籠中艶妻記~大貴族の娘と結婚したら、美しい上に聡明で、夫の豪商がすっかり夢中になってしまう話   作:高田正人

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第4話:新婚

 

 

◆◆◆◆

 

 

 私とリーシアの新婚生活が始まった。結婚するまでは「了家の女は贅沢三昧だぞ」「最高の美食でなければ箸をつけないぞ」「皇后様と同じ装身具を欲しがるぞ」「男が嫌いで大山よりも気位が高いぞ」などと、皆から脅されていたが、そんなことはまったくなかった。むしろ、彼女は贅沢よりも、無駄を省いた簡素な生活を好んでいた。

 

 それが分かったのは、一週間ほどして夕食を食べ終えた時だった。

 

「食事の量が多いわ。それに味も濃いし油っぽい」

 

 茉莉花の茶を飲みながらリーシアがそう言った。

 

「こちらの料理は口に合わなかったか。済まないな。向こうの料理人を呼ぼう」

 

 私は、いよいよ始まったか、と身構えた。彼女を満足させるために、どれくらい出費がかさむだろうか。

 

「いいわよ、そんなの。どうせここで暮らすんだから、今のうちに慣れておかないと。私は故郷が恋しくて胸を病むようなやわな女じゃないわ」

 

 しかし、私の申し出をリーシアは即座に却下した。

 

「それはよかった。船旅は体力勝負だからな」

 

 淘家は水運で財を成した。私も仕事柄船に乗って大河を行き、あちこちの港で商談をすることも多い。

 

 私はやはり船上で過ごす時間が一番好きだ。母は私を船上で産んだそうだ。沸かして冷ました龍江の水が、私の産湯ということになる。侍女に食器を下げさせると、リーシアは食卓越しに私に顔を寄せた。

 

「ねえ、私は確かに了家の女だけど、別に毎日宴会がしたいわけじゃないわ。食事とかはもっと普通のもので充分だから、特別扱いしないで頂戴」

 

 私は驚いた。壮国の建国時から皇帝に仕えているというのが、了家の誇りだ。彼らの自負心は呆れるほどに高い。当然その娘であるリーシアも同様と思いきや、実際は違ったようだ。

 

「そうなのか?」

「そうなのかって……もしかしてあなた、私が金遣いが荒いと思ってたの?」

「ああ。私が結婚前に聞いた了家の噂とはずいぶん違ったからな」

「ふふ、私も同じよ。淘家についてみんな言っていたわ。『筋金入りの守銭奴の家』だって」

「それはひどいな」

 

 私たち淘家は確かに商人だが、ケチではない。

 

「『銅貨一枚でも無駄に使ったら鞭で打ち叩かれる』とか『使用人をタダで働かせることが一番の喜び』とか『親兄弟でも同じ重さの銭で売る』とかね。実際は違うようでほっとしたわ」

 

 私は苦笑するしかなかった。大貴族にとっては、商いなどは卑しい仕事なのだろう。しかしそうだとすれば、商家に嫁がされたリーシアの実家での立場を察することができる。もしかすると、彼女は了家では肩身が狭かったのかもしれない。

 

「誇張しすぎだろう。そもそも、人をタダで働かせることはしない。それは商人として恥ずべき行為だ」

 

 私としては商人としての矜持を述べたつもりだったが、あいにくリーシアは特別感じ入ることはなかった。

 

「商売のことはよく分からないわ。いずれにせよ、私の食事の量は減らして。太りたくないの」

 

 致し方ない。大貴族の娘にとって生活の品など、自動的に出てくるものなのだろう。……もっとも、その認識が間違っていることをやがて私は知るのだが。

 

「承知した。しかし、女性はふくよかであった方がよいというが?」

 

 元より肥満は富裕の証でもある。痩身の皇帝など珍しい。細くすらりとした女性はそれだけで美しいが、夫人となると今度はふくよかであることもまた求められる場合がある。しかし、私の失言をリーシアは看過できなかったらしい。彼女の整った柳眉が吊り上がった。

 

「私が嫌なのよ! 妻として夫から魅力的に思われたいの! それとも何なの? あなた丸い方が好みなの? だったらなってあげるけど!?」

 

 一気にまくし立てられ、私は閉口した。もっともリーシアは、ただ癇癪を起こしたわけではないらしい。むしろ私の方が、彼女の体形を維持する努力に対して無思慮だったらしい。これでは怒られて当然だ。

 

 それにしても「だったらなってあげる」とは。彼女は私の好みに合わせてくれるらしい。そのことに内心嬉しく思いつつ、努めて顔に出さないようにする。

 

「失言だった。君はそのままで美しい」

「ならいいけど。太らないように気を付けているんだから、少しは褒めてよね」

 

 ぷいっとリーシアは横を向く。頬を膨らませるその仕草が愛らしかった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

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