ハリー・ポッター -Harry Must Die- 作:リョース
ハリーはなんの躊躇いもなく杖を振るった。
血の色めいた霧が渦巻き、紅槍を五本ほど創りだすと同時に射出。
死喰い人と思わしき集団はどよめきながらも、自らの頭を目掛けて飛んでくるそれを杖で防御した。慌てながらも無言呪文を用いているあたり、やはり技量は高い。
幾人かが舌打ちと共に『姿くらまし』してその場から逃げ去る。
それを見てハリーが激昂した。
「逃げるな、卑怯者っ」
普段のハリーならば言わないような言葉が飛び出る。
それを聞いた死喰い人らしき者のうち一人が、せせら笑うような声と共にこちらへ駆けてきた。
――速い。
身体強化を使っているようには見えないが、足元が黒い霧で覆われている。
恐らくあの時ペティグリューが使った、空を飛ぶ魔法と同じものだろう。視れば魔法式も似ている。だが細部が違うのは、きっと使用者の身体情報がかかわっているのかもしれない。
まぁ今はそんなもの関係ない。
ハリーは急いで魔法式を解析して、もっとも脆い部分を突くためによくよく視る。
「ッヒャァォウ!」
甲高い奇声をあげて、大きく左手を振るってくる死喰い人。
その爪へちらりと視線を向ければ、指が硬化して刃のようになっている。
グレイバックか? とも思ったが、中身が誰だろうと構うまい。
やることは変わらない。
「『ラミナノワークラ』、刃よ!」
ハリーの杖が白銀の輝きに覆われ、一振りの短刀を形成した。
身体強化は使用していないが、ハリーが考案してシリウスに手伝ってもらい完成したこの呪文独自の魔法式がある。
「んな、に……ッ」
ハリーが刃を振るうと敵の爪がはじかれ、バランスを崩した死喰い人は大きく体勢が崩れる。
勢いを殺さずそのまま回転し、たたらを踏んだ死喰い人の鼻を横一文字に切りつけた。
宙を飛ぶ鼻血と、悲鳴をあげる死喰い人。それを一切意に介さず、ハリーは返す刀で敵の肩から腹までを一直線に裂く。ローブに何か特別な処理でも施していたのか、切り裂くことはかなわなかったが痛手は負わせた。
地を蹴って距離を取るハリーは、着地する前から練り上げた魔力を用いて、着地と同時に無言呪文で『武装解除呪文』を放つ。ばち、と激しい音と共に男の爪が元の柔らかい人間の手に戻る。余剰魔力で吹き飛ばされた男は、二人の戦いを見守っていた死喰い人たちの足元に転がっていった。
「
「落ち着けグレイバック。恐らく今のお前では敵わんぞ」
「
やはりグレイバックだったか。
ハリーが杖を向けて戦意を漲らせている中、長身の死喰い人がこちらを見て満足そうに溜め息を吐いたのを感じた。
話し声のところどころに魔力を感じる。魔法で声を変えているのか?
訝しがるハリーを放って、その死喰い人はグレイバックに話しかける。
「退くぞ。姫君はご立腹のようだからな」
「ふ
完全に怒りで我を忘れているグレイバックを見て、数人のこった死喰い人が肩を竦める。
まるで学内で喧嘩を始めた生徒を見て呆れているかのようなその姿に、ハリーは理不尽なまでに言いようのない怒りを感じた。
どうして自分がここまで怒っているのかも分からなくなった頭のまま、叫ぶ。
「次は誰だ! こい、こいよ悪党ども」
ハリーの絶叫を鼻で笑った死喰い人たちが、次々と『姿くらまし』して消えてゆく。
追いかけようとするも、足元に魔力反応光が着弾したのでハリーは足を止める。
先ほどグレイバックを諌めた死喰い人が、髑髏仮面の上からでもわかる嘲りの笑みを浮かべてこちらに杖を向けていた。
「お転婆姫もよろしいですがな、もう少しお淑やかにしてもらわねば困りますぞ」
「黙れ!」
ハリーの放った失神呪文はしかし、『姿くらまし』されて外れた。
付添姿くらましで消える際に、グレイバックがこちらを憎悪の目で睨みつけているのがとても印象的だった。
周囲から髑髏仮面の集団が消え、一気に静けさが戻る。
テントの残骸の傍にいたハーマイオニーとロンが、こちらに駆け寄ってくる。
心配そうな顔と、怒った顔の両方を器用に浮かべており、ハリーはやってしまったと反省した。
「ハリーッ! どうしてあんな馬鹿な真似を!」
「馬鹿な真似って、えっと、その」
「どうしちゃったんだよハリー。君あんなに過激な女の子じゃないだろう?」
「あう……」
顔から火が出るようだ。
いまとなっては、どうして突発的に襲い掛かるほど怒りに燃えていたのかわからない。
ただあの髑髏の仮面を見た途端、守らなくてはという過剰な気持ちと許せないという異様な怒りが体中を支配していた。まるで最愛の人を守るべく立ち上がった時と、最愛の人が殺されて尚守るべき者を守り続けるという強い意志がごちゃ混ぜになったかのような、とても奇妙な気持ちだった。
あれはなんだったのだろうか。
まだハリーに経験はないが、きっとあれは愛の気持ちだ。
確かにハリーはハーマイオニーとロンに愛情を感じている。だけどあれは、何だろう。親友に向けるそれとは違ったような気がする。あれではまるで、異性に向ける愛だ。
ハリーはロンの心配そうな顔を見た。
出会った時より成長して、青年に近づいているがやっぱりマヌケ面だ。
ぼくが彼に恋をしている? まさか。あほらしい。
「ロン、きみってあまりハンサムではないよね」
「いきなり何だこんにゃろう」
ヘッドロックをかけてくるロンに、ハリーは笑いながらごめんと言う。
これだけ体が密着するようなことも平気でできるのだから、異性に対する態度ではない。たとえここでロンが急に胸を触ってきても鼻に一発叩きこむだけで許せるだろう、というくらいには怒らない自信がある。
ただきっと、さっきのは親友に対する愛情を勘違いしただけなのだろう。
「とりあえず、おじさまたちを探しましょう。未成年だけじゃ魔法を使えないし、危ないわ」
「さっきぼく思いっきり魔法使ったけど」
「あれは非常事態だからいいんじゃないかしら? 現に魔法省から手紙が来ていないでしょう」
「フレッドとジョージも言ってたみたいだけど、未成年が魔法使った時の手紙ってそんなにすぐに来るものなの? 調査してからとかじゃないんだ」
「…………そうみたいね」
「……ハーマイオニー。きみ、なんで知ってるの? 僕もフレッドとジョージのを見るまでは知らなかったのに」
「……………………本で読んだのよ」
「……そうかい」
それ以上は言わぬが吉だろう。
黙り込んだロンを見て、ハリーは笑う。
さて、とハリーが言うのを聞いて、二人は向き直る。
周りはまるで竜でも暴れたかのように滅茶苦茶になっており、廃墟同然だった。
これではもはやお祭り気分など味わえないだろう。既に逃げ去ったのか、誰一人として姿が見えない。
……いや待て。姿が見えない?
「……ハーマイオニー、ロン。静かに聞いて」
ハリーが小さな声で囁く。
只事ではないと感じた二人も大人しく言うことを聞いた。
なにかを感じる。理屈ではない、感覚でなにかの存在を感じてしまう。
「……、……『ステューピファイ』!」
ハリーが虚空に向けて失神呪文を放つ。
それは何もいないはずのところに当たり、霧散した。
なにかくぐもった声が聞こえる。
――間違いない! 何者かが姿を隠していたんだ!
