまりな姿になる。だがこんなマヌケを晒す甲斐はあるもので、マグルでいう予防接種のようなものだった。
暴れ柳が風邪をひいているという話だったが、結局生徒たちは移されてしまったのか。ドラコも怪我は治ったそうだが、ひっきりなしに医務室にやってくる生徒たちの誰かから移されたこの風邪で寝込んでいるらしく、面会はさせてもらえなかった。
マダム・ポンフリーにとっ捕まってそれどころではなかったということもある。
耳から煙を噴射しながらハリーは次の授業に向かう。
会う者会う者みんながこんなマヌケを晒しているのだから、いっそ気にすることはない。
教室の天井が煙で真っ白になったことで、ハーマイオニーはおかしそうにくすくす笑っていた。しかしハリーが笑えなかったのは何たることか、妖精の呪文の授業なのに、教壇にはロックハートがいたことだ。
何故、この男が?
「ンぅみなさんッ! 本日行われるハンサムの呪文は、ぁ私ギルデロイ・ロックハートが執り行います。フリットウィック先生はお風邪を召してらしてね! んん~、それでこのッ! 私ぐぁっ! 大・抜・擢、されたというわけですねこれが! さて授業をしまっしょい!」
「うわーんウザいよー」
案の定ロックハート劇場が始まると思われたものだが、案外まともであったのが苛々する。
フリットウィックから指導用の教科書を借り、その通りにやっているので当たり前と言えば当たり前なのだが、それができないからロックハートなのだと言われていたことを鑑みるにとんでもない驚きである。
本日行ったのは、前回理論を習った清浄呪文の練習だ。
ハリーとハーマイオニーは完璧にこれを扱えるため、授業中は皆の見本となった。
随分と気前のいいロックハートは大喜びで、ハリーとハーマイオニーそれぞれに一〇〇点を与えようとして、廊下を通りすがったスプラウト先生に慌てて止められていた。
やはりロックハートはロックハートか。
結局二人で十点をもらったがそれでも得点に違いはなく、大喜びで談話室へと駆け込む。
談話室内は、煙でいっぱいだった。
風邪が流行っている。
「にゃにごとなの?」
「朝だ! クィディッチの時間だぞーッ! ウオーッ」
クィディッチの季節がやってきた。
ハリー達は今年こそ優勝するぞと息巻くウッドに連れられて、クィディッチピッチへと急いでいた。どうやらウッドの熱意に負けたマダム・フーチが、クィディッチピッチの練習許可をウッドに与えたらしい。
うきうき気分のウッドについていった寝ぼけたままのハリーの元へ、応援にきたのか暇だったのか、ハーマイオニーとロンがやってくる。ハーマイオニーはハリーの髪に櫛を入れているし、ロンはハリーの手から滑り落ちそうだったクリーンスイープを代わりに持った。
こんな調子でハリーは練習になるのだろうかと心配だったが、それは杞憂となる。
「おや、ポッターじゃないか」
「スおーひウふ?」
「スコーピウスだよ寝てるのか君は!」
緑のローブをまとったスコーピウス・マルフォイが現れたからだ。
彼の後ろには、これまた同じ緑色のローブをまとったスリザリンチームの面々。
これに憤慨したのはウッドだ。
この競技場を予約したのは自分たちであって、君達の出る幕はない。さあ帰れ。
そういった意味を持つ英語を高速でまくしたて、少し困惑した顔のフリントが気を取り直して意地悪そうな顔をして笑った。
「我々は優秀なシーカーであるドラコを失ってね。臨時シーカーの特訓のため、スネイプ先生から直々に書状を貰っているんだよ。ホラ見てみるがいい」
「なにい? なんだこのミミズののたくったような小汚い字は! へんっ! 読めないね! ぎとぎと油の根暗教師を呼んでこいっ! この僕が直々に問い詰めてやる!」
「ウッド。煽った俺が言うのもなんだけど、お前本当ちょっと落ちつけ? な?」
顔を真っ赤にして唾を撒き散らすウッドに後退りながら、フリントは書状をちらつかせる。
今すぐ掴みかかって破り捨てたいという顔をしているウッドを尻目に、スコーピウスは念願叶ってハリーと同じ位置に辿り着けたため意気揚々と挑発を始める。
「ポッター。君はあっちでヌードモデルにでもなってきたらどうだい? 大興奮した君のファンが写真を欲しがっているようだよ」
「ぁあ?」
侮辱されたハリーが凄んでスコーピウスのおでこに自分のおでこがくっつきそうなくらいの近距離で睨みつけるが、彼は怯えながらも果敢に応援席の方へ指差した。
