音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

39 / 97
失敗と報い

 

 

 

 今回の事態は、完璧に僕の悪癖が表出した形になった。理性的に考える能力がありそうな、子供を守る立場にある人間が、自分の職務を放棄している様に対して強烈な義憤を感じてしまうという悪癖だ。何が「正義感という飴」だ。一番自分の正義感を制御できていなかったのは僕だというのに。

 

 あの後、「純血一族で、成績一位の、チェイサー」という存在について少し考えてみた。記憶を掘り返してみれば、当てはまる対象に心当たりがあった。去年スネイプ教授がその人とハリーを重ねて見ていると自供した存在────ジェームズ・ポッターだ。

 彼はチェイサーだったと以前ハリーが言っていたし、確かポッター夫妻は主席のカップルだったはずだ。ポッター家は聖二十八一族に数えられてはいなくとも、ブラック家と婚姻関係にある純血一族だったし、ハリーの祖父にあたるフリーモント・ポッターは魔法薬学者で裕福だ。

 そのジェームズ・ポッターと僕に重なる部分があるから、スネイプ教授は僕の意見を激しく拒絶するのだとマクゴナガル教授は考えたのだろう。

 つまり、スネイプ教授は学生時代にジェームズ・ポッターと確執があり、その親友がシリウス・ブラックとリーマス・ルーピンだった。そう想像がつく。

 

 僕らの世代はグリフィンドールと仲が良すぎて想像しづらい。けれど、上級生の様子を見て、確かに僕は一年生のときに思ったのだ。この二つの寮の敵対関係はどちらが悪いというよりは、構造的なものなのだと。

 

 僕には想像することしかできないが、それこそ闇の帝王の絶頂期には家庭の圧力で死喰い人にならざるをえなかった人間なんて山のようにいたのだろう。ホグワーツの中だってそうだ。反対するような声を上げるどころか、ただそれらと距離を置くことすら難しかったはずだ。

 しかも当時から校長はダンブルドアだ。そこではグリフィンドールは明らかに正義側のものとして考えられていたはずだ。

 そんな環境の中で育ち、スネイプ教授は今その構造を再生産しようとしている。彼にはおそらくそれ以外の選択肢がもとより存在しなかったのだろう。彼がここまで頑なに僕の言うことを聞いてくれないのは、僕のような存在が彼の常識の世界には存在しえなかったはずだからではないのか。

 

 実際、それは事実なのだから。ただ僕の立場に生まれ育つだけでは、前世というベースがあった僕とは全く違う人間になるだろう。

 でも……それでは、どうすればいいんだ? どうすればスネイプ教授は彼の人格に根差した確執を捨てて、いや、捨てなくても、今の罪なきグリフィンドールに対して敵対するのをやめてくれるんだ? 彼の何十年もの間、堅固に築き続けた価値観を、僕程度がどうやって崩せるというんだ?

 

 これは本当に手詰まりになってしまった気分だった。最善策はすでに潰えている。スネイプ教授に取り入って内側から変えようとしても、僕は既に今まで見たことがないくらい彼を激昂させてしまったのだから。失敗としか言いようがない。感情に支配されて、目先の攻撃欲を優先してしまった。

 

 この学校に入学してから、ここまで自分のせいで状況を悪くしてしまったのは初めてな気がする。…………いや、一年目のドラゴンの件とかもあったが…………それにしても、ここまで盛大に、しかも無意味にやらかしてしまったのは初めてだった。

 

 その上、誰に相談して解決するというものではないというのが辛い。周囲の生徒に話してしまえば、僕を庇って火に油だろうし、グリフィンドール側のマクゴナガル教授やダンブルドアにだって手を出してどうにかなることではない。父に言って力関係をチラつかせれば、残っているかも分からないスネイプ教授からの信頼は地に落ちる。

 

 ああ、本当にやってしまった。軽挙妄動は僕だ。

 心の底から泣きたくなった。

 

 

 それ以降、僕は必死にスネイプ教授の機嫌を損ねないよう努めた。他のスリザリン生の反抗的な態度を押さえることは出来なかったが、僕は授業中一切彼の理不尽に反論しなかったし、ルーピン教授を大っぴらに称賛するのもやめた。

 自分でやっていてこれはかなり辛かった。折角僕が闇の道に行かないでくれと先導して取っていた行動に僕自身が反するのだから。幸いにして、スリザリンだけでなくグリフィンドールすらもそれを見咎めることはなかったが、運が良かっただけのように思う。もしスネイプ教授がこちらの思惑に気付き、授業中に僕を試すようなことをすれば一巻の終わりなのだ。

 

