Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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いきなり登場人物の名前間違える大ガバをやらかしてました
✕ 牛島
○ 牛丸
誰だよ牛島...ヤミ金業してそうな名前になってた...?

指摘感謝です


Unconscious shelter

 転入生を受け入れた翌日、4月13日は秀尽学園の一大イベントである球技大会が開催される。新学年となったクラスの親睦を深めるという名目で行われるそれは、男子生徒にとっては日頃の有り余る体力を思う存分発揮する良い機会だ。とはいえ、鴨志田先生が教師となってからは一部の女子生徒も熱狂するイベントになっているが。

 

「キャー! 鴨志田センセェ-!」

 

「スゴーイ!」

 

 体育館から聞こえてくる黄色い悲鳴をよそに僕は校舎内を適当に練り歩く。球技大会の運営は基本的には保健委員と体育教師が主軸となって行われるが、足りない手については生徒会も協力する必要がある。そして僕はと言えば、鴨志田先生からのたってのご希望でサボりがいないか校内の見回りに回されていた。

 

「......気に入らないからってここまであからさまなことするかなぁ」

 

 自分が一番活躍出来るフィールドに口出ししてきそうな人間を遠ざけるって、やってることが中学生と変わらないと思うんだ。というか学生が主役のイベントで教師チームとのエキシビションマッチが3、4試合も組まれてるってどうなんだろう。先生方も日頃のストレスを身体を動かして解消したいんだろうけどさ。

 などと益体も無いことをうだうだと考えながら校内を見回る。途中、教室にたまってサボっている子達に形だけの注意をしながら歩いている。年々、球技大会をサボる子が増えてる気がするなあ。真面目な生徒も、体力が豊富な運動部連中もサボったりしてるってことは球技大会そのものが魅力的になってないんだろうな。

 

「うーん、食堂の無料券だけじゃそろそろ誤魔化すのも難しくなってきてるかな」

 

 僕が生徒会に入ったときに提案した景品だ。導入した当初は結構な反響があったものの、3年目ともなればそのインパクトも薄れつつある。根本的な対策を取らなくちゃいけないよなぁ。

 

「でも鴨志田先生に球技大会出るなとは流石に言えないし......」

 

 そんなこと鴨志田先生は絶対に認めないし、鴨志田ファンが黙っちゃいない。腕を組んでうんうんと唸りながら歩いていれば、気づけば中庭に来ていた。ふと視線を巡らせてみれば昨日も見たペアが自販機の並ぶ一角に佇んでいるのが見えた。

 

「......! ......ってか!」

 

 何を話してるのかは聞こえないが、中々坂本君がヒートアップしている様子。体育館で何かあったのかな? ついでに二人に声を掛けようと近づいて行くが、僕より先に二人に声を掛けた人がいた。

 

「アンタ達、もう噂になってるから。誰も協力なんかしないし」

 

 声だけで分かる険悪な雰囲気。坂本君のとは違う天然物のブロンドヘアに青い目。野暮ったい学校指定のジャージ姿が様になるのはこの子くらいのものじゃないだろうかと思うような美人が坂本君、雨宮さんと対峙していた。

 学年は違うけれど彼女の名前は知っている。高巻杏。あまり校内に良い噂は聞かないが、本人もそれを気にしているのか気にしていないのか、他人とあまり関わったりしている様子もないという。

 あんまり関わると余計なお節介になるだろうが、これ以上話していると喧嘩になってしまいそうだ。そう判断した僕は一触即発の雰囲気を漂わせている三人のもとに姿を現す。

 

「休憩するのは良いけど喧嘩はダメだよ」

 

「っ!? 海藤センパイかよ、教師かと思ってビビったぁ~」

 

「聞かれちゃマズい話でもしてたのかな~?」

 

「いやいや! そんなことはないっすよぉ?」

 

 坂本君の顔を覗き込むと、わざとらしく視線を逸らして誤魔化そうとする。相変わらず隠し事が下手だなぁ。とはいえ本人が話したくないと思っていることを無理に暴くのもおかしな話だし、あんまり追求するのは止めておこう。僕はくるりと振り返って今度は高巻さんに視線を合わせる。

 

「えっと、2年の高巻さん、だよね?」

 

「……何ですか?」

 

