やはり俺の隣の席は色々とまちがっている。【完結】   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。

 そして、最終回です。


やはり俺の隣の席は色々とまちがっている

「謎は、すべて解けた!」

 

 得意気な顔でそう言い放つ八幡に良夜と沙希がまず抱いたのは、「なに言ってんだコイツ?」という憐れみと疑問の感情だった。まだここに集められた事情が分かっている沙希はまだいいが、ここに呼ばれた理由すら知らない良夜に至っては明らかにイラついた様子だ。爪先を何度も床に打ちつけている辺り、今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいなのだろう。

 そんな二人の心中を察した雪ノ下は読んでいた文庫本をパタンと閉じ、

 

「比企谷君? 貴方のドヤ顔で周囲の空気が腐りかけているのが理解できない? 当たるか外れるかフィフティフィフティな推理を披露したいのならさっさとやって頂戴。特に、大隣君はこれからバイトも控えている事だし」

 

「それもそうだな。しかし雪ノ下、そこで俺が罵倒される意味が分からないんだけど?」

 

「気にしないで。罵倒はいつも突然なものなの。ソースは私」

 

「お前も突然罵倒されてきたんだな……」

 

「大丈夫。その罵倒してきた本人は超倍にしてやり返しを受けているわ。まったく……どうしてわざわざ昼食中に私の悪口を言ってきたのかしら、山本さんは」

 

「固有名詞出しちゃうのかよ」

 

 顔も知らない山本さんにご冥福をお祈りします。

 相変わらず無愛想な雪乃から意識を外し、次に八幡は沙希達二人をここまで連れてきてくれた結衣の方に顔を向ける。

 

「ありがとな、由比ヶ浜。その二人をここに連れてくるとか無駄にレベルが高かっただろうに……」

 

「い、いや、別に大丈夫だよ!? そ、そりゃまぁ確かに? ちょっと怖かったっていうか、ちょー気乗りしなかったのはホントだけど……二人の間の問題を解決するためだったから、大丈夫!」

 

「二人の間の問題? オイ沙希、どういう事だ?」

 

「…………それは」

 

「あー、いいよいいよ、川崎。無理に説明しなくて」

 

 ここからは俺が標的になろう。

 ――という蛇足は心の中に仕舞い込んだまま、八幡は大隣良夜を真っ直ぐと見つめる。視線も態度も目つきも怖い、隣の席のクリエイターに、比企谷八幡は死んだ魚のような目を見せつける。

 そして、彼は言う。

 互いの事を大切に思うあまり、不幸な擦れ違いをしていた二人の少年少女に、孤高のぼっちは卑屈に陰険に導き出したたったひとつの真実を突きつける。

 

「大隣。お前、川崎の予備校代を払うためにバイトしてたんだろ?」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 正確に言えば、良夜のバイトが終わった深夜の事。

 沙希と良夜は互いの家の近くにある公園のブランコで、たった二人で待ち合わせていた。春の夜風が薄着の二人を襲うが、今はそんな事を気にしていられるような場合ではない。

 比企谷八幡から告げられた真実。

 大隣良夜が川崎沙希の予備校代を払うためにバイトをしていた、という衝撃の事実。

 その真相を確かめる為、その真意を確かめる為、沙希は良夜をこの公園に呼び出したのだ。

 

「……最初に、聞いてもいい?」

 

 そんな沙希の一言に、良夜は静かに頷きを返す。

 

「どうして、あたしが予備校に通おうとしている事を知っていたの?」

 

「……最初の質問だからと警戒してたが、地味に斜め上に遠ざかっちまってるよ、その質問は」

 

「え?」

 

「俺はお前が予備校に通おうとしてるなんて知らなかった。俺は何も知らなかった。だが、俺はお前に対してずっと一つの事だけを思っていた」

 

 ―――予備校に通って大学に進学して欲しい。

 

