音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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マッド-アイ・ムーディの初授業

 

 

 

 ハグリッドの授業があった日の夕方、僕らは玄関ホールにいた。いつものことだが、夕食時は混み合って大広間の入り口に列ができる。僕らスリザリン生は偶然前にいたグリフィンドール三人組といっしょに並んだ。

 ハグリッドの授業がどうだったとか、占い学が最悪だったとか何気ない話をしていると、輪に加わらず新聞を読んでいたゴイルが突然パッと顔を上げてロンを見た。

 「……何だよ?」ロンは訝しげにゴイルに尋ねる。

 「ああ……いや……」ゴイルは何と言ったらいいか決めかねているようだった。しかし、彼が今読んでいる新聞に原因があるのは明白だ。

 僕らは揃って新聞を覗き込んだ。

 

 

 ゴイルが見ていた紙面には「魔法省、またまた失態」という見出しがデカデカと書かれている。ざっと内容に目を通してみると、「『マグル製品不正使用取締局』のアーノルド・ウィーズリーの失態」という文字が目に入って来た。

 

 流し読みしたところ、新学期の日にマッド-アイが何かを侵入者だと思って撃退するためにゴミ箱を暴れまわらせ、その事態の収拾にウィーズリー氏が派遣されたらしい。その結果、マグルの警察を含めた何人かの記憶修正を行う羽目になった……とのことだ。

 ちゃんと事実を整理して読めば、ウィーズリー氏は別に職務上必要なこと以外していないことが見て取れるのだが、記者のリータ・スキーターは二年前の空飛ぶ車所有事件を引っ張り出して記事を書いていた。彼の失態だということにしたいのが見え見えだ。

 あらかた読み終えた僕らは顔を見合わせた。ハリーとロンは二年前のやらかしを再び引っ張り出してこられて、ひどく恥ずかしそうな顔をしている。

 「お前の父親はアーサー・ウィーズリーじゃなかったか?」別人だから大丈夫と思っているわけではなさそうだが、ゴイルは慰めるようにロンに言った。

 「この特派員のリータ・スキーター、書いていることが適当だわ! 名前を間違って書いているって分かったら、どうせ信用は落ちるわよ」ハーマイオニーも気遣わしげに言う。

 「そうか? ゴシップ好きの馬鹿どもは事実なんて気にしちゃいない。書かせれば書かせるだけ面倒は増えるぞ」

 クラッブは手厳しく反論した。ロンは弱々しくクラッブを睨む。しかし、二年生のときのハリーと僕の「スリザリンの後継者疑惑」を思い返してみれば、魔法界の人間は情報を精査することにあまり関心がないことは明白だった。

 

 「この事件、ホグワーツに行く前日の早朝に起きたらしいが、知っていたのか?」ノットがロンに尋ねる。しかし、それに答えたのはハリーだった。

 「ホグワーツに行く日の朝、おじさんは急いで出かけていってたな……確かに、マッド-アイが何かしたって言っていた気がする」

 「じゃあ、アーサー・ウィーズリーはマッド-アイが新学期初日に捕まらないために色々手を回して、それでこんな記事を書かれてしまったという訳だ」

 クラッブは呆れ顔だ。そもそも、僕ら元死喰い人の子供たちは闇祓いを好きになる余地があまりないから先入観もあるだろう。しかし、苛烈なパラノイアだというマッド-アイの評判はそれなりに有名だった。ロンも紙面をじっくり眺めながら言う。

 「正直、マッド-アイって教師として大丈夫なのかな? ダンブルドアも大概だよ。一年目は『例のあの人』付きターバン男、二年目は詐欺師、三年目は狼人間と来てコレだぜ?」

