音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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アズカバンの囚人
第三十一話 アズカバンの脱獄犯


 

 

 

 八月も半ばを過ぎ、どこか緊迫感の漂うウィルトシャーの屋敷で、僕はビンクと共に普段通り変身術や闇の魔術に対する防衛術なんかの勉強をしながら日々を過ごしていた。

 

 ホグワーツから戻ってからも、父は「秘密の部屋」の件で僕を厳しく叱責するようなことはなかった。マクゴナガル教授の研究室での様子から想像はしていたが、父はずいぶんと無鉄砲なことをした息子に怒りを抱いたりはしなかったらしい。ホグワーツ特急が到着したキングズ・クロスで、心配のあまり少しお痩せになった恐慌状態の母を宥めながら僕らを抱きしめ、あまり危ない真似はしないように、と諌めてそれで終わりだ。あの日から後ろめたそうにこちらから目を背ける姿を見るに、父は僕に責められることを恐れておられるようですらあった。

 この妙な空気は厄介だ。僕は一度、父と腹を割って純血主義や今後の方針についての話をしておきたかった。闇の帝王が復活する前に。父はどうしたって主要な純血一族で、その中でも最大の権力者なのだ。()が戻ってきたとき、向こう側に付かねば極めて危険な状況になるのは目に見えている。しかし、それでも父がかつての「死喰い人」たちのように────勿論、父はそうだったのだろうが────罪なき人を虐げる人間になっては欲しくなかった。主人公たちによって打ち倒されるだけの「悪」になってほしくなかった。

 

 結局、僕は去年のクリスマスから身に刻み込まれていた慚愧の念を、もう味わいたくなかったのだ。そうならないためにも、少しでも策を講じておきたかった。しかし、父との距離を測りかねてグズグズしているうちに、それどころではない事態が起こってしまった。

 

 アズカバンからシリウス・ブラックが脱獄したのだ。

 

 

 彼は僕の母、ナルシッサ・マルフォイの従兄弟であり、純血一族であるブラック家最後の男子だ。去年ブラックの屋敷にいらっしゃった方々が相次いで亡くなり、彼らの財宝の多くがその屋敷と共に僕らに手が出せないよう封じられたが、それも彼がアズカバンに収容されていたことが一因だ。

 

 十二年前、闇の帝王が去ったと囁かれだした直後、シリウス・ブラックは魔法使い一人とマグル十二人を殺害し、現行犯で逮捕されたそうだ。通常であれば罪状について裁判が行われるところだが、魔法界は救いようがないほど人権意識が希薄であり、そして当時の魔法省にそれらの手続きをこなすキャパシティがなかったことで、彼は公判の手続きを取られることなく、そのままアズカバンへ投獄された。

 再審請求はなかったのかと疑問に思われるかもしれない。しかし、シリウス・ブラックが牢から出ることを望まない人間は多かった。

 ブラック家は当時まだ人数が残っていたためか、彼らの権力を使って最後の()()()()嫡子を救い出そうとしなかった。司法の側もそうだ。ブラック家の長男が無罪であることなどが判明しようものなら、魔法省は大批判を浴びることになる。加えて、アズカバンの外にいた元死喰い人たちは、強固な思想を持つかつての仲間が自由の身になることを望まなかった。

 斯くして、シリウス・ブラックはアズカバンの中で忘れ去られた。

 

 シリウス・ブラックはその立場からストーリー上重要な人物かもしれない、と考えたことはあった。しかし、彼とそれなりに近い血筋でありながら、僕はその人物像というのをあまり想像することができていなかった。彼の母であるヴァルブルガ大伯母上は生前幾度か交流があったが、彼女に直接話を聞いても、どうにも彼の印象ははっきりした像を結ばない。

 彼女は僕の母であるナルシッサが高貴なる血筋と産んだ僕を愛し、僕を引き合いに出して自分の「愚かな」息子であるシリウスを蔑んでいた。晩年の狂乱の中にあっても、頑なにシリウス・ブラックの家への忠誠心の欠如を非難することでしか、彼女は自分の長男への執着を示すことができなかった。

