ハリー・ポッター -Harry Must Die- 作:リョース
ハリーが一人笑っていると、コンパートメントの扉が開いた。
その音で窓に映る自分の笑みが真っ黒いことに気付いて、ハリーは笑みを引っ込める。
振り向くと、そこにはデカい少年がいた。
身長はどう見繕ってもハリーより頭二つ分はデカい。
体つきはひょろりとした長い野菜のような印象があるほど細長い。
顔はそばかすが目立ち、手足が長く大きく、鼻が高い。
……上級生だろうか?
「ここ空いてる? 他はどこもいっぱいだったんだ」
ハリーはこくこくと頷くと、少年は席に腰かけた。
怖そうな子が来ちゃったなあ、とハリーが困っていると、少年が声を発した。
「君が、ハリー・ポッターかい?」
勘弁してくれ。
ハリーはそんな気持ちでいっぱいになりながら、前髪をかきあげて傷跡を見せた。
ほー、と感心したような声が漏れる。
その声色はどこか幼く、なんだか同年代のような感じがしてハリーは彼の方を見た。
やっぱりデカい。しかしなんだか、どことなく先程の双子と似ている。
つまり、世話になったあのおばさんと似ている。
「えーっと、君は……」
「ロナルド・ウィーズリー。ロンでいいよ、皆そう呼ぶ」
「じゃあ、ぼくの事はハリーで。ハリエットでもいいよ」
「ハリエット? まぁ、わかったよ。ハリー」
「……」
漏れ鍋の握手会でも、この自己紹介をした。
だが、女性名で呼ぶ人はいない。何でだろうね。
「……えっと、じゃあロン。君の家族に双子はいる?」
「フレッドとジョージのことかな。もう二人には会ったんだね。彼らは僕らウィーズリー兄弟で四番目と五番目、ホグワーツ入学は僕で六人目だ」
「ちょっと待って!?」
ハリーは叫ぶ。
「六人目! お母さん頑張りすぎじゃ……、え、なに? というか同い年?」
「そうなるね。……まぁ下にもう一人妹がいるけど」
ハリーは絶句した。
きっと魔法界の食べ物を食べると、このくらい大きくなるに違いない。
ハグリッドもそうだったし。
そういった会話をすませると、あとはだんまりが空間を支配した。
ハリーはロンの巨体から発せられる威圧感に萎縮して話しかけられないでいるし、ロンは黙ってハリーをじっと見ているだけだ。
勘弁してくれよと泣きそうになった頃、ロンがおもむろにカバンの中から一つの包みを取り出してハリーに放り投げてきた。パッケージを見ると、『蛙チョコレート』とある。
マジかよ。魔法使いって蛙喰うのか。
と思ったが、成分表を見るとどうやら蛙を模しているだけらしい。心底ほっとした。
しかしハリーはまだ知らない。
魔法薬の授業などで、蛙のみならずゲテモノ類を嫌というほど触るようになることを。
「食べなよ。僕はこのおまけのカードを集めていてね。アグリッパが出たらちょうだいね、そいつだけまだ出てないんだ」
「うん。ありがとうね、ロン」
パッケージの裏を見てみると、どうやらおまけ付きのお菓子らしい。
因みにハリーはチョコレートを食べるのは人生で二度目だ。
一度目は、ハグリッドの手作りだという誕生日ケーキ。あれは美味しかった。
包みを空けると、なんと蛙のチョコが動いている。
短い悲鳴をあげて放り出すと、窓にはりついたチョコカエルは隙間から逃げてしまった。
茫然とそれを見ていると、ロンが笑っていることに気付く。
頬を膨らませて抗議すると「ごめんごめん」と年相応の笑顔のまま謝ってきた。
そこからは、先程の空気も嘘のように話すことができた。
ふとおまけの事を思い出してカードを見てみると、半月眼鏡をかけた、おちゃめな表情の老人が描かれていた。ヒゲがものすごく長い。というか、なんと、驚いた。――動いている。きっと魔法界の写真には魔法がかかっているのだろう……改めて今までの世界との違いを、ハリーは思い知った。
名前を確認してみると、
「アルバス・ダンブルドア? このお爺さんがそうなんだ」
「ダンブルドアの事を知らないの! マグルの世界で育っているとはさっき聞いたけど、そこまでとはね……」
カードにはダンブルドアのことがいろいろと書いてあった。
近代魔法使い史で最も偉大な魔法使い。最強の闇の魔法使いグリンデルバルトを破った。ニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究で有名。ドラゴンの血液研究でも有名。
カードの裏側を読む限りで彼について分かったことは、存命魔法使いの中では『世界最強』とされる室内楽とボウリング好きの耄碌ジジィであるということだった。
ダンブルドアがどういう人なのか、ロンの知る魔法界はどんなものなのか。ハリーがロンから聞いていると、コンパートメントのドアががらりと開いた。
現れたのは半泣きの小肥りな男の子と、たっぷりした栗毛の自信満々な女の子だ。
「ネビルのペット、ヒキガエルのトレバーがいなくなっちゃったの。あなたたち知らない?」
