音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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スナッフルズへ

 クリスマス休暇明け最初の『勉強会』に、ロンは早速参加した。

 

 ハリーは、当然ロンならすぐに「訓練会」のグループへ入れるものとばかり考えていた。しかし、残念ながらその期待はあっさり外れた。スリザリン生たちが「慎重になるべき」との判断を下したのだ。特にクラッブは「あいつは友人に対する忠誠心が足りない」と言って、様子を見る期間を設けるよう提案した。

 

 ロンがその決定にヘソを曲げてしまい、また自分たちの友情にヒビが入るのではないかと、ハリーは危惧したが──それはまったくの杞憂だった。ロンは四ヶ月の遅れを取り戻すべく、ハーマイオニーから、これまで「勉強会」でやったことをまとめたノートを借り、今までに見たことがないほど熱心に魔法を練習し始めた。

 突如としてスリザリン寮生の自覚を漲らせたパンジーとザビニに、スネイプそっくりのネチネチとした嫌味を言われても、ロンは真剣に「勉強会」に参加し続けた。ジニーに言わせてみれば、それは「自分は心を入れ替えたと、ハリーに誠意を見せるため」らしい。

 とにかく、渋い顔をしたクラッブがロンのメンバー入りを承認するまでには、恐れていたほどの時間はかからなかった。

 

 ホグワーツの外の情勢はどんどん悪くなっているようだったが、皮肉なことに、それが「勉強会」の活動を後押ししている面もあった。

 

 今や「日刊予言者新聞」は──そしてその裏にいるファッジは──ヴォルデモートの復活を訴えるダンブルドアを公然と中傷することに血道を上げていた。記事では、ダンブルドアがいかに根拠もなく復活説を唱え、それによって闇祓いたちにどれほど無用な負担を強いているかが度々取り上げられた。それに伴い、ダンブルドアの主張の根拠となっているハリーの証言も、たびたび非難の的になった。

 もちろん、それを真に受けてハリーから距離を取ろうとする生徒も増えた。「勉強会」に参加していた生徒の中にも、ハリーに目をやりながら、廊下の陰でコソコソと噂話をする者がいた。

 

 「叩き出してやればいいんだ、あのチビども」

 ロンは、囁き合いながら通り過ぎる下級生を睨みつけ、クラッブの口調を真似して言った。

 「危機感がなさすぎるし、全体の士気に関わる、だろ?」

 

 「絶対にダメ。あの子たち、『学習会』にしか顔を出していない子だわ。そもそも、ああいう子にも間口を広げるためのシステムでしょう? こちらの話を聞いてもらえる線(・)は残しておかないと」

 ハーマイオニーは、声をひそめながらも厳しく言った。

 

 ハリー自身はそういう扱いには慣れっこだったし、正直なところ、ロンが自分のために怒ってくれているなら、ほかのことはある程度どうでもいいと思えるようになっていた。

 それに、闇の勢力の勃興を危惧して「練習会」に参加し、さらに「訓練会」への招待も検討できる友達は増えていた。レイブンクローの監督生の二人──アンソニー・ゴールドスタインとパドマ・パチル──も無事参加し、その二人の参加に伴い、ルーナも「訓練会」へ加わることになった。

 

 一方、以前に候補として議題に上がったもう一人、チョウは話が違った。パンジーが予想した通り、最近どんどんセドリックとうまくいかなくなっているらしい。

 

 セドリックはヴォルデモートの復活について、「ハリーを信じる」と公言して憚らなかった。

 チョウはハリーの主張自体をそれほど疑ってはいなかったが、それを公言することが、セドリックの将来に悪い影響を及ぼすのではないかと心配していた。今年度が終わればセドリックはホグワーツを卒業し、おそらく父親と同じように魔法省へ勤めることになるのだから、もう少し事態が明らかになるまで、波風を立てるような言動は控えた方がいい──というのがチョウの考えだったそうだ。

