ハリー・ポッター -Harry Must Die- 作:リョース
1.夏休みは隠れ穴へ
ハリーはだらけていた。
タンクトップはめくれておへそが出ており、ホットパンツからは素足が伸びる。
この夏の間に、ハリーはすっかりだらけていた。
実にはしたない恰好であるが、このプリベット通りではむしろハリーの格好は品がある方である。ペチュニアがダドリーと共にロンドンまで買い物に行ったときは、上半身を晒して歩くタトゥー・マッチョマンやら下着同然の格好をしたファンキー・ウーマンなどがいてダドちゃんの教育に悪かった。などと文句を言っていたのを覚えている。
ボクシングの英国チャンピオン相手に今さらそんな情操教育が必要なのだろうかと思いはしたが、ハリーはペチュニアの淹れる美味しいお茶をいただけたので、これも紅茶代のうちだと思って彼女の愚痴を黙って聞いていた。
散々吐き散らしたペチュニアは上機嫌になり、ダドリーには内緒で買ったらしきスコーンを一袋プレゼントしてくれたので、その甲斐はあったと思う。
恐らく不満がたまっているのだろう。
なぜなら、この夏ダーズリー家はダドリーのダイエットに付き合わされているのだ。
「戦いたい奴がいる」などと言いだしたダドリーは急激な減量を始めた。初めのうちは空腹によって不機嫌になるだけであったが、水道の蛇口に針金を巻いて封印したりと行動がエスカレートしてきて、挙句の果てには通りすがった飴をなめる子供に睨みを飛ばしたりしてしまう始末。
狂乱したダドリーが子供を殴っては人死にになってしまう。打たれ強くなったいまのハリーでさえ生死が危ういと判断したダドリーが彼女を殴るスポーツをやめたほどだ。ただのマグルがそんな剛腕を喰らえば、テレビ放送できない状態になるのは明らかである。そして、そんなことになってしまえば
そこでバーノンが考え出したのが、みんなダイエットに付き合いますよ宣言である。
ダドリーの日々の食事は、茹でた味なしのササミとプロテイン入りの無脂肪ミルクのみ。
バーノンとペチュニアはそれの半分。ハリーはなんと、空の皿だ。出す意味がない。
その食卓の風景を見たダドリーは自尊心を満たされたのか、満足げな顔で一本のササミをぺろりと呑み込むように平らげるようになった。
しかしその間、絶食を強いられたハリーがやつれたかと問われれば答えはノーだ。
日常的に繰り広げられるダドリーのダイエット風景を見て、艱難辛苦を乗り越えたハリーが危機感を抱かないはずがない。ハリーはヘドウィグを飛ばして、ハーマイオニーやロンたちに助けを求めたのだ。
缶詰やらお菓子やら、大量の食糧を運送してきたヘドウィグはたいそうお疲れだった。その労苦をねぎらってちょっとだけ豪華なフクロウフードを与えると、指先にやさしく甘噛みしてきて可愛さのあまり悶え死にそうになったこともある。
とりあえず。
ハーマイオニーの送ってきた栄養のある食事や、ノンシュガーのお菓子。ロンの送ってきた甘ったるいチョコレートや魔法界製のお菓子やら、日本製のエキゾチックなお菓子。ハグリッドの送ってきたトン単位のロックケーキなどで、ハリーは飢えることなく夏休みを快適に過ごすことができた。
というか、ちょっとだけ太ったかもしれない。
ハリーは自分のお腹を触ると、そこそこ硬いのがちょっとした自慢だ。見た目は一本線が入ってるのみでそうでもないが、日々のトレーニングがちゃんと功を奏してきたのだ。
ふふふ、と満足げな笑みを浮かべるハリーは、お風呂あがりに乗った体重計でショックを受けた。去年よりもかなり増えている。し、しかし、これはどういうことだろうか。胸か? これがいけないのか? 確かにちょっと重く感じるようにはなってきたけれど、でも上級生のようにグラマラスというほどではないはずだ。
では、本当にただ単に肥えただけなのだろうか。
そいつはまずい。実にまずい。女としてそれは滅茶苦茶まずい。
そんなわけでハリーも簡単にダイエットをしているのだが、毎日ランニングをしたり筋トレをしたりするので、お腹が空くわ空くわで、さらに空腹で不機嫌になってしまうので、このハリエット・ダイエッター状態がかなり不毛なことに気付き始めた。
そこでハリーは、手に持っていた魔法界製のチョコレートが原因だと気付くと同時にそれをトランクに放り込んで解決したのだった。フレッドとジョージから贈られてきたものだという時点で気づくべきであった。極刑モノである。
じわじわと降り注ぐ日光がダーズリー家を温め、二階の一部屋にいるハリーを蒸している。汗がじわりじわりと吹き出してきたので、シャワーを浴びようとタオルを手にバスルームへ向かう。
汗を流したハリーはその体をタオルで包むと、バスルームを出る。
部屋の中をバスタオル一枚で歩くというのはレディとしてはしたない、とペチュニアにしっかり教え込まれているので、ハリーは脱衣所でさっさと着替えて自室に戻る。
そしてラフな格好のまま、ベッドに倒れ込んだ。
ヘドウィグはいない。彼女はいま、シリウスのもとへ飛んでいるからだ。
最初は何かおいしいものでも贈ろうと思っていたのだが、それに対するシリウスの返事は『荷物を持ったフクロウが誰もいないはずの場所へ訪ねてきたら、そこにフクロウのお家があるとは誰も思ってくれないんだ』というものだった。ハリーは全くそこに考えが至らなかった自分を恥じた。
手紙くらいのサイズならば特に怪しまれないため、以降は手紙だけのやり取りにしている。
ハリーを殺しかけたことを未だに気に病んでいるらしいことが文章の端々に見られるものの、今では気に障らない程度になっている。最初は卑屈で卑屈で酷いものだった。言いすぎたかと思ったが、今でも夢に見るほどのトラウマを味わったのだ。それくらい許してほしいものである。
「……わからないな」
シリウスからの手紙をトランクの中に仕舞い込み、ハリーは大学ノートを開く。
はっきり言って羊皮紙なんぞより断然使いやすい。ロンドンで買って正解だった。
羽ペンよりも便利なシャープペンシルを持って、魔法式をつらつらと書きだす。
それはハリーが、グレイバックとの戦闘で咄嗟に考え付いた『魔法式を書き換える呪文』の魔法式だった。はっきり言って、どうしてこんなものを思いついたのかさっぱりわからない。
O.W.L.だとかN.E.W.T.だとかそんなレベルを軽く超越しているその魔法式は、いまでもハリーの頭の中に思い浮かべることができる。だが、それがなんなのかを理解することができない。実際に今からでも使うことはできる(その場合、魔法省から警告文が飛んでくるだろうが)だろう。だが、その魔法式を視てもさっぱり理解できないのだ。
理解できない魔法式を編み出して、初回の使用である上に実戦レベルに使える魔法?