「知らない」
男の子の肩に手を置きながら、女の子が一言一言言い聞かせるような喋り方をする。
あれはきっと、己の自信に裏打ちされたものではない。幾分かの虚勢が混じった喋り方だ。
それにしてもヒキガエルをペットにするとは。……ロンのペットもネズミだというし、魔法族とマグルでは動物への価値観が違うのかもしれない。
しかしそうか。ペットとはいえ失せ物探しか。
ハリーはチャンスだとばかりに懐から杖を取り出した。
「あら。魔法を使うの? 見せてもらおうかしら」
栗毛の女の子はそう言うと、ハリーとロンの了承も取らずロンの隣に座った。
ネビルと呼ばれた男の子は泣きそうな顔のままドアのところで棒立ちだ。
「まぁ、実際に魔法を使うのは初めてなんだけど……」
「いいから、はやく。見ててあげる」
偉そうな。
「それじゃ失礼して。『ドケオー・トレバー』、場所を教えて」
ハリーがそう唱えると杖の先に淡い水色の光が灯って、カクカクと辺りを彷徨ったあとに隣のコンパートメントに尾を引いて向かっていった。
途中ネビルのほうを振り返るような動作をしたことから、ついてこいと言いたいらしい。
「ほら、トレバー……だっけ。あっちにいるってさ」
「ありがとう、探しに行くね! ぼくネビル・ロングボトム! 後でお礼がしたいんだ、君は?」
「お礼なんていいよ。ぼくはハリー・ポッター」
ネビルが驚いて硬直したが、早くトレバーを迎えにいったほうがいいと言うと、慌ただしく走って行った。
ロンが褒めてくれてハリーが頬を染めている中、栗毛の女の子は少し残念そうな顔をしている。
間違っていたら指摘したかったのかなとハリーは予想した。
「あらびっくり。あなたが、ハリー・ポッターだったのね?」
「うん。ハリーでいいよ。ハリエットでもいいけど」
「よろしくハリー。私はハーマイオニー。ハーマイオニー・グレンジャーよ」
そう言うと、女の子……ハーマイオニーはさっと立ち上がった。
そして「失礼」と一言添えてロンの鼻先に杖を突きつける。
当のロンはびっくりして目を丸くしていた。
「『スコージファイ』、清めよ」
ハーマイオニーが呪文を唱えると、ロンの顔の影がするりと消え落ちた。
魔法の腕をどうしても披露したかったのだろうか。きっとハリーがあのボロ眼鏡をかけていれば、それを直したに違いない。だが奴は死んだ。もういない。
どうやらロンは顔全体が薄汚れていたらしく、汚れが消えた顔は、年相応のものだった。
変な影とかは別にない。威圧感も多少は消えてくれたようだ。
「もうちょっと身嗜みに気を使ったら?」
「うるさいな! 着替えるんだから出て行ってくれ。覗きの趣味でもあるのかい」
指摘された恥ずかしさにロンがぶっきらぼうな口調で刺々しく言う。
ロンがそう言うので、ハーマイオニーとハリーが立ち上がった。
するとキョトンとした顔でロンがハリーに声をかけた。
「ハリー、どこいくんだよ。一緒に着替えよう」
それを聞いてハーマイオニーが目を丸くし、ハリーが鋭い目で睨みつけた。
そしてロンが引きつる言葉を、ハリーはその唇から放つ。
「ぼくは女の子だ! 覗きの趣味でもあるのか、ロン・ウィーズリー」
ホグワーツ。
まるで古城のような風体の、巨大な学び舎だった。
引率の先生がハグリッドであったため、ハリーは沈んだ気分が晴れていくのを感じた。
自動で動く小舟にハーマイオニーとネビルの三人で乗って、城へと進んでゆく。
マダムマルキンは結局あのあと、ハリーの制服にズボンを選んだらしい。
仕方ないのでそれを穿いて機嫌が悪くなっていたのだ。
ロンは一応隣に居るが、実に気まずそうにしている。
ハリーを怒らせたのだからむべなるかなだが、今のいままで同性の友達だと思っていた子が実は異性であるということを知って、戸惑っているようにも見える。この年代の子供にとって、性別というものは如何ともしがたい大きな壁だ。
しかしハリーはそんな彼の心境に気付いていながらも、先程の無神経な発言に少しむっとしていたので、まだ許す気はなかった。
ハグリッドが新一年生を連れていったのは大きな扉の前であり、そこで待っていたマクゴナガルが新一年生全員に、此処で大人しく待っているようにと鋭い声で言い残して扉の中へ入っていった。
途端、子供たちがざわざわと話し始めた。
これだけ興奮した子供たちに大人しくしていろというのは、土台無理な話だろう。
「やぁ。君がハリー・ポッターだったんだね」
そんな中、人込みをかき分けてハリーのもとへやってきた男の子がいた。
恐らく魔法界で一番有名であろう名前を言ったので、周りの子供がハリーの方を見たり指差したりしながらひそひそ話を始める。ハリーは少し恥ずかしかった。
やってきたのは、プラチナブロンドの髪の毛。つんと尖った顎。青白い肌。
マダムマルキンの洋装店で出会った子だ。いや、兄の方か?
