音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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仲裁

 

 

 

 スネイプ教授の研究室から解放された後、僕はグリフィンドールの三人組とそろそろちゃんと話をしなければならないと考えていた。

 三年生になって直ぐの頃からこのいがみ合いは続いている。このまま放置してどうにかなるとは思えなくなってきたのだ。

 

 僕に対してあんな迂遠な方法を取るしかないほどハーマイオニーは追い詰められているのに、それでもなおロンに謝ることはできていない。今回の発端は一応スキャバーズの死で、咎はハーマイオニーの方にある。普段の彼女ならもう少し冷静な態度で自分の非を認められただろうが、今の彼女にその余裕はないのだ。

 喧嘩した直後ならまだ謝りやすかったかもしれないが、ロンには子どもらしく残酷なところがあるのが事態をややこしくしている。詳しく聞いた訳ではないが、お互いもう引っ込みが付かなくなってきているのだろう。

 

 これ以上静観していても、何かきっかけがないと仲直りできるとは到底思えない。三人組が修復不可能なレベルまで仲違いしてしまうのはどう考えても問題がある。

 かと言って、僕が説得して上手く行くかどうかは五分五分だ。今までにどれだけロンとハーマイオニーに対して信頼を稼いでこれたかに掛かっている。出来るだけ慎重に、二人のどちらにも敵対者だと見做されないように、角を立てないようにやるしかない。

 まあ、それは多分僕の得意とするところだ。なんとかするしかない。そう、一人気合いを入れたのだった。

 

 

 二人のうち、僕が先に相手をすることに決めたのはロンだった。今回ロンは根本的な非こそないものの、彼の態度がハーマイオニーを頑なにしている面が大きい。ここでロンに一歩引いて貰えばハーマイオニーの心的余裕を引き出せる可能性が高いのだ。

 ハリーは一応ロン側に付いていたが、ファイアボルトの件が解決したこともあって二人の喧嘩にうんざりしているようだというのもある。彼がロンのサポートに回る態度を取りながらもハーマイオニーとの仲直りを望めば、問題を解決する希望はグッと上がる。

 

 正直子どもの喧嘩になんでここまで気を回さなきゃならんのだという気持ちになってくる。しかし、おそらく彼らは主人公三人組なのだ。今ここでどうにかしておかず後々後悔することになるのは避けたい。

 そうして月曜日の放課後、ロングボトムに伝言を頼んだ僕は、ロンとハリーを空き教室に呼び出したのだった。

 

 

 その場に来たロンは早速それなりに怒っていた。

 「ハーマイオニーは君に告げ口したんだろ!」

 ああ、そりゃあそう思うよな。実際殆どその通りなのだし。しかし、ここでそれを認めてしまっては色々詰んでしまう。後からバラして謝ればどうとでもなるだろうと信じて僕は嘘をつくことにした。

 

 「違うよ。あの子が何か気にしているようだったから僕が無理を言って口を割らせたんだ。それでも像の前で待ってみろとしか言ってくれなかったから、そうしたってわけ。

 僕のせいでスネイプに目をつけられたかも知れない。巻き込んで悪かったね」

 

 先んじて謝ることで怒りを消すよう試みる。その上、スネイプに目をつけられたのはロンとハリーの落ち度だ。僕に対する罪悪感で一旦鎮火してくれることを願う。

 一応、二人とも納得してくれたようだ。特にハリーは城を抜け出したのを本当に反省しているのか、かなり大人しい。一方ロンは僕がハーマイオニー側に付いていることを危惧し、いまだに苛立ちが滲み出ている。

 内心本当に面倒臭いと思いながらも、なんとか本題の二人の喧嘩について、ロンの言い分を聞き出した。

 

 やはりロンはクルックシャンクスを庇い続けるハーマイオニーに怒っていて、彼女が謝らない限り自分は絶対に譲らないと決めてしまっているようだ。しかし、逆に言うならハーマイオニーが謝れる状況を作れば話は早い。僕は説得の道筋を考えながら、口を開いた。

 

 「そうだね。ペットの管理ができなかったハーマイオニーが悪いと言える」

 僕から同意を得て、ロンは満足げだ。いい調子である。僕はそのまま喋り続けた。

 「ロン、僕と初めてあったときのこと覚えてる?」

 いきなり話が飛んで彼の表情に不可解さが現れる。

 「ホグワーツ特急のときのこと? あのとき君、かなーり嫌なやつだったよ」

 あまりにストレートな言葉だ。僕は思わず少し笑いながら続きを話す。

 「だよね。その件については本当にごめん。だから、僕は君がいつの間にか許してくれて、とても嬉しかったんだ。僕は謝りもしなかったのに。

 ロンは僕のことをどうして受け入れてくれたの?」

 彼は記憶を辿るような表情になる。 

 「そりゃまあ、君は……色々あっただろ? 禁じられた森でハリーを庇ったり、ハグリッドのことだってハリーは僕らを告発しようとした訳じゃないって言ってたし……」

 「でも、僕は直接君に何かしたわけじゃなかったよね。それなのに許してくれて、君が作る楽しい雰囲気の場所に居させてくれた。僕は本当に嬉しかったよ」

 相変わらず話の筋が見えず困惑しているようだったが、ロンの顔に照れが浮かぶ。このまま機嫌良く行ってほしい。口を挟ませず、僕は続けた。

 