ばかばかしい。魔法とはフィーリングで使えるファンタジーな存在ではないのだ。
確かに自身の感覚のみで使える魔法だって存在する。『開心術』然り、『愛の魔法』然り。しかしそれですら、魔法の才能が必要とされるのだ。非魔法族たるマグルには使えない。
明らかに不自然なのである。
シリウスに殺意を向けられた理由が、恐らくハリーの抱える何らかの問題にあるという結論を出して以降、ハリーは自分の不自然さに着目するようになった。
ひとつ、魔法習得の速さ。
これも結構な不自然である。ハリーは自分の努力を疑いたくはないし、ジェームズとリリーの娘だというのなら二人の魔法の才能が遺伝しているとも信じたい。だが、『身体強化の呪文』や『守護霊呪文』、更には先ほどの『書き換え呪文』など全てを習得しているのは明らかなるオーバースペックである。
『身体強化』や『守護霊』はまだいい。ハリー自身もどうかと思うほどの練習と勉強を重ねて、一年近く、またはそれ以上の時間をかけて習得したのだ。『身体強化』に至っては、習得してから二年を費やしてようやく魔力運用が完全に近づいている。それもその呪文を得意とするシリウスからコツを教えてもらって、ようやくだ。
だが先ほども疑問に思った『書き換え呪文』だけはおかしい。あまりにも不自然。
次に、いま生きていること。
どういうこっちゃと自分でも思ってしまうが、本当にいま生きていることが不自然に思えてしまう。なにせハリーは、普通の人間より多すぎる死線を乗り越えてきたからだ。
入学前はダーズリーからの虐待。一年生の時には吸血鬼との死闘。二年生の時には最強の魔法生物や最悪の魔法生物、そして学生時代の闇の帝王との戦い。三年生の時には明らかに自分より格上の大量殺人犯(無実だったが)と現役の闇の魔法使いにして狼人間である死喰い人との殺し合いがあった。
ハリーは重傷を負いながらも、それら全てから生き延びてきたのだ。多分に多くの人からサポートを受けてきたことが最大の要因であることは否定できない。ハーマイオニーが、ロンが、マクゴナガルが、ダンブルドアが。彼ら一人でも、他のだれ一人でも欠けていれば、ハリーはいま五体満足でここに居ないだろう。
そういった意味で、ここまで生きてこれたことがおかしいと思うのだ。
そして最後に、『命数禍患の呪い』。
ハリーがここまでハードモードな人生を送っているその最たる要因、闇の帝王による《生き残った女の子》への贈り物。
あれが未だにどんな魔法式を用いたらこんな効果をもたらすのかが分からない。単に学生程度が知り得る知識では解明できないようなものなのかもしれない。かの世界最強たるダンブルドアに匹敵すると謳われるヴォルデモートが開発したというのだ、きっとハリーみたいな小娘には想像もできないほど複雑な式が使われていることは想像に難くない。
だからといって全く情報がないというのも、なんだか変な気がする。
ダンブルドアはハリーに隠し事をしている。シリウスも、ルーピンもだ。
なにか重要な気がするのだが……、さっぱりわからない。
それがとても、もどかしい。
「あ、そろそろ時間か」
ハリーはベッド脇に置かれた時計を見て、魔法式が乱雑に書かれた大学ノートとシャープペンシルをトランクに突っ込む。
トランクひとつで済んだ荷物は、すべてがホグワーツに持っていく品物。
まだハリーの誕生日前の七月中ではあるが、もうすべての荷物はまとめてあるのだ。
理由は、いまからハリーは一か月近くのお泊りに出かけるからだ。
「ハリー。きちんと髪は梳かすんですよ。男の子の家なんですからね、シャワーの後に無防備な格好でいないこと。いいですね、『まともじゃない』失礼なことはしないように」
「わ、わかったよ。ありがとう、ペチュニアおばさん」
やりにくいったらありゃしない。
ここ数年のペチュニアは、ハリーをまるで可愛い姪のように扱ってくる。
ホグワーツ入学時から着せ替え人形のように見ている節はあったものの、こういったきちんとした人間扱い……いや、女性扱いは今年度に入ってからだ。
本当にどうしたというのだろう。
まさか錯乱の呪文でもかけられていたのではあるまいな、と思って視てみたことすらある。現役で活動する死喰い人と遭遇してしまうような世の中なのだ、ハリーの身内と見做したヴォルデモートの配下が何らかの手を打っていないとも限らない。
だが結果はシロ。ペチュニアは何らおかしくはなかった。むしろ今までがおかしかったのだと言わんばかりである。どこがって、そりゃ頭が。
「むっ、来たな」
キンコン、とドアベルが鳴った。
バーノンがまるで仇敵を見るような目で玄関を睨む。
魔のつくなんたらっちゅー連中にナメられてはいかん。とのことで、バーノンもペチュニアもダドリーも、皆きっちりした正装をして客人を出迎える用意をしている。もちろんハリーも、ペチュニアと揃いのドレス染みた服を着せられている。背中はばっさり切込みが入っているし、胸元は開いて肩も出ているしで露出が多いタイプなので恥ずかしいが、ハリーはダドリー相手に赤面するほど愚かではない。
問題はロンだ。いや、フレッドとジョージも問題か。双子には絶対にからかわれるし、写真でも撮られようものなら少なくとも今年度中はネタに事欠かないだろう。そしてロンにこの姿を見られると思うだけでドキドキして、顔から火が出そうになる。まったくわけのわからない感情に戸惑ってしまうほどだ。
「なんだよハリー、おまえ風邪でも引いたのか? 顔が赤いぞ」
「心配してくれてありがとうビッグD。あまり見ないで恥ずかしい」
ダドリーもきっちりとスーツを着ている。
この夏の超減量というか自殺行為というか、とにかくダイエットは成功した。
ハリーと比べると未だに巨漢デブと評すことになるだろうが、それでも彼は見違えるようにスマートになった。縦より横の方がデカいんじゃねと陰口を叩かれていたダドちゃんはどこにもいない。彼はもはや、逆三角形に近いプロレスラーのような体形のビッグDなのだ。
最年少英国チャンプの座は今年も維持しているらしく、時折家にテレビの取材などが来るようになっている。その際、ハリーはもちろん部屋に引っ込む。シリウスがアズカバンを抜け出すきっかけとなったのが、日刊預言者新聞の写真でロンの肩の上にネズミ化したペティグリューを見つけたというものだと聞いてからメディアの恐ろしさを知ったからだ。
マグル差別万歳の純血主義者であるヴォルデモート達が、よもやソファに座ってテレビにかじりついて「見ろよマグルのチャンピオンの横にハリー・ポッターがいるぜ」なんてことにはならないだろう。ならないだろうとは思うが、用心するに越したことはない。
全国放送で姿を晒すなど、私はここですどうぞ殺してくださいと言っているようなものだ。
とにかく。力を付けた結果、自尊心が満たされてハリーに対して無害となったダドリーをあまり刺激したくはない。
「キッチンは大丈夫だわ。リビングも当然。トイレだってばっちり……」
ペチュニアが魔法式でも組んでいるのかというほど低い声で、ピカピカに磨き上げた家のチェックを脳内で展開している。
彼女は決して潔癖症というわけではないが、それでも《隠れ穴》と呼ばれるほど雑多な家に住む生粋の魔法族であるウィーズリー家からしたら、いまのダーズリー家は無菌室のように美しく綺麗に掃除されているだろう。
頼むから汚すような真似はしないでほしい。クリスマスにペチュニアから贈られる服のレベルが恐ろしいことになるのは想像に難くないし、バーノンからの贈り物が呪いの品にでもなりそうな気がしないでもない。
だからウィーズリーの面々には大人しく来訪してほしいものだ。
そう、今日はダーズリー家とウィーズリー家の面々が一堂に会する日なのだ。
大切な姪であるハリーを一ヵ月も与るのだから、きっちり挨拶しないといけないとウィーズリー家の肝っ玉母さんであるモリーが主張したのが原因だ。
魔女などという得体のしれないモノを引き取ってくれるというのだから、ダンボールに詰めてでも追い出したいだろうから別にいいと言っても聞いてくれなかった。
確かにまともな家庭ならそうするだろう。だがここは、この家はハリーに対してのみ『まともじゃない』のだ。
一応グレンジャー夫妻か、ハーマイオニーもついてくるようにと懇願したから大丈夫だとは思うが……。
「いてっ!」
「え?」
玄関の方から何やら鋭い叫び声が聞こえてくる。
ドアベルを鳴らしたから開けてくるだろうことはわかるが、なぜ悲鳴が。
「なんだこのドアノブは? 攻撃してきたぞ!」
「ひょっとしたらマグル独特の防御機構かもしれないな」
「なるほど……小規模とはいえ雷撃で迎撃だなんて、歓迎されていないようだね」
アーサー氏と……誰だろう、ウィーズリーのうち誰かの声だ。
どうやら口ぶりからして、静電気にやられたらしい。
たしかにペチュニアがぴかぴかになるまで磨き上げていたことだし、静電気くらい発声してもおかしくはないだろう。
だが、それをどうやったらそんな勘違いするのか。
静電気くらい魔法界でだって起こるだろう! どういう筋道でその考え方に至る!
