あの最期…アイが亡くなったシーン…
アイの目から輝きがなくなった姿…
あれ……初めて見た時……
なんていうか……その…下品なんですが…フフ……
下品なのでやめておきますね…
俺は悩んでいた。
(最近のアイおかしい…)
そう。ドーム公演を成功させ、今や時の人となった我が妹、星野アイのことだ。俺が退院してからしばらくの間はよかったのだ。心配してくれてるのがわかったし、アイも不安だったんだろう。
(あれから半年…スキンシップの回数は減ったが、その分だけ一回あたりが濃くなったというかなんというか)
当初は風呂も寝る時もアクアとルビーの世話してる時も、どこでも俺にひっついてきた。まるで施設にいた頃のアイに戻ったみたいだった。とはいえ、しばらくすれば落ち着いて、すっかりいつも通りのアイに戻った…と思ったのだが。
(マッサージとかさ、あれもうただのペッティ〇グだよね)
アイはたまに『日頃の感謝』と称してマッサージをしてくるようになった。なんでも、ダンスのレッスン終わりに自分がされているマッサージのやり方を学んだらしいのだ。最初こそ喜んだものの、今ではマッサージの時間は俺にとって拷問に等しかった。
…俺は鈍感じゃない。こうもあからさまに態度に出されればわかってしまった。
(アイは俺のことを好いている…家族としてではなく、恋愛対象として)
好感度を稼ぎすぎただろうか。しかし最高の曇らせを見るためには高い好感度が必要だったし、どうしようもなかった…仕方なかったってやつだ。 それよりも、今は『アイが俺を恋愛対象として好意を抱いている』という事実…これが重要だ。もしかしたら、これは新たな曇らせのチャンスではないだろうか。俺に対する恋愛感情を利用すれば…
(信じて送り出した姉がアへ顔ダブルピースビデオレターを送ってくる……悪くない。あっそうだ!俺の寝取られビデオをアイと一緒に見るのはどうだろう!)
夢が広がるなぁ。どうせ今の俺は想定外の人生…ゲームで言えばボーナスステージに突入したようなものだ。もうなにやったって構いやしねぇ。今までは男と『そういうこと』をやるのは控えていたが、人生は何事も挑戦だ!試してみたら案外ハマって楽しめるかもしれないしな!
(頑張れ俺!頑張れ!俺は今までよくやってきた!俺は出来る奴だ!今日もこれからも、俺が曇らせを諦めることは決してない!)
やってみせろよ俺!
なんとでもなるはずだ!
◇◆◇
(今日も疲れた~)
…姉が退院してから半年が過ぎた。
今の私たちは新居に引っ越している。今度の家は以前よりもセキュリティーは万全…なのかな?
社長が言うには有名人の家が一般人やマスコミにバレるのはどうしようもないことなので、セキュリティーの強化はするけど今後は不定期に引っ越しをすることになるらしい。
(有名人って大変…)
まぁ、社長なら信頼してるし、私はその辺あんまり詳しくないのでおまかせだ。悪いことにはならないと信じたい。
(お姉ちゃんはお風呂かぁ…一緒に入りたいけど、今は我慢我慢)
退院してからしばらくは押せ押せでいったけど、どうにもうまくいかなかった。姉は中々守りが固い。だから今はあえてスキンシップを減らして、一回当たりの密度に重点を置いている。これは手ごたえがあった。姉の体を徐々に侵略していくのは楽しい。もうちょっと声をあげてほしいけど、そこは私のテクニックで頑張るしかない。
と、考えている間に着替え終わり、私はリビングへと向かう。
(あれ?)