「やぁ、また会えたね」
「あの時はスコーピウスが世話になった。改めて挨拶をと思ってね」
どうやら兄のドラコの方だったようだ。
隣に居るスコーピウスにハリーがにこりと笑いかけると、彼はふんと鼻を鳴らして視線を逸らす。するとドラコの反対側には、とんでもなく大きな男の子がいた。二メートルはあるのではないだろうか。ロンよりもさらにデカい……あとゴツい。本当に十一歳か?
ハリーが目を丸くしていると、ドラコは気がついたようで無造作に言った。
「こいつはグレセント・クライルさ。それで隣はご存知スコーピウス」
「よろしくね二人とも」
「おう……よろ、しく……」
「ふん。よろしくしてやってもいい」
クライルと呼ばれた男の子は、鼻にガムが詰まったような声で答えた。
スコーピウスはもったいぶった仕草で、ネクタイを締める動作をする。
貴族然とした外見から、年を経てから同じ動作をしたならば実に様になっていただろうが、如何せんまだ十一歳ゆえスコーピウスのそれは微笑ましいだけだった。
「そして、僕がドラコ。ドラコ・マルフォイだ」
「改めてよろしく。ぼくはハリー・ポッター。ハリエットでもいいよ」
ハリーがそう名乗ると、いよいよ周囲がどよめいた。
まさか。嘘だろう。女の子じゃないか。ズボン穿いてるぞ。ポッターは今年入学だよな。
様々な声が周囲でどよどよと聞こえて、ハリーは自分の耳が赤くなるのを感じた。
そんな中、ドラコの名前を聞いてくすくす笑いを誤魔化すような咳払いが響く。
耳ざとく気付いて咎めたのはスコーピウスだ。
「おまえ。僕たちの名前が変だとでもいうのか? 赤毛で、ひょろひょろのっぽのデクノボウで、おまけにそばかすだらけの子だくさん。知っているぞ。おまえ、ウィーズリー家の子だろう。人の事を笑えるような身分ではないと思うけどね?」
「なんだと! もう一度言ってみろ!」
一触即発。
クライルがスコーピウスの隣に立ち、その丸太のような足を踏み鳴らした。
腰巾着とはこういうものを言うのかと思いながら、喧嘩が始まってしまったら真っ先に逃げておこうと油断なく観察し始めたハリーを見て、ドラコが声をかけた。
「やめるんだ、スコーピウス。むきになるな」
「だけどドラコ!」
「そんなのを相手にしていると、品位がないと思われるぞ」
ドラコの一言で、スコーピウスはぐっと黙る。
どうやら未熟な弟を持っていることで、ドラコには自制心が芽生えているといったところだ ろうか。いくら兄とはいえ、十一歳の少年ではなかなかできないことである。
ドラコ・マルフォイはハリーに振り返ると、弟とそっくりな気取った声で言った。
「ポッター君。見ての通り、家柄のいい魔法族とそうでないのがいる。間違った者とは付き合わない方がいい。そこらへんは、この僕が教えてあげよう」
そう言って、手を差し伸べてくる。
ハリーはここで、少し迷った。
ドラコの考えは、現実をよく表したものだ。魔法界はきっと、差別的な思想が強い。
非魔法族をマグルと呼称するのも、おそらく似たようなものだろう。
手を取るのもいい。だが、それをやるとロンとは間違いなく友好的な関係を結べない。
ハリーは自分が強くなれるためにはドラコのような人間も、ロンのような人間も必要だと考えている。誰がどう役に立つか分からないのだ、友好的にするに越したことはない。
ひとつの方法を選択した。
「ドラコ。その言葉は嬉しいよ」
ロンが絶望的な顔をした。
ハリーはドラコの手を自分の手で包みこんだ。
握手では、ない。
「でも、ぼくはね。皆と仲良くしたいと思っている。彼とも、もちろん君ともね」
そうしてハリーは、自分が出来る限りの笑顔でそう答えた。
スコーピウスはそれに対して嫌そうな顔をし、クライルはお菓子を食べるのに夢中だった。
そしてドラコ。ドラコ・マルフォイは。
「そうかい」
嫌そうな顔こそしなかったが、失望の色が見えた。
「君の考えは僕たちのそれとは相容れないものだね。だけど気をつけた方がいいぞポッター、朱に染まれば赤くなるという言葉もあるんだ。そいつみたいなのと付き合っていると、いずれ身を滅ぼすぞ」
と、ハリーの手を振りほどいて行ってしまった。
隣のハーマイオニーが大丈夫? と声をかけてくるのに手をあげて曖昧な返事をして、ハリーは少し離れた位置のロンに向かって笑いかける。するとロンは、自分も笑いかけるかどうか迷った結果、そっぽを向いてしまった。
どうやらマルフォイ達との会話が気に入らなかったらしい。
電車の中でも散々スリザリンについて辛辣に語っていたことから、マルフォイ達と親しげにするハリーに対して不信感を抱いてしまったのだろう。確かに、ハグリッドもスリザリンに対してはあまりいい話をしなかった。
しかも、先程のロンとスコーピウスの会話からするに、どうも家族単位で仲が悪そうだ。