「出てこい! こちらには杖があ――『プロテゴ』! く、っそ!」
ハリーの忠告の最中に、何もないはずの空間から魔力反応光が飛んできた。
魔力反応光の状態では視づらいが、どうやらかなり過激な呪文である構成が見えた。ただの『武装解除』ではないようだ。盾の呪文を貫いて、ハリーの右肩に直撃する。
弾かれた杖がそこらへんに転がってゆく。油断したつもりはない。相手は戦いに優れた人物のようだ。
そしていまの強力過ぎる『武装解除』は、きっと自己防衛に使うようなものではない。完全に敵対した者が使う類いの魔法である。
そうしてまた飛んできた魔力反応光に、ハリーはハーマイオニーの名を叫ぶ。
「『プロテゴ・アペオ』、逸らせ亀の甲!」
ハーマイオニーが叫ぶと同時、半透明の薄緑色のドームがハリーたちを覆った。
姿を消した不審者が放った魔力反応光がドームに当たると、つるりと滑ってあらぬ方向へ飛んで行った。動揺した気配が伝わってくる。今がチャンスだ。
「ロン!」
「『ステューピファイ』!」
ロンの放った魔力反応光が、ばちっと爆ぜて効果を示す。
手ごたえがあった!
敵を仕留めた達成感が湧いて出てくるものの、それは次に目の前に広がった光景によって霧散してゆく。不審者が苦し紛れに放った呪文なのか、青白い魔力反応光が空へ向かって飛んで行ったのが見える。
それは空高く舞い上がって、どんと花火のように爆発した。
しかし現れ出たのは花火などという美しいものではなく、蛇を吐き出す髑髏という禍々しくも恐ろしいものだった。
「あ、ああ……っ」
隣にいるロンが怯えた声を出す。
どうしたのかと思って見遣れば、ロンは空に浮かぶ髑髏を指差して震えていた。
なにか有名なしるしなのだろうか。蛇と髑髏という時点でいい予感はしない。
「《闇の印》だ!」
「なんだいそれ」
「《例のあの人》と死喰い人の印だよ! じゃ、じゃあ、いまハリーが戦ってたのは本物の死喰い人? う、うわあ……」
とんでもないやつだな、と言いたいのが視線だけで分かる。
少し不機嫌そうな顔をしたハリーの頭をハーマイオニーが撫でる。
それで少し落ち着いたハリーは二人と一言二言相談し、とりあえず姿を隠したままの下手人の正体を暴こうと決めた。失神呪文が当たった以上心配はいらないが、杖を突きつけながら近づいた方がいい。
そう判断して杖を取りに行こうと思った矢先。
ハリーは敵対者の存在に気付く。
この暗い中、ハリーが咄嗟に気付けたのは、偶然に過ぎない。
「――っ」
周囲に魔力式が散見された。
あれは座標指定の式だ。魔力が固定される式も着々と流れ込んでおり、誰も魔法を発動させるような人物がこの場に居ない以上、そして魔力を発する生物の存在を感じられない以上、何者かがこの場に『姿あらわし』するということに他ならない。
スローモーションのように式が構築される様を視たハリーは、二人に対して咄嗟に叫ぶことしかできなかった。
「二人とも伏せて!」
この唐突な叫びに、ハーマイオニーもロンも即座に対応した。
彼女たちとて、同じく三年間の恐ろしい試練を乗り越えてきた魔女と魔法使いだ。
このくらいの反応はできて当然であり、ハリーもそれを信じている。
空気を押し出して人間という巨大な物質が出現する際の、独特な音と共に現れた魔法使いたちは既にこちらに杖を向けていた。
「「「『ステューピファイ』!」」」
赤い閃光がハリーたちの頭上を通り過ぎて、交差点で交わって爆発した。
低く伏せていたハリーたち三人に影響はない。
ハリーはその低い姿勢のまま、地面を滑る蛇のように疾駆して一番手近な魔法使いに狙いを定める。一瞬だけ確認した限り、特に髑髏の仮面をつけているわけではないようだ。だが、未成年に対して失神呪文を放ってくるような輩など『まともじゃない』のだ。
よって、一切の容赦は必要ない。
「はぐっ!?」
ハリーが接近した長身の魔法使いは、ハリーが少女であることに驚いたのか一瞬だけ反応が鈍った。その隙を見逃さず、ハリーは一切の加減なしで男の股間を蹴り上げる。
物悲しげな短い悲鳴と共に男が崩れ落ちようとするものの、ハリーはそのまま男の右のふともも、腹、右肩を足場にして駆け上がり、頭に手を置いてそこを基点に逆立ちをやってのける。直後、男に失神呪文が着弾した。恐らくハリーを狙ったものだろうが、遅い。
男の手から滑り落ちそうになる杖をキャッチして、ハリーはさらに男の頭から跳び、宙で身を縮めて回転しながら無言呪文を用い、失神呪文を乱射する。運よく二人ほどに着弾したのを確認したハリーは、着地と同時に柔らかい身体を活用して寝そべるように地に伏せた。
ギリギリの場所を赤い魔力反応光が通り過ぎるのを感じながら、ハリーはさらに近場の男を狙う。
今度は相手も油断しなかったようだ。ハリーが股間を狙って放った蹴りを、腰を落とすことで腹筋を使って受け止め、屈強なパワーに任せてハリーの腕を掴むと地面に押し倒した。しかしその体から一気に力が抜ける。ハリーが無言呪文で『全身金縛り』をかけたのだ。
「『アニムス』」
小声で呪文を唱え、ハリーは自身の身体を強化する。
自分の杖ではないからか、あまり効きがよくない。魔力運用も荒い以上、そこまで長時間戦い抜くことはできないだろう。つまり、短時間で無力化するしかない。
ハリーを狙って『失神呪文』と『武装解除』が飛んできたので、ハリーは迷わず自分の上に圧し掛かっていた男を盾にする。周りから見れば、少女が男に覆いかぶさられて身動きのできない状態だったはずだ。
飛び掛かろうと近寄ってきた女と男が、華奢な少女が屈強な大男を軽々と扱う姿に驚いたのか、一瞬動きが止まる。隙を見せた二人組目掛けて、ハリーは大男の身体を銃弾代わりに蹴り飛ばした。
巻き込まれて吹き飛んだ二人を無視して、ハリーは杖から白煙を噴きだす。目晦ましだ。
「がァッ!?」
「どこだ! どこに、ぐっ!」
視界を塞がれて大慌てする者達の背後から近寄り、ハリーは渾身の手刀を首に打ちこんでゆく。上手く気絶させることはできていないので、きっと鈍器で頭を殴ったのと似たような結果だろう。
この煙の中、ハリーとてもちろん見えてはいない。だが、魔法式ならば視える。攻撃しようと、状況を打開しようと魔法を使えばハリーには丸わかりなのだ。
目の前に見えた黒いローブの男の股間を背後から蹴り上げて打ち倒し、ハリーの位置を補足したのか女が杖を向けてきたものの、その杖腕を蹴り上げて杖を弾き飛ばすと、遠慮なくその胸に拳を打ちこんで吹き飛ばす。
「――――、」
なにか四足の者が駆け寄ってくる音が聞こえる。
身体強化の効力が弱まっているのを感じる。そろそろ切れる、もう頼れない。
煙の合間からハリーの匂いをたどってきたのだろう、黄金のたてがみを振り乱して大きなライオンが牙を剥いて飛び掛かってきた。ハリーはそれを横に転がって躱し、振り向きざまに『失神呪文』を叩きこむ。
直後、失策だと悟った。
ハリーの放った魔力反応光を見たのだろう、魔法式がすべてこちらに集中したのを感じたからだ。
こちらの位置に気付かれた!