 「君たち三人は僕とよりもずっと一緒にいて、色々なことをしてきたと思う。それでも、もうハーマイオニーは僕よりも信じられない? 僕よりもどうでもいい子になってしまった?」

 ロンは先程までよりはずっと怒っていない。けれど、やはり譲歩するにはまだ足りないようだった。

 「でも、あいつ謝りもしないんだぜ」

 拗ねたように彼は言う。僕はそれを聞き、出来るだけ同意していることが伝わるように深く頷く。

 「そうだね。一度自分が正しいと思ったことについてハーマイオニーはとても頑なだ。

 今、彼女あまりにも色々抱え込んで、いっぱいいっぱいになって、いつもより更に意固地になってるしね。ハーマイオニーがハグリッドの授業改善を手伝ってくれていること、知ってた?」

 忽ちロンとハリーの顔に驚きと罪悪感が浮かぶ。やっぱりこの二人はあの件について忘れていたのだろう。まあ、表向きは授業は問題なく行っていたのだ。それを維持するのにどんな労力が掛かっているか考えが及ばないのは当然なのだろう。

 しかし、この引け目はチャンスだ。僕は畳み掛ける。

 「あの子はどうにも責任感が強いから、君たちのことも、ハグリッドのことも、放っておけないんだ。これは彼女の良くないところかな?」

 ロンを見つめ、答えを求める。彼の感情的な部分は徐々に形を潜めていた。

 ロンは少し言葉を探し、僕に答えた。

 「全部が全部悪いってわけじゃないことは僕も知ってるよ。でも、やっぱりスキャバーズのことは悪いと思って欲しいんだ」

 やはりそこは譲らないだろう。けれど、もう目的達成は目前だ。喜色を隠して僕は神妙に頷く。

 「そうだね。ハーマイオニーがクルックシャンクスに入れ込んでいなかったら、もう彼女はとっくに謝っていただろう。今、彼女はどうにも、いつもより素直になれていないから。

 ロンがいると僕は本当に楽しい気分になる。きっとハーマイオニーもそうなんじゃないかな。だから、今君と仲違いしてしまってあんなにピリピリしてる。違うかな?」

 僕とハーマイオニーの比較、ハグリッドを忘れていた罪悪感、ロンの「ムードメーカー」という立場の優位性。これが僕の持ってきていた手札だ。手は尽くした。あとは天命を待つしかない。

 ロンの答えをじっと待つ。彼はしばらく思いを巡らせた後、ようやく仕方ないな、という感じで頷いた。心の中で大きく息を吐く。よし、一番厳しいところはどうにかなった。最後の仕上げだ。

 「ありがとう。今回は君は悪くないのに。

 僕がハーマイオニーにそのことは謝れないかどうか聞いてみるよ。もし、彼女が謝ってくれたら、またいつもみたいに接することはできそう?」

 ここでロンが許容してくれればいい。そう思っていたが、彼の回答は僕の予想を超えていた。

 「オーケー。分かった。まあ、今回は僕もキツく言っちゃったし、先に謝ってあげてもいいよ」

 思っても見ない最高の答えだった。ありがたい。僕はようやく喜びを隠さず微笑んだ。ロンはそれを見て流石に恥ずかしそうな顔になる。自分の喧嘩で恥じる感性があるんだったら最初からここまで拗らせないでくれ。頼むから。しかし、そんなことは口に出さず、僕は殊勝な態度を貫いた。

 「部外者なのに色々口出しして悪いね」

 「まあ、部外者ってほど部外者でもないんじゃない、君は」

 ロンは照れを隠すように言う。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。

 なんとかこの問題の最初にして最大の関門を突破できたようで、僕は心の底から安堵した。

 

 

 結局、この後僕がすることは殆どなかった、一応ロンとハーマイオニーの話し合いの場には付き合ったが、ロンが自分も悪かったと告げた途端ハーマイオニーは泣き出してクルックシャンクスのことを謝ったのだ。

 ロンが態度を緩めればこうなるとは思っていたが、予想以上にハーマイオニーにも自責の念があったようである。

 

 ロンとハリーもハーマイオニーと一緒にハグリッドの授業改善に参加すると約束し、この半年以上続いていた二人のいがみ合いは決着を見たのだった。

 

 それにしても、お調子者だが敵対者には残酷なところがあるロンと、生真面目でルールについては正義感を振り翳してしまうハーマイオニー。この二人はこれから先も事あるごとに意見を対立させそうだ。

 

 その度にこんな説得をする羽目にならないといいのだが。

 僕は嫌な予感に内心憂鬱になるのだった。

 

 

 

 


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