 しかし、それには数多くの弊害があった。沙希の家が大家族で、収入に余裕があるわけではないという事も、その弊害の一つである。

 だから、良夜はバイトを始めた。

 自分が心を許しているたった一人の少女の為に、良夜は自分の時間を犠牲にして毎日のようにバイトに明け暮れていたのだ。

 幼馴染みから告げられた衝撃の事実に、沙希は目を潤ませる。

 そんな彼女の様子には気づかない良夜は、地面を見つめたまま「ハッ」と自嘲気味に笑った。

 

「何様だよ、って思うだろ? 他人の事なんだから首を突っ込むな、って思うだろ? 別に、それについては責めねえし、お前が気にする必要はねえ。だってそれは正論で、俺の行為は客観的に見ればただのお節介なんだしな」

 

 だけど、さ。

 そう、小さく付け加え、良夜は更にこう言った。

 

「俺は、お前には普通に幸せになって欲しいんだ。普通に予備校に通って勉強して、普通に大学に進学して楽しんで、普通に就職して結婚して、普通に幸せになって欲しい。昔から周りとは少しずれてた俺に唯一優しくしてくれたお前には、是非とも悔いの無い人生を歩んで行ってほしい。―――だから、そのために俺は金を稼いでた」

 

 笑い草だろ? と苦笑する良夜に、何故だか沙希は苦笑いすら浮かべられなかった。

 だって、自分を幸せにするためだけに、川崎沙希を予備校に通わせるためだけに、この幼馴染みは自分の限られた時間を犠牲にしていた――そんなの、笑えるわけがないじゃあないか。

 自分がいなければ、この幼馴染みは普通の学生らしい生活を送れていたって事じゃあないか。自分という存在が、彼の人生を狂わせてしまっていた―――つまりはそういう事じゃあないか。

 そんなの、有り得て良い訳が無い。そんなの、笑えて言い訳が無い。

 ―――しかし。

 そんな彼女に、今にも泣きそうな川崎沙希に、良夜はこんな事を言ってきた。

 

「でも、それももう必要ねえ。もう、お前の予備校代の為にバイトする必要もない」

 

「え……それは、どういう……」

 

 さっきと、言っている事が違う。

 そんな事を思った矢先に、良夜は沙希の頭を撫で始めた。

 そして、彼は告げる。

 自分以上にお節介で自分と同等に性格破綻者な隣の席の少年(・・・・・・)から齎された救いの道を、大隣良夜は提示する。

 

「なぁ、沙希。スカラシップって知ってっか?」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 そして、次の日。

 正確には、奉仕部が川崎沙希と大隣良夜の問題を解決した翌日の授業の最中。

 比企谷八幡は相も変わらず溜め息を吐いていた。

 その原因は言わずもがな、彼の隣の席に座っている少年にある。つい昨日、奉仕部の世話になったツンデレ系男子の授業中における内職が、今日も八幡の精神を微妙に食いつぶそうとしていた。

 本日、良夜の机の上には大量の消しゴムが用意されている。

 そこで、八幡は思い出した。

 かつて未遂に終わった、巨大打ち上げ花火事件の事を―――。

 しかし、今日の八幡は比較的冷静なようで、

 

(……まぁ、今回もどうせ未遂だろうし、気にするだけ無駄だな)

 

 流石に授業中に花火を打ち上げはしないだろう。というか、今度こそは止めてみせる。そんな固い意志を持った八幡は、黒板に書かれた授業内容をノートに書き写しつつも、隣の席の作業に僅かながらに――いや、六割ぐらいの意識を向ける。

 コトッ、と良夜がドミノを配置し始めた。

 それはまさに一切の無駄のない無駄な動きであり、彼の完璧且つ完全な芸術作品を仕上げるためには必要不可欠な技術である。

 教師が黒板にチョークを走らせるよりも速く、教師が教科書を読むよりも速く、良夜はドミノを作り上げていく。

 僅か十分ほどで配置を終えた良夜は「ふぅ」と溜め息を吐き、最後に机の端に小さなくす玉をセットした。

 

(……ん? もしかして今回は、花火は使わねえのか?)