「『フィニート』!」
女の声で『停止呪文』が唱えられると同時、まるで窓の汚れを拭うように煙が消え去った。
倒れたライオンのすぐそばに居たハリーの目の前には、恐らく『停止呪文』を使ったであろう魔女がいる。互いに一メートルも離れていない、超至近距離だ。
視線の交錯は一瞬。
そして行動に出る速度も互いに同程度。
「……ッ」
「――!」
互いに互いの心臓へ杖を突きだす。
少し意思を込めれば、互いに互いの意識を奪うことができる状態。
しかしハリーには、既に六以上の杖が向けられていた。
そのすべてが背後、左右など、致命的な場所を狙っている。そして恐らく上空にも一人、こちらに杖を向けているだろう。魔力式を視たところ、狙撃魔法だろうか。
……これまでか。
ハリーはそう悟り、無駄な抵抗はしないと示すために杖を投げ捨てた。
そうすることで目の前の魔女の顔を見る余裕が生まれたが、その顔を見てハリーは驚く。
向こうもハリーのことに気付いたようで、その半開きの目をできる限り見開いていた。
「は、ハリー! 貴方だったのですかぁ!?」
「ハワード!? なぜ襲撃を!?」
昨年度ハリーの護衛をしていた、アンジェラ・ハワード。
彼女が襲撃犯たちの一人であったことに、ハリーはショックを受けた顔をする。
そして右から杖を突きつけている人物の一人にも見覚えがあった。黒人の闇祓い、キングズリーだ。彼もまた驚いた顔をしている。
しかしそうなると、どうして闇祓いがハリーたちを襲撃していたのだろう。
彼らはむしろ、ハリーを守る側ではないのだろうか。
「み、みんなストップでぇす! この子ハリー・ポッターですよう!」
「証拠は?」
「え? 証拠……証拠……、えーっと?」
「ハワード。ホラ、アレ」
先輩闇祓いに詰め寄られて冷や汗をかくハワード。これだけほんわかした人間でも、やはり目上の人間が不機嫌だと嫌な気分になるのだろうか。
思いついたロンが囁くと、ハワードが柏手を打つ。
そして素早くハリーのもとに近寄ると、一言小声で謝ってからその前髪を掻き上げた。
「どうですかぁ、イナヅマ型の傷! これこそハリー・ポッターの証拠でぇす!」
「どこにあるんだ、そんな傷」
「にゃんですとぉ」
マヌケな声を出したハワードがハリーのおでこを見てみれば、確かにそこには傷なんてものはなかった。自然治癒するなど有り得ないし、死の呪いによる傷など前例はないがそうそう簡単に消えるようなものではないというのが学者間での意見だ。
つまり、消えないはずの傷がないというのは、どういうことか。
「…………ごめんハワード。お化粧で隠してるんだ……」
「……あ、そうですかぁ。ごめんなさいね『スコージファイ』」
「ああっ、もったいない」
ハリーとて思春期の少女。
顔に傷があるというのが嫌だと思うようになり、ハーマイオニーにどうにかして隠せないかと相談した結果が化粧で隠すという手段だったのだ。
ハワードの清掃呪文によって綺麗さっぱりお化粧が落とされたハリーの顔は、もともとおでこの傷を隠すためだけの化粧だったので大して変わりはしない。つまり、可愛らしいと断言してもいい顔は天然モノだったのだ。
若い闇祓いが数人、おー、と歓声を上げたのでハリーは少し恥ずかしかった。
先ほどからハリーを疑っていた、きっちりしたスーツの格好をした魔法使いはその傷を凝視する。そして一分ほど眺めつづけたのち、「まったく紛らわしい」と呟いて離れる。
人を攻撃しておいてなんだその態度は、と思うも、流石にハリーも見知らぬ年配の人に食って掛かるようなことはしない。
「それで!」
スーツの魔法使いが怒鳴った。
服装からして闇祓いではないようだが、すると魔法省役人だろうか。
「あの印を作り出したのは、だれだ。ハリー・ポッター。まさかおまえか?」
「かのハリー・ポッターに死喰い人の容疑をかけるたぁ、なんたる恥知らずザマス」
「黙れウィンバリー!」
茶々を入れたウィンバリーが怒られ、スーツの男に舌を出してから引っ込んでゆく。
スーツの男は代わりに、ハワードを怒鳴りつけた。
「捜索しにゆけ! 犯人はまだ近くに居るはずだ!」
「ひゃ、ひゃい!」
尻を叩かれたように走り出したハワードは、綺麗な銀髪を振り乱してさっさと逃げるように走って行ってしまった。
知り合いだけあって、なんだかかわいそうに思えてしまう。今度会ったときは何かおいしい飲み物でもご馳走しよう。とハリーは心に決めた。
けらけらと笑うウィンバリーは残るようだ。手伝う気はないらしい。
「ではポッター及び未成年諸君。何故ここに居る」
「死喰い人と戦ってました」
「ほーう、死喰い人と戦っ……なんだって?」
「死喰い人と戦ってました」
ばかなことをいうな、と言いたかったのだろう。だがこのスーツの魔法使いは先ほどハリーに打ち倒された一人だ。煙の中で手刀を叩きこまれ、ハリーの想像したカンフームービーようにカッコよく気絶させることができなかった対象なので少し覚えている。
他の闇祓い達もどこかと連絡を取っているのか、杖を携帯電話のように使って誰かと話している者が何人かいる。
スーツの魔法使いに耳打ちすると、彼は嫌そうな顔をした。
「確かに目撃証言があるようだ。だが君は未成年だね。緊急時の魔法使用は許されているとはいえ、あまり無茶なことはするものではない。いいね」
「……はい」
「よろしい」
素直に頷いた姿に溜飲を下げたのか、スーツの魔法使いは大声で呼んでいるハワードのもとへ歩き出した。
ついてこいと言うウィンバリーに従って一緒に行くと、なにやらまた一悶着起きているようだ。
なにかと厄介事には困らないらしい。
「クラウチ、これはどういうことかね」
「これ、は……私にも、なにが、なんだか……」
どうやら先ほどのスーツの魔法使いが何か責められているようだ。
彼に見えない位置で嬉しそうな顔をしていたハワードと目が合い、ウィンクされた。
いったい何をやらかしたのかとも思ったが、どうやらハワードは何もしていないようだ。
単に自分を怒鳴りつけた人物が大変な目に遭っているのでスカッとしただけだろう。
なんて女だ。
ちょいちょい、とハワードが倒れている何者かを指差している。
ハリーがつられて見てみれば、そこには屋敷しもべ妖精が失神していた。
その手には杖を持っている。
……まさか。屋敷しもべは杖を使えないはずでは?