 

 シリウス・ブラックは比較的幼い頃から家の方針、つまり純血思想に正面切って歯向かっていたらしい。言うまでもなく他の「血を裏切るもの」と同様、ブラック家の家系図からは抹消されていた。寮もブラック家としては異例中の異例でグリフィンドールに組み分けされ、同じくグリフィンドールだったハリーの父、ジェームズ・ポッターと親友となったそうだ。そしてまだホグワーツ在学中に家を飛び出しポッター家に身を寄せた。そこまで聞けば、良くも、そして僕のような人間から見れば悪くも、彼が本当にグリフィンドールに似合う破天荒な勇気の持ち主だと思うだろう。

 しかし彼は実のところ闇の帝王の忠実なしもべで、主人が去った後にあのような虐殺事件を起こしたことになっている。闇の帝王の偉大さに触れて改心でもしてしまったのか? それとも初めから闇に惹かれる人間だったのか?

 彼の人物像は常識からすると分析が困難であり、それ故に闇の帝王の影響力の恐ろしさを物語る一事例として、僕の脳には仕舞われていた。

 

 しかし、その彼が脱獄した。今まで一度も脱獄者の出たことのない不落の牢獄から。この三年生の学期前に。

 

 「一年」の始まりがここまで分かりやすく表れたことは、未だかつてなかった。今までの傾向を見るに、この事件の最後には闇の帝王自身、ないし彼に関する何かが黒幕となる可能性は大きかったが、それも断定はできない。せっかく「秘密の部屋」を解決したところだというのに、僕はこの前代未聞の犯罪者相手に再び頭を悩ませることになったのだった。

 シリウス・ブラックの脱獄に恐々としたのは僕だけではない。もちろん多くの罪なき魔法族たちもそうだったし、「罪ある」魔法族もそうだった。闇の帝王が去った後、仲間を裏切り光の陣営に阿った人々は最たるものだ。父を始めとした元死喰い人たちは、闇の帝王と同様に残酷で、同胞を傷つけることを厭わない腹心の者たちを恐れていた。

 父はシリウス・ブラックの捜査がどう進んでいるかを知るために日々魔法省に詰めかけていたし、母は屋敷しもべ妖精たちと共に屋敷の守りを点検し、社交の場でご婦人方とどのように各家庭で身を守るのか話し合われていた。忙しい両親が屋敷を空けることが多くなり、僕はこの夏のほとんどを一人で過ごすことになったのだ。

 

 去年ブラック家の方々が亡くなっていたのも、色々な憶測を呼んだ。ブラックが遠隔でアズカバンから呪いを仕掛けていた、という荒唐無稽なものから、彼がそれを知ったから自らの財産を引き取りに来たのだ、というある程度説得力のあるものまで。それゆえに、やはり我が家は警戒を強いられていた。

 僕も一人での外出はしないように、ときつく言いつけられた。父か母、それが無理であればビンクを連れて出かけなければならない。けれど、僕はそこまで外に出ることに乗り気ではなかったからこれは苦にならなかった。

 去年の軽率な行動を後悔した僕は、涼しいウィルトシャーの敷地の草原で散歩する程度で十分満足していた。母は痛ましそうにしていたし、父はやはり後ろめたいようだったが、僕は生まれ育ったこの地が結構好きだ。あまり気にしないでほしいところだった。

 

 そんなある日、思わぬところでダイアゴン横丁に行かなければならない用事ができてしまった。今年は屋敷に全ての学用品が届けられる予定だったのだが、その中の一つ、今年の新たな選択科目である魔法生物飼育学の指定教科書が事件の原因だった。ちなみに、僕は魔法生物飼育学と占い学、古代ルーン文字学を選択した。本当は魔法族の意識を見るという意味でもマグル学を取りたかったのだけれど、そんなことをすれば各方面に角が立つというレベルではなかっただろう。

