音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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第四十三話 疑わしい月

 

 

 その週の土曜、恒例のホグズミード行きの日がやって来た。

 

 僕は今度こそホグズミードに行く気はなかった。ハリーを一人で学校に残しているのがずっと気がかりだったし、彼がどのくらい守護霊の呪文を扱えるようになったのかも見ておきたい。なにより、いつも一緒にホグズミードを回っているクラッブとゴイルが、ここ最近忙しくて疲れていた僕を心配してくれている。このタイミングなら、学校に残っても怪しまれることはないだろう。

 そのことは、金曜日の放課後にハグリッドの小屋で会ったハーマイオニーにも話していた。なんの気なしの世間話だったのだが、話を聞いた彼女はたちまち何か思い詰めたような顔になった。事情を飲み込めない僕を前に、ハーマイオニーは真剣そのものといった様子で口を開いた。

 「……四階の大階段を登ったところに、隻眼の魔女の像があるのは知ってる? そこで明日、みんながホグズミードから帰って来る少し前くらいに待ってて欲しいの。

 何も聞かないで。言いたくないの。でも、あなたなら何が起こったのか分かると思う」

 

 唐突なお願いに面食らってしまう。内容が妙に曖昧で意味深すぎる。パンジーなんかに言われていたら、イタズラを疑って行かないところだ。しかし、ハーマイオニーがそんな真似するはずないし、何か理由があるのだろう。そう思って僕は彼女の言葉に従うことにした。

 

 土曜日の朝、僕はハーマイオニーに言われた時間まではハリーと一緒にいようと考えた。朝食が終わった後、玄関ホールからロンと別れ寮に戻るハリーを追いかける。しかし、彼はよっぽど急いで談話室に戻ったのか、こちらが追いつく前にさっさと上階に上がっていってしまった。

 考えてみれば、ホグズミード行きがあろうとハリーの知り合いの下級生は寮にいるのだ。僕のやっていることは完全なお節介だったかも知れない。周囲を軽く見て回ったが見つからず、三階でなぜかスネイプ教授に見咎められたところで、諦めて地下のスリザリン寮に帰ることにした。最近、と言ってもあの口論からもう二ヶ月以上になるが、教授の僕を見張る視線は厳しい。

 

 その日の午前は溜まっていた宿題や事務処理のたぐいを終わらせることに費やした。そろそろハーマイオニーの言う「みんながホグズミードから帰って来る少し前」と言えそうな時刻だ。改めて考えてみると漠然としているし、時間の範囲が広すぎる。けれど、約束してしまったものは仕方ない。長い時間待つのも覚悟して、暇つぶしに魔法薬学の書きかけのレポートと携帯式の羽根ペンを持っていくことに決めた。スネイプ教授に出くわさないことを祈りつつ、身軽な格好で四階の像の前に向かった。

 その場について、近くにあったベンチに腰を下ろす。ここからなら像の辺りも見えるし、レポートも書ける。丁度いい場所だ。僕は集中しすぎないよう意識しながら、課題の続きに取り組み始めた。

 

 しばらくして、何かが視界の端に映ったような気がして顔を上げる。そこにはいつの間にやって来たのか、息を切らしたハリーがつっ立っていた。僕の方を見てずいぶん驚いた顔をしている。まあ、こんな変なところで、一人で宿題やってる奴がいたらビビるわな。そう思いながら僕はハリーに何の気なしに声をかけた。

 「こんにちは、ハリー。今日は談話室にいたの?」

 「ドラコ、どうしてここに?」

 僕の言葉を聞いて彼は肩を跳ねさせる。なんだ? いくらなんでも驚きすぎだろう。しかも、よく見れば彼の足元はずいぶん土で汚れている。明らかに様子がおかしい。わけを尋ねようとしたが、その前に会話は後ろからの大声で遮られた。

 

