音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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第二十二話 決闘クラブ

 

 

 僕が大事なことを忘れていたのに気づいたのは、クィディッチの試合が終わった翌日だった。ハリーが誰にも聞こえない声を聞いていると、ダンブルドアに伝えていなかったのだ。

 迂闊としか言いようがないが、他に気を取られていることが多すぎた。純血主義の件とか、後継者疑惑の件とか……他にも色々。ハリーの命を狙うブラッジャーを前にして、ようやく思い出した。

 ちょうどいい機会だから他にも報告したいことをまとめたが……考えてみれば、僕はダンブルドアに自分から会いに行ったことがない。安易にフクロウ便などを使って、他の誰かに彼と繋がりがあると知られるのも、父との関係や後々のことを考えれば危険だ。

 

 仕方なく、僕は最も信頼できる人物、つまりマクゴナガル教授を頼ることにした。日曜の朝にダンブルドアに伝えることがある場合はどうすればいいか尋ねるため、彼女の居室でもある研究室へと向かう。

 去年度の六月からこの半年足らずでマクゴナガル教授は二回も校長に部屋を僕のせいで提供している。本当に心苦しかったのだが、彼女は前日の消失呪文の出来事のせいか、快く連絡係をしてくれた。しかし、ハリーのことがあったとはいえクィディッチで自寮が勝利したとは思えないほど、マクゴナガル教授は張り詰めた様子だった。

 

 

 それが何故なのか知ることができたのは翌日になってから。朝食の席の噂話によると、土曜の深夜にグリフィンドールのカメラ小僧ことコリン・クリービーが石化して発見されたというのだ。ついに人間の被害者が出てしまった。噂はあっという間に広まり、そしてやはり僕に疑いの目が向いた。

 

 ただでさえ、クィディッチの試合でブラッジャーがグリフィンドールのハリーを叩き落とそうとしたのだ。事情を知らない人からすれば、僕はハリーを殺し損ねた腹いせにクリービーを石化させたように見えるだろう。

 しかも僕の友人たちは新学期が始まってすぐの頃、派手にクリービーを──正確にはクリービーに付き纏われていたハリーを──からかっている。クリービーが石化した時間帯、僕はフリントに詰められていたのだが……寮の外にいる人は知る由もない。すっかり僕は他寮の生徒から遠巻きにされるようになってしまった。去年、僕があれだけ腐心したスリザリンへの敵視の解消は、図らずしも僕自身によって阻害され始めていた。

 

 

 グリフィンドールの二年生や僕のことを直接知っている他寮生は、意外にも擁護派に回ってくれているようだった。三人組はともかく、他の生徒たちは信じられる要素もないだろうにと思っていたが……授業で交流のあった子達からは、ある程度信頼を獲得していたらしい。ありがたい事だ。

 上級生はそうもいかなかった。僕は丸め込みやすい下級生に取り入り、陰で純血主義者のスリザリンを率いる悪魔のように言われていた。どう考えてもそんな器ではないはずなのだが、実際に染まりやすい下級生と仲良くしようキャンペーンをやっていたのは事実なので何も言えない。でも、僕はまだ二年生なのだが。邪悪すぎる十二歳だと思われてしまっている。

 

 それ故に、僕はいよいよ三人組と話せなくなった。特にハリーの警護は厳重だ。グリフィンドールのクィディッチチームの上級生はがっちりと自チームのシーカーの脇を固め、僕が近づくとサッと影に隠すといった始末だった。その度ハリーが抗議する声が聞こえてきたが、彼らは頑なだし、クィディッチに狂っているものに何を言っても無駄だ。

 マクゴナガル先生があの時、ハリーを守るための消失呪文に加点してくれたから大丈夫だろう、というのは楽観的すぎる予測だった。僕は先生方を手玉にとって自分から疑いを逸らしている……らしい。確かに先生方に媚びを売ったり手を回しているのは事実ではあるが……中途半端にかすっているのが本当に厄介だ。

 魔法薬学ではハリーと一緒だったが、スネイプ教授は僕らが、というよりかはグリフィンドール生が授業中に話そうものなら、容赦なく罰則を課しただろう。

 

 冷静に考えて、僕がスリザリンの継承者ならば不名誉な噂を吹聴するパンジーを野放しになんて絶対にしないと思うのだが、皆その辺りはどうも良く見えていないらしい。

 