「って、ぼくの杖だ。なんでこいつが持ってるんだよ」
「ハリー・ポッター! やはりきさまが闇の印を」
「ああん、もう! クラウチさんちょーっと黙っててくれませんかぁ!? 仮にも闇の帝王を追い払った女の子が、闇に属するわけがねえでしょうがマぁヌケ!」
「ハワード、口調乱れてる乱れてる。ぼくのために怒ってくれるのは嬉しいけど落ち着いて」
「う。お恥ずかしいところを……」
激昂したハワードに驚きながらも、ハリーは彼女の背中を撫でて落ち着かせた。
すると、ハリーの肩に大きな手が優しく置かれる。
振り返ってみてみれば、愛嬌のある笑顔を浮かべた闇祓い、キングズリーだった。
久しぶりという意味を込めて微笑めば、彼も同じように返してくれた。
ハリーの味方をしてくれるらしいキングズリーが、スーツの魔法使いに語りかける。
「クラウチよ、とにかく彼女に事情を聞いてみよう。話はそれからだ」
「……ああ。起きよ、ウィンキー。『エネルベート』、活きよ」
スーツの魔法使い、クラウチが杖を屋敷しもべに向けて何やら呪文を唱える。
するとびくんと反応したウィンキーが、がばっと起き上がった。
まず何もない地面を見て、次に自分を見下ろすクラウチを見る。そしてハリーを見て、闇祓い達を見る。また地面を見た。そして、ゆっくりと、おずおずとクラウチを見上げる。
「……ああ、ああ。旦那様。ウィンキーは、ウィンキーは……」
「しもべ。……あれは。あれは、おまえがやったのか」
わなわなと震える体を我慢して押さえつけ、それでも震える声でクラウチはウィンキーと呼んだ屋敷しもべ妖精に対して静かに問いかけた。
怒りを抑えきれていないようで、顔が真っ赤になって首の血管がぴくぴくと動いている。
それに恐れをなしたのか、ウィンキーが小さな悲鳴を漏らした。
当然それはクラウチの怒りをさらに買うことになり、ついに爆発する。
「あれはきさまがやったのだなと聞いておるのだ! さっさと答えんか!」
「はッ、はひィ……わ、わたくしめが……ああ。
「…………何故。悪戯目的か」
「……そ、そうでございます……」
ウィンキーが自身の太ももをつねりながら、そう答える。
クラウチは怒りのあまりか、その場で立ちくらみを起こした。近場に居た闇祓いがそれを支えると、息も絶え絶えといった風に囁く。
「……ウィン、キー……きさま、
「――ッ!? そッ、そんなご無体な! 旦那様は、旦那様はウィンキーめをお捨てになられるおつもりなのですか!?」
「だまれっ。この恥知らずが!」
クラウチの洋服発言。
それはつまるところ、屋敷しもべ妖精を解雇するという意味である。
魔法使いの家に憑く屋敷しもべ妖精は、その家の主に仕えることこそが本能として刻まれている。当然忠誠心も高く(ドビーのような存在は例外中の例外なのである)、クビにされようものなら本物の首をくくってしまうほどの屈辱なのだ。
愕然としたウィンキーはその場でおいおいと咽び泣き始めた。
ハーマイオニーはそれを見てショックを受けているようだったが、ロンが小声で説明してくれる。クラウチという役人は、厳格で有名な堅物なのだそうだ。自身の身内から犯罪者を出そうものなら容赦なく断罪するような男で、ただでさえ立場の低い屋敷しもべ妖精を切り捨てて保身を図ろうとするのは、あまり言いたくないことだけれどよくあることなのだそうだ。
ロンがひそひそと説明してくれたことで、ハリーは納得した。
もはやクラウチにとって、ウィンキーという名の屋敷しもべが犯人であろうがなかろうがどうでもいいのだ。ただ嫌疑がかけられる可能性がある。それだけでもはやクラウチにとっては許しがたい事なのだろう。
ゆえに、皆の前で罰することでこの者と自分は無関係であると示す。
冷酷ながらも、的確な行動だった。
ウィンキーの慟哭を聞きながら、ハリーは空を見上げる。
そこでは、いつまでも髑髏が嗤っていた。
*
ホグワーツ特急。
コンパートメントを占領したハリーたちは、思い思いのことを語っていた。
クィディッチのこと、クラムのこと、フジワラのこと、今年の授業のこと。
四年生ともなれば色々と変わってくるものがある。特に十四歳ともなれば、いい加減に男女の性差が顕著になってくるころだ。今までは合同だった授業も分けられることもある。
例えば天文学。夜に授業を行うという特性上、四年生からは男女で分けて授業を行うことになる。個々人で観察するという時間がある以上、間違いがあってはならないという配慮だろう。
そもそも性別というのは、魔法的な意味合いでもかなりの重要さを占める。
男性であれば力を求める傾向のある魔法生物に気に入られやすかったり、魔法の力強さにも影響がある。女性であればユニコーンに好かれやすかったり、魔力の生成や貯蔵が得意な傾向にあったりする。
それは筋肉量の差や、精子を作る機能があること、子を産む能力を持っていること、染色体の関係、乳房の有無、髪の長さ、男女における考え方の差、いっそのこと価値観という違いもある。同じ人間という枠内で括られる生物でありながら、ここまでの差異を持っているのだ。それこそ魔法にも影響があって当然である。
ともあれ。それはこの三人組も例外ではなく、微妙ながらに影響がある。
ハリーとハーマイオニーは女性であるし、共に魅力的だ。
ハーマイオニーは女性としては少々無頓着なため、美人になる素質はあるものの荒削りである。だが理知的な内面に反して魅力的な笑顔のギャップという武器を持っているため、彼女のことを良く知るグリフィンドール生の中には密かに憧れている者がいるほどだ。おまけに、規則にうるさい面はあるが何かと世話焼きで優しい。母性を感じるその姿に、男心をくすぐられるのだ。
ハリーは女性としてどころか人としてどうかというほどに自分には無関心だったが、昨年度に自身の性別を自覚して以来は気を使うようになっている。もともとサラサラな髪もうなじが完全に隠れる程度まで伸ばしている。性格もあってボーイッシュな魅力は前々からあったものの、身体面でも女性として成長したためにアンバランスなことになっており、これもまたギャップでファンがついている。
ロンは同性には親しいものが多いが異性には取り立てて注目されていない、単なる赤毛の陽気なノッポだ。
元来が嫉妬心や独占欲の強いロンのことである。別に気があるだとか、異性として取られたくないだとか、そういう気持ちを二人に対して抱いているわけではない。だが、なんでだろう、面白くない。
ジニーに彼氏ができたなどと聞いたらその馬の骨をぶち殺してしまう自信があるが、多分それと似たような感覚なのかもしれない。ハリーやハーマイオニーが男と付き合うなど、ロンには想像もできないが、だがちょっとでも考えると胸の奥がしくしくと妙な気分になってしまう。
おまけに。ハリーは自分が女であると自覚してはいるものの、スキンシップの激しい部類に入る。ハーマイオニーとロンは彼女の中でも特別な人であり、抱きしめたり頬にキスしたりする程度、愛情表現であるので気軽にしてくるのだ。
ハーマイオニーに時折窘められるものの、やめる気配はない。
親友にそんな感情を抱くのは間違っているとロンは断じることができる。できるが、できるけどロンだって男の子なんだから仕方ないじゃない。ハリーにハグされると大きくて柔らかいものが当たるものだから、気になって仕方ないのである。