 高巻さんは警戒心を隠そうともせずにこちらを睨み付ける。いや、美人が凄むと滅茶苦茶怖いな……。いや一方的に名前だけ知られてたらそりゃ警戒もするか。

 

「ごめんごめん、自己紹介がまだだったね。僕は3年の海藤っていうんだ。一応生徒会役員で今日は球技大会をサボってる子がいないか見回りしてるんだよね。高巻さんは目立つし、モデルとかもやってるから名前知ってただけだよ」

 

「……そうですか、じゃあ私はこれで」

 

 警戒させないように笑顔を心がけていたが、失敗。初対面じゃそらそうなるわな、という感じなのであまり気にしない。それ以上に何か嫌われているような気もするけど、覚えが無いので気にしても仕方ない。坂本君と雨宮さんに向き直る。

 

「僕なんか嫌われるようなことしたかな?」

 

 訂正。気にしても仕方ないけど気にしないわけじゃないのだ。

 

「いや、アイツは誰にでもあんな感じっすよ。てかこんな日に見回りとかセンパイも大変すね」

 

 坂本君の言葉に多少なり救われるよ。

 

「まあ生徒会って要は先生方の雑用係だしね。腹立つからしっかり権利も行使するけどさ。坂本君は足の調子はどう?」

 

「ボチボチってとこっす」

 

 坂本君は足を上げ下げして力無く笑う。去年、陸上部のエースだった坂本君は無茶な練習で足を壊してしまい、臨時顧問だった鴨志田先生とひと悶着あったのだ。坂本君とはその時から関わる仲である。

 

「そっか、二人も休憩はそれくらいにして戻りなよ。せっかく食堂無料券を景品にしてるんだし、景品狙って頑張ってみてよ」

 

 自販機に小銭を入れてジュースを三本購入。坂本くんには炭酸を、雨宮さんには無難にスポーツドリンクをそれぞれ手渡しておく。二人の境遇を考えると、これくらいは許されるだろう。

 ジュースを受け取った二人はなんとも言えない表情で僕を見ていたが、気にしないようにして退散。ある程度仕事はしたし、僕も後は生徒会室で今買ったコーヒーでも飲みながらのんびりしよう。自分の出る競技まではどうせ暇だし。

 

 


 

 

 放課後、今日も帰りのHRを適当にやり過ごした後は、生徒会室に鞄を置いて体育館へと向かう。球技大会の日は半ばこうやって体育館に向かうのがルーチン化していた。体育館に近付けばボールが弾む音と気合いの入った声が聞こえてくる。相も変わらず熱心なことで。

 

「こんちわー」

 

 誰も聞いてないだろうけど、体育館の扉を開きながら挨拶をしておく。それと同時に僕の顔の真横付近、金属製の扉に豪速球で飛んで来たバレーボールがけたたましい音を立ててぶつかった。

 

「……なんだ、海藤か。相変わらず暇な奴だな」

 

 ボールの出所を辿ってみれば、そこにはあからさまに表情を歪めた鴨志田先生。

 

「どうも。恒例の見回りでーす」

 

「チッ、練習の邪魔だけはするなよ」

 

 これ見よがしに邪魔だオーラを出してるけどそれは敢えて無視して体育館の隅を歩いてバレー部の練習風景を眺める。この見回り、という名の監視は去年の春頃からちょくちょくやるようになった生徒会の、というよりは僕の新しい仕事だ。定期的に体育館やグラウンドの設備を見て回り、各部活動がどのように活動しているかを確認、予算分配の参考にするといった名目で行っているわけだけれども、まあ一番の目的はバレー部の過剰な練習の監視だ。鴨志田先生はバレーボールの元金メダリストということもあって生徒に求めるレベルが異常に高い。最初に見たときはただの拷問じゃないかと見紛うようなシゴキをしていたものだから、その様子を撮影して校長先生に突き出したりもした。と言ってもバレー部は全国大会優勝したりといった実績もあって校長も強くは言えない。なので撮影した映像を引っ提げて鴨志田先生に無茶な練習をしないように直談判した。

 その結果、僕が見ている前では目に余るようなシゴキはしないようになった。だけどもそれでバレー部の実績が落ちたなんて言われるのも癪なのでちゃんとバレーや運動科学について勉強し、鴨志田先生に言われっぱなしにならないように知識も身に付けた。