そこには何やら、フラッシュを焚いて写真を撮りまくるグリフィンドールの一年生が。
ハリーはげんなりした。
あれの名前はコリン・クリービー。今しがたスコーピウスに挑発された通り、ハリーの熱狂的なファンだ。そしてちょっとばかり遠慮を知らないため、悪質なファンでもある。
廊下でハリーにすれ違うたびに、持ち歩いているカメラでハリーの写真を所望してくるのだ。
女性としての恐怖を感じたのはあれが初めてだった。
「『ああ、ハリー! ハリー! あなたに会えるなんてまるで夢のよう! あ・写真とっていいですか? あなたの素敵な可憐さを弟にも教えてやりたいんです! そう。手始めに二〇枚くらい! ねっ!』……あれは傑作だったねえ、目立って気持ちよかったかいポッ」
「黙れマルフォイ。箒からと言わずその首を叩き落とすぞ」
「ひょぇぇっ!?」
コリンと出会った時、自分より若干背の高い年下少年に迫られて本気で恐怖したときの恥ずかしさを思い出したハリーが、殺気を伴ってスコーピウスを恫喝した。
ハーマイオニーとロンがその殺気に気付いて止めなければ、流血沙汰になっていたかもしれない。余談ではあるが、ネビル戦のときよりも殺気は濃かった。
「マルフォイ、あなたね。女の子にあまりそういうことは言わない方がいいわよ」
安易に挑発したスコーピウスにももちろん責任はあるが、軽々しく殺気を放ったハリーにも問題があった。追い詰められて涙目になったスコーピウスの言葉が過ぎるのも、仕方のない事かもしれない。
だからこそ、内心で見下しながらも勝つことのできない彼女、ハーマイオニーの忠言にカチンときてしまったのだろう。
スコーピウスは叫んだ。
「うるさいっ! おまえの意見なんて求めていないんだっ、この、『穢れた血』め!」
途端に怒号があがった。
ハリーとハーマイオニーはきょとんとしたままであるが、その他の皆は怒りに顔を染めていたり、慌ててマルフォイを庇ったりと反応が二極に分かれている。
とりあえず侮辱されたんだな、そうなんだな。とハリーは彼をどう料理してやろうかと思案していたが、それ以上に激怒している人物がいる事に気付く。
ロンだ。
怒気のあまり髪が膨らんでいるようにさえ見える。
あれほど怒らせるとは、いったい――
「よくも、よくもそんなことを言えるなマルフォイ! それでも魔法使いか!?」
「ハッ、何を言うんだいウィーズリー! 純血だからこそ、穢れた血なんかに――」
「一度ならず二度までも! 『リマークス・ウォメレ』、ナメクジ喰らえ!」
完全に激昂して周りが見えなくなったロンが、懐から杖を抜くと同時にスコーピウスに呪いを放った。その動作はハリーをして見事と言わざるを得ないほどなめらかで、そして怒りに満ちた一撃だった。
薄緑色の閃光を胃のあたりに受けたスコーピウスは、一瞬ウッと息が詰まって青ざめるも、何も起こらないことにせせら笑う。しかし馬鹿にするため声を出そうとした時、代わりにナメクジが口中から飛び出してきたことで皆が静まった。
困惑するスコーピウスが四つん這いになると、次々と口からはぬめぬめしたものが飛び出してくる。
それを見たスリザリンチームは、杖を抜かん勢いで怒りだした。彼らは他三寮から卑怯者だの姑息だの言われているが、その実仲間内では結束力が強く、仲間想いだ。生意気な可愛い後輩が呪われては黙っていられないのだろう。
あわや殴り合いとなるところで、現れたのはセブルス・スネイプだった。
呪われて蹲るスコーピウスを見て、何の呪文で呪われたかを看破したのだろう。
杖を持って息を荒げる人間を見つけて下手人もわかったらしい。
にやり、と笑った。
「それでは、ウィーズリー。ミスター・マルフォイを呪ったその理由をお聞きしようか」
「そいつ――言った――ハーマイオニー――胸糞悪い言葉――」
「なるほど。……ミスター・マルフォイ? 女性の容姿を悪く言うのはよくありませんな?」
「スネイプ、きさま!」
本人もこの騒動に一役買っているというのに、彼の唇から出たのはねっとりとした嫌味だった。
侮辱されたハーマイオニーの顔がさっと赤くなり、じわりと涙をにじませたのを見てハリーが殺意を膨らませた。思わずスネイプにも杖を向けようとしたロンを、怒り心頭ながらも冷静なハリーが止める。暴れはじめたロンの耳元に一言囁いて大人しくさせると、ハリーはスネイプを睨んだ。