 学校内は緊張感が色濃く広がっていた。まだ入学して三ヶ月しかたっていない一年生たちは固まって動くようになり、どう見ても効果のない護身グッズがそこかしこで取引されている。勿論僕らスリザリン生は襲撃に怯える必要はないが、紛いものを放置しておくわけにもいかない。こういう品に妙な呪いがかけられている可能性を一々潰さなくてはならないのは、本当に面倒だった。

 

 

 僕の継承者の調査は全く手応えがないなりには行われていた。観察する限り、スリザリン生の中に怪しい動きをしているものは今のところいない。そもそも最初の一件はハロウィーン・パーティーの真っ只中に起こっている。スリザリン二百人程度の中で、僕を含めて一連の事件のどちらかにはアリバイがあるものがほとんどだった。高度な服従の呪文をかけられているとか、その場にいなくても犯行が行えるという線もあったが、そういった可能性を考え始めるとまたもや選択肢が増えすぎる。とりあえずは後回しにするしかない。

 

 スリザリンの血統と言えばゴーント家なので、それが最大の手がかりになるかとも思ったが……生憎と、ことはそう簡単には運ばなかった。最後の男子のゴーントだったモーフィン・ゴーントは獄中死しているし、メローピー・ゴーントは七十年近くも前に行方不明だ。もしメローピーの縁だったとしても、今からそれを辿ることは不可能だろう。闇の帝王は蛇語を話せたというし、やっぱり彼に関連しているのだろうが……そもそも彼の人は出生不明だ。調べようがない。

 

 怪物の正体もいまだにさっぱり分からない。前の事件から増えた情報が「人間も石化させられる」だけなのだ。人が殺せるという伝承は嘘なのか、殺せるものと石化させられるものの二体いるのか、継承者自身が僕らの知り得ない方法で高度な石化呪文をかけているのか、考えようと思えばいくらでも考えられてしまう。現場検証に行くべきかも知れないが、僕がクリービーのことを知ったのは事件からだいぶ経った後だったし、犯人は犯行現場に舞い戻ると言われてしまえば行動範囲がさらに狭まりかねない。おまけに二つの事件の場所に共通点らしきものは見当たらない。

 

 生徒の犠牲者が出たことで、もう一つ新しく生まれた懸念点があった。学校で起きている事態は全く外部で報道されていないのだが、それをいつまで抑えていられるか、ということだ。これはダンブルドアの手によるものだろうが、父を筆頭に有力者の反ダンブルドア勢力が勘付けば、間違いなく校長排斥の口実になる。

 普通だったら校内の暴力事件を揉み消す校長なんて、とっとと辞任しろと言いたいところだ。しかし、敵による攻撃があるからといってダンブルドアに責任を取らせ、校長職を去らせていてはホグワーツはおしまいである。ダンブルドアこそが最も強固な守りである以上、彼がホグワーツを去るのが敵の狙いであることも十分考えられるのだ。

 

 

 昨年より明らかにこれから先が予測できない事態に、僕は今年はクリスマス休暇をホグワーツで過ごそうと考えていた。

 十月と十一月にシグナスお祖父様とカシオペア伯母様が相次いで亡くなってしまい(それがダンブルドアに報告を忘れた理由でもあった)、今年はもう二回も家には帰っている。父と母もブラック家の財産の処分できる範囲での処分(多くが彼らの遺体が屋敷から運び出された後、そのまま屋敷と共に封じられた)に忙しそうだし、今年は帰ってもしょうがないだろう。

 

 考えることが多すぎて頭がパンクしそうになりながら日々を過ごしていたが、それ以外に気を配らなくていいわけではないのが辛いところだ。

 休暇前最後の魔法薬学では、あろうことか「膨れ薬」を調合していた大鍋に花火を投げ入れる悪戯をした大馬鹿者がいたために、僕らも被害を被った。僕は気疲れや何やらで後方腕組み監督者面をしていなかったことを大いに後悔した。スネイプ教授は相変わらずハリーによる犯行だと決めてかかっているし、本当に疲れる。真面目に犯人を探してほしい。

 

 

 そんな何とも疲労感の漂う木曜日、「決闘クラブ」が大広間で開催された。

 