付け加えるとハリーは主人に懐く子犬のように屈託のない笑顔を見せてくれるのだ。ロンが罪悪感に苛まれるのも当然のことであり、ハリーのスキンシップをやめさせるようハーマイオニーに悲痛な顔で頼んで呆れられるのも、無理のない話だった。さらにハーマイオニーも似たような者であり、彼女にも感極まるとハリーやロンを抱きしめる癖がある。
それが他の人に向けられる? 親友というくくりではなく、異性という感情で? ……無理無理、そんなの耐えられるはずがない。
くだらない感情だということは自覚しているが、こういったものは理屈ではないのだ。
そんなハリーは今、ロンの隣で眠りこけている。
日本のクィディッチチームについて興奮してお喋りしていたため、疲れてしまったのだろう。ロンの肩を枕にスースーと可愛らしい寝息を立てている。
ハーマイオニーに助けを求めるも、苦笑いで返されてしまった。
「おや、なんだ。ポッターは寝てるのか」
そんなときに降りかかってきた声は、ロンの神経を逆なでする種類のものだ。
ドラコ・マルフォイと、スコーピウス・マルフォイ。取り巻きのグレセント・クライルもセオドール・ノットも一緒だ。
何をしに来たと睨みつけるものの、ドラコは肩を竦めておどけて済ます。
スコーピウスが言った。
「ウィーズリー。きみの家は確か、貧乏だったよね」
「急になんだ喧嘩売ってるのか買うぞコラ」
「なんで小声なんだ」
「ハリーが起きちゃうだろうが」
「……そうかい。まあ、君の家が用意したドレスローブがどんな骨董品なのか、今から楽しみにしているよって言っておこうと思ってね」
せせら笑うように言い放ったスコーピウスの言葉に、ロンは首を傾げる。
ドレスローブとは、名前の通りドレスだ。
魔法界における華やかなパーティの時に着用されるもので、結婚式やお祝いの時に着るのが一般的とされている。
「マルフォイ、一体何の話をしているんだ?」
「え?」
ロンの怪訝な言葉にきょとんとしたスコーピウスは、次の瞬間弾けるように笑った。
ノットとクライルも同じく笑っており、ドラコまでもがおかしそうに唇を歪めている。
いい加減に苛々が溢れてきたロンは、つい怒鳴ってしまう。
「いったい何がおかしいっていうんだ!」
「ロンうるさい」
「ぶぁ」
寝惚けたハリーによって肘打ちを喰らったロンが悶絶している前で、スコーピウスは嘲りながら言い残す。
「君のパパは仮にも魔法省役人だろう? それなのに聞かされていないなんてね。……いやあ。悪いことを聞いてしまった。すまないねウィーズリーくん、別に僕は君の父親の地位が低いだとか何も知らされない木端役人だとかそういうことを言いに来たわけじゃなかったんだ。ホントごめんよ、ごめんごめん。気にしないでくれよ……ぷくく」
顔を真っ赤にしたロンが立ち上がろうとするも、ハリーにしがみつかれているので振り払わないとそれはかなわない。
親友を放り出してまで殴りかかることはないと判断したのか、ロンは少し腰を浮かしただけで座り直し、そのままスリザリン生たちを睨みつける。
なおもロンを嗤っていた彼らは、汽笛が鳴ったことでそろそろホグワーツに着くことを悟り、フロバーワーム一匹ほども気持ちの籠っていない謝罪を最後に残して去って行った。
「……何だったんだよあいつら」
「気にしない方がいいわ。それよりハリーが寝苦しそうよ」
「君もうちょっと僕のこと考えてくれてもいいんじゃない?」
「知らないったら、もう」
「……何これ?」
ホグワーツにつく十分ほど前にハリーを起こした際、顔を真っ赤にしたハリーによってロンが痛い目に遭うというハプニングもあったものの、一行は無事ホグワーツへたどり着く。
早速組み分けの儀を見ることになり、今年は面白そうな一年生が入ってくるかなという期待や、先輩になって誇らしげな新二年生。監督生になった生徒たちの責任を背負う横顔などが見られる機会だ。
ふとハッフルパフ寮のテーブルを見てみると、監督生バッジを付けたセドリックと目があう。微笑んで軽く手を振ったところ、笑顔で返された。どこぞの自称ハンサムとは違ってしつこくない、爽やかなハンサムスマイルだった。
「また、一年が始まる!」
ダンブルドアのお話が始まる。
組み分けが終わったのだから、手短に話を終わらせてさっさと飯を食え! という主義のダンブルドアのことだ、どうせ今年もくだらないジョークを飛ばして終わりにするのだろう。
毎年恒例の諸注意について述べるのを聞き流しながら、ハリーがそう思って欠伸をしたところ、その予想は裏切られることになった。
「そして、今年はちと特別な年でな。……まず、今年度のクィディッチは中止とする」
「ハリー! だめ、杖を仕舞って!」
そこかしこでクィディッチ狂たちがダンブルドアを殺しに向かおうとして学友たちに阻止される光景が繰り広げられる中、それをおかしそうに眺めるダンブルドアは微笑んだまま言葉をつづけた。
「よい、よい。気持ちはわかる。すまんの。これ、ミスター・ウィーズリーズ。駄目じゃて。杖しまいなさい。……うん、よしよし。さて、それには理由があってな」
毎年生徒たちが楽しみにしているクィディッチを中止にするほどのことなのだ、きっとよほどのことなのだろうと生徒たちが思う中、ダンブルドアはまたしてもその予想を裏切る。
余程のことどころではない。ブッ飛び過ぎて頭がおかしくなったのではないかというようなことだった。
「今年度、長らく開催されていなかった
「「御冗談でしょう!?」」
ウィーズリーの双子が叫ぶと同時、生徒たちはざわざわと騒ぎ出した。
それも当然である。
三大魔法学校対抗試合とは、かつて行われていた大会であり、魔法の腕を競う刺激的な催し物だったのだ。その手段は単純かつ明快、戦うことそれそのもの。
マジックバトルという、心躍るものを間近で見られるのだ。それも道理であるし、なにより危険すぎるという面白くない理由で一〇〇年にもわたって開催されていなかった当大会が開かれるのだ。
やんちゃな少年たちが興奮するのも無理のない話だ。
「よし、よし。いい子たち、話の続きをさせておくれ。さてこの大会、危険という理由でヨーロッパ全体の魔法省から禁じられておったものなのじゃが、この度は国際的な親睦を深めるという目的を以って開かれることになってな。よって、様々な協議があったのじゃが……さて、ここでわしがとんでもなく苦労した交渉について小話をひとつ」
「アルバス」
「マクゴナガル先生はお固いのう。ではそれは無しにして、とりあえず今大会では多重の安全防止策が取られておる。一七九二年に開催された対抗試合では、三校の校長が重傷を負ったという記録まであるのでな。今回は様々な方面に協力してもらい、観客に対しては絶対の安全を誇ってよいとされるまでに厳重な対策が取られておる」
それも当然だ。
ダンブルドアの言う怪我を負った校長の一人、当時のダームストラング魔法専門学校校長はその怪我がもとで後々亡くなっているのだ。
競技する当人が危険なのは当然であるが、この協議に出るのは立候補制である。自身の命に危険が及ぶことも勘定に入れて、自己責任で自らを推薦するのだ。