おまけに、ドラコ・マルフォイ当人も去ってしまった。
二兎を追う者はなんとやら。ジャパンのことわざそのまんまではないか。
誰とも仲良くしたい、そう欲張った結果がこれだ。
きっとどちらかの側についていれば、かけがえのない親友を得たことだろう。それこそ、選ばなかった方が、今後の学校生活で顔を合わせるたび喧嘩をする、不倶戴天の敵になる程に。
選択に失敗したハリーは寂しい気持ちを心の底に降り積もらせたが、ダーズリー家にてギチギチに踏み固められた心は、その程度では動かない。結果、表情も変わらない。目だけはいつも通り鋭い獅子のようで、かつ死を秘めた毒蛇のようでもあった。
そんなやり取りをしているうちに、マクゴナガルが戻ってくる。
「これより組分けの儀式を行います。一列になって付いてきなさい」
扉に入ると巨大な玄関ホールが出迎え、二重扉を通ると大広間へと至った。
そこでハリーは、自分の口が開くのを止められなかった。確かに、教科書には書いてあった。だが実際に目にするのとは大違いだ。大量の蝋燭が宙に浮かび、火が踊り、墨を溶いた水に宝石をちりばめたかのような美しい星空が、きらきらと瞬いてハリーたちを歓迎している。
ハーマイオニーが「ここ本で読んだところだわ!」と叫ぶのと横で聞きながら、ハリーは左右の長テーブルに座る上級生たちでも、奥で真剣な顔をして新入生を眺めているダンブルドアらしき老人でもなく、中央に置かれた四本足の椅子に興味を引かれた。
新一年生たちのざわめきが小さくなると同時、帽子の裂け目がさらに裂けて口のように動くと、帽子は高らかに歌い始めた。
歌の内容は、こうだ。
――この私はホグワーツ組分け帽子。心を見抜き、相応しい寮へ案内しよう。
勇気ある者はグリフィンドール。勇猛果敢な騎士はここに立つ。
誠実なる者はハッフルパフ。忍耐強く心優しき者を受け入れる。
賢者行くとこレイブンクロー。知識欲を満たす者こそ相応しい。
挑戦者たるはスリザリン。果てなき欲は必ず目的果たすだろう。
さぁ、私が見抜こう、教えてあげよう。それが最初の試練だ、小さな勇者諸君――
帽子を被ると心を見透かされるのか。
そんな恐ろしい考えがハリーの全身を支配しているうちに、既に組分けが始まっていた。
ファミリーネームのABC順に呼ぶのだろう。ポッターのPはもう少し後だ。
四つの寮に次々と振り分けられる生徒を見ながら、なるほど確かにそれっぽい生徒が寮にいっているものだとハリーは感じた。ハーマイオニーやネビルはグリフィンドールに配属された。その後に呼ばれたマルフォイ兄弟は二人ともスリザリンだ。その時ロンが不安のあまり呻き声をあげているのに気付いたが、ハリーに構っている余裕はなかった。
なぜならば、
「ポッター・ハリエット!」
ついに、呼ばれたからだった。
周囲の新一年生どころか、大広間に居る生徒全員がひそひそ話を爆発させる。
「ポッターだって?」「あのハリー・ポッター?」「例のあの人を斃したっていう?」
「でもハリエットって何?」「女の子に見えないか?」「ばか、ズボンはいてるだろ」
もうちょっと小さな声で言ってくれ、全部聞こえているんだ。
それに内容はさきほど扉の前で囁かれたことと似たり寄ったり。
ハリーはそれらの声を振り切ると、前に進み出て自ら帽子を被った。
どういった心の読み方をするのだろうか。
ハリーが戦々恐々としていると、頭の中に声が響いた。
『ううむ、なるほど難しい……これは難しい……』
帽子の声だ、とハリーは気付いた。
『ほほう、勇気に満ちておる。優しい気持ちもある、知恵も求めておる。そして、なんと苛烈な欲望の渦か。いやはや、久々に面白い子が来たものだ。この心の淀み方……本来ならばスリザリンと即答するような子だ。実際にスリザリンに入れてもよいが……いや、はたして……』
なるほど確かに、ハリーの心中を言い当てている。
ハリーは自分のことを、欲深き女だと自覚している。
誰にだって優しくできるならそうしたいが、嫌いな人物はその限りではない。
強くなるためは勇気が必要と知っているが、力を求める貪欲さもまた必要だ。
更には淀んでいることも否定しない。
あんな環境下に在って、なおそれを強制的にとはいえ受け入れていたのだ。
それはきっと、『まともじゃない』のだろう。
ふと思い、ハリーは心の中で帽子に呼び掛けることにしてみた。
(帽子さん、組分け帽子さん)
『ほう?』
(ぼくは、何よりも力が欲しい。だけどその為に何が必要か、ぼくにはまだわからない)
『その為に私がいる。身を委ねるかね? それとも君が決めるかね?』
その言葉に、ハリーは少し迷った。
『私のおすすめはスリザリンだ。スリザリンに入れば、間違いなく君は偉大になれる』
(偉大になれるからといって、それが強くなる道とは限らない?)