少し驚いた様子のスネイプだったが、それでも笑みを濃くしたのは間違いないだろう。
「何かね? ポッター。何かご不満でも」
「いいえ、スネイプ先生。なにも。……なにも」
濃厚な殺気を飛ばして怒りを表現するハリーは、口調だけは丁寧だった。
その様子を見て満足げなスネイプは、にっこりと笑うとロンに向かって罰則を言い渡した。文句を言ってさらに罪を重ねようとするロンに、先ほど囁いた通りハリーは彼の股座を蹴りあげて黙らせる。
これ以上重い罰則を言い渡される口実を与えてはならない。
涙を流して苦悶の声と共に崩れ落ちるロンを引きつった顔で見たスネイプは、それ以上いじめることをやめたようだ。スコーピウスを介抱していたモンタギューに、彼を医務室に連れて行くように命じた後、一瞬だけハリーを見てどこかへと立ち去って行った。
男性諸君から畏怖の目で見られていることにも気づいていないハリーは、鋭い目でその背を追っていた。
「……あいつ。ハーマイオニーに何の恨みがあるんだ」
「おっどろきー。ハリーったらスネイプを追い払っちまった」
「おったまげー。我らが弟は平和的解決の犠牲になったのだ」
「ハリー、大変! ロンが、ロンが息をしてないの!」
一週間後のクリスマス。
あの日から歩き方がおかしくなり、ハリーを見るたびに短い悲鳴を上げていたロンも元に戻り、実にめでたい聖なる日を迎えることになった。
うかつなハーマイオニーは、ほとんど首なしニックに『絶命日パーティ』へ誘われてそれを承諾、貴重なクリスマスパーティの時間を無駄にしてしまった。あまり言及したくない外見の強烈な激臭を放つローストビーフ(だった何か)や、何やら蠢いているポトフ(らしき物体X)を食べる気にもなれず、時折体をすり抜けて気分も体温も下げていくゴーストたちに辟易する時間を送っていた。
血みどろ男爵からパーティがどういうものか聞いていたハリーは、彼女を一人だけで行かせるのは可哀想だと思ってついていったのだが早くも後悔していた。ハリーからしたらゴースト用の料理は食べられないこともないので、少しばかり頂こうとしたのだが真っ青になったハーマイオニーに止められたのだ。
大広間でのパーティも終わり際になって解放された二人は、急いでクリスマスの料理を胃に詰め込んだ。ようやく罰則を終えたロンは既に腹を膨らませており、殺意をみなぎらせた親友の少女二人の間で肩身狭そうに縮こまっている。裏切り者と蔑まれているような気さえするのだから、女性の怒りは恐ろしい。
チキンやシチューでお腹を満たした二人は幾分か機嫌が回復し、医務室からの廊下を歩いていた。
ハーマイオニーの提案で、一応先に手を出したのはこちらなのだからという建前でスコーピウスの見舞いに行ったのだ。ロンも同行し、頭を下げさせた。
本人は不満そうだったが、ハリーは彼女の狙いを見抜いている。しかもわざわざドラコが見舞いに行っている時間を見計らっての行動だからなおさらだ。
案の定、ドラコに行いがバレたスコーピウスは青褪めた顔をしている。ドラコは純血主義ではあるが、品のない行動を何よりも嫌うところがあるというのはハリーがよく知っていた。スコーピウスと同じくマグル出身者を見下している節はあるものの、表に出すことは決してしない。
ただでさえ世間ではそういった単語を出すことが憚られて品がないと言われているというのに、それを面と向かって公言し侮辱するとは何たることか。君はマルフォイ家の教えが根付いていないようだ。と、ハリーたちが医務室を出てすぐに聞こえてきた怒声がまさにその証左だ。
最大限の効果が出るときを見計らって仕返しする……ハーマイオニーも恐ろしい女である。
ドラコの怒鳴り声が聞こえなくなる頃、ロンは大笑いを始めた。
ハーマイオニーがスコーピウスをやり込めたことに余程スカッとしたらしく、行きと違って上機嫌で廊下を歩く姿は浮かれていたのだろう。
廊下で固まっていた上級生の背中に、どんとぶつかってしまった。
「わっ。ご、ごめんなさい」
「気をつけろ。……ん? おまえ、ハリー・ポッターか!」
スリザリンの上級生だろう、ぽっちゃりした顎の生徒がハリーの顔を見咎めた。
驚く間もなく太い腕に襟首を掴まれたハリーは、人だかりになった生徒たちをかき分けて進まされてその中心に放り出された。
尻餅をついて痛がるハリーを待ち受けていたのは、冷たい床。なんと、濡れている!