リビングには私の愛しい子供。アクアとルビーがいる…んだけど、なんだかいつもと様子が違う。アクアは真剣な顔で何事か考えている様子で、ルビーは不安そうな表情をしていた。
「!あ、ママ…」
「どうしたのルビー?もしかして幼稚園でなにかあった?」
「その…伯母さんがね…」
「!お姉ちゃんに何かあったの…?」
ルビーはしばらく言おうか言うまいか悩んでいるようだったが、覚悟を決めたのか、顔を上げて話し始めた。
「最近ね、幼稚園に新しい先生が来たの」
「先生…?その人がどうかしたの?」
「その先生は男の人なんだけどね、この前伯母さんとお話ししてたの…二人ともすごく仲良さそうだった」
「そう…なんだ。ま、まぁでも、お姉ちゃんは誰とでも仲良くなるし、別に変なことはないんじゃないかな」
そう、姉は優しいから、男女問わず色んな人と仲良くなる…なってしまう。
(私も昔は大変だったなぁ)
施設にいた頃、姉と同じ高校の人に話を聞いたことがある。姉は学校ではあんまり目立つわけじゃないけど、実は結構な数のファンがいて、告白も何度もされるくらいモテていたらしい。
気になってしょうがなかった私は、ついに姉に聞いたのだ。
『お、お姉ちゃん!』
『?どうしたのアイ、急に大きな声出して』
『お姉ちゃんって、好きな人いるの!?』
『あら、お姉ちゃんはアイのこと好きよ。施設のみんなも大好き』
『そうじゃなくて…!』
『ふふっ、ごめんなさい…恋愛的な意味で好きな人ってことでしょ?いないわよ』
『そうなの…?』
姉は少し悩まし気な顔をすると、安心させるように私に答えた。
『…実はね、お姉ちゃんちょっと変なんだ』
『変?』
『誰かに恋をするって…よくわからないのよ。もう高校生なのにね…私はたぶん、男の人と恋愛は出来なんじゃないかな…』
『…』
『ごめんね、急にこんなこと…アイはお姉ちゃんのこと、おかしいって思う?』
そう問いかける姉に、私は慌てて否定したことを覚えている。
そうだ…お姉ちゃんが男の人と恋愛することは決してない。お姉ちゃんは私に嘘をつかない―――
「でもね、その先生はお姉ちゃんと同級生なんだって!学校にいた頃もいつも一緒だったって…」
…
「みんながね、伯母さんのこと追いかけてきたんだ…って言ったら、その先生、顔が真っ赤になってたの」
…
「僕も、ちょっと気になってるんだ」
今度はアクアが話し始めた。
「毎朝うちの近所をランニングしてる人いるでしょ?大学でラグビーやってる吉田さん」
…そういえばそんな人がいた気がする。私はあまり話したことはないけど。
あっ、思い出した。私より頭二つか三つ分ぐらい大きい人だ。体格もすごくガッチリしていて、そのくせ顔はさわやかハンサムって感じの人。
「伯母さんと吉田さんが話してるのを見たんだ…ゴミ出しの日はいつも話しているんだよ」
「…ご、ご近所付き合いは大切だから…何かあるの?」
私が聞くと、アクアは真剣な顔で話をつづけた。
「伯母さんと話してるとき、吉田さんいつも照れたような顔をしてて…伯母さんのことが好きなんじゃないかな」
…
「この前なんてスポーツドリンクの差し入れまでしてさ…」
…
その後も聞いたら出るわ出るわ、私の知らない男と姉の話。
(若い配達員?高校生のスーパーのバイト?近所のダンディな塾の先生?)
「伯母さん、ママがいない時に言ってたよ。『結婚かぁ』って…これってもしかして…」
「…ないよ」
「えっ」
「ないから」
「ま、ママ…?」
私は安心させるように二人に微笑みかけた。
「お姉ちゃんが男の人と付き合うなんて…ないない、結婚なんてもっとありえないよ」
「そ、そうかな」
「伯母さん美人だし、ありなくはないような…」
「だめだよ」
「!?」
「ま、ママ…?」
「二人とも教えてくれてありがとう…ほら、もう遅いからママと歯磨きして寝よっか~」
(お姉ちゃん…私に嘘ついたの?……男の人とは恋愛しないって言ってたのに…!!)
(もし…もしもお姉ちゃんが本当に嘘をついていたのなら…)
(許せない…許せないよ……こんな、こんなの…!)
(あっ…そっかぁ…わかっちゃった)
(私を殺しに来た人も、こんな気持ちだったのかな)
◇◆◇
(さーて…どうしたもんか…)
俺は洗面所で顔を洗いながら考え事をしていた。
寝取られ相手の候補は順調に見つかっている。しかし、ドーム公演の日の曇らせには12年もの歳月をかけたのだ。今度の曇らせもたっぷりと時間をかけて、入念に準備するべきだろうか。
(いやぁ、もう一回12年は無理かな。我慢できん…次は早めに準備してやっちまおう)
あの頃の俺は我ながらヤバかったよな…12年間も曇らせのために費やしたんだから。もう同じことやれって言われても無理。
(そうだ。いっそのこと誰かとさっさと結婚して、同居するか、もしくはアイの近くに住むんだ。そして新婚ラブラブ生活をみせつけてアイの脳を破壊する!)
