いつまで続くかはわかりませんが、とりあえず星野アイ曇らせts百合ヤンデレ化ハッピーエンド(?)な作品が出るまでは頑張ります。たぶん。
シリアスは次話で終わりです。
―――その日は、星野アイにとって、忘れられない日になった。
ドーム公演当日。
その日は、アイたち
「いやぁ楽しみだね~」
アイは落ち着かない様子だった。
今や日本中で大人気のアイドルとなり、数多くの仕事をこなしているとはいえ、さすがにドームともなると緊張するようだ。
いや、緊張というよりはワクワクして興奮が収まらないだけだろうか。
「気持ちはわかるけど、少し落ち着きなさい。あなたもう二十歳になるんだから」
「はーい」
「まったくもう…」
窘めるような言葉とは裏腹に、優し気な声でもう一人の女性が声をかけた。
身長は…アイより少し高いくらいだろうか。
緩く波打つブロンドの髪は、肩口あたりで切りそろえられている。
アイとは似ていないが、十分に整った顔立ちをしており、両目には星の輝きを宿していた。
何も知らない人が見れば高校生くらいに見えるほど若々しいが、これでも今年で27歳になる、立派な成人女性である。
その女性は、困ったような、微笑ましいものを見るような表情をしていた。
「ほら、ルビーちゃん。そろそろお迎えが来るから起きましょうね~」
「ん~…」
双子の妹、ルビーはすでに着替えていたが、まだ眠かったのか、再びベッドの上で熟睡しかけていた。
そんなルビーを双子の兄、アクアが呆れた顔で見ている。
そんな時だった。
ピンポーン…と、玄関のチャイムが鳴らされた。
「あ、社長達かな」
「!私が行くから、アイはここで待ってて。」
「別にいいのに」
「今日は大事な日なんだから、雑用はお姉ちゃんに任せなさい」
「ふふ、わかりました、お姉さま」
「もう……」
女性は、アイを部屋に置いて玄関までパタパタと駆けていく。
「社長すみませーん!今開けます!」
扉の外に声をかけながら、ゆっくりと扉を開くと―――
目の前に、白い花束があった。
「え……」
花束を持っているのは、フード付きの黒いジャケットを着た男性だった。
フードと花束に隠れて表情は見えないが、それなりに身だしなみは整っている。
「えっと……」
「…すみません。お届け物です…」
「え、そうなんですか…?あ、もしかして苺プロの社員さんでしたか!?」
慌てながらも、両手で花束を受け取ると―――
「動くな」
「…っ」
いつの間にか、男は左手にナイフを握り、女性の喉元に突き付けていた。
「動いたら殺す、叫んでも殺す」
「…」
女性は男に言われた通り、冷や汗をかきながらもおとなしくしている。
「お、俺の言うとおりにしろ…アイが中にいるのはわかってるんだ…」
「…」
男は血走った目で、左手を震わせつつも、小さな声で語り掛けた。
「アイをここまで呼ぶんだ…あ、怪しまれないようにな。言う通りにすれば、お前は助けてやる」
「………」
女性は僅かに逡巡しつつも……覚悟を決めたように、口を開いた。
「…アイー、ちょっとこっちに来てくれるー?」
奥の扉から顔を出したアイが、玄関のほうに視線を向けた。
「お姉ちゃんどうしたのー?社長は……えっと、誰…?お客さん?」
僅かに戸惑いながらも、部屋から出てそのまま玄関に向かって歩いてくる。そして、アイを見た男は小さい声で、こらえきれなかったように呟いた。
「アイ………!!」
…憎悪と悲しみの籠った言葉だった。
そして、男の注意がアイに向いた瞬間―――
「…っ!!」
「な…!?」
女性はナイフを握った方の男の左腕を掴み、扉の外へと自分の体ごと押し出した!
二人が外に出ると同時に、玄関のドアが勢いよく閉められた。
◇◆◇
「!ちょ、お姉ちゃん!?」
「警察呼んで!」
扉の外から姉の叫ぶ声が聞こえる。
アイには何が起きているのかわからなかった。なにせ、アイの視点では男が持つナイフが見えていない。
姉の体と花束によって遮られており、せいぜいがフードを被った男性がいた、くらいしかわからかったのだ。
…ドアの外に行った二人の様子はわからないが、言い争うような声が聞こえる。
「と、とりあえず警察呼ばないと」
状況に戸惑いつつも、姉の言うとおりに携帯で110番にかける。
(110番なんて初めてだし…そ、そういえばなんて言えばいいんだろう、ええと……)
話す内容がまとまらない内に、電話口には相手の警察官が出てしまった。
「事件ですか、事故で「強盗です!ナイフを持ってて、人が刺されたんです!」!?」
「今は家の外で姉が襲われてるんです!早く来て!」
「住所は――」
(やっちゃった……)
最初に電話口に出た時よりも、険しい声をした警察官の問いにすらすらと答えながらアイは思った。
アイは嘘つきだ。
考えるよりも先に、その場に沿った嘘をつく。
(ま、まあいいか…警察は間違いなく来てくれるだろうし…)
これは後に判明することだが…
この時のアイの説明はこの上なく正しいものだったし、アイの話が
すなわち、今この瞬間こそが運命の分岐点だったのである。
「…そうだ!」
携帯を手放して、慌てて玄関のドアまで近づく。
(ど、どうなってるの?なにも聞こえないけど…)
外の様子がわからないため、静かに半分だけドアを開く。
ゆっくりと半身を出して、扉の外に視線を向けた先には――
「…!?お姉ちゃん!!」
壁に体を押し付けられ、男に首を絞められている姉の姿があった。
床には点々と血の跡がついている。
こちらに気づいた男は、姉の首から手を放して、傍に落ちている血の付着したナイフを拾った。
……崩れ落ちた姉はピクリともしない。
ナイフを持った男はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「そこを動くなよ嘘つき女…」
「な…」
「アイドルの癖に子供なんて作りやがって…!」
「なんで…」
「お前はファンを裏切ったんだ!」
「…」
「…俺は痛かった、苦しかった…だからこれは当然の報いなんだよ…!」
恨みを吐き散らしながら近づいてくる男を前にして、しかしアイはほとんど男の話を聞いていなかった。
(この人は私に恨みがある…私を殺しに来た…?)