『それはそうさ、よくおわかりだ』
そして、自分の目標を見据えて思い出す。
復讐。顔も知らぬ闇に染まったあの男をブン殴る。そして殺す。
その為に必要なのは力だ。
彼女の魂はこう言っている。――『
ならば。世界最強の魔法使いと同じ寮に入れば、何か見つけられるかもしれない。
そうと決まれば、ハリーが呟く事はひとつだ。
(ぼくの事は、ぼくが決める。ぼくが行くのは、校長と同じ寮だ)
「よろしい! ならば――グリフィンッ、ドォォォール!」
グリフィンドールのテーブルから、歓声が爆発した。
双子のウィーズリー兄弟が何やら叫び回り、監督生らしき赤毛の生徒が大きな拍手で出迎えてくれる。ちらりと来賓席を見るとハグリッドがウィンクしているのが目に入った。背中をばしんばしん叩かれ、痛い思いをしながらハリーは監督生に勧められた椅子に座る。
ほどなくしてロンもグリフィンドールに決まり、もう一人の生徒をスリザリンに入れると組分けの儀式が終わった。
すっくとダンブルドアが立ち上がり、長い長い髭をゆらして優しげな笑顔を浮かべる。
そして、大きな声で言った。
「おめでとう、新入生諸君! そしてようこそ! ジジィの長話を聞く前に、諸君には大事なことがあろうじゃろうて! ではいきますぞ、そぅーれ、わっしょい、こらしょい、どっこらしょい! Catch this!」
ダンブルドアの挨拶に盛大な拍手と歓声が返される。
ハリーはというと、満足げな顔で座るダンブルドアを半目で眺めていた。
世界最強の魔法使いというからにはどんな人かと思えば、本当に耄碌ジジィなのか?
数分前のぼくの判断は、ひょっとすると間違いだったのでは?
「あの人アタマおかしいんじゃないの」
「なんて辛辣な。でも、最高さ! ほら、食べなよポッターくん!」
監督生――パーシー・ウィーズリーというらしい、きっとロンの身内だ――に勧められ、今まで何もなかったはずのテーブルに現れたありとあらゆる料理にハリーは驚いた。
ダーズリー家で食べられたのはビスケットやパンくらいで、運がいい時に野菜の切れ端をもらえたりする程度だったものだから、何が何だかよく分からないくらいだ。
その後は「激動」の二文字が正しかった。
食事を終えるとダンブルドアから今度は礼儀正しい祝辞の言葉を述べられ、四階の廊下には決して近づいてはならないこと。禁じられた森への立ち入り禁止。廊下でむやみに魔法を使わぬようにとの管理人からのお願い。クィディッチ選手の予選があるのでやりたい子はおいで、マダム・フーチに連絡してね。と諸注意を述べた後に、校歌斉唱を行った。
パーシーの案内でグリフィンドール寮へ急ぎ、中の人物が勝手に動きまわる肖像画――太った婦人に合言葉を告げると、肖像画が開いて中に入れるようになる。合言葉を忘れると当然入れないというのだから、厳しいものだ。
しかしここで少し、いや重大なハプニングが起きた。
なんと、ハリーの相部屋がロン含めた男子生徒だったのだ。
確かに螺旋階段が男女で別れていて変だなとは思っていたが、この事件はそんな思考力が低下する原因となる眠気も吹っ飛ぶようなことであった。
これに激怒したのはハリーでなく、ハーマイオニーたち女子生徒だった。
ハリー自身はそのくらい別にいいんじゃないか? と思っていた。
ダドリー相手にそんなことを気にしていたら、あの家では暮らしていけない。
しかしハーマイオニーたち女性陣の猛反発を見て、反論できる雰囲気ではないと悟る。
でも確かに、男の子だらけのところはちょっといやだな。とハリーは思った。
いったいどうなっているのか、いくらなんでも酷い。ハリーが男の子に見えるのか?
