音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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籠絡

 約束の時刻ちょうど、僕はファッジの執務室の扉を叩いた。

 腕には、第一回の魔法教育委員会で扱う議題と、各委員へ事前に配布する資料をまとめた冊子を抱えている。本来なら今日は、会議の進め方や大臣の挨拶について、最後の打ち合わせをする予定だった。

 

 しかし、執務室の様子は、普段とはまるで違っていた。

 机の上には何通もの羊皮紙の束──おそらく何かしらの報告書──が開いたまま重ねられ、床にも数枚の羊皮紙が落ちている。スツールの上には昨日と今朝の『日刊予言者新聞』が広げられ、その一面では、脱獄者たちの顔写真が代わる代わるこちらを睨んでいた。いつもなら扉脇の帽子掛けに収まっている緑色の山高帽も、今日は外套と一緒に長椅子へ放り出されている。

 その机の上で、ビンクが次々と届く手紙を素早く仕分けていた。入ってきた僕に気づくと顔を上げ、ほっとしたように微笑む。

「ああ、お待ちしておりました、坊ちゃん」

 けれど、笑っているのは口元だけだった。大きな目は落ち着きなくファッジの背中を追い、耳も普段より固く伏せられている。

 

「ドラコ! 来てくれたか!」

 ファッジは執務机と暖炉の間をせわしなく歩き回っていた。シャツはくたびれ、チョッキのボタンも一番上が外れている。僕が抱えている資料には目も向けず、待ちかねていたように両手を広げた。

「大臣。委員会の資料をお持ちしました。まずは、当日の議事について──」

「ああ、それは後だ。今はそれどころではない!」

 ファッジはそう言いながら方向を変え、また机の前を横切った。

 

 僕はひとまず持ってきた冊子を、わずかにスペースの余っているスツールへと置く。

「ああドラコ、十一人もの囚人が一晩で消えたんだ! それなのに、あの吸魂鬼どもときたら、何一つまともな説明をしようとせん。何を尋ねても、気づいたときにはいなくなっていた、その一点張りだ!」

 机の端に突き出していた報告書をつかみ、苛立たしげに振ってみせる。何枚かの羊皮紙が留め具から外れ、床へ散らばった。ビンクが慌てて机から飛び降り、それを拾い集め始める。

「しかも、記者という記者から、朝から問い合わせが殺到している! しかし問い詰められたって私は何も知らない──私に、いったい何を発表しろというんだ?」

 ファッジは答えを求めるように僕を見たが、こちらが口を開くより早く頭を振り、再び歩き出した。

 

「ダンブルドアからも、昨日の朝のうちに手紙が来た。奴は今回の脱獄も……『あの人』の仕業に違いないと言っている!」

 その名を口にした瞬間、声がわずかに裏返る。

「吸魂鬼が奴の側についたから、こういうことが起こるのだと言っている……今すぐアズカバンの警備を見直せ、これ以上事実から目を背けるなと……相変わらず、何の証拠もなしに言いたい放題だ!」

 吐き捨てるような言葉とは裏腹に、ファッジの歩調はさらに速くなっていた。ビンクは拾い集めた報告書を胸に抱えたまま、困り果てた顔で僕を見上げている。

 

 しばらくウロウロしていたファッジは立ち止まり、迷子のような顔でこちらを見た。……これは、い(・)け(・)そ(・)う(・)だ。

 ヴォルデモートの復活を確信できていたなら、今ごろダンブルドアに助けを求めているはずだ。そうではなく彼を責める方に流れ、まだ別の説明を求めている。自分は間違っていなかったのだと、思わせてくれる何かを。

 ファッジの瞳をじっと見つめる。その激しい苛立ちの奥にあるのは、ダンブルドアへの敵意だけではない。迷いと怯え、それから、僕に向けられたわずかな疑念が伝わってくるようだった。

 

 

 しばらく視線をさまよわせたあと、ファッジは探るように口を開いた。

「……そういえば、ルシウスはどうしている?」

「父ですか?」

「ああ。昨日の新聞を見て、さぞ驚いただろうと思ってね。何しろ、ベラトリックス・レストレンジはナルシッサの姉君だ。何か……その、以前から変わった様子などはなかったのかね?」

