音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

26 / 94
秘密の部屋

 

 

 ジニーが連れ去られた。

 最早できることがなくなった僕とロンは探索に行くことになったロックハートの元へ、秘密の部屋のことについて知っているすべてのことを話しに向かった。

 

 夕闇の中、研究室へ向かう。僕がノックするとドアが半分ほど開き、今までになく取り繕いきれていない笑顔をしたロックハートが顔を出した。

 「……ポッター君、ウィーズリー君、放送は聞いたでしょう? この時間に二人きりで外に出歩くのは危険ですね」

 僕らは必死に役に立つことを話せると言い、中に入れてもらった。ハロウィーンの日に来たのと同様、大量の写真が飾られていたが、机の上には以前と違い色々な本が置かれている。

 

 僕らは早速本題に切り出した。

 「先生は秘密の部屋へ向かわれるのですよね? 僕ら、怪物の正体も分かってるんです!」

 でも、ロックハートは全く喜ぶ様子を見せなかった。ロンと僕の心の中に、嫌な予感が湧いてくる。

 ロックハートはほとんど笑顔を消して言った。

 「私は秘密の部屋の場所を知らない。私が行っても────何の役にも立たないだろう」

 「僕の妹はどうなるんですか?」ロンが愕然として言う。

 「気の毒なことだが、私にはどうすることもできない」

 「本に書いてあるように、あんなに色々なことをなさった先生が逃げるんですか?」

 僕は先生に言い募る。

 「ハリー……本に書いてあることを鵜呑みにしてはいけないね」

 「じゃあ、先生がやったんじゃないんですか? 他の人がやった仕事を、自分の手柄になさったんですか?」

 僕は信じられない気持ちだった。

 

 ロックハートはついに笑みを顔から拭い去った。

 「ああ……そこまで悟られては、しょうがない。私の秘密をそこら中でペラペラ喋られてはたまりませんからね」

 彼は杖をこちらに向けようとしたが、僕はそれよりも早く構えて彼を武装解除した。丸腰になり、青ざめるロックハートに杖を突きつけ、僕らは「嘆きのマートル」のトイレへ向かった。

 

 

 

 トイレには、ジニーが倒れていた。慌ててロンが駆け寄る。

 「ジニー! しっかりしろ!」

 僕もそばにしゃがみ込んだ。顔は青白く、生気がない。それでもロンが肩を掴んで揺さぶると、ジニーは瞼を振るわせ、目を開けた。

 「ああ、ジニー、良かった!」

 僕らは安堵の息を吐く。しかし、ジニーは起き上がることもできないまま、涙を流し始めた。引きつれた途切れ途切れの声で彼女は言う。

 「あ、あたし────あたしがやったの。体が勝手に動いて────杖で操ってここまで来たの────ドラコ・マルフォイを……」

 思っても見ない言葉が出てきて、僕とロンは顔を見合わせる。

 「どういうこと? マルフォイがここにいたの?」

 「分からない────ダンブルドアの虫だって────それで、そこの手洗い台をあたしが開けて────でも、代わりにマルフォイが……」

 そこまで言うとジニーはぐったりと気を失ってしまった。ロンはジニーを再び揺さぶるが、身体はだらんと倒れたままだ。

 僕は安堵感が拭い去られ、自分の血の気が引いていくのを感じた。事件は終わりじゃない。────ジニーの代わりにドラコが秘密の部屋へ連れて行かれた。

 そばで突っ立っていたロックハートを押しのけ、ジニーの言った手洗い台に近寄る。その銅製の蛇口の脇には、引っ掻いたような小さなヘビの形が彫ってあった。

 僕は必死に何か蛇語を話そうとした。今まで蛇語がしゃべれたのは、本物の蛇に向かっている間だけだ。少し試行錯誤して、ようやく「開け」と言うと口からシューシューという掠れた音が出た。

 

 そして、手洗い台は動き始め、大きなパイプの入り口が現れた。────バジリスクの通っていた、秘密の部屋の入り口だ。

 「ロン、医務室へジニーを連れて行って他の先生を呼んで。僕はここから下に降りる」

 「一人なんて無茶だ!」それでもロンはジニーを心配そうに抱いて離せない。

 「いいや、一人じゃない」

 僕はロックハートを見る。怖いのか、顔を固くしているロックハートに杖を突きつける。

 

 「先に降りるんだ」

 ロックハートを穴の淵に立たせる。それでも降りるのを躊躇っているので杖で突くと、彼は身をブルリと震わせ大きくため息を吐き、足を踏み出して下に滑り落ちていった。

 最後にロンの顔を見て頷き、僕も後に続いて下に滑り降りた。

 