 流石に苦笑いしてしまった。僕は事情を知っているから仕方ないと思っているが、他の子たちはそうではないだろう。ダンブルドアの体裁を思い、僕は口を開いた。

 「まあ……マッド-アイも何か事情があったのかも知れないよ」

 僕の言葉に、ロンはぐりぐりと目を動かして呆れたように声を上げる。

 「君、お人好しすぎるよ! 何でマッド-アイを庇うんだよ? 実際、噂は聞こえて来てるぞ! イカれてるって……」

 三人組は去年僕が「闇の魔術に対する防衛術」教師に半殺しにされたことを知っているので、それなりに厳しい意見が出た。ルーピン教授にお世話になって恩を感じているだろうハリーは口を挟めずにいるが、ハーマイオニーですらかなりダンブルドアの意図を計りかねている雰囲気だ。しかも、今回はマッド-アイのせいでウィーズリー氏が困った状況に陥ってしまった面もあるし、擁護はちょっと軽率だったかもしれない。

 

 クラッブも加わって防衛術教師についてやんややんやと話していると、僕らの背後から低い声が響いた。 

 「喧嘩か? え?」

 予想外の言葉に、僕らは一瞬固まった。

 声の主は話題の人物、マッド-アイ・ムーディだった。彼の目は明らかにスリザリン生──その中でも僕を捉えている。やっぱりマッド-アイとしては元死喰い人の息子は受け入れ難いのだろうか? 確かにのんびりおしゃべり、という雰囲気ではなかったかもしれないが、僕らは寮に分かれて言い合いどころか、赤と緑がぐちゃぐちゃになって列に並んでいた。

 マッド-アイの考えを察してスリザリン生が表情を固くする中、グリフィンドール生の方がマッド-アイに返事をした。

 「違います。僕ら、新聞を読んでいただけです」ロンが恐ろしい外見のマッド-アイに少し怯えながらも答える。

 しかし、それでもマッド-アイは僕から目を離さなかった。

 「ほう、やはりグリフィンドール生に取り入っているのか…………マルフォイ、何を企んでいる?」

 僕らの世代がいるホグワーツを見たことがない人間としては、合理的な態度だ。4年前までのグリフィンドールとスリザリンの上級生が玄関ホールで顔を突き合わせていたならば、まず間違いなくいざこざの兆候と言えただろう。しかし、子どもたちにとってはそんな事知ったことではない。特にグリフィンドールの三人組からしたら、マッド-アイ・ムーディはロンの父に迷惑をかけた上、友人に難癖をつけるエキセントリックな教師になってしまっていた。

 「ドラコは僕らに取り入ってなんかいません」

 ハリーが硬い口調で答える。しかし、それは火に油を注いでしまっただけのようだ。ムーディ教授はいよいよ僕にだけ詰め寄り、ギョロギョロ動く目で見聞するように全身を眺めている。しかし、本当に何もしていない以上、疑惑に取り憑かれた彼の納得する形で場を収めるのは不可能に見える。どうするべきなんだ、これは? 僕は内心困り果てていた。

 そこに、救いの手が現れた。

 

 「ムーディ先生、何をしているのですか?」

 後ろから声をかけて来たのは、マクゴナガル教授だった。彼女は腕一杯に本を抱えて、大理石の階段を降りてくる。新学期に入ってから初めて間近に見るマクゴナガル教授に、僕は内心浮き立つような気分になるが、彼女は見るからに険しい顔をしている。僕は自分の顔に現れそうになった笑顔を引っ込めた。

 彼女はカツカツと早足で歩いてくると、僕とムーディ教授の間に割って入り、厳しい目で彼を見る。

 「ダンブルドア校長が仰ったはずです。寮や、その子自身のことでない部分で扱いを変えてはならないと」

 ダンブルドアは流石に偏執病の元闇祓いをほったらかしにしているわけではなかったようだ。しかし、その言葉の効果のほどは怪しかった。ムーディ教授は相変わらず僕から目を離していない。

 「マクゴナガル先生、わしは当然の懸念を向けているだけだ……こいつの親父殿をあなたも知っているだろう」

 しかし、マクゴナガル教授はその続きを言わせなかった。彼女は怒りを滲ませて声を上げた。

 「ムーディ! 口が過ぎます! ……ほら、もうあなた達は大広間へ入りなさい!」

 僕らはマクゴナガル教授に叩き出されるように大広間への扉に飛び込んだ。

 