「下がっていなさいビル。吹き飛ばしてやる」
ヤバい。
「いやちょっと待った!?」
ハリーは駆け出すと同時、玄関のドアを高らかに開け放つ。
ドアの前では杖を構えたアーサー・ウィーズリーの姿が。
魔法式がちらりと視えたが、ドアを爆破するつもりだったらしい。
過激すぎる!
「おおっ、ハリー!?」
「おじさん、マグルの常識ではノックでドアを吹き飛ばすことはしません」
「でもハリー、見てごらんよ。客人を迎撃するドアなんて、魔法界にはない! これが噂の
「そうですね、噂の
「あ、ハイ」
小声で脅し付ければ、ウィーズリー氏は大人しくなる。
モリーおばさんから教えてもらった情報に間違いはなかった。
アーサーと、背の高いハンサムな赤毛の青年、そしてロンの計三人で来たようだ。ロンと目が合った時、一瞬開かれた胸元の方に視線が動いて慌てて逸らされたのをハリーは見逃さなかった。
男の子がそういうものだとはラベンダーやパーバティから耳にタコができるほど聞かされていたが……。なんていうか、とてつもなく恥ずかしい。軽く小突いてから、一足先にリビングへ戻る。
出迎えたのはバーノンの不可解なモノを見る目だった。そりゃそうか。
「ウオッホン。わしがバーノン・ダーズリーです。この度は姪がお世話になるようで。ご迷惑をおかけするがどうぞ宜しくお願いします」
「こ、これはこれはご丁寧に」
アーサー氏がすっかり恐縮している。
普段家の中では親バカ丸出しのバーノンであるが、あれでもひとつの企業の社長なのだ。しかも最近ではフランスのメイソンドリル会社と日本の立花重工と大変仲良くしており、英仏日併せて世界の穴あけドリルになる日もそう遠くはない、国際的な企業なのだ。
その長。威厳があり、そして人を使うことを良く知っているのがバーノン・ダーズリーである。
自称《魔法省の木端役人》であるアーサー氏と比べると、社会的地位と相手した来た傑物のレベルが違いすぎるのだった。
「やぁハリー」
「えっと……?」
まるで上司を相手にしているかのようなアーサー氏を眺めていると、背の高いハンサムが話しかけてきた。赤毛でのっぽという時点でウィーズリー家の誰かだろうとは思うが、会ったことは無かったはずだ。
となると、長男か次男かのどちらかだろう。
「はじめましてかな? 僕はビル・ウィーズリー。あの家における長男坊さ」
そう言って爽やかに微笑むその姿は、思わず赤面してしまいそうになるほどカッコよかった。長髪を後ろで結って流し、何かの牙のようなイヤリングをしている。服装はマグル準拠なのか、ロックバンドでもやっていそうなゴツゴツしたパンクなものだった。
しかしそれにしてもカッコいい。本当にロンと血が繋がっているのだろうか。
「失礼だな」
「おっと悪い。聞こえてた?」
「……ふん」
にや、と笑いかけるとロンがむすっとした顔になる。
どうやらビルの顔に見とれていたとでも思われたようだ。可愛い奴め。
「それでですな、いま私はプラグを集めるのがブームでして! いやはや、おたくもいい
「……え、あ、うん。お、おう」
ひきつった笑みを浮かべるバーノンの目がハリーに向いた。
それは雄弁に「この狂人をなんとかしろ」と語っている。
無視することで溜飲は下がるだろうが、その報復は来年もしくはクリスマスプレゼントに反映される。きっとハリーが介入していなければ、リビングくらいは爆破されていたかもしれない。その程度で済んだことを感謝してほしいものだが、言っても始まらないだろう。
「ウィーズリーおじさん、もう時間なのでは?」
「……ん? ああ、そうか。もうこんな時間なのか。楽しい時間は速く過ぎてしまうから困る。ねぇ、ダーズリーさん!」
「そうだな。だからはよ帰れ、そいつを連れて。帰るんだ、ハリーを連れて。ハリアップ」
「あっはっは、面白いジョークですね! さすがダーズリーさんです!」
「……」
侮辱されたと感じたのか、バーノンの目が危険な色に染まっていく。
これはまずいと思ったハリーは強引に話を切り上げ、ウィーズリー氏にさっさと行こうと提案する。それにホッとしたのはハリーだけでなく、ペチュニアもだった。
なぜか睨み合っていたロンとダドリーを引き剥がして連れて帰ろうとする。
しかしそれに対して、アーサーはなぜかリビングの方へと突き進んでいった。
いったい何をしようというのか……。
「おや? どうして暖炉を鉄格子なんかで塞いでるんです?」
「どうしてって、そりゃ……」
唐突な台詞がアーサーの口から飛び出して、バーノンが面食らう。
帰る。暖炉。この二つが結びつけるものは何だろうか。
「ちょいと失礼しますよ、後で直しますからご心配なく」
アーサーはそういうと、杖をさっと一振りする。
すると暖炉の前の鉄格子が溶けるように消え去ってしまった。
目玉が飛び出さんばかりに驚くバーノンと、魔法を目の前で見て何やらへらへら笑いだしたペチュニアに、得意げな顔を見せるアーサー氏。
……実にまずい予感がする。
「さーて、それではマグルの諸君。不思議な魔法をとくとご覧あれ!」
そう言うや否や、アーサーはポケットから取り出した緑色の灰が入った小瓶らしきものを暖炉の中に投げつけた。
止める間もなく暖炉に叩きつけられて割れたガラスの中から、緑色が飛び散る。そして轟音と共に、暖炉がエメラルドグリーンの火を噴いた。
ちなみにこれ、暖炉を模した電気ストーブである。バーノンが声にならない悲鳴をあげて、ペチュニアが倒れた。ダドリーは未だにロンとメンチを切っていて気づいていない。
アーサーから別の小瓶を受け取り、手の中に一握りの緑灰を受け取ったビルが、ハリーのトランクを持ちながらウィンクする。
「さぁ、ビル。ハリーの荷物を持ってあげなさい。先に手本を見せてあげて」
「分かったよパパ。ハリー、こうやるんだ。よく見てて。『隠れ穴へ』!」
暖炉の中に飛び込んだビルが家の名を叫ぶと、緑色の業火に包まれて消えて行った。
あまりに強い火力が天井を焦がし、ダドリーの写真などといった調度品を吹き飛ばす。
バーノンの顔色がまるで気絶寸前のそれである。怒りのあまり呆然としているからだ。
ハリーの顔色も失神寸前である。笑うべきなのか泣くべきなのか、わからないからだ。
アーサーによってダドリーと額をゴツゴツぶつけ合っているロンの襟首が引っ掴まれて、ハリーも一緒に暖炉の中に詰め込まれる。ロンに密着してしまうが、なんかもうどうでもいいや。
「さぁ行くよハリー」
ロンがハリーの手を握っても、きゅんともドキッともしない。
どこかげんなりしたハリーを連れて、ロンは煙突飛行ネットワークによってウィーズリー家である《隠れ家》へと跳んだ。
ぐるぐると目の回るような感覚のあと、足の裏に押し付けられるように地面がやってきた。
思わずバランスを崩しそうになるものの、ロンの肩に手を置く程度で済んだ。
目を開けて見てみれば、燃えるような赤毛の青年がハリーに手を差し伸べていた。パーシー・ウィーズリー。昨年度ホグワーツを主席で卒業し、今年から魔法省に入省してバリバリ働いている社会人だ。