 すでに騎士団の活動にまで片足を突っ込んでいるセドリックからすれば、チョウの慎重な態度は受け入れがたい。結果的に、ハリーを信じると公言するかどうかが、二人の不和の原因となっていた。

 

 この話を聞いて、パンジーはそれ見たことかと得意満面だった。けれどハリー自身は、以前ほどチョウの動向に関心を持てなくなっていることを自覚していた。

 

 アズカバンからの脱獄がニュースになった後、ハリーは一度シリウスに手紙を書いた。クリスマスの一件についてもう一度謝り、脱獄について何か知っていることはないか、彼らの狙いは何なのか──そういった質問を書き添えた。どれも、ハリーが知りたがること自体、シリウスを喜ばせるだろうと思って選んだ質問だった。

 夏休みを思い返せば、シリウスは、ハリーが自分と同じように騎士団の活動へ関わりたがるのをとても喜んでいた。その記憶を頼りに、シリウスが返事をしたくなるよう、色々と工夫を凝らしたのだ。

 

 期待とは裏腹に、返事は随分と短いものだった。

 ──近いうちに魔法省の検閲が始まる。だから手紙でのやり取りを控えた方がいい。ここにも詳しいことは書けない。

 ヘドウィグが運んできたのは、そんな内容の、手紙というよりメモに近い紙切れだった。ハリーは心底がっかりした。

 

 もちろん、魔法省が、ダンブルドアをはじめ、その側にいるハリーや不死鳥の騎士団への監視を強めるだろうことは分かっている。ハーマイオニーに散々言われたからではあるが。それでもシリウスには、クリスマスの一件を振り返って、ハリーに伝えたいことが何かあるはずだと思っていたのだ。

 

 「でもハリー、シリウスは君のそばにいるためなら、ネズミだって食べたんだぜ!」

 ロンは、思い出しただけで少し気分が悪くなるような顔をしながらも、ハリーを必死に慰めてくれた。

 ただ、二人の関係はあの頃とは大きく変わってしまった。再び自分がドラゴンと一対一で戦わなければならなくなったとして、果たしてシリウスは飛んできてくれるのかどうか、ハリーにはもう自信がなかった。

 

 そんなハリーの心境は、当然のことながら「閉心術」の訓練にもも(・)ろ(・)に影響した。

 ロンが戻ってきてくれた喜びが、ほかの不安を覆い隠せなくなるにつれて、再びハリーは、夢の中でヴォルデモートの見ているものを垣間見るようになった。

 

 もっとも、訓練がうまくいかないのは自分だけのせいではない、とハリーは思っていた。具体的に言えば、問題は、いまや閉心術の専任となったスネイプだった。

 もともと、この邪悪な教師は、生徒をいじめるとき以外には決して仏頂面を崩さないことで定評のある人間だった。けれどここ最近はいつにも増して苛立ちをむき出しにし、その鬱憤をこちらの精神を叩きのめすことで晴らしているようにしか、ハリーには思えなかった。

 特に、ハリーがシリウスと口論したときの記憶を覗いて残忍な嘲笑を浮かべているときなど、目の前にある鉤鼻を叩き折って地下牢から飛び出す妄想に囚われずにはいられなかった。

 クリスマスの一件で、閉心術がいかに重要かは理解したつもりだ。しかし、それだけでスネイプの理不尽にいつまでも耐え続けることはできなかった。

 

 そしてイースターも近づいたある日、ハリーの我慢はとうとう限界に達した。

 

 その日のスネイプも、相変わらず嘲り笑いを口元に貼り付け、訓練の合間にぐちぐちと罵り言葉を挟んできた。

 「ポッター、君はどうやら、いまだに閉心術の必要性をまったく理解できていない。──いや、理解する必要すらないと思っているのだろう。口先だけは勇敢だが、本当に闇の帝王と戦うとはどういうことなのか、まるで分かっていない。現実を見据える聡明さが足りぬ故、無謀に走る。まったく、愚かな父親そっくりだ」