 途方もなく長い間パイプを降り、そこにあったトンネルをロックハートを前に立たせながら進む。途中には大量の小さなネズミの骨や巨大な蛇の抜け殻があった。バジリスクのものだろう。ロックハートは物音が立つたびに震え上がっていたが、それでも僕の先を歩かせ続けた。

 張り詰めた雰囲気の中、どこまでこのトンネルは続くのだろうと思うほど長く歩いて、ついに行き止まりが目の前にあらわれた。

 その壁には二匹のヘビが絡み合った彫刻が施してあり、ヘビの目には輝く大粒のエメラルドが嵌め込んである。

 僕はロックハートを横に立たせ、手洗い台にやったように「開け」と言った。

 壁が二つに裂け、絡み合っていたヘビが分かれ、両側の壁が、スルスルと滑るように見えなくなった。僕は先に待ち受けるものを思い恐怖に震えながら、それでも部屋の中へ足を踏み入れた。

 

 

 細長く廊下のように伸びる部屋の奥、部屋の天井に届くほど高い長い顎鬚を持つ老魔法使いの像の足元に、ホワイトブロンドの少年が横たわっていた。

 

 「ドラコ!」僕は小声で叫び、そばに駆け寄って膝をつく。

 「起きて……しっかりして!」

 さっきのジニーと同じように、顔に血の気は全く無く目は硬く閉ざされている。揺さぶってみても、ピクリとも反応してくれない。

 何とか起きないか声をかけ続けているところに、物静かな声が響く。

 「そいつは目を覚ましはしない」

 声の方に膝をついたまま振り返ると────そこには、ぼんやりとした輪郭の、しかし紛れもなくトム・リドルがいた。彼は、ドラコに駆け寄ったときその場に置いた僕の杖を持ち、弄んでいる。僕はそこでようやくロックハートがこの部屋にいないことに気づいた。

 

 自分を記憶だと言うトム・リドルは語りだす。ジニーを操り事件を起こしたこと。50年前ハグリッドを陥れたこと。そして、今の彼の狙いは僕であることを。

 

 目に赤い光を宿して彼は明かす。彼が自らにつけたヴォルデモートという名を。

 「この名前はホグワーツ在学中にすでに使っていた。もちろん親しい友人にしか明かしていないが。汚らわしいマグルの父親の姓を、僕がいつまでも使うと思うかい? 

 母方の血筋にサラザール・スリザリンその人の血が流れているこの僕が? 汚らしい、俗なマグルの名前を、僕が生まれる前に、母が魔女だというだけで捨てたやつの名前を、僕がそのまま使うと思うかい?

 ハリー、ノーだ。僕は自分の名前を自分でつけた。ある日必ずや、魔法界のすべてが口にすることを恐れる名前を。その日が来ることを僕は知っていた。僕が世界一偉大な魔法使いになるその日が!」

 

 正体を知り、呆然とした心の中に憎しみが燃えるように広がる。それと同時に、ドラコが以前言っていたことを思い出した。「正義の不完全さに苦しむ純血主義」───彼の想像は当たっていた。

 

 「違うな」

 僕は怒りと、少しだけ悲しい気持ちを抑え静かに言った。

 「何が?」

 リドルはうっすらと嘲笑をうかべ、返事を返す。

 「君は世界一偉大な魔法使いじゃない。君をがっかりさせて気の毒だけど、世界一偉大な魔法使いはアルバス・ダンブルドアだ」

 僕は彼の目をまっすぐ見上げ、言い切った。

 

 微笑が消え、リドルの顔は醜く歪んだ。

 「ダンブルドアは記憶に過ぎない僕に追放され、奴が残した策ももはや摘み取られた!」

 僕にはリドルの言うことが何のことかわからなかったが、忌々しげに彼は続ける。

 「スリザリンに間諜を忍び込ませていたようだが……そいつも此処で終わりだ。心に仕掛けをしていたって、読まなければ何の意味もない。奴の虫は僕の力となり、息絶える」

 リドルの憎らしげな視線はまっすぐドラコを捉えていた。

 

 そこに、フォークスと組み分け帽子が舞い降りた。ダンブルドアが送ったのだろうか? しかし、これはリドルと戦うのに何の役に立つようにも見えない。

 リドルはダンブルドアの送ったものを嬉々として嘲った。

 僕はできるだけ時間を稼ごうと、リドルと話し続ける。しかし、僕にかかった母の護りについて聞いたのを最後に彼は蛇語で像に語りかけた。

 

 「スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。