Brave shine   作:恒例行事

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勇者シャインと剣士シリアス④

 

(…………見える?)

 

 いいや、まだ厳しい。

 僕の身体能力は異常なほどに発達しているわけではなく、あくまでそこそこ鍛えた一般人という感じだ。

 勇者特性は僕に超越的な力を与えたけど、決して全知全能になれるわけじゃない。

 

 森の中を縫うように移動して、音を立てないように神経をすり減らすことおよそ五分。

 

 魔物の陣地はわずかにざわめきだっており、ここが本体ではないにしろ、それなりに戦力が集まっている場所なのは把握できた。

 

(……数が多い。中隊って感じかな)

 

 巨人が多い。

 この数で押されれば人類なんてひとたまりもないってのに、これ以上の過剰戦力を揃えてきてるのがいやらしい。

 

(シリアスはここに寄ってなさそう。流石にこの程度なら一人で全部殺し斬っちゃうと思う)

 

 だよなぁ。

 僕だと何度も何度も死んでやり直すレベルだけど、流石は本物の勇者一行だ。

 雑兵くらいいくらでも殺せるだろう。

 

(どうする? 戻るにしても結構時間使っちゃってる)

 

 日は少しずつ傾いてきた。

 まだまだ正午過ぎというくらいだけど、シリアスのタイムリミットまではそう長くない。

 

 ここまでの道で魔物に遭遇はしなかった。

 次はここまで送ってもらってもいいかもしれない。

 そのためには……周辺の状況を確認したいね。

 

(うん、それでいいとおも──ブレーヴっ!!)

 

 声に反応してその場で屈む。

 

 僕の頭があった場所を薙ぐ棍棒が木々を薙ぎ払い、その音で周辺の魔物に騒ぎは伝わってしまうことを察した。

 

『──ニンゲン、ミツケタ』

「巨人か……ッ」

 

 シャインを引き抜いて速攻で仕掛ける。

 

 この時点で僕の死は確定した。

 なら出来ることはこの基地にどれだけ戦力があって、シリアスは周辺いるのかを探ることのみ。

 ここで騒ぎを大きくしていけば彼女も気がつくかもしれないし、僕が壊滅させられるのならそれに越したことはないだろう。

 

(ブレーヴ、気をつけてね!)

 

 ああ、見ていてくれよシャイン。

 君が選んでくれた勇者は、今はこんなにも弱いけど。

 いつか必ず魔王の首を斬り落としてみせるから。

 

 巨人の足元まで動き腱を斬る。

 

 一回倒すところまでやっといて正解だった。

 このタイプ相手なら苦戦することなくやれる。

 周りを囲まれたらちょっと厳しいけど、一対一なら問題ない。

 

『ア、ア?』

 

 足で身体を支えられなくなった巨人がその身を沈ませたのを見逃さず、その首筋に刃を振り下ろす。

 

 ゴトリと音を立てて落ちていく頭を蹴飛ばして、血飛沫が降りかかるのも構わずに森の中を走る。

 

(ど……どうするつもり?)

「タダでは死なないってだけさ」

 

 殺すのに十秒程度かかった。

 魔物の身体能力ならばこのくらいの距離を積めるのに何分も使わないし、匂いで僕のことを追跡できるだろう。

 

 一分も満たない時間森の中を走り回った結果として、足の速い狼型数十体が僕の前に躍り出る。

 

 先回りまでされてしまった。

 つくづくスペック不足だ。

 

 足りてない。

 僕にはまだまだ何もかもが足りてない。

 

「ごめんね、シャイン。暫く見たくないものを見せるよ」

『……大丈夫っ。もう覚悟したから』

「……ああ。見届けてくれ、僕の死に様を」

 

 狼型が一斉に飛びかかってくる。

 

 それらの間を縫うように掻い潜ろうとしたが、鋭い爪がいくつも僕の背中を裂く。

 

(ブレーヴ……っ)

 

 出血と痛みで判断がわずかに鈍った。

 それでも脳が興奮状態なのか、痛みは和らいだ。

 剣を振り抜いて一匹斬り殺し、その隙に左足に噛みつかれる。

 

 噛みついてきた狼を殺そうと剣を振り上げて、その空いた上半身目がけて二匹飛び込んできた。

 

 受け止めるしかなかった。

 

 肩口に深く刺さる牙。

 倒れ込む僕を押さえつけて、剣を振るために必要な腕の肉を噛みちぎられる。

 

「────ッッッ!!!!」

『ブレーヴっっ!!』

 

 思わず叫びそうになるのを、ぐっと堪えた。

 

 左足に噛みついていた狼が大きく首を振り回し、ぐちゃぐちゃに噛み砕かれた肉と骨ごと太腿から先を食いちぎる。

 

 視界が明滅した。

 痛い、痛い痛い痛い痛い! 

 どうなってる、今僕の肉体はどうなってる? 

 腕が動かない。

 足も、動かない。

 呼吸が続かない。

 

 臓腑が食いちぎられる。

 腹部に激痛、のちに空気が神経を薙ぐ不快感と痛み。

 食われてる。

 今、僕は生きたまま貪られている。

 多くの人類がそうやって息絶えたように、僕が死んでこいと命令した彼らのように。

 

 死ぬ。

 僕はこれから死ぬ。

 でも死ぬことはない。 

 これから何度だってこうやって死ぬ。

 落ち着け、恐怖を感じるな。

 何度も何度も死を繰り返して、強くなるって、誓っただろ……! 

 

「あ゛、あ゛か゛っ…………」

 

 声にもならない声が出た。

 

 僅かに取り戻した視界を、身体に向ければ、好き放題に食い散らかしている多数の魔物が見えた。

 

 ──見るべきじゃなかった。

 

「あ゛────……あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!! う、あ゛あ゛、あ゛…………」

 

 ぞわりと背筋を駆け抜ける気色の悪い感覚。

 

 気持ち悪い。

 痛い、気持ち悪い苦しい。

 生きたまま肉体を貪られる。

 怖い、気持ちが悪い。

 

 やがて視界は薄まって、意識を希薄に溶けていく。

 

 死の予兆だ。

 何度か味わったからわかる。

 やっと、死ねる。

 せめて、殺され、るなら。

 

 一瞬で…………一息に…………殺、…………

 

『……………………ぁ……』

 

 ────……………………。

 

 

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