下着まで濡れてしまって気持ち悪い思いをしながら、ウエーと嫌がるハリーを持ち上げたのはなんと、スネイプだ。憤怒の表情でハリーを至近距離で見つめるその顔は、恋する乙女とは言い難いものだった。
「ポッター!」
スネイプが唸った。
「な、なんでしょう」
「これはどういうことかね。即座に答えたまえ!」
襟首を掴まれて持ち上げられたハリーが、ぐいと見せられたのは猫だった。
一匹の猫。
少々ぼさぼさの毛並みに、黄色い目を見開いて倒れ込んでいる。
四肢はぴんと伸ばされ、まるで立ったまま眠り込んでそのまま横倒しにされたかのようだ。
その姿にハリーは見覚えがあった。
いや、あったなんてものではない。ひょっとするとハーマイオニーたちの次に親しいかもしれない仲だったのだから。
「みっ、ミセス・ノリス!?」
予想外の反応に驚いたスネイプが手を放し、ばしゃっと床に墜落するハリー。
己の制服がずぶぬれになるのも構わず、ハリーは猫に縋りついた。
「そんな! まさか、嘘だろう! し、死んでしまったのか!? ああ、そんな! 神様!」
周囲の生徒たちが目を剥いて驚いている。
それもそうだろう、ミセス・ノリスと言えば学校中の嫌われ者だからだ。
管理人アーガス・フィルチの愛猫。生徒の不正を見つけてはいやらしく笑って罰則を下し、生徒が苦しむさまを見て悦に入るとんでもない男の、その猫だからだ。
ミセスは、生徒たちの不正をフィルチに伝える仕事をしている。だからこそ大部分の生徒に嫌われているのだが、ハリーはどうやら稀有な生徒の一人だったようだ。
あれは一年生の秋ごろ、嫌っている生徒に呪文をかけられて痛い目に逢い、不貞腐れていたところをハリーが見つけたのだ。
その頃のハリーはまだハーマイオニーにもロンにも完全には心を許しておらず、それでも信じてみたいという欲が出始めたころだったので精神的にも若干不安定であった。
そこに出会った女二人(片方は猫)。互いの愚痴を言い合うかのように、ミルクで乾杯したりハリーがササミを持ってきたりノリスがネズミを捕ってきたりとそこそこに親しい仲を築き上げていたのだ。
そんな友人の一人を亡くしてしまったと思ったハリーは、彼女の死を嘆いた。
自分の愛する猫の死をここまで悼んでくれる生徒がいた。その事実に、愛しいノリスに懐かれていたハリーが怪しいのではと何故か思い込んでいたフィルチはギャップに感動したのか、おいおいと醜い顔を歪ませて大泣きし始めたではないか。
もはや取り返しがつかない。ハリーが犯人だと決めてかかっていたスネイプですらおろおろする始末。
実にカオスである。
「うんうん。友人の死を悲しめる子は、将来素敵なレディになりますネ。ウン」
「……ロックハート先生、素敵」
雰囲気をぶち壊すような感想を漏らすロックハートには、大多数の者がげんなりした。こいつはこんな時ですらこの調子なのか、と。
ただ数人の女子生徒はいつも通り、うっとりした声をこぼす。
ハーマイオニーもその一人だ。
自分の親友である少女二人のそんな奇行、もとい行動を見たロンはぽつりと呟く。
「女の子って、なに考えてんだろ……」
数分後、ダンブルドアがやってくるまでその騒ぎは続いた。
泣きそうな顔をしたハリーを少しうんざりしたような顔のマクゴナガルが抱き留め、その場から引き剥がす。
私が直して差し上げましょうッ! なあに、この手の闇の魔術は私の冒険で何度もッ! 相手をしていますからねッ! とウィンクしながら叫ぶロックハートを放っておいて、ダンブルドアはミセス・ノリスの検死を始めた。
ばしゃばしゃとどこかの壊れた水道管から水が漏れ出る音とフィルチが洟をすする汚い音が響くのみで、あたりは一気に静かになる。
そしてふと、ダンブルドアはぽつりと呟いた。
「……生きておる」
その言葉に過剰に反応したのが、フィルチとハリーだ。
咳き込みながらも真偽を問う管理人に、ダンブルドアは優しい声ではっきりと言う。