 思わず眉を下げると、ファッジはすぐに片手を振った。

「いや、ルシウスを疑っているわけではない! もちろんだとも。彼はもうずっと前に無実を証明している。ただ、あー……そう、奴らが血縁者に接触を図ることも、考えられん話ではないのでね」

 最後の一言だけ、声がわずかに小さくなった。

 

「分かっています、大臣。クリスマスの間一緒だった僕から見ても、父が今回の脱獄について知っていたとは思えません」

 できるだけ安心させるよう、ゆっくりと答える。

「ご心配の通り、むしろ父は、脱獄した人たちが何をするか分からないことを警戒していると思います。彼らからすれば、自分たちがアズカバンに囚われている間、何食わぬ顔で暮らしていた純血一族は、裏切り者のように考えられるかもしれませんから」

 ファッジの目にあった疑念が、少しずつ別の不安へ変わっていく。

「彼らが昔の敵だけでなく、協力しなかった一族への復讐まで考えているなら、僕たちだって安全とは限りません」

「……なるほど。確かに、そういうこともあり得るな」

「僕自身、父と母が無事かとても心配しました。新聞を読んで、すぐに父へ手紙を送ったくらいです」

「それで、ルシウスは何と?」

「こちらに問題はないから、普段通り過ごしなさいと。少なくとも今のところ、邸が襲撃を受けるような事態にはなっていないようでした」

「そうか……そうだな。ルシウスなら、何か知っていれば必ず私に知らせてくれるはずだ」

 ファッジは自分に言い聞かせるように何度か頷いた。

 

 

 それでひとまず疑念は収まったらしい。しかし、身体を支えていた力まで抜けてしまったのか、ファッジは執務机の前にある椅子へ重たげに腰を下ろした。

「だが、ダンブルドアはこれで、ますます強く『あの人』の復活を主張するだろう」

 ファッジは呟くように言い、肘掛けに両腕を置いて深く背を預ける。

 僕はすぐには答えなかった。ファッジの目を見たまま、先を促すように黙っている。

「私は何度も説明したんだ。根拠のない話で国民を不安にさせるわけにはいかないと。それなのに今さら、ダンブルドアの言うとおりでしたと認めたら……これまで魔法省は何をしていたのだと、誰もが言い出す。私が警告を無視したせいで十一人も逃げたと……」

 

 口調は次第に弱くなり、最後には独り言のようになった。

 ファッジの瞳から伝わってくる恐怖の中心は、脱獄者がどのような被害を及ぼすかにはないようだった。むしろ──自分が脱獄の責任を問われること、新聞や省内の人間から攻撃されること、さらには、──愚かにも──ダンブルドアが自分に代わり魔法界の権力を握ること。

 見下げ果てた奴だが……それを利用する僕の方が、はるかに悍ましい怪物だろう。

 でもいい。ああ、これなら簡単に動かせる。

 

 

 ファッジを見つめ、できるだけ安心させるように微笑む。

「……大臣。僕は、『あの人』が関わっている可能性を、捜査から全て外すべきだとは思いません」

 ファッジが弾かれたように顔を上げた。

「なに?」

「可能性がある以上、調べる必要はあります。正確にいうならば、考えられるものはすべて調査するべきです」

「では、君もダンブルドアの言うことが正しいと──」

「いいえ。それは違います」

 ファッジがまた声を荒らげる前に、はっきりと否定する。

「捜査対象の一つに含めるに過ぎません。そんな証拠のない段階で魔法省が事実として認めて、はたして益がありましょうか?」

 ファッジは口を開いたまま、僕を見つめた。

「内々では最悪の事態まで想定して調べた方がいいでしょう。ですが、魔法省が国民へ発表するのは、確認された事実だけにすべきです。『あの人』が関与した確たる証拠もないのに、今の段階で復活を認める理由はありません。それはむしろ徒に混乱を招き、人心を乱すだけでしょう」

「そうか……そうだな。しかし……」

 