 流れで一塊になってグリフィンドールのテーブルに向かう中、ハリーが訝しげに後ろを振り返る。

 「あの人、何であんなに君たちに厳しいんだろう?」 

「アラスター・ムーディは以前の戦争のときにアズカバンの独房の半分は埋めたという人だ。当然、僕の父のような人だって捕まえたかっただろうが、逃げおおせられた。今だって尻尾を掴もうとウズウズしているはずだ」

 「でも────それは君たちとは関係ないよ!」

 僕の答えにハリーは憤慨しているようだった。クラッブが肩をすくめて返す。

 「一年生の時のグリフィンドールとスリザリンの関係を思い返してみろ。というか、いまだに上級生の中には呪いをかけ合いたくて仕方ない奴らもいるだろうさ。そんな雰囲気じゃないからやりづらいってだけで……」

 もはやどのテーブルに座って食事しようと見咎められることはなかったが、全員が全員それを快く思ってくれているほど、僕やその周囲が影響力を持っているわけではなかった。

 

 

 

 結局そのままグリフィンドールのテーブルで夕食をとることになった。席についた途端、ハーマイオニーが猛烈な勢いで食べ始めた。隣に座っていたミリセントが目を丸くする。

 「ハーマイオニー、あなた、断食してるのかと思っていたわ。そんな早く食べたら喉に詰まらせるわよ!」

 ハーマイオニーはその言葉にジロリと視線を返した。そのまま口いっぱいに詰まっていたマッシュポテトを飲み込もうとしている。

 「まさか、今夜も図書室に行くんじゃないだろうね?」

 ハリーが尋ねる。「今夜も」? 彼女は新学期が始まって一日目にしてもう図書館に通い詰めているのだろうか? 僕らが事情を飲み込めないでいると、ハーマイオニーはモゴモゴと返事をした。

 「行かなきゃ。やること、たくさんあるもの」

 「だって、言ってたじゃないか。ベクトル先生は──」

 「学校の勉強じゃないの」

 ハリーの言葉にピシャリと返すと、ハーマイオニーはそのまま食事を続け、僕らが料理を取り分けている間に席を立った。

 「君たちにも言ってない用事なのか?」

 猛然と大広間を出ていくハーマイオニーの背を見ながら呟いたゴイルの言葉に、ハリーとロンは肩をすくめた。

 

 

 

 ハーマイオニーが座っていた席の端はすぐ埋まった。ウィーズリーの双子とリー・ジョーダン、パンジー、ザビニだ。フレッドはこちらに朗らかに笑い、声をかけた。

 「ムーディ! なんとクールじゃないか?」

 僕らは顔を見合わせた。さっきのムーディ教授の態度は、「クール」と形容するにはいささか独断的で頑迷な印象だ。

 「どこがクールなんだよ?」ロンが兄の言葉に賛成しかねると言った様子で返事をした。

 「奴さんの授業を受けてみろ…………何だ? そんなにムーディにビビっちまったのか?」

 僕らの事情を知る由もないフレッドは、単にムーディ教授が、非常に恐ろしげな外見だから弟たちに歓迎されていないのかと思っているようだ。その言葉に、ノットが黙っていられないとばかりに口を開いた。

 「違う。ムーディはついさっき玄関ホールで話してただけの僕ら……スリザリン生に難癖をつけてきたんだ」

 ジョージはそれを聞いて得心したようだった。

 「……まあ、確かに歴戦の闇祓いって感じだったからな。それも、偏見、偏執、へんてこって感じだ」

 それにしても、どう「クール」だったんだろうか? この双子はそう易々と教師に懐くタイプではない。僕は彼の最初の授業を受ける前に、少し探りを入れることにした。

 「で、そんなにいい授業だったの? 教えてよ。ムーディ教授の名誉挽回のためにもさ」

 「勿体ぶらないでってさっきから言ってるのに!」それでも内容を匂わせるだけにしようとするフレッドを、彼の前に座っていたパンジーは苛立たしげに睨みつける。それでようやくフレッドは肩をそびやかして答えた。

「……しょうがないな。『許されざる呪文』だ。ムーディはクモを使って実演してみせたのさ」

 話を聞いていた周囲に驚きが広がる。……確かに、非常に有用な授業だろうが、よく許可が降りたものだ。ハグリッドのマンティコアといい、今年は危険に対する授業内容が多いのはダンブルドアの意向なのだろうか?