 もう何度聞かされたかも分からない罵倒に、ハリーは心底うんざりして言い返した。

 「ああそうですか。でも、父さんの親友だったシリウスは、僕が父さんと似ていないと言っていましたけど」

 ハリーはスネイプがすぐにさらに強烈な皮肉を二つ三つ返してくるだろうと思ったが──沈黙が場に満ちた。意外なことに、スネイプは一瞬、何を言うべきか分からなくなったように見えた。

 心底嫌悪しているシリウスが、心底嫌悪しているハリーを否定している。どちらの側につくにしても、スネイプにとっては癪に障る状況だったらしい。

 

 しかし、スネイプが黙り込んだことで、ハリーはかえって苛立った。

 「そんなに父さんについて詳しいなら、具体的にどういうところが似ていて、どういうところが似ていないのか教えてく(・)だ(・)さ(・)い(・)ま(・)せ(・)ん(・)か(・)ね(・)」

 反抗心のむき出しになった言葉に、スネイプはしばらくハリーを睨みつけていた。

 「それに──」

 ハリーは苛立ちに任せて言った。

 「僕だって、父さんと同じになれるものならなりたいですよ」

 口調が思ったよりも弱々しくなってしまったことに気づき、ハリーは内心舌打ちした。心を覗かれている以上今更ではあるが、スネイプの前で弱みを見せる隙を作ってしまった。

 

 けれど、やはりスネイプは、しばらくの間何も言わなかった。何度か口を開きかけては止める。ハリーはこんなに逡巡していることが分かりやすいスネイプを初めて見た。

 「……まったく、吐き気がするほど甘ったれた言葉だな、ポッター」

 やがてスネイプは吐き捨てるように言った。

 「君の父親は、自分の無謀さを勇気と取り違え、他人の忠告など意にも介さない、傲慢で救いがたい愚か者だった。自分の見たいものしか見ようとしない点では、君によく似ている」

 「だったら──」口を挟みかけたハリーを、スネイプは厳しい眼光で制止した。

 「だが、奴は周囲からベタベタと甘やかされた、自信過剰な人間でもあった。自分が歓迎されない可能性など、考えたことすらなかっただろう」

 スネイプの黒い瞳が、ハリーをまっすぐに捉えた。

 「ポッター、誰かに認められたいと浅ましく願っては、その言葉に縋りつく──そのみっともなさは、君に特有のものと言えるだろう」

 

 散々な言われようだったが、結局、父との違いは自信の有無ということらしい。ハリーは再び理屈っぽく言った。

 「じゃあ、もっと自信があれば、父さんと同じになれるってことですか?」

 いよいよスネイプの額に青筋が走った。

 「そんなことは言っておらん。第一、我が寮の生徒とべたべた馴れ合っている限り、あの短慮なブラックが気に入るはずもなかろう」

 その言葉に、ハリーは口を閉ざした。それはハリー自身、シリウスとの不和の一番の原因だと思っていたことだった。

 「そもそも、自分が誰に似ているだの、誰に似るべきだのと惰弱なことばかり口にしているから、闇の帝王につけ込まれるのだ! 今夜の訓練は終わりだ。寮に戻れ!」

 今までの自分の言葉を完全に棚に上げた台詞だった。ハリーはまったく納得できないまま、机の上の鞄を取って部屋を出た。

 やはりスネイプに聞いたのが間違いだった。スネイプに父親について尋ねるのは、ジェームズ・ポッターについての罵詈雑言のみが載った辞典をめくるようなものだと、もっと早く気づいておくべきだった。

 

 談話室へ戻ると生徒はほとんどいなくなっており、ロンとハーマイオニー、ジニーだけが暖炉のそばに集まっていた。

 ハリーの顰めっ面を見るなり、ロンが心配そうに尋ねた。

 「ハリー、大丈夫か?」

 ハリーは空いている椅子に座り、先ほど言われたことを三人に話した。

 

 すべて話し終えると、ロンは少し難しい顔をした。

 「まあ……シリウスがそう考えるのも、全然分からないってわけじゃない。スリザリンとグリフィンドールなんて、創設者の代からずっと仲が悪いんだろ? シリウスたちの頃には、本当に戦争までしてたんだしさ」