観客に危険が多すぎるという理由で禁じられていたのだから、そこを解決したならばあとは簡単だったのだろう。と、言うわけでもなさそうだがそれはマクゴナガルの一言によって闇に葬られた。
「それにより、技術提供や協力関係にある学校も加えてな。今年はなんと、
「「御冗談で――うぇええ嘘ォオ!?」」
またも冗談を飛ばそうとしたウィーズリー兄弟が、本気で驚愕する。
いつもふざけていた二人が動揺する気持ちも、生徒たちには分かる。六大魔法学校などと、まずもって聞いたことがないからだ。
他に魔法学校がないわけではないが、名門と称されるのは数少ない。イギリスにホグワーツ。フランスにボーバトン。ドイツにダームストラング。
そこからさらに三校となれば、一体どこからやってくるのだろうか。
「今年も新任の先生が来るのじゃが、遅れておっての。まぁ、ハロウィンの頃には来てくれるじゃろう。他の五校もその時期に来る予定じゃから、楽しみにしておくといい」
それからハロウィンまでの約二ヵ月間、生徒たちが勉強に身を入れられないのは当然のことであった。
マグル出身の者達にはわからないが、魔法族の親に育てられた子たちは興奮しきりだった。
祖父母より語り継がれる、エキサイティングなお祭り。寝物語に聞かされたようなそれがいま、自分たちの代で実際に目の前で見られるのだ。
音に聞こえし危険な競技とはされているが、もちろん負傷や死亡の危険性があることは皆理解している。しかしその競技に選ばれるのは、学内でも最も優秀な者。損な人材を、一時の大会のために学校側が容易に死なせるだろうか。答えは当然、否である。
つまり「ある程度は危険だが、それでも目の前で誰かが死ぬことは無い。それでも十分以上に危険であるため、スリルを味わえる」という如何にもなエンターテイメントなのだ。
魔法族の者達の感覚は、マグル出身者からするといささか物騒に過ぎるきらいがある。魔法薬やら治癒魔法でなんとかなるとはいえ、片眼やら片腕やらを失ったり、鼻がもげたりしても「なんだ」の一言で済む。そんな感性を持つ彼らが、このような危険なスポーツで満足しないはずがない。
「ウィーズリー。変身術の授業に魔法生物飼育学の教科書を持ってくるとは何事ですか。そんなにハグリッドがお好きならば、あなたをハグリッドに変えてあげましょうか。……よろしい、グリフィンドールは一点減点」
「ウィーズリー。あなたお話を聞いていなかったのですか? 《ヤドミガ毒草》はちゃんと目の前に人形を置かないとツルに絞め殺されると言ったばかりでしょう。縛られてもがいているミス・ポッターを解放してあげなさい。グリフィンドールは一点減点」
「ウィーズリー。我輩の授業が面白くないと見える。では何故《胃腸を綺麗にする薬》を使ったポッターが腹を押さえて倒れているか説明していただけますかな? ……結構、ならば授業に集中したまえ。グリフィンドールは一点減点。あとグレンジャーはポッターを医務室へ連れて行きたまえ」
ハリーとハーマイオニーは完全にマグル出身の感性を持っている。ゆえに、授業に身が入らないロンのために余計な苦労をする羽目になったのだった。
ぼーっとしているせいで主にハリーに迷惑が掛かっており、最初は笑って許していたものの十月半ばになった頃はロンが何かやらかすたびに懐の杖を握るようになっていたので、ハーマイオニーが慌ててロンにしっかりさせるという事件も起こった。
先生方も、競技が始まってしまえば生徒たちも本格的に勉強に身が入らないと思っているらしく、今のうちにと一年間を凝縮したような量の宿題をだしてきた。
当然ロンはこれを面倒がるも、ハリーとハーマイオニーの献身的な手伝い(脅迫含む)の甲斐もあって、見事ハロウィン前にはすべてを片付けることに成功。
ロンが罰則を喰らって競技の観戦を阻止されるという事態は避けられたのだった。
「ハッピー・ハロウィーン!」
ごろごろと天井から雷鳴が聞こえる中、ジャック・オ・ランタンが浮遊する下には全校生徒がそろってテーブルについていた。
どこか心ここにあらずといった様子なのは、もちろん本日ここに他校の生徒たちがやってくるからである。前日に、空飛ぶ馬車やらお城やら、水中から飛び出してきた船やら豪華客船やらが目撃されていたので、すでに他五校は来ているとみていいだろう。
ダンブルドアも生徒たちの興奮を察してか、ハロウィンパーティの挨拶も適当に切り上げて「さて」と話を区切る。
ざわついていた空気が静かになったのを微笑むと、ダンブルドアは口を開いた。
「本日、我々は新たな友を迎える。一年間の留学生扱いになる彼らには、英語が母国語ではない者達も多くいる。なにせ五校も来るのじゃからな。諸君らホグワーツの生徒たちは、困っている者に手を差し伸べられる誇り高い心を持っていると、わしは信じておる」
生徒たちから誇らしげな空気が伝わってくる。
世界最強とも言われる男に信頼を寄せられて、悪い気はしない。
それに、褒められれば人は自然とその通りに動いてしまうものだ。
続けてダンブルドアが言葉を紡ぐのを、皆は黙って耳に入れる。
「さてさて。《三大魔法学校対抗試合》は三校の対抗試合じゃったが、今年度からは安全も加味しての新規定が考案された。その考案に際して貢献した、新たに三校を加えた《六大魔法学校対抗試合》を今年、開催する。これにあたってはかなりの苦労を味わっていての。というわけで、これの小話を一つ」
「アルバス」
「お堅いのう。おほん。ま、内容はトライ・ウィザード・トーナメントとあまり変わらない。各校から一人ずつ選手を選んで、競技を行うのじゃ。もちろん、競技者が増える以上は試練も増える。それに今回の競技では徹底した安全管理が行われておるからの、観客に怪我はないことを約束しよう」
それを聞いて一安心だ。……とは、言えない。
それでも危険だからこそ、皆目を輝かせているに違いない。
いったい魔法族の危機管理はどうなっているのか。
「諸君らには、この競技を通じて他国の者達と親睦を深めてほしい。友情は何にも勝る力じゃ。ぜひとも国境の垣根を越えて、光り輝く宝物を築きあげてほしい。わしからのえらっそーな演説は以上じゃ」
冗談めかして話が打ち切られると共に、生徒たちの期待が膨れ上がった。
待ちに待った瞬間が、ついにやってきたのだ。
「では諸君。お待ちかねの時間じゃ」
にっこり笑ったダンブルドアの台詞と同時に、大広間へ至る扉が開かれる。
そこから現れたのは、薄い生地で作られた水色のローブを着た少女たちだった。
優雅な音楽が奏でられ、華麗に踊りながらその魅力を見せつけている。
「さて、ゲストをお迎えしよう。まずは芸術と美の国、フランスの淑女たちからご紹介しよう。《ボーバトン魔法学校》の生徒たち。そしてフランス魔法生物飼育学の権威、校長マダム・マクシームじゃ」
ハグリッドよりも背の高い女性が現れ、どよめきが起こる。
マダムは美しさを磨くことを忘れていないようで、その美貌は若者には持ち得ない練磨された美があった。その隣を優雅に歩くのは、これまたとんでもなく美しい少女。
ハリーは彼女の髪の毛一本一本に魔法式が通っているのを視て、たいそう驚いた。あれは純粋なヒトではない。きっと何かしらの魔法生物の血を引いているのだろう。