 僕は告知される前から、この催しの発案者が誰なのか知っていた。ロックハートだ。僕自身が聞いたわけではないが、スリザリンの四年生が授業案を手渡しに行ったとき、得意げに話していたらしい。

 この頃彼の授業は本当に安定してきていたため、欲が出たんだろうか。僕はクリービーの件以来、寮外での僕の扱いを見かねていたクラッブに配達の役割を代わってもらっていたため、授業外のロックハートに会っていなかった。

 

 正直最初のロックハートが考えたものだったなら絶対に参加しなかっただろう。しかし、この二ヶ月で彼がどれだけ指導者として腕をあげたか気になったし、他寮も来るということはハリー達と話せるチャンスかも知れない。あの後「声」を聞いたか尋ねたいのもあり、僕はスリザリンのみんなと一緒に大広間へ向かった。

 

 

 

 生徒で混み合う大広間の中、ロックハートはいつも通り大袈裟で、ナルシズムに満ち満ちた様子でクラブを始めた。驚いたことに、彼はスネイプ教授を助手にしたのだそうだ。僕はスネイプ教授の決闘の腕前を全く知らなかったが、大人しくこき使われる助手の立場に甘んじるとは到底思えない。またしても良くない予感がし始めていた。

 相も変わらず、ロックハートはまるで空気を読む神経を全て脊椎から抜いてしまったかのようだ。衆目の前で明らかに復讐心に燃えているスネイプ教授を煽りながら説明を続ける様子は、見ているこちらの肝が冷える。対照的な雰囲気を纏う二人が模範演技をし、僕の悪い予感は当たった。

 

 どう考えてもただの魔法薬学教授とは思えない手際で、スネイプ教授はロックハートを武装解除した。彼は何とか大きく吹き飛ばされはしなかったものの、杖を弾かれた側から舞台の下によろめき落ちる。お可哀想に……と憐れむ僕をよそに、鼻持ちならない教師がしてやられたことでその場は大きく盛り上がった。

 

 その後フラフラになったロックハートは、スネイプ教授が使った「エクスペリアームス」を練習するように言うと生徒を組にし始めた。そこで、僕は何故かスネイプ教授によってハリーと組む幸運を与えられたのだった。

 

 勿論人前で言えるような内容だけだが、お互いに呪文を掛け合いながら僕らは少しだけ話ができた。ハリーはブラッジャーの件以来ずっと言えていなかったとお礼を伝えてくれた。ここ数日疲れ切っていた僕の荒んだ心に沁みる気遣いだ。

 彼は初めて武装解除呪文を使うのに、数回試すともう僕より上手に杖を飛ばし始めた。

 僕がポケットに入れていた飴を蛙にして、それにハリーが武装解除を当てる遊びをしていると、スネイプ教授がストップの合図を出す。グリフィンドールとスリザリンの上級生で組まされていたところ同士はかなり荒れていたようだ。レスリングのような様相を見せているところすらある。野蛮である。

 

 その後、手本を見せると言うことになったのだが、ロックハートによって僕らの組は壇上に引っ張り上げられてしまった。彼はみんなの前でハリーを指導するところを見せたかったらしい。つくづく卑しい男である。

 僕は何故かスネイプ教授に「サーペンソーティア」で蛇を出せと指示された。今の僕の状況でそれをやれば完璧にスリザリンの継承者っぽいのだが、それはわかっているのだろうか? 高度な呪文を使わせることで、スネイプ教授はどうやってもハリーに一泡吹かせたいらしい。

 

 ハリーは先ほど飴の蛙にやっていたように出来れば、別に蛇にだって対処できるだろう。そんな至って安易な気持ちで僕は蛇を出した。

 そして、それは完璧に間違った選択だった。

 

 ハリーが何かする前になぜかロックハートは中央に躍り出て、僕の蛇を吹っ飛ばした。舞台から飛んだ蛇は地面に叩きつけられ、警戒態勢をとる。威嚇の矛先は一番近くにいたハッフルパフのフィンチ-フレッチリーに向いてしまった。

 慌てて蛇を消そうと杖をあげるが、その前に蛇は動きを止めた。

 ────蛇を制止したのはハリーだった。ハリーがシューシューという音を口から放つと、蛇はそれに従うようにとぐろを巻き、ハリーを見上げた。

 

 大広間はただ静まりかえっていた。

 

 

 


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