 「ポッター! マルフォイ! ここで何をしている」

 これまたいつの間にやってきたのか、スネイプ教授がハリーの後ろに立っていた。僕とハリーが喋っているところを見てしまった以上、さぞご機嫌麗しくないだろうと覚悟したが、彼はなんだか上機嫌だ。一方のハリーはさっきの慌てっぷりは消え、何かしらを切るような雰囲気を醸し出している。

 僕の知らないところで何かが起こっている。それは分かるのだが、状況が全く理解できない。

 廊下で話していただけの僕らを、なぜか、スネイプ教授は彼の研究室まで連行し、なぜか、ハリーはそうなることを予期していたらしかった。何かやらかしたのか? 今更去年の膨れ薬事件の真相が露呈したとかではないと祈りたい。

 

 研究室につくと僕らは椅子に座らされ、尋問の構えになった。僕は今スネイプ教授の気に触ることを一切したくないからともかく、ハリーは何故ここまで従順なんだろう。諦めているという雰囲気でもないが、逃げられるとも思っていないようだ。

 

 しかし、その答えはすぐに分かった。スネイプ教授がハリーに対し、ねっとりとした口調で語り出す。

 「ポッター、スリザリンのとある上級生がたったいま、我輩に奇妙な話をしてくれた。その話によれば、ホグズミードで『叫びの屋敷』まで歩いていたところ、ウィーズリーに出会ったそうだ。──一人でいたらしい。

 彼によれば、ウィーズリーは一人で宙に向かって喋っていたと。まるでそこに誰かがいたように。ポッター、君の名前を呼びながら」

 「えっ」

 僕は思わず声を出し、勢いよく横のハリーを見た。ハリーはこちらを見ることなく、スネイプ教授に対し、その上級生はマダム・ポンフリーのところに行った方がいいと嘯いている。それは無理がある。ロンが幻覚を見ている、の方がスネイプ教授を説得するには都合が良いだろう。

 

 しかし、ああ、なるほど。そういうことか。ハーマイオニーはハリーが城を抜け出し、ホグズミードから帰ってくるときにどこを通るのか知っていて、注意してくれることを期待してその場に僕を置いておいた。そういうことだろう。

 でも、ハリーを告発し切ってしまうとまずい────手段かな。それが僕に知られるといよいよハリーかハーマイオニーはまずい立場に立たされることになる。だから、僕が偶然、彼らのやっていることの一部を知り、それを諌めるようになるのが最善だと考えたのだろう。

 非常に紛らわしい迂遠な手法だが、今、彼女はロンととても仲が拗れてしまっている。そこでハリーを「ドラゴン」の前科がある僕に完全に売るような真似はできなかった。そんなところだろう。

 

 僕をよそに、スネイプ教授とハリーのやりとりはどんどんヒートアップして行く。スネイプ教授はハリーを挑発してボロを出させようとしているし、ハリーはそれに対し頑なに抵抗している。

 どうやら今回の件に僕は本当に無関係なようだし、もう寮に帰りたいのだが。いつもだったらスネイプ教授を制止する場面だが、流石にブラックの襲撃から一週間しか経っていない状況で、城の外をフラフラしていました、というハリーを擁護するのは難しい。

 

 スネイプ教授の挑発は、ついにハリーのお父上の話にまで及んだ。彼はネチネチと執拗にジェームズ・ポッターを侮辱する。相変わらずやり方が汚い。親を知ることができずに育った子どもによくそんな酷いことが言えるものだ。呆れの視線を向ける僕は完全に視界の外のようで、スネイプ教授の鼻先はハリーの方だけを向いている。

 

 「君の父親も規則を歯牙にもかけなかった。規則なぞ、つまらん輩のもので、クィディッチ杯の優勝者のものではないと。はなはだしい思い上がりの……」

 「黙れ!」

 

 遂にハリーがキレた。この恐ろしすぎる状況に、心の底からこの場から逃がしてほしいと願う。頼むから僕がいないところでやって欲しい。しかし、ハリーは止まらない。

 「我輩に向かって、なんと言ったのかね。ポッター?」

 「黙れって言ったんだ、父さんのことで。

 僕は本当のことを知ってるんだ。いいですか? 父さんはあなたの命を救ったんだ! ダンブルドアが教えてくれた! 父さんがいなきゃ、あなたはここにこうしていることさえできなかったんだ!」