(ドアを閉めて警察を待つ…そうすれば私と子供たちは大丈夫…でも、お姉ちゃんは?)
(私を殺せなかったら、腹いせにお姉ちゃんを殺すかもしれない)
(じゃあ戦う?勝てるの?ナイフ持ってる男の人に、素手で?)
(そもそもお姉ちゃんは生きてるの…?首絞められてたのに、動かないのに)
必死に現状を打開する方法を考えるうちに、気づけば、手が届きそうな距離に男が来ていた。
時間切れだ。
咄嗟にドアを閉めようとするも、姉のことが頭をよぎって動きが遅れてしまった。
男はすでに右手でドアを抑えており、左手のナイフを今にもアイに刺そうとしている。
「お前が悪いんだ!こうなったのは全部お前のせいなんだ!」
(あ……)
男のナイフが腹部に突き刺さった。
アイに痛みはなかった
「お、お前…!」
いつの間にか、男とアイの間には姉が割って入っていて
「え…?」
「…」
「お姉…ちゃん…?」
姉の腹部には、ナイフが刃の半ばまで突き刺さっていた。
◇◆◇
「…」
あっけに取られている男の両肩を、女が思い切り掴んだ。
「!?は、離しやがれ!この…!」
男はアイを殺し損ねたことを理解し、ナイフを引き抜いて再びアイを襲うつもりだった。
しかし、火事場の馬鹿力だろうか…想像以上に強い力で肩を掴まれていて、女の体を引きはがすことが出来ない。
…先ほどこの女は警察を呼ぶようにアイに指示をしていたし、もたもたしていたら時間切れになってしまう。
「いい加減にしろ…!」
焦った男はナイフとドアから手を放し、両手で女を引きはがそうとする。
――その瞬間
「うわ…!?」
男よりも早く、女の両手が男を突き飛ばした。
そのままドアの外で尻もちをつく男の目の前で、半開きだったドアは勢いよく閉じられた。
「あ!く、くそ!」
必死にドアを開けようとするが、当然鍵は閉められている。
…遠くから、サイレンの音が聞こえた。
「…!?ちくしょう!ちくしょう!!」
サイレンの音で我に返った男は、慌ててその場を走り去っていった。
◇◆◇
アイは、力の入らない姉の体を、ゆっくりと廊下に仰向けで寝かせた。
男をドアの外に突き飛ばした姉は、半開きだったドアを素早く閉めた。
このマンションはオートロックだ。なんの道具もスキルもないのであれば、そう簡単に開けられることはないだろう。
…だがそこまでだった。
ドアが閉まると同時に、姉はふらふらと今にも倒れそうな状態でアイの方にもたれかかってきた。
血が流れていた。
空調が効いている室内だから、姉は薄い部屋着のまま……痛々しい傷が服の上からでも見て取れる。
アイには医療の知識なんてないが、それでも、姉が生死にかかわる重傷を負っていることだけは理解していた。
救急車を前もって呼んでいれば間に合ったかもしれないが…残念ながらアイは110番通報しかしていなかった。
「お姉ちゃん!しっかりして!お姉ちゃん!!」
アイには医療の知識がない。
軽い怪我程度なら救急箱があるし、施設でも応急処置のやり方くらいは教わっていた。
だが、この傷はどう考えても素人の手に負える状態ではない。
一番ひどいのはナイフが突き刺さったままの腹部だろうか、他にも切り傷や刺し傷が複数ある。
このナイフは抜いてもいいの…?
救急箱だけで処置できる…?
救急車を呼ばないと…?あれ、携帯どこに置いたっけ…
…どうして、こんなことになったんだっけ
「いやだ!こんなお別れいやだよ…!お姉ちゃん!!」
…わからなかった。パニックに陥ったアイは思考を放棄し、ただ、涙を流しながら姉に声をかけ続けることしか出来ない。
考えれば考えるほど、すでにどうにもならない状態に陥っていることを理解してしまうから。
しかし。
無情にも、アイの目の前で、最愛の姉がゆっくりと目を閉じていき―――
・リョースケ
加害者。一般(?)厄介ファン。
原作と比べると事前準備をしっかりして来た。
まるで買ってきたばかりのような新品の服を着ていた。センスも悪くない。花束を持って街中を歩いていても、仕事かお祝いかな、と思われるくらいにはまともな見た目をしていた。
家にアイの姉がいることは聞いていたので、玄関で最初にアイが出なかった場合を想定して、セリフや作戦を練ってきた。
だいたいは黒幕が入れ知恵したせい。
作戦通りに行くかと思いきや、オリ主に予想外の抵抗をされて計画は失敗。
両肩を掴まれた時は尋常じゃない握力にビビっていた。
逃走後は消息不明になった模様。
あ、ありのまま起こったことを話すぜ!
俺は、目の前にいるアイにナイフを刺したと思ったら、後ろで倒れていたはずの女が目の前にいて、そいつにナイフが刺さっていた…
な、何を言ってるのかry