有り難くその手を取って、ハリーは暖炉から抜け出す。
「いらっしゃいハリー、ようこそ我が家へ」
「「ようハリー! いらっしゃい!」」
パーシーと、その背後から突然現れたフレッド&ジョージが声をそろえて言う。
今日から一ヵ月、ウィーズリー家でお泊り。
去年はシリウスが脱獄したので安全面から見てまず無理だった。一昨年はドビーの魔手に掛かってハリーが入院してしまい、お泊りするには日数がなかった。一昨々年はまずロンと会ってすらおらず話し相手は動物園の蛇だけ。
つまり、ハリーがこの家に泊まるのは初めてなのだ。
魔法使いの家だけあって、あちらこちらに目を向けて視れば様々な魔法式があちこちで魔力を運用している。綺麗な式を表現するようにピカピカに食器を磨いている魔法や、若干式にほつれがあって、六本目の指を作り始めている編み物魔法など、魔法魔法、魔法だらけ。
バーノンがここに来ようものならあまりの異常さに卒倒するだろう。そしてペチュニアが来たらあまりの雑多さに失神するだろう。
そんな、いつまで経っても退屈しない、素敵な家だった。
*
ウィーズリー家にやってきて一泊。
ハリーにはジニーと同じ部屋が与えられたため、起きるとジニーの寝顔が見える。
ここにおいてもハリーは日課のランニングをやめる気はなかった。周辺はずっと自然だらけなので、マグルの目を気にする必要はないわよとモリーからのお墨付きだ。
スパッツにTシャツというラフな格好に着替え、ウィーズリー家の玄関前でストレッチをする。筋肉がほどよく伸びる心地よい感覚がする。
さて、と頬を軽く叩いて走り始めたそのとき。
「いてぇ!」
「え?」
なにかを蹴飛ばしてしまった。
しかも普通に英語で痛いとか言われている。
何かと思って足元を見てみれば、醜いサンタクロースのような生き物が三匹もいるではないか。なにか本で読んだ記憶があるな。《庭小人》だったかな。と思いながら、とりあえずハリーは蹴り飛ばしてしまった者に頭をさげる。
「ごめんよ、気づかなかった」
「きをつけろくそあま! おれぁわるいことしてねーぞ!」
「いや、悪かったよ。でもその呼び方はあんまりじゃない?」
「そうだそうだ! あやまれくそあま! ばーかばーか!」
「ねぇ、その呼び方やめる気はない?」
「へそくらいみたってへるもんじゃねーだろうが! くそあま!」
「そっか。死にたいんだね?」
最初に罵倒してきた一匹に狙いを定める。
かなり勢いをつけた蹴りで彼方まで吹き飛ばして、その姿が見えなくなった。
それを唖然と見送る庭小人たち。
ハリーが唾をぺっと吐き捨てれば、慌てて向き直って揉み手をはじめた。
「いやーおじょうさんおつよいですなぁ! よっ、だいまどうし!」
「まったくまったく! ひっぷらいんもえろくてうつくし――」
「二匹目ーっ」
ハリーの渾身の蹴りがセクハラした庭小人を襲い、その矮躯を木の幹に叩きつける。
最後の一匹となった庭小人は、ついにさめざめと泣き始めた。
今まで仲良くやってきた名も知らぬどうでもいい奴らが、と言っているあたり嘘泣きに違いない。というか英語の発音が下手すぎてよく聞き取れない。
「どうしておれたちをころすんだ! おれたちゃなんもわるいことしてねぇ!」
「害虫っぽいからいいんじゃね?」
「であってすうふんもたたずにそのあつかいか!? あんまりだ!」
「よーし言い残すことはあるか」
ハリーがしなやかな筋肉をつけながらもすらりと綺麗な脚を振りかぶり、庭小人に死刑宣告を下す。それに対して逃げ場がないと思ったのか、ついに媚びへつらった態度をかなぐり捨てて庭小人はハリーを罵り始めた。
「ふざけるなよくそあま、このくそあま! くそあまったらくそくそりん!」
「言いたいことはそれだけかい? じゃあ死ね」
「いやまった、まだあるぞ!」
「早くしてくれない? んで早よ死んでくれない?」
「ないすぼいん。おれそんくらいのおおきさがすきだ」
「うん死ね」
蹴り飛ばす予定を切り替えて、まず踏み付ける。
激しく何度もスタンピングされた庭小人はすでに意識がもうろうとしており、ハリーはそれを足の甲で掬うように蹴り上げた。宙高くほうり上げられた庭小人はハリーのオーバーヘッドキックによって地面に叩きつけられる。その反動でバウンドしたところを、着地しながらハリーが放った回し蹴りによって何度も地面を削りながら遠くへと吹き飛んだ。
いい汗をかいた顔のまま、ハリーはランニングを続けるのだった。
「ジニー、あれが逞しい女の姿よ。見習いなさい」
「いや無理だよママ」
ウィーズリー母娘の声は楽しげに走り続けるハリーには届かなかった。
ランニングを終え、シャワーを浴びたハリーは簡素な私服姿になる。夏も真っ只中なので、ハーフパンツに半袖シャツという色気もへったくれもない姿だ。
最初はホットパンツを穿こうとしたのだが、それはジニーに止められた。
いまさら女の子に困るような奴は(ロン以外)いないために視線を気にする必要はないのだが、いまのパーシーの前で露出の多い恰好はやめた方がイイとのこと。
なんでも、魔法省にはいったことで持ち前の仕切り屋精神が大爆発を起こしたらしく、風呂上りにバスローブで出歩いていたジニーに対して盛大な説教をぶち上げた前科があるらしいのだ。
ジニーよりも女らしく起伏のある体形をしているハリーがラフな格好などすれば、「なんと破廉恥な」とでも言いたげな完璧・パーフェクト・パーシーによって長々と説教を喰らった後に鍋底の厚さの重要さについて講釈をいただくことになるという。
最後の意味が全く分からなかったが、きっと知らない方が幸せな類いのことなのだろう。
「おはようみんな」
階段を下りてみると、寝惚け眼な面々に出迎えられた。
「おあよぅアリー、ジーニー」
「「おふぁようファーリー、ジーニン」」
「君たちそれわざとだろう。おはようハリー、よく眠れたかい?」
「ありがとうパーシー、ぐっすりさ」
ジニーに教えてもらって席に着けば、ばたばたと何やら慌ただしい足音が聞こえてくる。
どうやら寝起きのままらしい、パジャマ姿のアーサーだ。
「おはよう諸君! うん、素晴らしい朝だ!」
「うんおはようパパ。寝癖すごいよ」
「おっと、失礼」
するりと杖を取り出すと、アーサーは杖先で髪を梳き始めた。
頭頂部がちょっと怪しげである。恐らく大事に育てているのだろう。
あまり見ない方がいいだろうなと思ってハリーが視線を逸らすと、モリーが七本目のソーセージをハリーの皿に入れるところだった。
「モ、モリーおばさん。ぼく、そんなに食べられない」
「あらまぁ何言ってるの。そんなひょろひょろしてて、もっと食べないと背も胸も大きくならないわよ! ほら、食べる食べる! イイ女になるためよ!」
「ちょ、ちょっと待って。太る。太りますって」
「私以下のお腹してたら、太ってるうちには入りませんよ」
「ママ。そりゃ無理があるよ」
