Brave shine   作:恒例行事

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一振りの君と落第勇者④

 

 場所を変えようというエヴリルの鶴の一声で僕達は場所を移動した。

 

 今日の寝床があんな有様なのは忘れたい。

 シャインが世界に存在しないだけで僕、ダメ人間になりすぎだろ。

 

(私の比重が重すぎる……)

 

 君が僕を置いていくからだ。

 

「ところでエヴリル。ここは……」

「ああ。この街で一番の料亭だ」

「なるほど。そして隣の女性は」

「シリアスです。先程は命を救っていただいたようで、感謝します」

 

 そう言いながら彼女は頭を下げた。

 

 おい……勇者たちの頭が軽すぎる。

 僕如きにそんなポンポン下げないでくれ。

 君たちは一度、世界に希望をもたらした人類の光なんだぞ。

 それがこんな、幼馴染の命を踏み台にしないとまともに魔軍と戦えないような男に……

 

(はい、そこまで。それ以上卑下したら怒るから)

 

 ……わかった。

 でも今のは僕の本音だから。

 それだけは忘れないでね。

 

(いやだ。ブレーヴのこと肯定しまくって改善させるから)

 

 幼馴染の聞き分けが悪い。

 僕らが別れた七年間? くらいでこれだけの差が生まれてしまった。

 

「頭を上げてほしい。僕こそ助けられたんだ」

「……ですが。私達は貴方がいなければ死んでいたと、彼女が」

 

 エヴリルは肩を竦めた。

 

「シャイン。君は少し自分を低く見る傾向がある」

「身の丈にあった自己評価だと思うけど」

「そんなことはない。少なくとも我々二人の命を救えた事実は変わらないし、腰にある剣が光っている。それこそが君の価値を証明しているよ」

 

 おお……理路整然とした褒め言葉だ。

 正面からまっすぐ褒められると、少しむず痒い。

 シャイン、もしかして君も似たような感覚してたりする? 

 

(今更だし、なんか私に褒められてる時と違くない?)

 

 そんなことはない。

 ただ……逃げ場を封じるように褒められると、そんなわけはないって否定も簡単にできなくて、ちょっと反応に困るんだ。

 

(さっきエヴリルにしてたよね)

 

 ……? 

 そう? 

 僕としてはそんなつもりなかったけど……

 

「意趣返しというやつだ。深く気にするな」

 

 エヴリルは苦笑しながら席に着いた。

 

 えっと……

 ごめんシャイン、助けて。

 僕、こんないい感じのお店に入ったことない。

 

(あー、そこまで気にしなくてもいいよ。そのうち慣れるし)

 

 慣れるんだ……

 

 さすがは勇者一行。

 街で歓待されることもあるのか。

 僕はそれを見て、どうして強くなれないんだろうと悩む日々だった。

 努力を欠かしたつもりはない。

 それでもこの立場に至れたのが僕自身の力じゃなく、シャインが与えてくれた慈悲のおかげだと言うのが情けない。

 

「名乗ってなかった。僕はブレーヴ・シャイン、シャインと呼んでほしい」

(……ねぇ、ブレーヴの名前隠そうとしなくていいよ?)

 

 それはいやだ。

 僕は勇者シャインこそが至高だと信じている。

 勇者ブレーヴなどという軟弱な名前は流行らせない。

 

「わかりました、それでは以後シャインと」

「うん、よろしく。……と言っても、勇者一行によろしくされるなんて、恐ろしいけど」

「そう……ですか? 肩書きだけですよ」

 

 シリアスは少し伏せ目がちに言った。

 

「私達勇者一行は、そんな風に思われる立場では……」

「シリアス」

 

 エヴリルの声が凛然と響く。

 

 勇者一行だろ。

 だって、魔軍に抵抗する希望そのもの。

 それに対してそんな、過剰な評価なんてしてない。

 

「……だって、エヴリル。おかしいですよ、私達は──魔軍に敗走ばかりしているのに」

 

 シリアスの呟きだけが残る。

 

 ここが個室で良かった。

 運ばれてきた料理は温かく湯気が立っていて、手の込んだ高級料理と言った様子。

 残念ながら僕はこんな美味しそうなものを見たことがないので乏しい感想を呟くことしかできない。

 

「それでも、君達は勇者じゃないか。僕からすれば、あんな化け物みたいな相手と堂々と戦ってる人を批判するような目では見れない」

「……そうやって、言ってくださるのはとても嬉しい。でも納得が」

「シリアス、そこまでにしておけ」

 

 再度エヴリルの静止が混ざって、シリアスは言葉の行き所を失ったように口をモゴモゴと動かした後、項垂れた。

 

「……事実として、我々は敗走続きだ。勇者一行などと煽てられてはいるが、勝ててない。今回だって命からがら逃げ出してきたんだ」

「戦……じゃなかった。勇者ウォーダンはどうしたんだ?」

「…………いない」

 

 え? 

 

(…………いない……)

 

「あいつはもういない。勇者ウォーダンは、すでに死んでいる」

 

 ……………………。

 

「……いつ頃の戦いで?」

「魔軍幹部に初めて戦いを挑んだ時に、私が下手を打った。それを庇って奴は死んだ、跡形もなく全身吹き飛んで」

(……ウォーダンが…………もう、死んだの?)

 

 つまり、僕のやり直しの範囲外。

 今すぐ死んでもウォーダンの死は取り消せない。

 完成された勇者一行は、本当の勇者と戦士を失っている状態で、魔軍幹部と戦闘していた。

 

 だから死んだ。 

 その圧倒的な戦力差に押し潰されて。

 道理だった。

 

「……正直に言おう。もう我々に、勝ち目は殆どない」

「……今回の戦いも、生き残れる可能性は無いに等しいものでした。最後の最後、エヴリルが限界ギリギリで発動した転移魔法によって難を逃れることに成功し、追撃をシャインが逸らしてくれたおかげで生存できましたが…………」

 

(……ダメだ)

 

 シャイン? 