…悪くない。うまくいけば1年くらいはアイの曇らせ顔を見続けることが出来るだろう。さすがにドーム公演の時よりは薄いだろうが、その分長く曇らせを堪能することが出来る。
アイは優しいからな。結婚すれば、俺の幸せを願って身を引いてくれるはずだ。まぁ、アイがさっさと俺を振り切ってしまってしまう可能性もあるのだが。
…ふと、人の気配がしたので顔を上げると、鏡の中に人が映っていることに気が付いた。
「あら、おはようアイ。今日は休みなのに早起きねぇ。もっとゆっくりしてていいのに」
「…」
「アイ…?」
いつのまにやら、俺の背後にアイが立っていた。
…なんだか気配が薄い。今も目視出来ているのに、まるで幽霊にでもなったかのように生気が感じられない。
「…お姉ちゃんさ」
「なに…?」
「私に嘘ついてる?」
「え?」
(えっ、嘘?嘘ってどれのことだ……隠し事が多すぎてわからん…)
「私に嘘…ついてない?」
「……」
「ねぇ」
(い、いやな予感がするぞ…まるで、ひとつ選択肢を間違えただけであっさりと死んでしまう即死ノベルゲームみたいだ…)
(どうする…なんて答えるか…)
俺は振り向いてアイを正面から見た。
…前髪で目元が隠れてよく顔が見えない。表情は……な、何も感情が見えない…人形かこいつは…?
「アイ…急にどうしたの?なにかあったの?」
「…最近さ、よく男の人と話してるよね」
「え?えぇ、そうかもしれないわね…それがどうかしたの?」
「…」
「私が男の人と話したらダメなの?」
「……っ」
アイから感じる圧が強くなっていく…!
俺は素早く頭を下げた!
「!?」
「ごめんなさい…私が悪かったわ」
悲壮感たっぷりの雰囲気と声音で語り掛ける。
(落ち着け…大丈夫だ。この程度危険でもなんでもないはずだ)
「最近は特に問題も起きてないし、なんだか安心しちゃって…私、ちょっと浮かれてたみたい」
「…」
「アイはいつも仕事で大変なのに…それなのに、私が調子に乗っていたら気に食わないわよね…」
「そんなことはないけど…」
「…ありがとう、アイ…私の可愛い妹」
俺はすかさずアイを抱きしめて頭をなでる。
「こうしていると、施設にいた頃を思い出すわ…」
「…」
「お姉ちゃんのこと、許してくれる…?」
「…うん」
「ありがとう…アイは昔から変わらないわね…優しい子のままでいてくれて、お姉ちゃん嬉しいわ」
「…」
よし、楽しく話せたな!
…ところでアイが片手に握っているそれはカミソリだろうか。なんでそんなもの持ってるんだ…刃も剥き出しのやつだし…
◇◆◇
そうだよ…お姉ちゃんが私に嘘なんてつくわけない
嘘つきな私とはちがう。お姉ちゃんには裏表なんてないし、特に私に対して嘘をつくことはない。ありえないんだ。
…ごめんね、疑っちゃって
悪いのはお姉ちゃんじゃない。
まるで蛍光灯に群がる蛾のようにお姉ちゃんに寄って来る男の方だ。
お姉ちゃんに少し優しくされたからって勘違いして…
私がお姉ちゃんを守らなきゃ…
・オリ主
常に新しいことに挑戦し続けるチャレンジャーにして処女ビッチ。
せっかく生き残ったので次の曇らせを見るために行動を開始した。最大の曇らせを更新するのは難しいと判断し、今度は長く楽しむための計画を考えている。
・星野アイ
好意を抱いている人に嘘をつかれる恐怖と怒りを理解した。
姉への信頼はまだまだ大きいので、とりあえず周囲の障害を排除し続ける方向で動いている。
信頼値が一定以下になると閉じ込める方向へシフトする。
・双子
ママ至上主義なのは共通。
アイと伯母がくっつくことには特に異論はない。むしろ早くくっついてほしいと思っている。
今後も善意で伯母の異性関係を随時報告するようになる。