 突然飛び出してきた名前に思わず瞼を閉じてしまった。おお、ダンブルドア。何故そんなことをハリーに吹き込んだのですか。それがハリーにとって心の支えになるだろうとお思いになったのですか。

 確かにその方向の励ましは、孤児を慰めるのには間違ってないかもしれない。しかし、今のスネイプ教授の血の気の引ききった憤怒の表情の前では、その心配りを感謝する気にはなれなかった。

 怒りが一周回って冷えた囁き声でスネイプ教授は言葉を続けた。

 「それで、校長は、君の父親がどういう状況で我輩の命を救ったのかも教えてくれたのかね? それとも、校長は、詳細なる話が、大切なポッターの繊細なお耳にはあまりに不快だと思し召したかな?」

 話の雲行きが怪しくなってきた。スネイプ教授はハリーが本当の事情を知らないと踏んだのか、歪んだ笑みを浮かべ反論し始めた。

 「君が間違った父親像を抱いたままこの場を立ち去ると思うと、ポッター、虫唾が走る。我輩が許さん。

 輝かしい英雄的行為でも想像していたのかね?ならばご訂正申し上げよう。──君の聖人君子の父上は、友人と一緒に我輩に大いに楽しい悪戯を仕掛けてくださった。それが我輩を死に至らしめるようなものだったが、君の父親が土壇場で弱気になった。君の父親の行為のどこが勇敢なものか。我輩の命を救うと同時に、自分の命運も救ったわけだ。あの悪戯が成功していたら、あいつはホグワーツを追放されていたはずだ」

 ハリーの顔に怯みが広がる。スネイプ教授は彼の瞳を確認するように覗き込んだ。

 僕は益々ダンブルドアを恨んだ。校長はスネイプ教授が納得するような形ではなく、一部を切り取り、ハリーに都合が良いように事を教えたのだろう。そんなの今の彼のためにだってなってないじゃないか。中途半端に事実を教えると、手痛いしっぺ返しを喰らうのはハリーなのだ。

 

 突然、スネイプ教授が吐き捨てるように声を上げた。

 「ポケットを引っくり返したまえ、ポッター!マルフォイ、お前も持っているものを出せ。今すぐにだ!」

 隣にいたハリーが固まった。どう考えても何かまずいものを持っていたようにしか見えないが、流石にここから庇う手立てはない。僕は彼をよそに、大人しく手に持っていたレポートの束とポケットに入っていた携帯羽根ペンを机の上に出した。

 スネイプ教授がまるで闇の代物かと言わんばかりにそれを検分しているのを前に、ハリーはノロノロとポケットからゾンコの店の悪戯グッズの買物袋と、余った羊皮紙のようなものを取り出す。以前ロンにもらったのをずっと持っていたと嘯いているが、いよいよハリーがホグズミードに行っていたことは確定的だ。可哀想だが、ここはお叱りを受けてもらうしかないだろう。

 案の定スネイプ教授は羊皮紙の切れ端に目を付け、それを暖炉に投げ捨てようとする。ハリーはそれを止めようと声を上げるが、何かあると言ってしまっているも同義だった。

 

 スネイプ教授はその羊皮紙が城を抜け出した証拠になるだろうと目をつけ、杖で突きながら正体を暴こうと試行錯誤を始めた。しかし──スネイプ教授の機嫌を損ねたくない僕にとっては最悪なことに──その羊皮紙に現れた文字はスネイプ教授を侮辱し始めたのだった。

 

 羊皮紙にするするとインクが滲み、言葉を綴ってゆく。

 ──私、ミスター・ムーニーからスネイプ教授にご挨拶申し上げる。他人事に対する異常なお節介はお控えくださるよう、切にお願いいたす次第。

 ──私、ミスター・プロングズもミスター・ムーニーに同意し、さらに、申し上げる。スネイプ教授はろくでもない、いやなやつだ。

 ──私、ミスター・パッドフットは、かくも愚かしき者が教授になれたことに、驚きの意を記すものである。

 ──私、ミスター・ワームテールがスネイプ教授にお別れを申し上げ、その薄汚いどろどろ頭を洗うようご忠告申し上げる。

 