 

「おい三島ァ! サボってるんじゃない!」

 

 鴨志田先生の怒号が飛ぶ。対象はコート内でフラフラになっていた三島君だ。罰とばかりに先生の強烈なスパイクが炸裂し、辛うじて腕で弾いたもののもんどり打って倒れてしまう。

 

「そんなんじゃいつまで経ってもレギュラーになれないぞ!」

 

 うーん、これは体罰か、厳しい指導か微妙なラインだ。バレー部は男子も女子も鴨志田先生こそ絶対という思想が大なり小なり浸透してしまっているから内部告発も期待出来ない。動画をSNSに公開すると言えば校長だけじゃなくバレー部の父兄からも止めろと言われる始末だし。せめて出来ることと言えばこうして目を光らせて被害が深刻化しないようにするくらいだ。

 僕はフラフラと覚束ない足取りでコートから出てきた三島君にタオルとスポーツドリンクを差し出す。

 

「お疲れ。大変だね。鬼コーチのシゴキってのは」

 

「あ……、えっと、はい……」

 

 ありがとうございます、と聞こえるか聞こえないかくらいの声量で呟いた三島君は壁にもたれかかって失った水分を補給する。

 

「部活に懸ける青春ってのも良いけど、身体と心を壊さない程度にね」

 

 それだけ言い残して壁から離れる。男子バレー部は今は交代で試合形式の練習を始めており、鴨志田先生の興味は体育館のもう半面を使用している女子バレー部に移っていたからだ。

 女子バレー部は先ほどの男子バレー部よりも優しい指導が行われている。傍目に見てボディタッチが多い気もするけれど、喜んでいる生徒もいるからどうしようもない。

 

「鈴井~。お前は相変わらずフォームが固いなぁ。トスを上げるときはこうやって腰を落として……」

 

 鴨志田先生のお気に入りは鈴井さんらしく。彼女に対しては特に念入りな指導が行われる。念入り、というか変態的な指導だ。対する鈴井さんはと言えば俯いて身体を余計に固くさせてしまっている。とてもじゃないが健全な指導風景には思えない。

 

「鴨志田先生、一回先生がお手本を見せてあげるのはいかがです?」

 

「あぁん? 何を勝手なこと言ってるんだ海藤。部外者が口出しをするんじゃない!」

 

「でも元金メダリストのプレイを見るってすごく勉強になるじゃないですか。それにあんまりベタベタ触るのは指導じゃなくてセクハラですよ、先生」

 

 セクハラ、と言われて鴨志田先生の顔が歪む。本人も自覚はあった、というかそのつもりでやっていたんだろうしね。傍から見ててもイヤらしい目してたよ、先生。

 

「……仕方ない、おい。俺に向かってスパイク打ってこい! しっかり見ておくんだぞ、鈴井!」

 

「は、はい!」

 

 これ以上言い争っても良いことは無いと悟ったのか、鴨志田先生はコートの真ん中に立って構える。鈴井さんは壁際に立つ僕の隣までそそくさと小走りで退避してきた。

 

「……その、ありがとうございます」

 

「あー、気にしないで。毎回助けてあげられてるわけじゃないし。ほら、ちゃんと見てないとまた鴨志田先生にどやされるよ」

 

 小声でこちらにお礼を言ってくる鈴井さんにそれだけ言うと、僕もコート内の鴨志田先生を観察する。流石に元メダリストだけあって構えが自然だ。対面のコートから放たれる女子にしては球威の強いスパイクを、鴨志田先生は難なく捉え、優しくトスを上げる。場所も完璧だ。こう見るとやっぱりこの人もスゴい人なんだよなぁ。セクハラ癖とガキ大将気質なのが玉に瑕なんだけどさ。

 

「ほら、ちゃんと見てたか? 次は鈴井がやってみろ!」

 

「はい!」

 

 鴨志田先生の指示に鈴井さんはまた小走りでコートへと戻っていく。その途中でチラリと肩越しに僕を振り返ると、ありがとうと目礼してきてくれたので手を振り返しておく。律儀だなあ。そこまで気にする必要ないのに。

 結局、バレー部の練習が終わるまで何かと理由をつけて体育館に入り浸っていたため、僕が学校を出たのは19時を回った頃になってしまっていた。


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