イギリス魔法界ではヒト以外との混血というのは珍しいが、他国では意外とそうでもない。特にアジア圏の魔法界では人型をした妖怪などが多いため、それに比例して異種族の血を引いている者も少なくないのだ。
「久しぶーりです、
「マダムも、相変わらずお美しい」
ボーバトン校長のマダム・マクシームの手の甲に口づけするのに、ダンブルドアはほとんど腰をかがめる必要がなかった。二メートル近い長身のダンブルドアですらそうなのだ、きっとハリーが横に立てば見る者の遠近感がくるってしまうことだろう。
「……色っぺぇ」
ボーバトン生徒たちの尻に見とれていたロンの脇腹をつねって、ハリーはダンブルドアを見る。
マダム他ボーバトンの生徒たちがレイブンクローのテーブルに着いたのを見届けて、ダンブルドアは続いて来たる学校の紹介を始める。
「北からもお越し下さった。厳しい雪と屈強な魂の国、ドイツの《ダームストラング魔法専門学校》の生徒達。校長はイゴール・カルカロフ。闇の魔術に対する防衛術の専門家じゃ」
重厚な音楽とともに、軽い爆発音と靴音を響かせて、ダークブラウンのコートを羽織った青年たちが歩いてくる。
手に持っている長大な杖は、おそらく魔法界の楽器だろう。床に打ちつけるたびに、見事な火花と重々しい音が奏でられている。不意に杖を消し去った青年たちがアクロバティックなパフォーマンスを初め、その見事な身体能力に歓声があがる。
魔法式を視る限り、かなり洗練された『身体強化魔法』だ。
杖を口元に当てて噴き出された火が、雄々しいイーグルの姿に変わる。それは飛んで行った先に居た者に、まるで偉大な主人に平伏すかのように付き従った。
その青年はコートを揺らして、大勢の生徒が注目する中を威風堂々を歩いて大広間を横切る。その姿を見たロンが大興奮して囁いた。
「クラムだ! ビクトール・クラムだよ、本物だ!」
「十八歳だとは知っていたけど、学生だったのか……」
「ねぇハリー。ぼくクラムにサインもらってきてもいいかなあ?」
「あとにしたらどうだい?」
ハリーの腕にすがって落ち着かないロンの背中を撫でて、続きを聞くように促す。
ダンブルドアの目がにっこり微笑んでいるので、どうもこのサプライズを楽しんでいるようだ。なんともおかしなことの好きな老人だ。
「久しいなぁ、アルバス!」
「イゴール。変わらず元気そうじゃな」
クラムの横を歩いていた、ヤギのような縮れた顎髭を生やした男が、ダンブルドアと親しげに抱擁を交わす。
闇の魔術に精通した人物で、まず敵の技を知らねば身を守ることはかなわないという持論を持ってボーバトンにおいて闇の魔術を積極的に教えている人物だ。
ヴォルデモートという闇の魔法使いの影響が根強い英国魔法界では不評の方が目立つ人物であるが、それでもドイツ国内では高い評価を得ている教育者だ。ダンブルドアのように分け隔てなく生徒を大事にするという教育方針ではないが、彼が目をかけたダームストラングの生徒は、それだけで大成するとさえ言われている。現にドイツ魔法省では彼の教え子だけで三分の一を占めているほどだ。人間としてはともかく、育成者としては相当に優秀な男といっても過言ではない。
イゴール・カルカロフがクラムの肩を叩きながらスリザリン席へ座るのを見届け、ダンブルドアは扉の方へ目をやった。
ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラング。この三校は以前までの三大魔法学校として知られていた三校だ。では、これからここにやってくるのは、新たな三校。新たな仲間。
生徒たちが期待に胸を膨らませる中、ダンブルドアの紹介が大広間に響き笑った。
「陽気な国も参戦を表明した。パワフルで陽気な国、姉妹校であるアメリカの《グレー・ギャザリング魔法学校》の生徒たち。クェンティン・ダレル校長は、近代魔法の博士じゃ」
ド派手なギターとラッパがかき鳴らされ、ファンキーにアレンジされたアメリカ国家が演奏される。英国で米国の歌を盛大に鳴らすなどと、ブラックジョークのつもりだろうか。
同じく踊りながらやってきたのは、私服の上にローブを羽織ったアメリカ魔法学校の生徒たちだ。青年も少女もみな笑顔で踊り、楽しそうに笑っている。
何故かテンションが跳ね上がったフレッドとジョージが飛び込んでいったものの、それすら受け入れて飛んで跳ねて叫んで笑う。ホグワーツの生徒を幾人か巻き込んで踊り終えた生徒たちは、杖から天井に向けて花火を撃ちだした。
花火が爆発する中、魔法で創りあげたらしい馬にまたがったカウガールがやってくる。ロデオか何かかと思うほどの暴れ馬を巧みに操るカウガールは、男子がうっとりするほど、女子が驚嘆するほどの見事に均整のとれたスタイルを誇っていた。
ハリー自身、自らも大きい部類に入ると思ってはいるが、それでも上級生たちほどではない。だのに彼女のもつ果実は、まさしくメロン級だ。一体何を食ったらそんなにデカくなるんだアメリカン。
そんなビッグウェーブが馬に乗っているのだ。なんというか、目に毒である。
「でっけえ」
ロンが思わずつぶやいた言葉が聞こえたのか、ハーマイオニーがキレてロンを張り倒した。
ハリーも不機嫌そうな顔で倒れ伏したロンに足を置いた。
馬から派手に飛び降りたカウガールが、ベルトから抜き取った杖で見事な早撃ちを披露する。ハチの巣にされた魔法馬は風船のように膨れ上がり、中からアメリカ国旗のカラーをあしらったド派手なシルクハットと燕尾服を着こんだ立派なカイゼル髭の男が現れ、冗談めかして優雅に一礼した。
巨大な腹をゆさゆさと揺らしながら、サングラスをかけたカイゼル髭がダンブルドアと熱烈な握手を交わす。
「やあやあやあ、アールバース! 三日ぶりだなぁ、会いたかったぜ友よ!」
「クェン、いつも通りファンキーで楽しい男じゃ。よく来てくれた」
どうやら見た目だけではなく中身までファンキーらしいクェンティン・ダレル校長は、アメリカ魔法界を代表する魔法使いだ。
かつてイギリスの名門純血魔法族とされていたダレル家から、「俺は恋をした! 誰にって、自由にだァァァ!」と叫んでご先祖が出奔。アメリカの建国から今の時代に至るまで、アメリカ魔法界を支え続けてきた功労者なのだ。
ちなみに彼は、アメリカ魔法省大統領でもある。校長との兼任で忙しいそうだが、彼のユーモア好きと身体の八割がフライドチキンで出来ている彼は疲れを感じさせない、精強な男なのだ。
早くも仲良くなったのか、ウィーズリーズと肩を組んで大笑いするカウガール含めギャザリングの生徒たちがグリフィンドールのテーブルに座る。
騒がしくなった生徒たちを咳払いひとつで静かにさせたダンブルドアは、扉が開くと同時に声を発した。
「熱き国のご登場じゃ。祭典と情熱の国、イタリアの《ディアブロ魔法学校》の生徒と、校長先生のレリオ・アンドレオーニ。魔法芸術で有名じゃ」
優雅なバイオリンの音楽と共に、ドレスシャツの上に赤いローブを着込んだ男女が歩いてくる。
青年たちは女子生徒に、少女たちは男子生徒に投げキッスを放ち、まるで貴族のダンスパーティかと思わせるような美しい動きながら情熱的なダンスで皆を魅了してゆく。