最終的に十本のソーセージがお皿に並んだハリーは、隣のロンに手伝ってもらってようやく食べ終えることができた。
朝食を終えると、アーサーが仕事に行くのを皆で見送る。
モリーが行う家事の邪魔にならないようにと、ハリーたちは外に出ることにした。
九人家族ともなれば、洗濯物だけで膨大な量になることだろう。魔法を知る前、つまり無理矢理仕事を言いつけられていた頃の自分の洗濯シーンを思い出すと、あまり想像したくないレベルに違いない。
とりあえず《隠れ穴》の外を探検しよう。というまるでプライマリースクールに入る前の子供のようなことをフレッドが言いだし、それにノったジョージがハリーとロンを連れて歩き出した。
マグルの家々は近くにない。あるのは本当に自然だけの、のどかな場所だ。
移動が不便じゃないのかと問うたが、空飛ぶフォード・アングリアがあるし、なにより魔法界出身の魔法使いたちはだいたい煙突飛行ネットワークで目的地まで跳んでいくので、屋内から屋内へ移動するだけで一日が終わることも珍しくないそうだ。
ともあれ。
ハリーたちは森の中を歩いていた。
何をするわけでもないが、それでも友達と一緒にいるのはそれだけで楽しい。
ロンは親友だし、フレッドとジョージは性別を気にするようなタイプではない。
先にボウトラックルが居る木を見つけるゲームをしたり、庭小人同士に木の棒を持たせて勝者のみを生きて逃がす(無事にとは言っていない)ローマの皇帝ごっこをしたり、水着になって川に飛び込んで泳いで遊んだり、ハッキリ言ってはしたないとかそういうレベルを超えて、子供そのものの遊び方をして一日中過ごして回った。
しかしフレッドとジョージはなぜハリーのサイズに合う水着を持っていたのだろうか。
――眩しい。
――何も見えない。
翌日。
早くもハリーがパーシーの地雷に踏み込んだ。
「いいかい? 鍋底の厚さが不均等だとね、いつか市場はぺらっぺらの大鍋で溢れるんだ! それは由々しき事態だ。いいねハリー、君ならわかるね? この法案の重要さが!」
これには、鍋底の厚さがどうだというのだ。というのが皆が持つ共通意見である。
友達の家にお泊りという十年以上憧れてきたことを実体験しているハリーは、楽しくて楽しくて、そして嬉しくて仕方がないためテンションが天井知らずだった。
なので面白がって、わざわざパーシーの意見に反論してみたりもする。
「でもそれは、市場で自然と淘汰されていくんじゃないかな? 質の悪いものは誰だって買わないから、そんなもんを売ってるところは自業自得で消えていくと思うんだ」
「だったら他の大鍋屋がみんな真似したら? ガリオンどころかシックル数枚で大鍋が作れるようになるならそのぶん利益も上がる。君のいたマグル社会と違って、魔法界は物価が安いんだ。だって魔法で作るから人件費がメインだしね」
「真似したところで、示し合わせてこうしましょうとしたところで利益には敵わないさ。ユーザーが質のいいものを求めていたら、どこか一社だけ抜け駆けしたらそれだけでそいつの一人勝ちさ。つまり法案を作るまでもないってこと」
「だけどハリー、これは僕の任された仕事で……」
「ああだこうだ……」
「云々……」
「……」
気づけば太陽が高く上っており、パーシーのお腹からきゅうと可愛らしい音が鳴ったことで舌戦は終わった。
喉が乾いた
ロンがバカを見る眼でこちらを見てきたので舌を突き出して、ハリーは楽しげに笑っていた。
午後。
次男であるチャーリー・ウィーズリーが帰ってきた。
モリーと盛大に抱き合い、頬にキスの雨を降らされたチャーリーは恥ずかしげに笑っている。
ビルと拳を合わせて笑いあう姿は、まるで兄弟というよりは親友のようだった。
チャーリーはウィーズリー家の中でも背が低めである。ロンがもう少しで追い抜くのではというくらいなのだからウィーズリー一族では小さい方なのだろうが、それでもハリーよりはかなり高い。ハリーはジニーにすら負けているのだ。比べるのが間違っている。
チャーリーには、一年生の時にハグリッドが孵したドラゴンのノーバートの件で世話になっている。
ハリーは彼と握手して、再度礼を言った。朗らかに笑うチャーリーは、他のウィーズリー達にはない爽やかなスポーツマンのような空気があった。
「そりゃそうだ、チャーリーは在学中グリフィンドール寮のシーカーだったんだから」
実は、ハリーの先代シーカーなのだ。
ハリーが入学した一九九一年に、ちょうど彼はホグワーツを卒業した。
彼の凄さたるや、ハリーが来るまでは歴代グリフィンドールシーカーで一、二を争うほどではないかといわれていたほどの傑物。それに対抗心を燃やしたハリーは、スニッチを庭に離して捕まえるゲームをチャーリーに仕掛けた。
結果だけを語れば、ハリーの勝ちである。
伊達にグリフィンドールに優勝杯をもたらした女ではないのだ。
しかしチャーリーは、その技量が異常の域にまで達していた。ハリーが箒から飛び出してキャッチするように危険な野郎ダイ・ルウェインすら真っ青なプレーが多いのに対して、チャーリーは箒に尻を乗せたまま易々とスニッチを追い詰めるのだ。
最短コースを選び取る観察眼が優れている。これがハリーによるチャーリーへの評価だ。
先輩選手にコース取りのコツを教わりながら、ハリーは楽しい日々を過ごす。
――緑色。
――笑い声。
翌朝。
朝食にトースト一枚とベーコンエッグを三枚いただいて、ハリーは庭に出た。
今日は庭小人が増えすぎてしまったので、一家総出でその駆除だ。
「ハリーはお客さんだから、休んでてもいいのよ」
「いえ。お世話になってますし、なにより楽しいですし」
事実だった。
ハリーは庭小人の駆除に、快感を感じ始めていた。
ヤバい性癖なんじゃないかなと思わなくもないものの、楽しいものは仕方がない。
そうだ。ここ最近テンションが突き抜けて、奇行に近しい行動にも違和感がない。
暴れる庭小人を縄で吊るし、それを振り回して他の庭小人にぶつける。
その際に裏声で「実ハオ前ノコトガ嫌イダッタノダー!」などと言えば完璧。ハンマー役にされた庭小人は解放されると同時に仲間にタコ殴りにされるのだ。
「ハリーってここ最近かなりクールになったよな。あとファンキー」
「陰湿な攻撃が得意になったのかな。女らしくなってしまって……」
「ねぇフレッド、それアンジェリーナに聞かれたら君ぶっ殺されるんじゃないかい?」
「パーシーは口動かしてないで駆除してくれよ! アイタッ! 噛まれっちまった!」
最後の庭小人が池に沈められた後、ハリーたちは箒を持ち寄って草クィディッチを行った。
チーム《女王様と下僕たち》は、シーカーにハリー、チェイサーにジニー、ビーターにフレッド、キーパーにロン。
チーム《年功序列万歳》は、シーカーにチャーリー、チェイサーにパーシー、ビーターにジョージ、キーパーにビルという構成だ。
審判はいない。反則は自己申告である。
そのルールでやってみたものの、意外や意外、これが面白い。