 ファッジは力なく首を振った。

「『あの人』に最後まで忠誠を尽くしていた死喰い人十一人が、同じ夜に、誰にも見つからずアズカバンから消えた。そんなことが、囚人たちだけでできると思うのかね?」

 先ほどまでの混乱とも少し異なる。その声には隠しようのない怯えが滲んでいた。

「分かりません」

 僕はあ(・)え(・)て(・)否定しなかった。ここから先は、ファッジ自身に道筋を引いてもらう。

「脱獄者だけでは不可能だったのかもしれません。大臣がお考えになっている最悪の可能性も、あり得ないとは言い切れないでしょう」

 ファッジの顔がさらに引きつる。努めて真剣な表情を装い、言葉を続けた。

 

「だからこそ、一度落ち着いて、今確認できている事実を整理するべきです。その上で、何が事実で、何が推測にすぎないのかを分けて考えましょう」

「落ち着けと言われても……」

 ファッジは再び椅子から立ち上がった。両手を擦り合わせながら、また執務室の中を歩き始める。

「もし本当にあの男が戻っていたら? もし吸魂鬼まで奴の側についていたら? それを私が認めたら──私は終わりだ!」

 ……まったく見事なものだ。

 本当のところ、ファッジ自身にとってもヴォルデモート卿が戻ってきたかもしれないという可能性は否定しきれないものなのだろう。

 闇の帝王が復活した可能性には怯えながら、同時に、復活を認めれば自分が終わるから認められないと言う。彼にとって問題なのは、何が起きているかではなく、どの事実を採用すれば、自分の地位を守れるかなのだ。

 ここまで分かりやすい二重思考を目の前で見せられると、呆れを通り越して、いっそ感心しそうになった。

 もちろん、今はそれを顔に出すわけにはいかない。さっさとこちらのレールに乗ってもらわなければ。

 

 横をすれ違おうとしたファッジの前腕へ、僕はできるだけ自然にそっと触れた。

 ファッジの足が止まる。

 すぐには何も言わず、彼がこちらを見るのを待った。落ち着きなく揺れていた視線が、ようやく僕の顔に定まる。

「大臣。まだ、何も明らかになったわけではありません」

 できるだけ静かに、ゆっくりと言った。

「今はまだ、何が起きたのかを調べている段階です。最悪の結論だけを先に選ぶ必要はありません」

 ファッジは何か言おうとしたが、口を開いただけで言葉は出てこなかった。

 腕に添えた手をそのままに、長椅子の方へ促す。強く引く必要はなかった。ファッジは抵抗することなく歩き、力が抜けたように腰を下ろす。僕も、その隣へ座った。

 ファッジは背を丸め、膝の上で両手を固く握りしめていた。

 ああ、やりたくない。しかし少しためらってから、僕はその手へ自分の手を軽く重ねた。

「あなたが恐れているようなことにはさせません」

 ファッジの強張った指へ触れたまま、顔を覗き込む。

「僕は、そのために力になりたいんです」

 ファッジは重ねられた手へ目を落としたが、振り払おうとはしなかった。やがて、膝の上で固く握られていた指が、少しずつ緩んでいく。

 ──他人の恐怖に付け込み、あらゆる手段を使って籠絡しようとしている自分にも、それにあっさりと縋るファッジにも、心底ぞっとした。

 

 

 ファッジの指から力が抜けてきたところで、僕はそっと手を離した。

 そのまま何気なさを装ってスツールへ目を向ける。広げられた新聞の中で、脱獄者たちの顔写真が順番にこちらを睨んでいた。その端にはクラウチ・ジュニアの痩せた顔がある。

「……昨年のことですが」

 僕が口を開くと、ファッジもつられるように新聞へ目を向けた。

「クラウチ・ジュニアが捕まったとき、僕は彼を吸魂鬼のキスから守りました。もし、あのとき止めなければ、今回のことも起きなかったのかもしれません」

「いや、ドラコ。君が責任を感じることではない!」

 ファッジはすぐに身を起こした。

「君は心優しいから、目の前で人があんな目に遭うことに耐えられなかっただけだ。そもそも、子供である君に処刑を見せるようなことになったのは、私の責任だ。あの場で君が何をしたとしても、責められるべきではない」