女性陣がパーシーにそう詰め寄ると、最後の質問に首を縦に振りそうになったところでハリーが杖を取り出したのを見て、彼は慌ててマクゴナガルのところへ走っていった。
マクゴナガルも寮部屋を取り決めた誰かに激怒してくれたが、結局空いているベッドはなく彼女が「明日には必ず、新しいベッドを用意させます」と言ってくれたので、ハリーはハーマイオニーの厚意で彼女のベッドで一緒に寝ることになった。
寝る時に少し話したのだが、ハーマイオニーは案外正直にものを言う子で、
「確かにハリーは男の子みたいにカッコいいけれどね。うん、でも悪くないわ」
などと言っていた。
着替えの時に下着を確認するまで性別を疑っていたらしい同室のパーバティ・パチルなんかは「確かに悪くないわ。まるで王子様みたいよ」などとうっとりした顔で言っていたので、ハリーは多少の寒気を感じた。
ダドリーの見ていたジャパニメーションで「男装女子」というのがあったな、とハリーは思い出して、ちょっとげんなりした。
しかし激動の一日はあまりに大きな疲労をハリーに詰め込んでいたのか、既に寝息を立てていたハーマイオニーの豊かな栗毛に顔をうずめると、その瞬間に眠りに落ちてしまった。
翌朝。
パジャマから制服に着替える際、ハリーはパーバティに「あなたもっと食べないと死んじゃうわよ」と浮き出た肋骨を撫でられる羽目になった。
くすぐったさのあまりについ笑ってしまって二人でじゃれあっていると、とっくに着替えていたらしいハーマイオニーが授業の時間が迫っていると急かしてきた。
朝食よりも授業が楽しみらしい。
パーバティがウゲェと嫌そうな声を漏らしたが、……実を言うとハリーは、ハーマイオニーの意見に全面的に同意だった。
なぜならば、強くなるためには豊富な知識が必要になるからだ。
強くなる為に学ぶ必要があるのならば、ハリーは喜んで挑む。
天文学。望遠鏡で星を眺め、惑星の動きを学ぶオーロラ・シニストラ先生の授業。
薬草学。ずんぐりした魔女ポモーナ・スプラウト先生と温室に赴いて魔法植物を学ぶ授業。
魔法史。なんと教授のカスバート・ビンズ先生は幽霊だ。これは歴史を学ぶ、退屈な授業。
妖精の魔法。フィリウス・フリットウィック先生という小さな教授が教える授業で、一年生は妖精の悪戯のような魔法を学ぶ、ハリーが想像していた魔法の授業そのままだった。
変身術は、ミネルバ・マクゴナガル先生の授業だった。ハリーは笑いかけたが、マクゴナガル先生は厳格な表情で返してきた。それでハリーは、この女性は公私でえらく態度の変わる先生だという事に気づいて親しげな反応は期待しないことに決めた。
「変身術とは、この学校で学んでゆく魔法の中でも極めて危険なモノの一つです。いるとは思いませんが、授業を妨害する生徒は豚に変えてその日の夕食に出させていただきます」
生徒の大半は笑ったが、マクゴナガルは笑わなかった。本気だ。
先生が机を豚に変えたり、自身が猫に変身した――「動物もどき」というらしい――時は皆が感激したものだが、実際の変身術はまず、散々複雑な理論を学ぶ必要があった。その時点でやる気をなくした生徒が多いことにハリーは気付いた。なにせ、近い席に座っていたロンがウゲーといった顔をしていたからだ。
最強の魔女になるという目標があるハリーと、勉強そのものが楽しくて仕方ないという隣席のハーマイオニーのみがノートをすらすらと書いてゆく。
実技については、配られたマッチ棒を針に変えるというとんでもないものだった。
確かにこれは教科書には、初歩の初歩と書いてあったが、本当にできるのだろうか?
ハリーは開始直後にハーマイオニーが見事成功させたのを見て焦りながら、授業が終わるギリギリになってようやくマッチ棒を針に変身させることができた。
しかしどうやらマッチ棒を変身させることができたのはこの二人だけだったらしく、マクゴナガル先生は二人の成果と努力の結果を褒め、以前のように微笑んでくれた。
闇の魔術の防衛術については、なんというか、臭かった。
ダイアゴン横町でハグリッドが言っていたように、クィリナス・クィレル先生はどうやらニンニクを常備しているらしく、ニンニクのお腹の減る匂いを教室中に充満させていたので、皆はお昼ごはんが待ち遠しかった。
ハリーはこの授業に多大なる期待をしていたのだが、やはり期待外れだった。
ヴォルデモートは最悪の闇の魔法使いである。なんて言われるくらいだから、きっとこの授業が一番役に立つと思って教科書に変なクセがついてしまうほど読み込んだというのに。
クィレルが危険な生物に対していきなり魔法を使おうとせず、それが何なのかを見極めてから適切な行動を選びましょう。という基本的な説明をしたのに対して「もし何らかの危険な存在に襲われた場合、どういった呪文で乗り切ればいいのですか」と質問したところ、
「そんな恐ろしい状況……私には耐えられない! ヒィーッ!」
と叫んで崩れ落ちてしまった。
マジかよ。
そんなところからも、この教科に対する期待外れっぷりが窺い知れようものである。
ハリーに対抗意識を燃やして、続けて自分も質問しようとしたハーマイオニーの目が、真ん丸になって固まっていたのが横目で見えた。
ロンはその授業、後ろの方でずっと眠っていた。
昼食。
向かいの席でロンがマーマレードパイにがっつくのを見ながら、ハリーは自分のペットたる白フクロウのヘドウィグが初仕事を終えたのをねぎらっていた。
手紙を運んできたのだ。内容は、ハグリッドからのお茶のお誘い。