キーパーをやったことがないロンとビルがあまりゴールを防げないというのもあるだろうが、ジニーとパーシーが優秀なチェイサーだったのがまた意外。
双子はついにクラブで殴り合うし、シーカーは試合そっちのけでデッドヒートしはじめるというカオス・オブ・カオス。日が沈んで、全員泥だらけになって帰ってきてやっと、やり過ぎたことに気付いたのだった。
夜はジニーと一緒にお風呂へ入り、片眼の視力を少々落としてしまったジニーのために眼鏡のカタログを眺めて過ごした。魔法界製の眼鏡には、なぜそんな機能を付ける必要があると魔法族ですら疑問に思う品物が多く、カタログのくせに読んでいるだけでかなり楽しかった。
――緑が命を貪り尽くす。
――ごとりと何かが落ちていった。
翌日。
ハリーは目が覚めると、汗びっしょりだったことに気付く。
隣でジニーがすぴすぴと寝息を立てており、一緒に寝たのが原因かなと考える。
シャワーを借りようとしたものの、パーシーが甲高い悲鳴と共にタオルで身体を隠している姿に遭遇してしまった。見なかったことにして彼を追い出し、さっさとシャワーを浴びる。
身体を拭いて新たしい服に着替えて出ると、ふわふわの栗毛が抱きついてキスをしてきた。
今日は、《隠れ穴》にハーマイオニーが来る日なのだ。
「久しぶり、ハーマイオニー」
「まるでもう何年も会ってないみたいだわ」
二人でぎゅっと抱き合い、互いの頬にキスをする。
その際に内心で女の戦いを終えたことは、ジニーとモリー以外気付かなかっただろう。
敗北感に打ちひしがれるハーマイオニーと、優越感に浸るハリーがそれぞれ席に座る。
相変わらず寝間着のままのアーサーがやってきて、朝食が始まった。
ハムとレタスを挟んだパンを頬張って、モリーが言う。
「今日は学用品をさっさと買いに行きますからね。いつもより一ヵ月近く早いけど、そうしておくことで後願の憂いを断つってやつですよ」
「はーい」
ダイアゴン横丁まで煙突飛行で到着する。
モリーおばさんたちもお金をおろすらしく、とりあえずはハリーとハーマイオニーのために、グリンゴッツへ向かった。四年生の教科書はずいぶんと実践的な内容で、少々値が張るのだ。
ビルがここで働いていることを聞いて、ハリーは驚く。
「グリンゴッツって人間も働けるんだ?」
「そうだよ。ただ、金勘定とかはゴブリンたちの方が得意だから、いくら受付は可愛い女の子が常識って言ってもグリンゴッツだけは違うのさ」
「ところでビルはお仕事いいの?」
「休暇さ。同僚が働いてるのに目の前で休むってサイコーゥッ!」
こいつは最低だった。
銀行で財布を肥やした一行は、それぞれの場所へ向かって行った。
モリーは全員分の教科書を買いに。ビルとチャーリーはリストに書かれた、フラスコや羽ペンなど学用品の買い足し。アーサーとロンはオリバンダーの店へ、シリウスがペティグリューとの戦いでロンの杖を消滅させてしまったために新しい杖を買いに。ハリーとハーマイオニーは、新しい制服を買いに行ったのだ。
「あらハリーちゃん。来てくれたのね、今度のズボンはしゅっとしてスタイリッシュになってるわよ」
ずんぐりした菫色のローブを着た魔女、マダム・マルキンが言う。
一年生の時、男の子と間違えられて以降ずっとハリーにズボンを仕立て続けているご婦人である。確かに着心地はいい。
しかし、今年は違うのだ。
「マダム。今年はスカートをお願いします」
「うん? いいのかいハリーちゃん。二年生の時、一年間ズボンに慣れたからスカートはひらひらして嫌って言ってたけれども」
「……頑張るよ」
「油断してるとパンツみられるわよ?」
「…………スパッツを用意している」
そう、今年度からハリーはスカートを穿こうと考えているのだ。
紆余曲折あれど、昨年度の体験からハリーは自分がもう完全に女性として成長していることを自覚した。胸も下着が必須なサイズになっており、しっかり腰もくびれている。
ボーイッシュな雰囲気はあれど、もはやハリーを男の子と見間違う者はいないだろう。
気持ちを改めるためにも、ハリーはズボンからスカートに変えることにしたのだ。
「ま、心境の変化ってやつだわさね。一応ズボンも完成しちゃってるから、これはプレゼントしちゃうわ。新学期もがんばってね、ハリーちゃん」
「ありがとう、マダム」
微笑ましげな顔でマダムは送り出してくれた。
私服で時折スカートを穿くものの、座るときに下着が見えないように気を付けねばならなかったりと、ハリーからすると何のためにあるのか分からない衣服だった。
照れ臭そうにはにかんで、ハリーはマダム・マルキンの洋装店を後にした。
「見てよハリー、ハーマイオニー! ほら、僕の新しい杖!」
「おお、ちゃんと新品じゃないか」
「前のはお下がりだったって言ってたわよね。杖のお下がりってアリなのかしら?」
杖とは持ち主との相性で決まるもの。
古くなったから新しいものに乗り換えねばならないといったものではなかったはずだ。
それに、前の持ち主が困るだろう。
「前の杖は、お偉いお偉いお兄様方からのお下がりだったんだけど、でもそっちでも既にお下がりだったんだよね」
「その前は?」
「アー、うん。ママのお兄さんの杖だったんだけど……ホラ、当時の世の中的に……」
「ご、ごめんなさい」
「僕は別にいいさ。だって会ったことないんだもの」
「じゃあ、その新品の杖こそが、ロン本来の杖になるってわけだ」
そんな状態でこの三年間を生き残ってきたと考えると、ロンもかなり怪物的だ。
杖は持ち主を選ぶというのは魔法族にとって常識。そしてオリバンダー曰く自分を主と認めていない杖を使っても実力の半分も出せないのだとか。
無論怪物的なのはハーマイオニーにも言えること。去年の彼女の成績は一〇〇点満点中、六三一点などというワケの分からないことになっている。当然主席だ。結果を聞いた次席のドラコが唖然としていたのを覚えている。
その唖然としていた少年も目の前にいるわけだが。
「マルフォイィィ……」
「ウィーズリィィ……」
額と額を擦りつけ合って互いのデコの広さを用いて威嚇しているオッサン二人は放っておいて、ハリーはドラコに微笑みかける。フンと鼻を鳴らされてしまった。
親父同士が張り合っているその横で、六男坊と次男坊もまた張り合っていた。
困ったように笑っているのは、きっとミセス・マルフォイだろう。ドラコ達と髪の色が同じで、美しいプラチナブロンドをしている上品な婦人だ。
「よォうマルフォイ。お元気? ひどい風邪でもこじらせればよかったのに」
「やァウィーズリー。相変わらず貧乏臭いったら。寂しい休暇のようだしね」
燃えるような赤毛とプラチナブロンドのオールバックでどつき合う二人を呆れた目で見るドラコ。新しいしもべ妖精だろうか、または元からマルフォイ家のお屋敷に居たのだろうか、随分と屈強なしもべが……いやちょっと待てアレ本当に屋敷しもべ妖精か? ドビーが百匹飛び掛かろうと挽肉にできそうな筋肉の鎧をまとってるんだけどアレほんと何?