 

 それは思っても見ない朗報だ。花火がセットされていない以上、無駄な心配をする必要はない。教科書で頭を隠したり平静を装いながらも小刻みに震えたりなんてことは、もうしなくて良いのだ。

 机の下で小さくガッツポーズをする八幡。

 そんな彼には構う事無く、良夜は静かに最初のドミノを人差し指で押し倒した。

 『3』の字のような急カーブ。

 階段を上って橋を通過し、再び階段を下って行く。

 鉛筆を回して遠くの消しゴムを倒し、定規によって作られた坂を消しゴムが滑って行く。

 滑り降りた消しゴムが次の消しゴムを倒し、ピラミッド状の消しゴムを上から順番に倒していく。

 相変わらずの壮大さだが、ここで八幡はとある事実に気づいた。

 

(あれ? この造りは、もしかしてこの間の花火と同じ……?)

 

 そんな事などお構いなしに、ドミノは最終局面へと進んでいく。

 螺旋状の階段を上って滑り台で机へと滑り降り、何の変哲もない直線やカーブが作られていく。それは机の隅々にまで達し、良夜の机上は既に消しゴムでいっぱいになっていた。

 用意されていたドミノがほぼ倒れ、最後のくす玉への一直線が倒れはじめる。カカカッと小さな音を奏でながら倒れていく多くの消しゴムはまさに芸術作品の様で、八幡は思わず見入ってしまっていた。

 そして、遂にその時がやってきた。

 ドミノによって紐が引っ張られてパカッとくす玉が左右に開き、紙吹雪と共に中から小さな垂れ幕が姿を現した。それには何かが書かれていて、八幡は目を顰めながらもその垂れ幕に注目する。

 何とかしてようやく垂れ幕の内容を確認した瞬間、八幡は茫然とした。

 そこには、こう書かれていた。

 

《まぁ、礼だけは言っとくよ》

 

 それは、素直じゃない良夜らしい文章だった。

 言葉で言うのは恥ずかしいし、手紙に書くのも照れ臭い。―――だから、いつもの作品を利用して感謝の気持ちを伝えた。絶対に自分の作品を見るであろう、比企谷八幡だけに伝わる方法で。

 授業終了のチャイムが鳴り響く。それは昼休みを知らせるチャイムで、生徒達がわいわいと喋りながらリラックスをする休憩の始まりだ。

 相っ変わらず無愛想で不器用な良夜は静かに席から立ち上がり、教室の外へと歩いていく。そんな彼を窓際の席の沙希が追い、いつも通りのチョップを決める―――そんな光景が広がっていた。

 そして、これまたいつも通りに自分の席へとやってきた結衣は、座ったままの八幡に疑問をぶつける。

 

「ねぇねぇヒッキー。さっき、大隣君の方を凝視してたっぽいけど、なんかあったの?」

 

「いや、別に何でもねえよ。アイツと俺の間には何にもねえ」

 

 そう、俺とアイツはただの知り合いでただのクラスメイト。それ以上の関係ではなく、下手をすればそれ以下のになるぐらいの関係でしかない。

 そんな、そんな他人のような関係だからこそ、八幡は思う。

 授業を真面目に聞かずに毎日内職をして過ごしている、素直じゃないくせに幼馴染み想いな孤高のクリエイターに対して、八幡はこう思うのだ。

 

「今日も不真面目だったな、って思っただけだ」

 

「ふーん?」

 

 

 やはり俺の隣の席は色々とまちがっている―――と。

 

 




 読了感謝です。

 この作品は言わずもがな、俺ガイルの世界に『隣の関くん』要素をぶっ込み、歪みに歪めた二次創作です。

 もちろん、大隣は関くんとはだいぶ異なるキャラクターです。性格とか性格とか性格とか!

 大隣の性格に不満を持つ人も多いでしょうが、あの世界に入れるならこれぐらい歪んでないと埋没しちゃいますからね……

 時系列的に出せる俺ガイルの主要キャラクターを全部出してみたつもりではありますが、ちゃんと揃ってるかな? え、材木座? なにそれ知りません知らないキャラクターです(笑)

 という訳で、今作はここで筆を置かせていただくとして。

 ここまで読んで下さった皆様に感謝します。

 次は、他作品でお会いしましょう。

 それでは、大隣と川崎さんに幸在らん事を。


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