 眼前で起きる出来事の、あまりの恐ろしさにハリーですら固く目を瞑っていた。頼むからもう帰らせて欲しい。僕は何度目か分からないほど、心中で強く願った。

 しかし、スネイプ教授は僕らに激昂することはなかった。その代わり、なぜか彼は暖炉からルーピン教授を呼び出し始めた。全く無関係なように思えるが、一体何を考えているんだ?

 暖炉から出てきたルーピン教授はいつものように穏やかな態度だが、今はそれすらもスネイプ教授の怒りに油を注いでいるように感じる。展開に付いて行けていない僕らをよそに、二人の先生はこの羊皮紙について議論──そう呼ぶには少々スネイプ教授は頭に血が上りすぎだが──を始めた。

 

 「この羊皮紙にはまさに『闇の魔術』が詰め込まれている。ルーピン、君の専門分野だと拝察するが。ポッターがどこでこんな物を手に入れたと思うかね?」

 「『闇の魔術』が詰まっている? セブルス、本当にそう思うのかい? 私が見るところ、無理に読もうとする者を侮辱するだけの羊皮紙にすぎないように見えるが。子どもだましだが、けっして危険じゃないだろう?ハリーは悪戯専門店で手に入れたのだと思うよ──」

 「そうかね? 悪戯専門店でこんな物をポッターに売ると、そう言うのかね? むしろ、()()()()()()()()入手した可能性が高いとは思わんのか?」

 制作者? 何故スネイプ教授はそれが重要だと考えているのだろう。そこで、僕は先ほど羊皮紙に浮かんだあまりにも恐ろしい文字列を思い出した。

 ── 私、ミスター・パッドフットは、かくも愚かしき者が教授になれたことに、驚きの意を記すものである──

 これは、スネイプ教授が教師になる前から知っていたものの言葉だ。

 スネイプ教授が、なぜかホグワーツを抜け出す手段だと確信しているらしい羊皮紙。スネイプ教授を以前から知っていた羊皮紙の制作者四人組。スネイプ教授が、それをルーピン教授に問い詰めている。そう、スネイプ教授がブラックを手引きしたのではないかと考えていたルーピン教授に。

 僕の頭の中で、ほとんど答えは導き出されつつあった。そこに、ロンが飛び込んできて──あまりにも良いタイミングすぎる。まるで()()に頼まれたかのようだ──その羊皮紙はハリーに自分があげたのだと庇い始めた。

 

 ルーピン教授はその羊皮紙を回収すると、話を切り上げようとした。

 「ハリー、ロン、ドラコ、一緒においで。吸血鬼のレポートについて話があるんだ。セブルス、失礼するよ」

 数分前なら天の助けだと思っただろう。しかし、僕はそれについて行かなかった。

 「すみません、ルーピン教授、僕、魔法薬学のレポートについてスネイプ教授にお聞きしたいことがあって」

 スネイプ教授を含め全員が僕の意図を図りかねた顔をしている。しかし、スネイプ教授のそばを離れることを優先したのだろう。僕を無理に連れて行こうとせず、ルーピン教授と二人は部屋を出て行った。

 

 