ハリーの当惑した視線に気付いたのか、ドラコが口を開く。
「ポッター。こいつが気になるのか?」
「そりゃもう」
「屋敷しもべ妖精のマクレーンだ。以前おまえに迷惑をかけた……アー、トービンだっけ? その元同僚だよ。ハッキリ言って彼は仕事ができるから待遇もアレとは大違いだ」
ハリーはその言い草に驚いた。
ドラコは屋敷しもべ妖精を蔑むような、典型的な純血貴族だ。
だというのにマクレーンに対しては随分と評価が高い。
それを察したドラコは、またも鼻を鳴らしながら言う。
「能力の高い者には相応の対応を。マルフォイ家における礼儀だ」
「ドラコ、行くぞ。用意をしなくてはならない」
ハリーとの話もそこそこに、ドラコたちはマルフォイ夫妻に連れられて行ってしまった。
ロンとスコーピウス、アーサーとルシウスの額が赤くなっていたが気にすることはないだろう。
ウィーズリーご一行様プラス女子二人は、煙突飛行で《隠れ穴》へ戻る。
あと、一週間。
――、……いよいよだ。
――始めるぞ。
翌日、早朝五時。
寝惚け眼で起き上がったハリーは、何か恐ろしい夢を見ていたようで荒い息を整えるのが一日の最初の仕事だった。
両隣で寝ていたはずのジニーとハーマイオニーの姿がないことに気付く。
とりあえず短パンとシャツに着替えると、適当なタオルを持って家を出た。
鶏からタマゴを取っていたモリーおばさんに挨拶すると、妙に慌てたあとに返事を返される。いったい何をそんなに慌てていたのだろう。
ランニングの最中、なにやら大きな包みを持ったビルに出会う。彼もまた慌てていた。
折り返し地点の大きな栗の木の下で、チャーリーとパーシーの二人組に出会う。彼らは落ち着いていたものの、目を見ると動揺しているのがわかった。しばらくそこの原っぱでストレッチをしていたものの、二人はずっとそわそわしていたのが不可解だ。
《隠れ穴》に向かって駆け出してしばらくすると、空をフォード・アングリアが飛んでいた。アーサーとハーマイオニー、ジニーの横顔が見えたので大声で呼びかけて手を振ると、ハンドル操作を誤ったのか大きくぐらついて女子三人分の悲鳴が空に響き渡る。
マグルの町を通るとき、フレッドとジョージに出会った。二人はなにか悪戯をする前のような笑みを浮かべており、嫌な予感はしたものの特に何もされずに済んだ。別れを告げて走り出した際に、何かホッとしたような雰囲気を出されてしまう。何故だ。
ウィーズリー家にたどり着き、汗をタオルでふき取ってシャワーを浴びに風呂場へ行ったとき、ロンに出会う。パンツ一丁という素っ裸直前で大慌てするロンを更衣室から放り出し、火照った頭をシャワーで冷やした。
モリーがなにやら料理をしていたので手伝いを申し出るも、特に必要ないと言われたのですごすご宛がわれたジニーの部屋に戻る。更にはアーサーの用事があるので、朝食はちょっと遅めの八時頃になるとのこと。
時刻は朝の六時半。毎朝五時に起きる自分が言うのもなんだが、みんなちょっと早過ぎやしないだろうか?
「……うわ、暇だ」
ハーマイオニーもジニーもいない。
暇つぶしの相手になってもらったロンも、十分ほど会話しているとモリーに呼ばれてどこかへ行ってしまった。
ロンの部屋の屋根裏に《グールお化け》なるものが居るらしいので、好奇心から見に行ってあまりの醜さに後悔したり、ロンのお気に入りコミックらしい《マッドなマグル、マーチン・ミグズの冒険》を読んでみるも、あまり面白いとは思えなかった。
何故だろうか。七月後半になってウィーズリー家に来てから、幸福値が振り切れているからだろうか、こういったふとした空白の時間が寂しくて仕方ない。
「ハリー」
アーサーの車の音が聞こえて数分後、八時を少し過ぎて。
ハーマイオニーとロンが呼びに来た。
暇すぎるあまりに宿題を片付けていたハリーは、それで顔をあげる。
ハリーは嫌なものはさっさと片付けるタイプなので、残るは一番得意な闇の魔術に対する防衛術の宿題のみだ。それも半分ほど片付けたので、羊皮紙のインクが乾くように、昨年のクリスマスプレゼントであるハグリッドの手掘り文鎮(バックビークにそっくりだった)を乗せて、ハリーは部屋を後にする。
気のせいかもしれないが、二人がなんだかわくわくしているような雰囲気を見受けられる。
首を傾げながら、ハリーがリビングに入る。
すると。
「「「ハッピー・バースデイ、ハリー!」」」
たくさんのクラッカーの音と共に、色とりどりの光球がぽんぽんと跳ねた。
驚いて目を丸くするハリーの肩を優しく叩く者、、乱暴に叩く者、それぞれが祝いの気持ちを込めてゆく。
未だに驚きから抜けられないハリーは、ぼんやりと部屋を見渡した。
紙テープなどで飾り付けがされており、魔法で創りだしたのだろう小さな蛇や獅子がそこらへんを踊りまわっている。蛇を入れたのはハリーの趣味に合わせてだろうか。ああ、間違いない。蛇の尾を持つ大鹿までいる。
天井を踊っているのは何も蛇や獅子だけではなく、『HAPPY BIRTHDAY HARRIET』との文字までゆらゆらと揺らめいている。
ロン、ハーマイオニーがハリーの肩を軽く叩いて、席に座るよう促す。
アーサー、モリー、ビル、チャーリー、パーシー、フレッド、ジョージ、ジニー、ロン、ハーマイオニー。みんなが笑顔で、本当に嬉しそうにハリーの誕生日を祝福してくれている。
そうか、とハリーはカレンダーを見て納得した。
そういえば今日は、七月三一日は、ハリーの誕生日だ。
モリーが杖を一振りすると、姿を隠していたらしきバースデイケーキがあらわれた。チョコレートプレートに手書きで『生まれてきてくれてありがとう。十四歳おめでとう』と書いてある。
バースデイソングを皆が歌う中、ハリーは嬉しさのあまり涙を流してしゃくりあげながら、ろうそくの火を吹き消すのだった。
幸せだ。
幸せすぎる。
ハリーは満面の笑みで、フルーツケーキを口に放り込む。
それはとても甘くておいしくて、そしてふわりと口の中に溶けて消えた。
*
ハリーは古めかしい木でできた床を這ってやってくる蛇を見ていた。
視点が低い。
理由は、ソファに座っているから?