この時間は数十羽ではきかない数のフクロウが手紙を届けに大広間の天井を飛び回るのでとてもうるさいが、ハリーはこの時ばかりはその騒音に感謝した。
「やった」と叫んだ理由は、ロンと仲直りができるかもしれないとうものだったからだ。
ロンとは入学式のあれ以来、まともに口をきけていなかった。
やはりスリザリン生と仲良くしたいというハリーの思想は、彼には認められないらしい。
隣でバゲットを頬張っていたハーマイオニーに「一緒に行こう」と誘い、二つ返事で了承を貰ったハリーはテーブルを回りこんでカスタードプティングを口に含んでいるロンを誘った。
ロンはもごもご言っていたが、しばらく悩むそぶりを見せたあと「今度、今度ね。いまはちょっと……まだ、気持ちの整理ができてない」と言ってくれた。
それによりハリーは、意気揚々と満面の笑顔で次の授業に向かって、
「ああ……、ハリー・ポッター。我らがアイドルだな」
その笑顔を吹き飛ばされた。
スリザリンとの合同授業である、魔法薬学。
ハリーは教室の中にドラコの姿を見つけて、隣に座ろうと思って近寄ったがスコーピウスが素早くハリーの前に飛び出してきてあっちへ行け! と威嚇されてしまった。
肩を竦めて他を探してくれ、とゼスチャーするドラコに頷いてから、ハリーはハーマイオニーを見つけてその隣に座る。遅れてロンがやってきて、ハリーの隣しか席が空いていないことに気付くとしばらく迷ったのち結局隣に座ってきた。
途端、扉を開けて入ってきた教師がハリーの顔を見るや否や、そう言ったのだ。
それもねちっこい、嫌味ったらしい声で。
「この授業では魔法薬の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ……蓋をする、方法である。――ただし、我輩がこれまでに教えてきたマヌケなトロールどもと、諸君らが同じでなければの話だが」
セブルス・スネイプ。
それが魔法薬学の教師の名で、ハリーの直感ではこの教師は、自分のことを嫌っていた。
しかし、それは間違いであったことを確信する。
嫌っているのではない。――憎しみを抱き、そして、戸惑いをも抱いていた。
突然「ポッター!」と呼ばれる。
「アスフォデル球根の粉末に、ニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
いきなりの指名ときた。
しかもこの問題、めちゃくちゃ難しい部類に入るものだ。
「い、生ける屍の水薬です、先生。えーっと……効果は、強力な眠り薬です」
しかしハリーは即答できる。
闇の魔術に対する防衛術、妖精の呪文に次いで、魔法薬学はハリーが最も求めた知識の一つだからだ。つまりそれは、学校が始まる前に教科書を暗記したということである。
しかも今回は運良く、この魔法薬のことが載っている本をハリーは持っていた。遅れて切符を寄越したハグリッドに手紙を送り付けて何冊か上級生の教科書を手に入れているのだ。そちらの方は三割も読み解けていないが、ちょうどこの薬があった。一年生の最初であるということを考えるとそれでも十分なほどだが……というかこれ、もっと上級生で習う薬じゃないのか?
セブルス・スネイプ。なんて意地悪な男。
ハリーが答えたのを見て、スコーピウスががっかりした顔をする。おおかた、失敗したハリーを囃したてるつもりだったのだろう。ずいぶん嫌われてしまったようだ。
ロンやクライルが何言ってんだコイツという顔をしているのは兎も角、ドラコが感心したような表情をしているのが気になる。隣で指名してもらおうと踏ん張って挙手しているハーマイオニーは無視しておこう。
スネイプが感心したように笑うと、またもや質問の襲撃を開始した。
「よろしい。では、ベゾアール石を見つけて来いと言われたらどこを探すかね?」
「ヤギの胃の中です。茶色の萎びた石で、大抵の魔法薬の解毒剤となります」
「それもよろしい。ではモンクスフードとウルススベーンとの違いは?」
「……同一の植物です。それは、つまり……えっと、トリカブトのことです!」
「よろしい。よく教科書を読んでいるといえよう。グリフィンドールに二点を与える」
攻撃が終わった。乗り切った。しかも、点まで入れてもらえた!
ハリーの鋭い目が柔らかく閉じられ、ほっとしたような笑顔になった。
スコーピウスがクライルに八つ当たりしているのが目に入る。
ロンはほー、という顔をしているし、ドラコはハリーを見て爛々と目を輝かせている。
ハーマイオニーは、悔しそうに椅子に座るところだった。立ってまで当ててほしいのか?
最後の方に記憶の井戸から知識を引っ張りあげて疲労したハリーが、ようやくほっとしたその瞬間。スネイプが意地悪な笑みを濃くして最後の追い打ちをかけた。
「では最後に。丸ごと食せば熱さましとして使える、愛の妙薬の原料を答えよ」
「えっ?」
またか! とハリーが思う間もなく、その問いの内容に絶句する。
この一、二ヶ月でずいぶん脳のしわが増えているとハリーは自負していたが、それがまだまだであったことを思い知らされた。
表情を歪めて必死に脳内にある「薬草ときのこ一〇〇〇種」や「魔法薬調合法」のページを紐解いても、まったくわからない。
ハリーは三分ほど脳内図書館を荒らしまわった挙句、ついに降参した。
「……わかりません」
「アッシュワインダーの卵だ、ポッター。『幻の動物とその生息地』は読んでおらんようだな」
読んでいる事は読んでいる。