カツン。とひときわ大きく靴の音を響かせたそのとき、薔薇の花が咲き乱れた。その中心には派手なドレスシャツの前を大胆に開いて、逞しい筋肉に胸毛という男性的な魅力を振り撒く青年が現れた。気障ったらしく薔薇を一輪咥え、大広間を横断。そして最後に口元の薔薇を宙に投げれば爆散、舞い落ちる花びらから一人の紳士が姿を現した。
まるで中世貴族のような恰好をしており、口周りを覆う黒ひげと頬ひげで、頑迷な印象を受ける壮年男性だった。しかめっ面のままダンブルドアに歩み寄り、固い握手を交わした。
「何年ぶりだったかな、ダンブルドア。この学校美少女ばかりで羨ましいぞ」
「一週間ぶりじゃよレリオ。堅っ苦しい割にむっつりなのは治らんかったか」
見た目の割にぶっ飛んだ中身をしているらしいアンドレオーニ校長は、ふんと鼻を鳴らすとディアブロ学校の生徒たちを連れてレイブンクローテーブルへとついた。
ダンブルドアが紹介する前に、なにやら趣のある笛の音が大広間に漂ってきた。
それに満足げに微笑んだダンブルドアは、もったいぶって口を開く。
「極東の侍達が武を見せてくれるようじゃ。流水の如き心と刃の国、日本の《不知火魔法学校》の生徒たちと、魔法の一種たる陰陽術の権威、サチコ・ツチミカド校長じゃ」
瞬間、墨を水に溶いたような風が吹き荒れて、黒衣の少年少女が姿を現した。
すわ『姿あらわし』かと思ったが、魔法式を視る限り似ているようで内部が全くの別物だった。日本語で書かれたものが大半だったので、あれこそが恐らく日本独自の魔法『縮地』なのだろう。
独特な形状をした弦楽器と低くも不思議な音を出す縦笛で、エキゾチックな音楽が鳴らされる中、金の刺繍が施された黒い学ランとセーラー服の上に、同色のマントを羽織った集団が各々腰に差していた杖を取り出す。木刀型に、扇子型。これも日本独自の杖だ。
二列に並んだ生徒たちがそれぞれを交差すると、扉の方から同じく黒い風が渦巻いた。木の葉を散らして現れたのは、背の高い学ランの青年と、小柄なセーラー服の少女。そしてその真ん中に、見事な着物を着こなした老婆だった。
その姿を見た生徒たちがざわめいた。またも有名人だったからだ。
「ユーコ・ツチミカドに、ソウジロー・フジワラだ!」
「おいおい……ここはワールドカップの会場かよ……」
驚きすぎて呆けた顔のハリーを見て、ハーマイオニーが苦笑する。
あのワールドカップ以降、ハリーはツチミカドのファンなのだ。クラムも確かにすごかったが、自分よりも小さな体躯で巧みに動き回って、世界最高のシーカーに喰らいついた少女。
憧れるなという方が無理だった。
相変わらずむすっとした顔のフジワラと、対照的に朗らかな笑顔を浮かべるツチミカドが大広間を横切ってゆく。ハリーの横を通る際、悪戯っぽくウィンクしてきたのでハリーは思わず赤面した。
「ねぇロン。ぼくツチミカドにサインもらってきてもいいかなあ?」
「僕が言えることじゃないけどさ。あとにしなよ」
自分の身長ほどの長さを誇る杖を突いて、老婆がダンブルドアの前でお辞儀した。
ダンブルドアも微笑みながらお辞儀を返す。ごにょごにょと老婆が何か言ったのをツチミカドが聞いて、ダンブルドアに通訳した。
「お招きいただき感謝しますダンブルドアさん。お初にお目にかかります」
「うんうん、コンニチハ、ツチミカドサン。ハジメマシテ」
思いっきり片言ではあったが、ダンブルドアが日本語で返す。
それに対して嬉しそうにしたツチミカド校長は、またも孫娘に耳打ちした。
「えーっと……」
「なんじゃね、ミス・ツチミカド。なんでも言ってごらん」
「……おばあちゃんが、ダンブルドアさんのサインが欲しいそうです」
その答えにとてもうれしそうにしたダンブルドアが、杖を取り出して空中に流麗な文字でサインを描く。それはいつの間にか彼が取り出した扇子の中に入っていき、ばっと開けばそこには見事にサインが書かれていた。
ダンブルドアのサイン入り扇子を貰ったツチミカド校長は、大きくガッツポーズをとった。なんともファンキーなおばあさんだ。
日本魔法学校の生徒たちがハッフルパフのテーブルに着いたのを見計らって、ダンブルドアがぱんと柏手を打った。
「諸君。きみたちは、この一年間寝食を共にする仲間じゃ。どうか助け合い、友情または愛情、時にはライバル心を育んでほしい。そうして君たちに細くない関係の糸が結ばれるのを、わしは切に願っておる。……以上じゃ。ほれ、イタダキマスじゃよイタダキマス。宴じゃ!」
わっ、と騒がしくなった大広間では、興奮した生徒たちが美味しいご馳走に舌鼓を打ちながら会話を楽しんでいた。
少し離れたグリフィンドールテーブルでは、フレッド・ジョージとカウガールが騒々しく大騒ぎしている。ダイエットコークはこう飲むんだ。だの、フィッシュ・アンド・チップスに勝る美味いものはない。だの、なんだかあまり関わり合いになりたくない会話だ。
グリフィンドールテーブルにはグレー・ギャザリング魔法学校の生徒たちが居るからか、アメリカンな料理が多い。ハンバーガーやフライドポテト、フライトドチキンなどなど。
「今年も騒がしい一年になりそうね。静かになる年ってあるのかしら?」
ロンの更にマッシュポテトや分厚いベーコンを放り込みながら、ハーマイオニーが言う。食べるのに忙しいロンはうんうん頷くだけだ。
そんな二人を見て微笑みながら、ハリーは適当な料理を手に取って言う。
「命の危険がないだけマシさ」
あまりに笑えないブラックジョークに二人が苦笑いしたのを満足げに眺めたハリーは、とりあえずその手に持ったローストチキンにかぶりついたのだった。
【変更点】
・死喰い人ハッスルにハリーが乱入。
・闇祓いとの戦闘。
・みんな思春期。意識するのは仕方ない。
・六大魔法学校対抗試合。2倍大変な思いをしてくれ。
【オリジナルスペル】
「ラミナノワークラ、刃よ」(初出・38話)
・魔力刃呪文。杖に魔力で編んだ刃を付与して、近接戦闘力をあげる。
ハリーが考案してシリウスが構築した呪文だが、アジア魔法の劣化版になった。
「プロテゴ・アペオ、逸らせ亀の甲」(初出・38話)
・盾の呪文の派生。亀の甲羅のように傾斜のついた盾で相手の呪文を逸らす。
元々魔法界にある呪文。少ない魔力消費で攻撃を回避する目的で開発された。
【オリジナルキャラクター】
『レリオ・アンドレオーニ』
本物語オリジナル。ディアブロ魔法学校校長。
イタリア人。寡黙な髭面だがむっつりスケベ。十三歳から六〇歳までが守備範囲。
『クェンティン・ダレル』
本物語オリジナル。グレー・ギャザリング魔法学校校長。
アメリカ人。生徒の自主性を重んじることで子供は成長するとする主義。超肥満。
『サチコ・ツチミカド』
本物語オリジナル。不知火魔法学校校長。土御門サチ子。
日本人。魔法の一種である陰陽術や忍術に優れた日本魔法の天才。最近ボケ気味。
四人で戦うのは寂しいでしょうから、七人で争ってください。
六大魔法学校対抗試合です。単純に競争相手が原作の倍。日本を出したのはここで一年間登場するためだったりします。今年一年は戦闘尽くしになることでしょう。
競技も増えます。恐らく賢者の石編と同じくらいにはなるのではないかと……うーん、大変だ。だがそれがいい!
※とんでもない間違いを訂正。
※ダームストラングについて訂正。