「アーガス、この猫は死んではおらんよ。生きておる。石になっておるだけじゃ」
中年男性と十代前半女子が抱き合って歓喜の声をあげた。
その異様な光景に目をそらしながら、マクゴナガルは問いかける。
「しかしアルバス。いったいどうして、このような状態になってしまったのでしょう。石化呪文ですら、どのような魔法式を組んでもこのような状態にはならないはずです」
「そうじゃな。誰ぞ編み出した未知の呪文という線も考えられるが……それはないと見てよいじゃろう」
「ええ……」
二人は同時に、水にぬれた床へと目をやった。
横たわるは、四羽の鶏。無残にも首を掻き切られてその亡骸を晒している。
真っ赤な鮮血が彩る線が続く先は、ベージュ色の石壁。
そこには毒々しくも瑞々しい、丁寧な書体でびっしりと血文字が書かれていた。
それらの中にある一文に、ダンブルドアは年を取ってなお光る目をやる。
そして、キラキラしたブルーの瞳を哀しげに細めた。
「『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ』。恐ろしい、ことじゃ……」
クリスマスが終わって、新年を迎え、冬休みが終わった。
風邪の流行りは未だに消えないようで、時折廊下では煙を吹き出している生徒が散見された。
体調がよくないと機嫌も悪くなるもので、グリフィンドールとスリザリンはたびたび衝突して教師に怒られたり減点されたり罰則を受けたりして各々平和に過ごしている。
ミセス・ノリスを治すためのマンドラゴラも、賢者の石の試練で使った残りがあったので既に薬に煎じられて猫大復活である。このときハリーとフィルチはまた抱き合って喜びを分かち合った。
だがそんな鬱屈した雰囲気も今日まで。
そう、クィディッチの試合があるからだ。
ドラコはまだ風邪が治っていないようで多少調子が悪そうにしていたが、応援席に居る姿がちらりと見えた。
今回は、グリフィンドール対レイブンクロー。
紅と青の試合だ。
「正々堂々と戦って下さい! いいですね、正々堂々と!」
「フーチって最近ここでしか見ないなあ」
ロンの呟きをよそに、ハーマイオニーは胃を削られる思いだった。
前回の獅子対蛇の試合を思い出しているのだ。
何者かの意思を感じた、とハリーとドラコが口をそろえて証言したブラッジャー。
現在では調査が終わり、学外から持ち込まれた私物であるとの調査が出ている。しかし不用意に破片となってしまったため持ち主を特定できず、さらには妙な魔法がかかってしまったため虹色に光り輝いて誰が魔法をかけたのか判別できず、調査は難航してしまったとも聞かされた。
だいたいロックハートのせいだった。
そのブラッジャーの件があったのだ。
今回もなんだか、嫌な予感がする。
「ハリー、大丈夫かしら……」
「……なんか別の意味でも大丈夫じゃなさそうだわね」
ハーマイオニーの隣に座るラベンダーが一言漏らす。
なんだろうと思って視線を戻せば、レイブンクローのシーカー、チョウ・チャンが闘志に燃えた目でハリーの事を睨みつけて何かを喋っていた。表情からして何かを宣戦布告しているようにも見えるが、その割にはハリーが困惑しているのが不可解だ。
まさかセドリックに関してああだこうだと言われているとは、誰も夢にも思うまい。
マダム・フーチが、一年生に手伝って貰って厳重に封印された箱を持ってやってきた。
箱の中には二つのブラッジャーに、クアッフル、そして更に封印された扉の中にはスニッチが納められている。クアッフルはともかく、残り三つは封じねば勝手に逃げたり誰かを襲ったりしてしまうので必要な措置である。
がたんがたんと箱を揺らすほどに暴れているのがいい証拠だ。
杖先を向けたマダムが「試合開始!」と叫ぶと同時、箱が開け放たれた。
そうするとブラッジャーが箱から飛び出した。彼らは試合開始後三〇秒ほどは、ピッチのどこかへと飛んでいくようになっている。そうしなければ、箱から直接選手の元へ飛んでいく事態になりかねないからだ。