「……ありがとうございます、大臣」

 

 僕はまるで心を痛めているかのように少し目を伏せてから、もう一度、新聞の写真を見た。

「彼も、今回の脱獄に成功したのですね」

「ああ。牢は空になっていた。ほかの十人と一緒に消えている」

「そうですか……アズカバンへ送られてから、まだ五か月ほどでしたよね」

「そのくらいだ」

 ファッジは答えたあと、新聞を手元へ引き寄せた。紙面に並ぶ写真を眺め、そのうちの一枚へ指を置く。

「ベラトリックス・レストレンジたちは、前の戦争が終わったすぐ後の頃から収監されていた。十三年……いや、十四年近くになるか。だが、クラウチだけは……」

「そういえば、数年前に亡くなったはずだったのでしたっけ。であれば、ほかの方々ほどは衰弱していなかったかもしれませんね」

 僕が口にしたのは、それだけだった。

 

 ファッジは返事をせず、しばらくクラウチの写真を見つめていた。

「……あの男は、一年近くムーディに成り済ましていた」

 やがて、低い声で呟く。

「ダンブルドアのそばにいながら正体を隠し通すような技量を持った男だ。父親になり代わり、対抗試合の運営にまで入り込み、最後にはポッターを学校の外へ連れ出している」

「ええ」

「魔法省も、ダンブルドアでさえも、誰一人気づかなかった……」

 ファッジの目から、先ほどまでの怯えが少しずつ薄れていく。代わりに、何かを考えるように目を細めた。

 僕は口を挟まず、その横顔を見守った。

 少しして、ファッジの指が、クラウチの写真の上で止まる。

「今回の脱獄を計画し、成し遂げたのは……クラウチ・ジュニアだったのではないか?」

 

「……少なくとも、最初に調べる価値のある人物かもしれませんね」

 僕はそれ以上、肯定も否定もしなかった。

「そうだ……あの男なら、外に協力者が残っていてもおかしくない。昨年も、たった一人で何もかも準備したわけではないはずだ」

「そうかもしれません」

「逮捕される前から、捕まった場合の手筈を整えていた可能性もある。そうだ、捕まれば、自分がやったときと同じように仲間を連れ出すことができるから……」

 ファッジは新聞を持ち上げ、並んだ写真を順に眺めた。先ほどまで力なく垂れていた肩が、少しずつ持ち上がっていく。

「そう考えれば、十一人が同時に消えたことにも説明がつく。内部に動ける魔法使いが一人いて、ほかの者を連れていったんだ」

「その可能性は高いかもしれません」

 僕が短く答えると、ファッジは勢いづいて頷いた。

 

「だが、それを確かめようにも、肝心の吸魂鬼どもが何も説明しない!」

 再び声に苛立ちが戻る。

「問い質してもまったく要領を得ん。自分たちの失態を隠そうとしているのか、それとも……」

 ファッジは言葉を切り、唇を引き結んだ。

「考えてみれば、あいつらにも、これまでずいぶん窮屈な思いをさせてきた」

「窮屈な思い、ですか?」

「ああ、ダンブルドアの要求のせいで!」

 ファッジは吐き捨てるように言う。彼の頭の中で、ばらばらだった不満が一つの筋へまとまり始めていた。

「今年に入ってから我々は、奴らの行動を細かく制限してきた。……そのせいで、魔法省へ協力する気を失っていたとしても、不思議ではないのかもしれん」

 

「そういえば、新聞社にはもう何か回答されたのですか?」

 ファッジは顔をしかめた。

「ああ。しかし初報についてだけだ。大臣としての声明は考えていたところだった」

「では、今お話しになったことを、そのまま伝えればよいのではありませんか?」

「今の話を?」

「脱獄が起きたことと……収監されて日の浅いクラウチ・ジュニアを中心とした計画の可能性を調べていること。あと、吸魂鬼への行き過ぎた監督が、その働きに影響した可能性についても検証することですかね?」