だがあれは、闇の魔術に対する防衛術などで使われる教科書だ。
魔法薬学ではない。
「おや、おや。卑怯と思うなかれ、魔法薬学ではそういったものも扱うのだ」
ハリーの表情を読み取ったスネイプが、にんまりと笑う。
「補足しよう。ベゾアール石の見た目は石というよりも干からびた内蔵に近く、かなり希少である。そして生ける屍の水薬だが……材料は先に述べたものに加えて、刻んだカノコソウの根に催眠豆の汁なども必要だ。ポッター。ああ、ポッター。思いあがりは身のためになりませんぞ。グリフィンドールから三点減点する」
その後もスネイプは、ハリーに加点して減点するという性質の悪い芸当をやってのけた。
生徒二人でペアになって「おできを治す薬」を作る実習に至っては、ハリー・ハーマイオニーペアが完璧に調合したのを褒めて五点を与えた直後、教室の反対側でネビルが調合に失敗してしまいスネイプの指示で医務室に送られる際に、何故注意をしなかったのかと叱りつけて六点を引かれてしまった。
合計で二点のマイナス。
魔法薬学の教室――まさかの地下牢だ――から戻る時さすがに落ち込んでいると、ロンが後ろからやってきて「フレッドとジョージなんて君とは比べ物にならないほど減点されてる。気にしない方がいいよ」と笑って言ってくれた。
ハリーが嬉しそうな顔をしたのでロンははっとなり、せかせかと歩いて行ってしまった。
スネイプのあんまりな態度を見て、ハリーへの不満を一時忘れてしまったらしい。
ロンと少しだけ仲直りできたのと、スネイプの人となりを知れたことが今回の収穫だった。
ハグリッドの家では、予想よりも美味しい紅茶と、とんでもない硬さのロックケーキをご馳走になった。
ハーマイオニーは食べるのに四苦八苦していたが、ハリーは正直これより堅い物体をダドリーに食べさせられたことがあるので、特に苦労もなくガキンゴギンと噛み切ることができた。
ハリーとハーマイオニーはこの一週間の授業内容をハグリッドに話した。魔法を学ぶのは結構楽しい、お互いに競うようにモノを覚えていくのはかなり素敵なことだった。等といったことをハグリッドが聞くと、二人とも勉強熱心だな、と豪快に笑った。
耳やらへそやらを舐めようと執拗に迫ってくるハグリッドの飼い犬ファングを足で牽制しながら、ハリーはロックケーキを噛み砕いて言った。
「スネイプ先生は、どうもぼくのことを憎んでいるみたいだ。あと、何だか戸惑っているような気がする」
「なにを阿呆なことを。戸惑うっちゅーのはようわからんが、憎む理由がありゃせんわい」
ハグリッドはそう笑い飛ばしたが、何故だかハリーとは目を合わせてくれなかった。
ハーマイオニーが魔法動物についてハグリッドに質問を飛ばしている間、ハリーは紅茶のポットの下に敷いてあった新聞を眺めていた。日刊予言者新聞とかいうものだ。
どうやらグリンゴッツ銀行に強盗が入ったらしい。――強盗?
「ねぇ、ハグリッド」
「うん? どうしたハリー?」
「この新聞記事。事件が起きたのは、ぼくの誕生日だ。あの時ぼくら危なかったのかな」
しかしその何気ない言葉に対して、ハグリッドは目を逸らしてしまった。
そこでハリーは気付く。なにかある、と。
注意深く記事を読んでみれば、『その日、荒らされた金庫は既に空にされていた』とある。
ハリーは自分の金庫を空っぽにするという愚を犯してはいない。
しかしハグリッドの開けた七一三番金庫はどうだろう?
はしたないと思い直ぐに目を逸らしてしまったが、入っていたのは小さな包みが一つだけ。
しかも小鬼のグリップフック曰く、相当厳重なセキュリティがかけられていた。
ついでに言うと、あの小包はダンブルドアからの手紙に関係あるものだそうじゃないか。
これははたして偶然だろうか?
お土産に持たせてもらったロックケーキをバギンバギンと齧りながら、二人は夕食の時間に遅れないうちに城に向かって歩いていた。
ハーマイオニーはお土産でスカートのポケットがパンパンで、実に歩きづらそうにしているが、魔法動物について色々な話を聞けて満足そうだ。ハリーと繋いだ手も実に暖かい。
なんだろう? ハグリッドは何を隠している。
スネイプについてもだ。アレは明らかに何かある。
なんだ? これは――たぶん、なにかあるぞ。
ハリーはその鋭い目をさらに細くして、思案を巡らすのだった。
【変更点】
・異性なのでロンが余所余所しい上に、ドラコとのやりとりで不信感が。
・ただし、同性との仲はそこまで悪くない。今のところは。
・スネイプの態度が原作よりもちょっとだけ軟化。でも陰湿なのがスニベルスだ。
やはり少女だとリリーの面影があるので仕方ないこっちゃ。ゆ、優遇じゃないよ!
・『幻の動物とその生息地』。入手は困難ですが、我々マグルでも買えますよ。
・食に関しては、食えりゃいいタイプ。ロックケーキは今後彼女の好物に。
【オリジナルスペル】
「ドケオー・○○、場所を教えて」(初出・3話)
・淡い水色の光が、探し物の場所へ案内してくれる。○○には対象の名称を入れる。
元々魔法界にある呪文。生活に便利な魔法。
【新キャラ】
『グレセント・クライル』
ほぼ本物語オリジナル。
クラップ+ゴイル=十一歳児のゴリラ。パワーは二倍、バカさは三倍。
申し訳程度のDMC要素。
ああ、このペースで投稿していたら、ストックがすぐに切れてしまう。
一話一話を短くすべきだろうか迷うところ。
ハリーちゃんはこれから強くなるよ! たぶん。じゃないと、一年生で死んでまうで。