 とにかく、その愚かしい「怪物的な怪物の本」という教科書が同梱されていた他の哀れな教科書を食べてしまったため、新学期も近づいていたその日の午後、僕はビンクに連れられてダイアゴン横丁へ行かざるを得なくなったのだった。

 

 ダイアゴン横丁で誰か友人に会えるのではないかな、という期待はあった。例年とは違い、スリザリンの子たちだって、この状況では易々と外で会うわけには行かない。元々計画していた訪問ではなかったので完全にダメ元だったのだが、しかし僕はハリー・ポッターに出会うという幸運をその場で授けられたのだった。

 

 ダイアゴン横丁の人通りの多い広場の隅で見つけたハリーは、やはりいつものように学期末から少し痩せて、それでも元気そうだった。フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーのテラス席で、横にサンデーを置いて何やら書き物をしている。よく集中しているようだったが、僕の視線に気付き顔を上げ嬉しそうに手を振った。僕も笑顔で彼に歩み寄る。

 

 「久しぶり、ハリー」

 「ドラコ! 久しぶり。……その子は?」

 ハリーの視線は僕の足元のビンクに寄せられ、少し怪訝な目つきに変わった。ここで思い出したが、そういえば去年ハリーは今や我が家のものではなくなった屋敷しもべ妖精の蛮行によって死の一歩手前の目に遭わせられていたのだった。

 その事実は我が家で大きく取り沙汰された。主に屋敷しもべ妖精たちの間で。ドビーは確かに反抗的なところがある妖精だったが、だからといって父が手放すとも思われていなかった。他の妖精たちは自分たちも解雇されるのではないかと恐々としたようだ。実際は父がクビにしたくてしたわけではなかったのだが……父の家庭内での名誉のため、あの日の父とドビー、そしてハリーのやりとりについて僕は何も言わなかった。

 ビンクは僕が漏らしたドビーのハリーへの仕打ちを聞き、さながら心配性のおばあちゃんのように怒っていた。勿論、屋敷しもべ妖精の矜持を汚していると考えたというのもあったのだろう。その日一日、彼女の仕事はいつも以上に力が入っていた。

 

 しかし、ハリーはうちの屋敷しもべ妖精のサンプルをドビーしか知らない。いや、下手したら屋敷しもべ自体、ドビーしか見たことがない可能性すらある。彼が抱いているであろう懸念に思い当たり、僕は慌ててビンクを紹介した。

 「彼女はビンク。僕付きの屋敷しもべで、僕が小さい時からずっとお世話をしてきてくれているんだ。こんな言い方は良くないけど、君をいきなりブラッジャーで暗殺しようとしたりは絶対にしない妖精だから安心してほしい」

 「お初にお目にかかります、ハリー・ポッター様! 坊ちゃんから貴方様のことは伺っております。昨年はドビーめが大変なご迷惑をおかけいたしましたこと、私めからも謝罪させて下さいませ」

 ビンクは石畳につかないくらいのギリギリでお辞儀をする。ハリーはそれを聞き、少し目を丸くして言った。

 「ドビーみたいなのが、普通の屋敷しもべ妖精だと思ってた」

 そんなわけないだろう。ハリーの生育環境を思えば失礼なことではあるが、僕はその言葉に思わず笑ってしまった。

 

 僕もアイスクリームを買ってきてハリーの隣に座ると(流石にビンクは隣に座ってくれない。僕もそれを求めたことはない)、彼にこの夏どう過ごしていたのかを聞くことにした。

 

 ハリーは手元の溶けかけたアイスを少しいじりながら答える。

 「僕、ダイアゴン横丁で君やロンやハーマイオニーに会えないかってずっと待ってたんだよ」

 「ハリーはいつからダイアゴン横丁に? 君のマグルの親戚は良く許可したね」

 その言葉を聞きハリーはさっと表情を変えた。それは、去年僕に空飛ぶ車で登校したことを怒られるのではないか、という恐れを抱いていた顔に似て、しかしどこか反抗的な印象を受ける顔つきだった。