 

(二人とも心が折れかけてる。このまま放っておいたら、よく無い事になる)

 

 それには同意する。

 実際勇者ウォーダンが死に、魔軍幹部が一人も倒せてない現状はかなり逼迫してい流だろう。

 

 でもまだ全員死んだわけじゃ無いんだ。

 未来で全てが無に帰すその瞬間まで、無力に過ごし続けた僕からすれば、まだまだ絶望するには早いと思えた。

 

(……強いね、ブレーヴ)

 

 僕らしか持ち得ないアドバンテージだろ、『未来視』は。

 

「でも二人とも生き残った。そして、次がある。それでいいじゃないか」

「次……ですか。情けない話ですが、どうすればいいのか……」

「シリアス。この剣を持ってくれる?」

「え……あ、はい。これは?」

「エヴリル曰く、【聖剣】らしい」

「──……!? 【聖剣】!?」

 

 シリアスは顔を上げて、僕が差し出した剣を手に取った。

 

(……ま、シリアスならいっか! でもでもブレーヴ、私のことあんまり他人にかさないでね?)

 

 男に貸すつもりは一切ない。

 君は僕のものだ。

 

(…………………)

 

 黙った。

 

 シリアスの握った聖剣(シャイン入り)は強い光を発している。

 

 そうだ。

 これが勇者の証明だ。

 そして、僕が欲しい特別な才能であり。

 決してたどり着けない領域の話になる。

 

「…………本物の、【聖剣】……!」

「子供の頃に拾った。僕じゃ暗く光るだけだけど、やっぱり本物が持つと違うね」

「シャインは私の【聖兜(せいとう)】にも反応した。彼には勇者の資格がある」

 

 だから呼んだ。

 そう付け足してから、少し冷め始めた料理にエヴリルは手をつけた。

 冷めきってない一人サイズの鍋料理にゆっくりレンゲを浸し、肉の旨味と野菜の水分が溢れ出して零れそうになっているスープを一口。

 

 様になる。

 

「私達に勝ち目は殆どない。だが、魔軍幹部をここで殺さなければ、人類の滅びは決まる」

「……ありがとうございます、返しますね。だから私達は無理を承知で、暗殺に動きました。結果は察しの通りですが」

 

 正面切っての戦いは無理だと判断したのか。

 二人とも僕を殺すことなんて容易いであろう実力者が二人いて、それでも暗殺じゃないと無理だと想定されるような怪物。

 

 それを僕が一人加わった程度で好転するとは思えない。

 

 ……でも、やるしかない。

 僕はシャインの道筋を辿ると決めたんだ。

 君は、僕を道連れに選んでくれた。

 嬉しかったんだ。

 わかるだろう、シャイン。

 

(……うん)

 

「これは、仮の話だけど」

 

 二人を前向きにしないといけない。

 

 嘘を言って、でもその嘘を現実にする。

 それが叶わないのなら自殺する。

 そうすれば必ず僕の予知は確定する。

 未来視なんて高尚なものじゃなく、実際はただ死んでるだけだけど──それは僕とシャインだけの秘密だ。

 

「僕がこの剣を握って得られる輝きは殆どない。燻んだ灰色の鈍い光だけが、僕の価値を証明してしまう」

「……ですが、あなたのおかげで私達は」

「だからさ。僕だけじゃこの程度の輝きしか出せない」

 

 詭弁もいいところだ。

 僕は自分自身が役立たずで無能で愚かで弱者だとわかっている。

 魔物相手に何度も死を繰り返し、強大な相手には歯牙にも掛けてもらえないと理解しているのに、心にもない嘘を並べている。

 

(ブレーヴ……)

 

 大丈夫さシャイン。

 僕は君を恨んだりしてないし、この役目を与えられたことを誇りに思っている。

 自分自身の力ではたどり着けない場所に、君の命を代償にたどり着いた。

 君はあの世界でどれだけの希望になれたのかをわかっていない。

 人類は大丈夫、そう思わせるくらいに世界を照らしたんだ。

 

 だから僕はそうならないといけない。

 

 勇者シャイン。

 その存在は鮮烈で苛烈で輝かしく、どんな暗闇をも照らす絶対の権化そのものに。

 

「僕の力はその程度だ。でも、君たちの死を覆すことはできた」

 

(…………ごめん。ごめんね、ブレーヴ。私、私の所為で、ああ、そっか、そうに決まってるのに私は、私はこんな…)

 

 それでいいんだ。

 僕はそれでいい。

 君が生きていて、この世界が続く。

 それが出来るなら僕は地獄にだって踏み入れる。

 

「さて、どうだろう。僕は二人に比べれば弱いし、勇者ウォーダンとは比べ物にならないくらい貧弱だ。壁なんて出来っこないし、唯一あるのはちょっと先が見える未来視だけ──それでも、死を覆す程度の戦力にはなれるよ」

「……シャイン(・・・・)…………」

 

 そうだ。

 僕はシャインだ。

 ブレーヴ・シャイン。 

 勇敢なる魂を名乗る不遜な輩。

 

「もう一度挑戦しよう。うまくいくような、そんな未来が視える気がするんだ」

 

 何度死んでも必ず達成する。

 見えた未来を変えていけ。

 僕は世界で唯一未来を変えられる男なんだ。

 

「勇者シャイン────少しは役に立ちそうじゃないか?」

 

 

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