 「そうなった事情があることと、いつまでもそのままでいていいことは別だわ」

 ハーマイオニーがすぐさま反論した。

 「私たちが三年生の時にホグワーツがどんなふうになっていたのか、もう少しちゃんと見てくれていたらよかったんだけれど。それに戦争がもう一度始まった時に、また敵対関係を作るよりはホグワーツ内で結束した方がいいって、分かってもいいものでしょう」

 「でもさ、僕らの上級生にだって、いまだにスリザリンと仲良くすることにいい顔をしないやつもいるだろ? シリウスにも、もう少しくらい時間をやってもいいんじゃないか?」

 

 ロンの言葉を聞いて、ジニーは鼻で笑った。

 「あーら、ご自分を例にされるのが一番いいんじゃなくって?」

 ジニーの痛烈な皮肉に、ロンは顔を顰めた。

 「自分のことを正当化したくて言ってるわけじゃないし、今はちゃんとやってるだろ!」

 「私とハーマイオニーが何度も話を聞いて、ハリーがどれだけ危険な状況に置かれているか分かって、ようやくでしょう?」

 「ハーマイオニーはともかく、ジニー、お前は何もしてないだろ」

 「あら、毎晩のように愚痴を聞かされたわ!」

 「聞きながら笑ってただけじゃないか!」

 「だって、毎日同じ話ばかりするんだもの。あれ以上どうしろっていうのよ」

 「だったら最初から聞くなよ!」

 「分かったわ。今度から一人で悩めばいいでしょう」

 ハリーのことから始まったはずが、いつの間にか二人は、シリウスとはまったく関係のない兄妹喧嘩を始めていた。

 「……君たちはいいよね」

 ロンとジニーが同時に言い合いをやめた。

 「何がだよ?」ロンは訝しげな顔をした。

 「そんなふうに何を言っても、家族じゃなくなる心配はしなくていいだろ。血が繋がっているから」

 

 ロンは少し面食らったような顔をしたが、ジニーは少し皮肉っぽく、それでも優しく笑った。

 「……あら、血が繋がっているってだけで、そんなことはないわよ。パーシーのこと、もう忘れちゃったの?」

 そこでようやく、ハリーは自分がかなり無神経なことを言ったのだと気づいた。

 「あ……ごめん」

 「いいのよ。別に責めたわけじゃないから」

 ジニーはまだ少し笑いながら言った。

 「でもハリー、血が繋がっていようがいまいが、家族でい続けるには、やっぱりそれなりに努力が必要なのよ。それも、お互いにね」

 「努力って?」

 「うーん、何というか、自分のことを相手に伝える努力と、相手のことを分かろうとする努力かしら……難しいのは、それをお互いにしなくちゃいけないってことなんだけれど」

 ジニーは頭を振って言った。

 「そもそも、シリウスとあなたってお互いのことを、まだぜんぜん知らないように見えるわ」

 

 残念ながら、それはホグワーツに入るまでまともな人間関係を築いてこられなかったハリーにとって、あまり得意としていない種類の努力だった。それでも、その日の夜、ハリーは、検閲されても問題のない内容だけを選びながら、「スナッフルズ」宛に再び手紙を書いた。

 以前に書いたのは、シリウスが喜びそうな質問ばかりだった。考えてみれば、ハリー自身が学校でどのように過ごし、何を考えているのかについては、ほとんど何も伝えていなかった。

 そこで今度は、最近の授業やクィディッチ、「学習会」のこと、ロンと仲直りした後のことから書き始めた。ハーマイオニーが相変わらず大量のノートを作っているおかげでO.W.L.の対策がしやすいこと、シリウスたちの後継者のようになっている四人組が悪戯グッズを売り捌いていることも書いた。

 シリウスのことを知るために何をすればよいのかは、まだよく分からなかったが──今はこれが自分にできる精一杯のように思えた。

 

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