 「聞きたいなら教えるけど……絶対最後まで聞いて。できれば怒らないで」

 眉を顰めながら嫌々彼は言う。あまりにも直截な要求の表現に僕は思わず少し笑ってしまった。なんだか叱られるかもしれないことを告白する子どものようだ。ハリーが気を悪くしないよう真面目な顔を作り、居住まいを正す。

 「分かった。何があったか最初から最後まで聞くよ」

 

 そして、彼は話し出した。二週間と少し前、伯父の姉に虐待的な扱いを受け、彼女を思わず膨らませてしまったこと。そのまま家を出てナイトバスを偶然呼んだこと。ダイアゴン横丁では何故かコーネリウス・ファッジ魔法大臣が待ち受けていたこと。処罰はなく、その後ずっと「漏れ鍋」に泊まっていること。

 それなりに長くなった経緯を話し終え、それでも何も言おうとしない僕に、彼は雲行きの怪しさを感じたようで、不安げな顔になっていった。

 それでも僕は、彼を落ち着ける言葉を吐く余裕がなかった。僕は久々に取り繕えないほど激怒していた。その彼の「伯父の姉」とやらに。

 

 

 実は僕はハリーの伯母家族についてはそこまで憎み切ることができていなかった。事情をちゃんと知っているわけではないが、完璧にマグルの、しかもハリーと同じ歳の子どもがいる家族に彼が預けられたのはかなりの負担だっただろう。

 だからと言ってその人たちの虐待は絶対に許されるわけではないし、感情的にも嫌悪を抱く。しかし、そんな軽蔑すべき人間たちがいる場所にハリーを預けざるを得なかった状況に問題がある。そう心情の整理をつけていた。

 

 しかしその「伯父の姉」は違う。

 身寄りもない、数年に一度会うかどうかの、自分が世話をしているわけでもない子どもに向かって、事実ですらない、本人にはどうしようもない親のことをあげつらっていたぶる人間に、一体どんな慈悲をかけろというんだろう?

 

 だから、邪悪なマグルの中にまともな魔法使いがいるのは嫌なんだ。

 奴らはマグル世界に伝手のない魔法使いを好きなだけ嘲弄することができるのに、こちらはマグルに対して「倫理的観点から」まともに刑罰を受けさせることもできない。どうせ魔法について何もかも忘れさせなければいけない相手に、魔法使いは何もしない。

 

 勿論分かっている。そのような人間は一部だということは。しかし、魔法使いという性質自体がそういったマグルの卑劣で残酷な面を引き出しやすいのもまた事実だった。

 

 僕はそれをどうすることもできていないし、グリフィンドール的な救出をできる訳でもないということを思い出すことで、どうにか自分の罪悪感を煽って怒りを落ち着ける。深く深呼吸して頭の火照りを冷ましていると、ようやく視界が広がっていよいよ肩を落とし始めたハリーが目に入った。

 彼を安心させたくて、微笑みをどうにか顔に取り繕って僕は声をかける。

 

 「ハリー、辛かったね。君が無事で良かった」

 ハリーが勢いよく顔を上げる。信じられないといった様子だ。そんなに僕の台詞は意外だっただろうか? そんなに厳格なタイプの人間に見えないように振る舞っていたつもりなんだが。

 「君は怒ると思ってた。危ないことするなって。……魔法大臣だってそうだったんだ。伯父さんたちは僕を愛してるからって。ああいう大人はよく知ってる。家族っていうものは愛しあうものだからって問題は何もないみたいに言って……でも、結局は面倒ごとがいやなだけなんだ」

 

 ハリーの声が少し震えている。それを聞いて僕はまた嘲りたい気持ちになった。マグルをちっちゃくて可愛いお人形だと思っている、愚かで自分を騙すのが大の得意なコーネリウス・ファッジ。父のような権力者に阿るだけで魔法大臣になった蒙昧の輩。奴みたいな遅鈍な人間が魔法大臣でいる限り、マグルの中で生きる子どもの魔法使いは救われないだろう。