 研究室には僕ら二人だけが残った。スネイプ教授はルーピン教授たちが自分の手元から逃げおおせたことに明らかに激怒している。彼の表情には不快そうな色が張り付いていた。

 「何の用だね、マルフォイ。このレポートについてなら、特に問題はないと言っておくが」

 あの一瞬で中身を検分したのか。早すぎる。ぼんやりとそう思いながら、僕は口が動くままにスネイプ教授に尋ねた。

 「ルーピン教授は、あの羊皮紙の制作者……いえ、ムーニー(Moony)なのですか?」

 彼は言葉を止め、僕をじっと見つめた。居た堪れなくなった僕は言葉を紡ぎ続ける。

 「あなたは、ルーピン教授があの羊皮紙で城を抜け出す方法を知っていて、それを使ってシリウス・ブラックを手引きしたとお考えだったのですね」

 スネイプ教授は返事も頷きもしなかった。しかし、彼が推理を馬鹿にし始めないだけで、僕には十分だった。

 ああ、確かにそれは──怪しすぎる。ハリーが易々と城を抜け出せるのであれば、シリウス・ブラックが城に入ることもまた可能なのかもしれない。しかも、その事実を証拠がなくてダンブルドアに証明できないのだったら。だとすれば、やっぱり僕の以前の振る舞いは本当に「何も知らない」発言だったことだろう。

 だからと言ってルーピン教授へのあの行動が許されるとは思わない。ダンブルドアもそこまで踏まえた上で行動していると思う。けれど──

 

 「あの、僕──以前のこと、本当にすみませんでした。ハリーが城を抜け出すことも、その方法があるかもしれないことも、考えられていませんでした」

 あまりにも、自分の視野の狭さが情けなくなり、僕はただ項垂れて頭を下げた。

 

 研究室には沈黙が落ちた。ここで彼と話をしたのは一昨年のクリスマス休暇ぶりだ。その時も僕は「何も分かっていない」とスネイプ教授に言われた。以前も今も、やっぱり僕はスネイプ教授のことを全然理解できていない。

 

 スネイプ教授の顔を見れないまま俯いていると、彼が意外なほど落ち着いた声で言葉を発した。

 「……今回、君はポッターと共にホグズミードに行かなかったのかね」

 顔を挙げると、スネイプ教授は僕のレポートを見ていた。流石に魔法薬学のレポートを引っ提げてホグズミードに行く人間はそういないだろう。格好だって明らかにこの二月の寒空の中、外に出るためのものではない。どうやら、スネイプ教授は僕がハリーと一緒に外へ出ていたとは考えていないようだった。

 なんと言ったらいいか分からず、とりあえず「はい」と言っておく。それを聞きスネイプ教授は口の端を上げる。

 「では君は、ポッターらの企みを露ほども知らないのに、我輩にあんな口を利いていたと? 友人の本性も知れず、哀れなことですな」

 性格が悪すぎる。僕がハリーたちの中に入れていないのがそんなに嬉しいのか? それでも、この状況でそれに反論する気にもならない。僕はただ大人しく頷き、「申し訳ありません」と言うしかなかった。

 

 いよいよスネイプ教授は嬉しそうだった。この人、僕のことが嫌いすぎるだろう。あのルーピン教授達の件の後にここまで上機嫌になれるのだから、相当なものである。

 しかし、ここではもう大人しくして無害な人間という顔をしておくのが一番良い気がする。僕は出来るだけ自然に、鍛えてきた閉心術の技能すら活かして「ハリー達から仲間外れにされていたんです。悲しいです」という雰囲気を醸し出した。

 僕としてはスネイプ教授に確かめたかったことを確認できた──返答をもらったわけではないが、態度からしてほとんど当たっていると思っていいだろう──ので、もう解放してもらいたいのだが、ここから出る口実も見当たらない。

 これからどれだけの間いびられるのだろう。あまりにも嫌な予感に、泣きたい気分だった。

 

 しかし、僕の予想は外れた。スネイプ教授は二ヶ月少しの間、彼の機嫌を損ねるのを恐れて質問できなかった範囲について僕から聞き出し、その解説をした後関連する書籍のメモを添えて僕を研究室から解放した。

 

 何が起きたかよく分からない。絶対に酷いことになると思っていた。

 ひょっとして、スネイプ教授は僕を許してくれたのだろうか。たかがハリー達の企みを知らなかっただけで?

 

 今回僕はスネイプ教授の心中を理解できていないことを心底思い知ったのだが、それを踏まえてなお不可解な彼の行動に、改めて僕は「苦手な人」のレッテルを貼ったのだった。

 

 

 


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