Brave shine   作:恒例行事

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一振りの君と落第勇者②

 

「目が覚めたのか」

 

 暫くシャインと話を続けていると、扉を開くのと同時に一人の女性が入ってきた。

 

 目元を隠している銀の仮面に、漆黒のバトルドレス。

 動き易さと美しさに配慮されたその格好は、僕にとっては見慣れた姿だった。

 

「……賢者エヴリル。そうか、助けてくれたのか」

「ああ。助かったのは此方も同じだったからな」

「僕が君たちを助けた?」

 

 それは驚きだった。

 賢者エヴリルは魔法に長けていると聞く。

 人類がその生涯をかけて極める魔法をいくつも習得し、若々しい見た目とは裏腹に既にかなり年齢を重ねているそうだ。

 

(それ、本人に聞いたら怒るよ)

「ウワッ」

「……? どうした」

「い、いや。なんでもない」

 

 急に頭の中にシャインの声が響いた。

 

(多分ブレーヴの血を吸いすぎたんじゃないかな。多分この剣はブレーヴ専用になってるよ)

 

 それは……喜んでいいことなのか? 

 もしも僕が失敗したらもう後がないってことだろ。

 シャイン、君もその剣に囚われたままで……うん? 待てよ。

 それはつまりシャインが僕専用になったということではないか

 

(ブレーヴ。黙って)

 

 どうやら僕の思考も筒抜けらしい。

 下手なことは考えられない。

 常に聞こえる感じかな? 

 

(うーん……いや、聞こうと思わないと難しいかな)

 

 ほっ。

 常にそっちに伝わっていたら最悪だった。

 余計な感情を表に出すのも切なくなってしまうね。

 

「それで、話を続けるが……改めて名乗ろう。私はエヴリル、姓はない。勇者一行などと煽てられてはいるが、ただ長生きしているだけの老人だ」

「老人には見えないけどね。僕はブレーヴ・シャイン、できればシャインって呼んで欲しいな」

「わかった。シャイン、お前がやつの注意を一瞬でも逸らしたおかげで我々は死なずに済んだ。礼を言う」

 

 そう言いながらエヴリルは頭を下げた。

 

 僕の行動が、僅かにでも彼女らの命を救うことになったらしい。

 

 そうか、剣士シリアスは死ななかったか。

 僕が一人で足掻いた結果、なんとかその成果は出せた。

 そしてこれからはシャインが共に考え、足掻いてくれる。

 少しだけ心強い。

 

「……僕の方こそ感謝だ。胴体に大穴が空いていたと思うんだけど」

「あれくらいならばなんとか治療できる。上半身全てが吹き飛んだりしない限り」

「すごい力だ……」

「……そうだな。すごい力だ」

 

 エヴリルは少しだけ影を含んだ言い方をした。

 

 どうするべきか。

 僕とシャインの目的はひとまず、魔軍幹部の殺害。

 つまりかつて勇者シャインが歩んだ道を再度辿っていくことにある。

 

 そのためには現勇者一行の協力は必要不可欠。

 あのような巨大な規模の敵を殺すのは、僕だけでは無理だ。

 

 しかし今の僕が協力するなんて言ってもなんの価値もないんだ。

 

 どうするべきか……

 

(エヴリルは四人の中で一番リアリストで一番ロマンチストだった。交渉の余地はあるよ)

 

 それどういう助言? 

 交渉と言ったって、今の僕に手札はない。

 事実として存在するのが街の外に出て斥候を殺したという事実と、あの巨大な腕のついでの一撃で死にかけたことだけだ。

 リアリストをどうやって説得しろと……

 

(ほら、あるじゃん一つ奇跡が)

 

 そう言いながらシャインはピカピカ鈍い光を発した。

 

「うん? その剣は……」

「あ、ああ。幼い頃に故郷の森で拾ったんだ」

 

 嘘じゃない。

 この世界──シャインが存在しない前提──では僕がずっと握っていたことになっている筈だ。リザがそれを否定も肯定もしなかったからなんとも言えないけど、そこに違和感を覚える理由はない。

 

(また“リザ“……だれ?)

 

 部下だよ。

 君が死んで最初に滅んだ世界で一緒に死んでくれたんだ。

 

(心中!!??!?!??!)

 

 違う! 

 

 ええい、この幼馴染少し面倒くさいぞ。

 今は大事な場面だから助言以外なしで頼む。

 

(後でじっくり聞かせてもらうから)

 

「その剣は……まさか、【聖剣】?」

「【聖剣】? そんな大層なものじゃないと思うけど」

「いや……一つ質問だが、覚えている限りでいい。シャイン以外が手に握った際、そのように光ることはあったか?」

「ないよ」

 

 ああ、なるほど理解した。

 これを手札に交渉しろってわけだねシャイン。

 君は頭がいいなぁ。

 僕じゃこんなこと思いつかないよ。

 君がいてくれてよかったと早くも実感してしまった。

 

(褒めても許さないからね)

 

 ダメだった。

 

「そうか……」

「その、【聖剣】とやらはなんなんだ?」

「……仕方ないか」

 

 そう言いながらエヴリルは銀の仮面を外した──えっ、外してくれるのそれ。

 

 勇者一行で最もミステリアスだと言われ民衆に熱い人気を得ていた賢者エヴリルの隠された素顔を見ていいのか? 

 僕の部下にもエヴリル推しはいて、シャインこそが至高だと言い張る僕と何度もぶつかり合い最後には河原で殴り合い友情を深め経験がある。あれは情けないけどいい経験だった……

 

(恥ずかしいからやめて……)

 

 やめないけど。

 

 仮面を取り外したエヴリルは綺麗だった。

 

 長生きをしている、という噂がなければ、その黒髪に燃えるような灼眼は若さの象徴のようにも思えるほど見事なコントラスト。

 黒のバトルドレスに小さく混ぜられた紅が、その美しさをより引き出している。

 

(…………ねえ。ちょっと)

「お、おお……まさか、賢者エヴリルの素顔を見れるなんて。生きてみるもんだな」

(おい。褒めすぎ)

「やめてくれ。そんないいものじゃない」

「いやいや。僕は君たち勇者のファンだから、これほど価値のあるものはそうお目にかかれないよ」

(……………………ヒュッ)

 

 むず痒そうにエヴリルは身動ぐ。

 

 僕如きにそんな対応しなくていいのに……

 君がいなかったらあのままのたれ死んでまたやり直してるような無能だ。

 少し、嬉しくなってしまう。

 まるで僕が名を得られたようで、そんなわけないのに、夢を見てしまう。

 

「……んっ。この仮面は君の剣と同じなんだ、【聖兜(せいとう)】と言う」

 

 そう言いながら彼女は僕にそれを手渡した。

 ……ちょっと熱が残っている。

 

(おいブレーヴ、何ブレてんだ)

 

 うっ、違うよ? 

 別に変な意味じゃない。

 ただ、賢者エヴリルみたいな天上人もちゃんと体温とかあるんだなってびっくりしただけで。

 

 そして【聖兜(せいとう)】はその銀色の輝くをくすませて、灰色へと変化していく。

 

「……ああ。やはり君は、我々と同じか」

「銀から灰になっちゃったけど……」

「それでいい。少しでも反応していることが重要なんだ」

 

 エヴリルに返すと、再度銀色に輝く。

 

「この大陸の何処かに隠されていた聖なる神器は、とある素質をもつ者が身に付けると輝くと言われていた」

 

 そしてそのまま目元を隠すように装着した。

 

「シャイン。君がもつそれは、【聖剣】だ。君は──勇者の資格がある」

 

 

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