でもそれにしても低すぎるような気がする。
知らない部屋だ。見たこともない。
今、ぼくはどこにいるのだろう?
ああ、そうだ。パーティのあと、幸せいっぱいに眠ったなぁ。
(そっか。これ、夢だ……)
大きくて太い。だがどうも間が抜けており、廊下に置かれた木箱にぶつかってちろちろと舌を出して迷惑そうに抗議しているのが可愛らしい。
右隣を見る。
暗くて顔が見えないが、男が二人いる。
互いに仲良く喋っており、ワインを飲んでいるようで話が弾んでいるようだ。
左隣を見る。
あれ、あいつペティグリューじゃないか。
男たちが注文したらしい料理を両手に持って、二人の前に大皿を置く。
どうやらパスタのようだ。二人がそれを食べると、どうやら褒められたらしい。
ほがらかに笑うワームテールの姿は、まるで十年来の親友と語らっているようだった。
なんだかハリーも楽しくなってきた。
彼らの団欒を見ていると、胸のあたりがじんわりと暖かくなって、
殺したくなってくる。
「なぁワームテール。準備は万端だろうな?」
「もちろん、抜かりなく」
「お前ェがそう言うと怖いねえ。よっ、悪戯仕掛人!」
「やめてくれ、そりゃもう汚名だよ」
ハリーが見たワームテールの姿は、怯えて媚びへつらう姿のみだった。
だからなのか、違和感がひどい。
普通に語り合っているような姿なのに、それが異常に思えて仕方がない。
「ハリエット・ポッター、ねぇ」
「順調に成長しているようだな」
「そうだなぁ。ありゃぁかなりの腕前になってるみてぇだぜ。並みの死喰い人なら出会った瞬間さようならってェやつだ」
「正直私では敵いそうにないくらいだよ」
「ずいぶんと弱気じゃないかワームテール。お前、シリウス・ブラックの野郎と渡り合えるんだろう?」
「それは奴が有り難い有り難い親友サマだったからさ。奴の動きは熟知しているが、ポッターめはそうじゃない。だから、私じゃ無理だ」
ハリーの話をしているようだ。
随分と高評価を貰ってはいるが、嬉しくはない。
ワームテールが居るということは、つまり彼らは死喰い人だろう。自分が狙われる要素を増やしてくれたとしてもまったく嬉しくないのだから。
むしろ弱っちい女の子とでも思ってくれていればよかったのに。
そうであれば、油断した隙に心臓に穴をあけてやれた。
『おまえたち』
ハリーの口から、闇の底から響くような恐ろしい声が出る。
パーティで声が枯れるほど騒いだからかなと思うが、これは夢の中だと気付く。
しかしあまりにも内容が鮮明だ。
これは本当に、夢なのか?
『外にお客人が来ているようだ。迎えて差し上げろ』
ハリーがそう言うと、談笑していた男のうち一人がぱっと消滅した。
視界が流れる。
目玉を無理矢理動かされているようで気持ち悪い。
消滅したはずの男はいつの間にか部屋の外へ出ており、一人の老人を連れて部屋に入ってきた。老人は足を悪くしているのか、杖を突いてたどたどしい歩き方をしている。
「わしは聞いたぞ」
老人がしわがれ声で言う。
「きさまたちが、ハリエット・ポッターっちゅう女の子を殺す計画を立てているのをな! 人殺しは許されん。すぐに警察に通報してやる!」
そういった怒鳴り声に、男三人とハリーは笑い声をあげる。
なにがおかしいと激昂する老人に対して、ハリーは言う。
『ああ、ご老人。愚かなる老マグルよ。あなたはそれを行うことはできない』
「わしを殺すつもりか!? いいぞ、殺せ! わしが帰らないことで妻が不審に思うに違いない!」
『嘘を吐くなよ、ご老人。あなたに奥さんはいない。そうだろう? 婚約者に逃げられてからは、一人寂しく半世紀以上を生きてきたんだもんなあ』
「な……ッ、え……? な、なんでそんなこと……」
見るからに狼狽する老人を、男たちはせせら笑う。
さーて。とハリーが合図するとワームテールが老人の腕を押さえつけた。
短い悲鳴を漏らした老人を嘲笑うと、ハリーは冷たく言い放つ。
『殺せ』
緑の光。
老人が目を閉じることはもうなかった。
何も映さないガラスのような目玉が、ハリーの姿を恨めし気に映している。
そこには豪奢なソファに座った、黒い髪を揺らした、小さな赤ん坊がいる。
まるで蛇のような目だ。
ハリーには見覚えがあった。
あれは、あの目つきは――
*
「ハリー、朝よ。起きて」
寝惚け眼で起床すると、既に着替え終えたハーマイオニーの顔が見えた。
酷い夢を見た。
だが、おそらくあれは現実で起きたことだろう。
妙な確信だが、それがわかる。
どこか遠くで一人の老人が殺されてしまった。
ハリーに何かが出来たようには思えないが、それでも見捨てたようで胸がむかつく。
なんだかやるせない。
「まだ寝惚けてるの? 珍しいわね。とりあえず早く着替えなさい、あと四〇分で時間よ」
「……何の時間だっけ?」
「呆れた。本当に寝坊助さんなのね。忘れたの?」
ハリーのとぼけた声に、眉を下げて溜め息を吐くハーマイオニー。
タータンチェックのワンピースと白いタイツ、可愛らしいブーツを穿いた彼女は、笑顔で言った。
「クィディッチワールドカップの観戦でしょう?」
【変更点】
・原作ほど自信家ではないハリー。自分の力に疑問。
・ダーズリー家が爆破を免れ、ダドリーが無事。
・ドS趣味に足を半分突っ込み始めた瞬間。
・ついにハリーもスカート着用。
・ロンに新しい杖。
・初めて盛大に行う誕生日パーティ。守護霊十個分の幸せ。
・今なら死喰い人増量中。
四作目、炎のゴブレット編です。
大本は原作沿いですが、本作からは物語のズレが致命的なレベルになります。原作との違いをお楽しみいただければ幸いです。
紳士淑女の諸君のために言いますと、ハリーはもう完全に見た目女の子です。大きいぞ!
思春期を迎えて大変な中、四年目の試練もいっぱい頑張ってほしいです。
次話はぶっ飛んだクィディッチができるぞ!