 ファッジは黙って僕の言葉を聞いていたが、少し不安げに口を開いた。

「『あの人』については? 追求は避けられん……」

「関連を示す証拠は、現時点では確認されていません」

「だが、復活していないと証明できたわけでもない」

 まったく、いつまでもブチブチと……結局認める勇気もないのに。とことん苛つかせてくれる男だ。

 

 そんな内心をひとかけらも出すことなく、思案しているような表情を作る。 

「……完全に否定する必要はありません。証拠がない以上、魔法省が事実として扱う必要もないということです。一部の人間が唱えている推測の一つとして、捜査だけ続ければよいのではないでしょうか」

 ファッジはそれでも険しい顔をしていたが、しばらく考え込み、やがてゆっくりと頷いた。

「そうだ。十一人が脱獄したからといって、それだけで『あの人』が戻った証拠にはならん。クラウチ・ジュニアが外部の協力者と計画した可能性の方が、よほどありそうな話だ」

 愚かなことに、そのクラウチ・ジュニアの後ろにヴォルデモート卿がいる可能性には、全く思い当たっていない。いや、思い当たらないようにしているのだろう。

 

 次第に、ファッジの声に張りが戻っていった。

「魔法省は確認された事実に基づいて捜査している。それをダンブルドアが、勝手に自説と結びつけているだけではないか」

「人々を不安に陥れる憶測は、魔法省の動きを乱し、捜査の妨げになりますね」

 僕が阿るように答えると、ファッジは勢いよく頷いた。

「そのとおりだ! 奴は今回の脱獄を利用して、自分の警告が正しかったことにし、私から権威を奪い去ろうとしている! こちらが慎重に捜査しているというのに、魔法省が事実を隠しているかのように振る舞って……」

 いつの間にか、ファッジの中では、自分こそがダンブルドアの無責任な主張に振り回される被害者になっていた。

 

 ファッジは長椅子から立ち上がると、ビンクに広報部の担当者を呼ぶよう命じた。

 まもなく執務室へ入ってきた職員に対し、ファッジは新たな公式声明を作成するよう指示した。先ほど話したのと同じ内容を、明朝の『日刊予言者新聞』にも掲載させる。

 指示を出すうちに、ファッジの声と姿勢はほぼ普段のものへ戻っていった。僕は口を挟まない。彼がすべて自分の判断として命じるのを見守った。

 広報担当者が退出すると、ファッジは僕の肩へ手を置いた。

「君が来てくれて助かったよ、ドラコ」

 控えめに微笑みを返す。

「いいえ、僕はただお話し相手になっただけです」

 ファッジの顔にはまだ不安が残っている。しかし、ある程度は満足そうに頷いた。

「では、本来の話を始めようか。あまり時間は取れないかもしれないが……委員会の資料を見せてくれ」

 僕は平静を装って冊子を開いた。

 ……これで、明朝の新聞には間に合うはずだ。

 

 こちらを心配そうに見ているビンクとは、最後まで目を合わせることができなかった。

 

 

 月曜日の『日刊予言者新聞』は、集団脱獄の続報を一面で報じていた。

 クラウチ・ジュニア、集団脱獄を主導か

 魔法省は、収監から日の浅いバーテミウス・クラウチ・ジュニアが外部の協力者と通じ、ほかの十人を連れ出した可能性を中心に捜査しているという。ヴォルデモートの復活との関連については、裏づける証拠は確認されていないと否定されていた。

 記事に載っているのはファッジの言葉だったが、その論理展開も言い回しも、土曜日に僕が与えたものとほとんど変わらなかった。

 これで、ヴォルデモート卿との約束は果たせた。少なくとも当面の間は伯母上たちが攻撃へ出ることはないだろう。

 安堵しながら紙面へ目を戻す。クラウチの写真が、見出しの下でこちらを見ていた。

 昨日、僕を庇ってくれたばかりの人間を、今度は僕が政治的な身代わりにした。彼だけじゃない。これから、ダンブルドアもファッジから執拗に攻撃されることだろう。

 しかし、もう罪悪感には疲れ果てていた。

 

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