 しかし、あれ以来スネイプ教授は授業中に僕を無視するようになっていた。正確には、今まで頻繁に行われていた僕を出汁にしたスリザリン贔屓を止めた。

 他の生徒もそれに気付いて、明らかに何かおかしいと思ったようだ。けれど、僕は死んでも理由を言うつもりはなかったし、スネイプ教授だって言わないだろう。結局スリザリンの反抗的態度への報復行動だという噂が囁かれていた。それについては、なんとかスリザリン内の反目は沈静化させたのだから、もう……許してほしい。

 「よりにもよってマルフォイに対して仕掛けてきたんだぞ?」

 「多分違うよ……今まで僕はずっとスリザリンの誇りに相応しい態度を取ってくれって示してたんだから、それに折れてくれたんじゃないかな……」

 こんな感じだ。本当に疲れる。

 

 ダンブルドアとの閉心術教室がほとんど必要なくなった今も、マクゴナガル教授のところに通い続けているのはスネイプ教授の気に障ることかも知れなかった。

 けれど、今僕の息抜きになっているのは変身術だけなのだ。頼むから見逃してほしい。僕は陽が出ている時すら目眩し呪文をかけてマクゴナガル教授の研究室に行くようになった。

 

 

 あれから、ルーピン教授のことについても色々考えた。けれど、そもそも二年次にロックハートを採らなければならなかった理由として「闇の帝王と繋がりのない保証」がある。シリウス・ブラックの親友だったという危険性の高い立場でダンブルドアの目を潜り抜けられるとは、僕は到底思えなかった。

 だから、結局のところブラックがどうやって侵入してきたかは分からずじまいだし、スネイプ教授を説得する目を自分で完全に消してしまった。それが僕が今回得た結果だった。

 

 

 子どもたちの前では事態がバレてはまずいため、落ち込んでいるところを完璧に取り繕っていた。しかし、大人の前ではそうもいかなかった。意外なことに、それに気付いたものの一人はルビウス・ハグリッドだった。

 彼のための安全管理マニュアルはあれから何度か専門家の意見を聞いて改訂が加えられ、より彼が従いやすく、理解しやすく、安全性を確保できるものに変わっていた。僕は逐一それを渡して説明していたのだが、そこで元気がないことに気付かれたのである。

 いつの間にか定期的に小屋に招かれて説明や、授業についての議論をするようになっていた。クリスマス休暇前、来年に向けて最後の確認をしていた中での出来事だった。

 

 「お前さん、最近ちいっと疲れてるんじゃねえか? スリザリンはクィディッチでレイブンクローに負けちまったらしいし……練習のしすぎか? それとも、ハーマイオニーみたいに科目を取りすぎてるんじゃねえだろうな?」

 彼は人におべっかを使えるタイプではない。心の底から、かつてあれだけ敵対的だった相手が心配してくれている。その事実に、僕は思わず泣いてしまった。

 

 確かに彼の言う通りだったのだ。

 増えた科目は予習の分があるとは言えども宿題の手間がなくなるわけではないし、クィディッチもいよいよスタメンとして参加しなくてはならない。

 この安全管理マニュアルや付随する制度だって放置するわけにはいかなかったし、何よりブラックの侵入経路は不明。ハリーの安全は確保できないままで、僕の一番成し遂げたかったスリザリンと他寮の対立関係の解消はスネイプ教授という犠牲を出して進みつつある。

 自分でも気付かないうちにやらなければならないことやストレスは山積みだった。

 

 いきなり声もなく涙を流す僕に、明らかにハグリッドは動揺し切っている。しかし、それを気にかける余裕もなかった。

 彼は驚きのあまり小屋を揺らして立ち上がったが、どうすれば良いのかわからず辺りをしばらくウロウロとしていた。僕もだんだんと気持ちが落ち着き、恥ずかしくなってきた頃、彼はあのテーブルクロスのようなハンカチを僕に向かって差し出した。

 受け取ったハンカチは本当に子どもの上半身を覆えるほど大きい。思わずちょっとだけ笑った僕に彼は優しく声をかけた。

 「何があったかは知んねえが……お前さんは大丈夫だ。俺もずっとお前さんを勘違いしちょった……ノーバートのことがあったからな。でも、お前さんは本当に友達が心配で、そういうことをするやつだっていまは知っちょる。

 お前さんはいい奴だ。俺にだって分かる。困ったことがあったら、友達に話してみたらええ。お前さんの言うことを無下にするやつなんて、きっとおらん。大丈夫だ……」

 その言葉にまた泣きそうになる。けれど、なんとか抑えて彼に心から礼を言い、その場を後にした。

 

 正直、今相談して大丈夫だと思えるほど、僕と同じことを考えてくれると確信している生徒はいない。スネイプ教授を庇い、あまつさえ考えを変えてもらうなんて僕だってほとんど不可能だと思う。

 けれど、他のことではもう少し他人を頼ることを覚えてもいいのかもしれない。そう思えるぐらいには、今回の件は僕の心を救ってくれた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。