Brave shine   作:恒例行事

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勇者シャインと剣士シリアス⑥

 

 随分長い時間をかけてしまった。

 

 魔軍前哨基地を壊滅させるのに幾度死んだかな。

 正直なところもう身体中の感覚が滅茶苦茶だ。

 それでも生きてるんだから、僕の身体がどうなってるのかわからない。僕は生きてるのかな。生きてるか、息をしてるんだし。

 

『ブレーヴ、おつかれさま』

「ああ。ちょっと、時間をかけ過ぎたよ」

 

 夕暮れを迎える前にとりあえず襲ってくる魔物は殺せたらしい。

 

 逃げていく魔物は殺さなかった。

 それが原因で新たな敵が来るならそれでいい。

 シリアスは此方の騒ぎを察してくれるのか、それとも既に先に居るのか。

 

 とにかく。

 僕は前哨基地を一人で壊滅させられる程度には、何度も何度も死ぬことで出来るようになった。シャインに悪い事をしたよ。

 

「……シリアスは僕に気が付くと思う?」

『どうだろ。あの子は追い込まれると、結構視野が狭くなるタイプだから……』

「それはそうだろうね……そうじゃなきゃ、いくら何でも一人で特攻なんて選択はしないだろうさ」

 

 魔物の死体から立ち上がる。

 

 少しの疲労で乗り越えれるようになったのは素晴らしい成長だ。

 

 やはり人が最も成長するのは苦痛。

 軍隊で嫌なくらい味わされた常識が今になっても顔を出す。

 やっぱり君も同じように成長したのかな、シャイン。

 

『…………うん。人ってやっぱり、後悔すればするだけ成長する生き物だとおもうから』

「……そっか。それならこうやって死に続けるのも、悪くないことだ」

 

 シャインに付着した血液を拭いつつ、ゆっくりと周囲を見渡す。

 

 既に魔物たちに動きはない。

 というか、周りにはもういない。

 空を飛んでいた虫たちも何処かへ消えてしまった。

 さて、次はどう動くべきかな? 

 

「勇者的にはどうだい?」

『ん…………』

 

 暫しの思考にシャインが耽っている間、僕は僕で出来る事を考えよう。

 

 シリアスを見つけると言う目標は今でも達成できてない。

 彼女が夕暮れには死んでおり、正午過ぎの現在どこへ行ったのかもわからない。

 

 八方塞がりだ。

 でも、僕は魔物を殺せるようになってきた。

 この全身余すことなく弄ばれた甲斐があったというもの。

 

 およそ一分ほどシャインが思考に時間を費やして、僕が手持無沙汰になり始めた頃。

 

『…………進もう』

 

 シャインはそう言った。

 どうやら彼女は、僕の命を使う方針に決めてくれた。

 

 嬉しかった。

 彼女の重荷になると考えていたから、彼女が少しでも吹っ切れてくれて。

 

「ああ、賛成だ。どこまで行く?」

『何処まででも、なんて言い方したら怒る?』

「まさか。君の言う事に異論なんてあるわけがない」

 

 そうして僕と彼女は歩き出した。

 

 素早く、それでいて急がず。

 前哨基地を壊滅させるのに要した時間と比べれば刹那に過ぎない時を、シリアスの話をしながら行く。

 

『……それで、私とシリアスは温泉地に泊まったの』

「へぇ、あそこにそんな施設が……」

『うん。やっぱりほら、女の子二人旅なんてしててもそこそこ身嗜みには気を付けたかったし? どうせ見せる相手もいないよね、なんて二人で言ってたけど……』

「うん。それ、僕が聞いていい話かな」

『どうせ私しか覚えてないからいいの! ブレーヴは私達の全部知った上で進んでくれるんでしょ? なら全部話さないと』

 

 他愛ない話だった。

 それでも、その話は僕にとっても面白く為になる話で、シャインにとっては宝物のような日々だったに違いない。

 

『私が農家になりたかった、って話もしたよ。シリアスはなれるって言ってくれたんだ』

「農家に……? 君の家ってハンターじゃなかったっけ」

『そうそう、だから私は農……ごめん待って、今の話忘れて』

「……ふぅん。僕の家は農家だったけど」

『わすれて、おねがいします』

「そこまで言うのならしょうがない。僕は君に従おう」

『……さいあく……』

 

 シャインはピカピカ光りながらか細い声で言った。

 

 僕らは互いに自罰的な意識を持っている。

 それでも、この関係性を断とうと言う気は一切なく、たとえシャインが一方的にやめたいと言っても、僕は手放すつもりは毛頭ない。

 

 死んで巻き戻っても僕らは一緒だ。

 僕が永久に捉われるかもしれない円環に、彼女も共に居る。

 ただそれだけでいい。

 僕にとっては、それだけで嬉しいんだ。

 

「────……ん。空を魔物が飛んでる」

『……うん。近いね』

「しっかり僕の事を見てるね。どうやら待ってくれてたらしいよ」

 

 森が開けていく。

 広場のようになっている場所に転がる数多の魔物の死体。

 その真ん中に堂々と鎮座する、フードを被った人型の魔物に、その傍らに控える巨人と怪鳥。

 

 そしてその目の前で、力なく大地に倒れ込み既に事切れている女性の死体。

 

『…………シリアス……』

 

 シャインは取り乱さない。

 声色に震えも無い。

 ただ、事実をしっかりと噛み締めて、彼女は認識した。

 

 剣士シリアスは死んだ。

 そして、僕たちはやっと追いついたという事だ。

 

 都合三十を超える死の果てに、ようやく一つの答えに辿り着く。

 

「シャイン。次はここに直接送ってもらおう」

『……いや、それは…………』

「そうして、死んで、繰り返して。最終的にお前を殺せば僕の勝ちだ、わかりやすいだろ? ──巨腕オロス」

【──人間如きが、儂に舐めた口を利くな】

 

 そうしてフードを被っていた人型の魔物──巨腕オロスは魔方陣を展開する。

 

 転移魔法、いや、召喚魔法か。

 なんだっていいさ。

 僕は二人の死を吸い取る為に生まれたと言っても過言じゃない。

 

 他の人が死ななくちゃいけない分、死んでも死なない僕が死に続ける。

 

 それでいい。

 シャインの辿った軌跡を、あの功績を塗りつぶすと言うのだからその程度のことは出来なくちゃ話にならないんだ。

 

 剣を引き抜いて、構える。

 

 さて、今度は何度死ぬのかな。

 でも大丈夫、どれだけ苦しんでもどれだけ痛めつけられてもどれだけ嬲られても、僕の心は折れる事は無い。

 

 シャイン。

 また沢山僕は死ぬことになる。

 それでも見捨てないで、僕の死を受け入れてくれるかい? 

 

(うん。……私の為に、また死んでください。勇者シャイン)

 

 …………ああ。

 

 それでいい。

 それでいいんだ。

 君に罪悪感を背負わせてしまう僕を、どうか許さないで欲しい。

 

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