 だがその怒りをここでぶちまけても仕方がない。僕は大人への信頼を裏切られた彼を安心させたかったが、それは叶わなかった。僕もどうしようもなく子どもで、彼の安全を保障し守れる立場ではないのだ。

 その点で言えばこの状況の責任の多くはアルバス・ダンブルドアにあった。けれど、彼が何を思ってハリーをこんな残酷な場所に置くのを良しとしているか、僕は知らない。知らなくても何か理由があるのではないかと思考を巡らす程度には、僕はダンブルドアがハリーに向ける守護の精神を信じていた。

 

 俯く彼に、それでもできるだけ誠実に語りかける。

 「僕は……君が君の伯母さんにどれだけ憎しみを持っていても、絶対に怒らない。否定しない。君が居たくもない場所に居るだけで、君を虐める人間にそこまで優しくなれないよ。

 勿論、君にとって利にならないからという理由で、そいつら相手に魔法を使うのを諌めるかもしれない。でもそれは君が悪いんじゃない。君が魔法を使わなきゃいけない状況に追い込む環境が悪いんだ」

 ハリーは僕の言うことに何も言わず、俯いたまま聞いている。彼の手元にあった羊皮紙に涙の粒が落ちるのが見えたが、僕は彼が再び話し出すまで黙っていた。僕が買ったアイスクリームがカップの中で溶け、オレンジ色と水色がマーブル模様に混ざり切るまで僕らは何も口に出さなかった、

 

 ようやく顔を上げ、彼は眼鏡を外して着ていたシャツの裾で目元を拭う。そして、できるだけいつもの口調を作って言った。

 「でも、何で魔法省は僕を罰しなかったんだろう? 去年はドビーが魔法を使っただけで警告だったのに」

 もう、湿っぽい話は続けたくないのだろう。彼の気持ちを汲んで、僕もいつもの調子で彼の問いに答える。

 「魔法省……と言うよりは魔法界か。ここはさながら前近代で、条文はあっても不当に緩められた法解釈と縁故が重要なんだ。つまり、法律はとても緩い基準で扱われる。

 こんなこと言いたくはないが、僕の父のような権力者は容易に自分の罪をもみ消すことができるし、そういう人たちに睨まれれば不当に重い量刑を科される。

 今回君は制度の利点を得る側だった。そして、君の立場としては大抵そうなるだろうけど、この先どんな形で理不尽に巻き込まれないかは分からない。一応頭に入れておいた方がいいかもね。それにこんな時期だし」

 「こんな時期ってなに?」

 ハリーの疑問に僕は一瞬何を言われているのか分からなかった。首を傾げる僕に、ハリーは続きを促した。

 

 「なにも何も……シリウス・ブラックのことだよ。魔法大臣から聞かなかった?」

 「何か事情があるみたいだけど、教えてくれなかった」

 何が起きているのかは学校に行ったら嫌でも耳に入るだろうに、一体何を考えているのだろうか、あのタヌキは。今の間だけハリーの目を塞いでいたら、シリウス・ブラックが存在する事実も無くなるとでも思っているのだろうか。

 魔法大臣のあまりにパターナリスティックで考え無しの態度にため息が溢れる。仕方がないのでハリーにシリウス・ブラックのことを掻い摘んで説明した。

 「で、君という闇の帝王シンパの人間が狙うターゲットNo.1を安易に出歩かせるわけにも行かないってわけ」

 ハリーはそれで一応は納得したが、不服そうだった。なんだ、監視の目があることが不満なのか? 僕はこの状態の彼に何を言っても無駄という経験則に則り、話題を彼がやっていた魔法史のレポートに変えた。

 

 それから僕らはしばらく彼の魔法史の宿題をビンズ先生をこき下ろしながら進め、ようやく書店に行かなければ、帰りが親に心配される時間になってから別れた。

 

 「またホグワーツ特急で!」

 彼はスリザリンで満載になるであろう、僕のコンパートメントに突撃してくるつもりなのだろうか。それでも僕は笑って手を振り、フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーを後にした。

 

 

 


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