小さな観音扉を開けてスニッチを取りだすと、マダムはそれを空に解き放つ。
高速で飛び回りはじめたスニッチは、ハリーとチョウの顔周りを挑発するように飛び回る。試合前は毎度これをやってくるが、からかっているつもりなのだろうか。
少しだけイラッとした気分でその軌道を眺めていたのが幸いしたか。
ハリーは命拾いした。
「うわあっ!?」
鼻先を擦るほどの近距離を、ブラッジャーが通り過ぎて行った。
視界の隅で、チョウが慌てて箒を操って流れ弾を避けているのが映った。
先日の嫌な経験が脳裏を駆け抜け、ハリーは慌てて周囲を確認する。
しかし今度は一手、遅かった。
「ごぉ、ぼ――」
背骨。
人体において非情に重要な役割を持つその部位が、砕かれた。
間違いなく折れた。
燃え盛る激痛と闇に落ちゆく意識の中、ハリーは自分の腰に突撃したブラッジャーに視線を移し、そしてクリーンスイープから滑り落ちる。
ようやく惨状を理解したのか、水を打ったように静まり返った会場が悲鳴に包まれる。
追い打ちをかけるようにハリーが墜落して地面に叩きつけられるまでの数秒間も惜しいのか、最初に通り過ぎたブラッジャーがとんぼ返りしてきて彼女をまたも殴打した。
一つ殴打されるごとに確実に何かが折れていく壮絶な音に、観客席からまた悲鳴があがる。
そして貴賓席の一つから稲妻のように飛んできた魔力反応光がハリーを包み込むと、薄桃色の球体を作り上げた。
それに構わず突進したブラッジャーは、その光に絡め捕られて機能を停止する。何の呪文かとクィディッチ選手の幾人かが確認すると、仁王立ちしたダンブルドアが杖を向けている姿が見える。
ゆっくりと地面に下ろされたハリーの元に、大急ぎで様々な人がやってくた。
クアッフルを取り落として蒼白なマダム・フーチ、涙が決壊しそうなハーマイオニー、青褪めたロン、唇がくっつくのではというほど真一文字に結んだマクゴナガル。そして、満面の笑みを浮かべたロックハート。
「これは! ぁ私にお任せください! んなぁーに、ちょちょいのちょいで」
「邪魔だヘッポコ!」
ロンの蹴りを尻に受けて吹き飛んだロックハートを無視して、マクゴナガルが杖を振るう。
ふわふわの担架が造り上げられ、完全に意識を手放したハリーの身体がそれに乗せられると全く揺れを見せず、なおかつ素早く城の方へ飛んで行った。
泣きじゃくってハリーの安否を問うてくるハーマイオニーを振り払い、マダム・フーチは医務室のマダム・ポンフリーへ念話を飛ばす。
今から致命傷を負った患者が運ばれるので、最大限の対処をとの連絡だ。
大騒ぎの中、クィディッチの試合は中止される。
ピッチに残されたのは壮絶な空気と、芝生に残る赤だけだった。
【変更点】
・度重なるセクハラでハリーが過剰反応するように。
・杖が無事なので、呪いは成功。罰則だウィーズリー!
・スネイプが選択肢を間違えて好感度ダウン。
・ロンは犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな。
・ノリスも犠牲になったのだ。ただし愛がある。
・ブラッジャーが一つだと誰が言ったかね。
【オリジナルスペル】
「リマークス・ウォメレ、ナメクジ喰らえ」(初出・18話)
・ナメクジを吐く魔法。子供向けの簡単な攻撃呪文だが、口が塞がるため結構厄介。
元々魔法界にある呪文。原作では名前だけ出た呪い。
いい加減にしろよドビー。略してハンッ、サム!
このブラッジャー……いったい何ビーの仕業なんだ……。
不穏な空気が漂う中突如巻き込まれる事件、秘密の部屋らしくなって参りました。
「にゃにごとなの?」は原作台詞だ! 別にロリーの可愛さテコ入れじゃないぞ!
※賢者の石編が終わった後に、一巻時点での設定や変更点をまとめました。話数が変なのはそのためです。