 目を丸くしていたゴイルが僕らの顔を見回して尋ねる。

 「……正直、イカれてるって説に拍車をかけるだけじゃないか?」

 まあ、今魔法界に危機が迫っていることを知らない人間の反応としては至極真っ当だ。グリフィンドール生の反応はスリザリン生よりも好意的ではある。グリフィンドール生は勇敢ゆえに危険を好む傾向がある。

 「すっごく有益な授業ではあるだろう……多分」若干引き気味のスリザリン生に、僕はフォローするように声をかける。ロンは鞄から時間割を取り出し、いつ自分がその授業を受けられるのか確認を始めた。

「グリフィンドールは木曜までムーディの授業はないよ! そっちは?」

 「明日の二個目」残念そうなロンに対し、ミリセントが険しい顔で返した。

 「まあ……能天気に楽しみだとは言い辛いな」

 僕は心の中でクラッブの意見に同意した。

 

 

 

 翌日、わずかに緊張感が漂う中、スリザリン生は「闇の魔術に対する防衛術」の教室に向かった。ムーディ教授が僕らだけ授業を放棄したり、延々と親族の罪状を読み上げ続ける可能性はゼロではない。ダンブルドアの制止が働いていることを僕は必死で祈った。

 

 しかし、概ね僕の心配は杞憂に終わった。かなり意外なことに、ムーディ教授はダンブルドアの忠告を受け入れたようだ。許されざる呪文を教えること自体の異常さに目を瞑れば、彼はかなり真っ当に授業を行った。もちろん、紹介している呪文────特に服従の呪文の実演のあたりでは僕やクラッブ、ゴイルをジロリと見る視線を隠すことはなかった。僕らの親はこの呪文を掛けられていたということで無罪になっている。当然の反応で、僕としては許容範囲だった。

 

 

 しかし、授業の終わり、昼休みで大広間に向かう僕をムーディ教授は呼び止め、教室に残るよう告げた。たちまちスリザリン生の中に険しい雰囲気が広がるが──僕としては、これは彼の人となりを知る好機だ。大人しく昼食を食べに行くよう彼らに合図する。クラッブがミリセントに腕を掴まれて出て行ったのを最後に、教室にはムーディ教授と僕の二人きりになった。

 

 改めて見て、恐ろしい外見の人だ。下級生なんか怯えてしまうんじゃないだろうか。そう、呑気に構えている僕を睥睨して、ムーディ教授は口を開いた。

 「……お前は随分マクゴナガル先生に取り入っているようだな。

 ダンブルドアはアズカバンを逃れた死喰い人の子どもに厳しく当たるのはならんと言った…………甘い! 全く、ぬるすぎる。毅然とした態度を、示さねば。ええ?」

 僕が残されたのはマクゴナガル教授が僕を庇う姿勢を見せたからのようだ。ダンブルドアに譲歩してスリザリン全体は見逃すが、要注意人物には唾をつけておきたい。そんなところだろうか。

 しかし、口ぶりからして僕とダンブルドアの繋がりを知っている風ではないところに少しの安心と不安を感じる。僕としては「忠義者」の存在がある以上、元闇祓いと言えども大勢に事情を知られるのは歓迎できない。一方で、それはダンブルドアの助けを借りられない状況をいっそう克明にする事実でもあった。

 

 内心を隠し、僕は「特別なところのないスリザリンの優等生」らしい言葉を口にする。

 「……失礼ながら、実際に死喰い人なわけでもない子どもに『毅然とした態度』をとって、利益になるのでしょうか? 今、ホグワーツではグリフィンドールもスリザリンもそれなりに仲良くやれていると思いますが」

 僕の言葉にムーディ教授は嘲るように笑った。

 「ハッ! お前の魂胆は見えている……わしの目は騙せんぞ! 他の寮の生徒に手を出してみろ、お前の父親を後悔させてやる」

 嫌われたものだ。まあ、彼にしてみればルシウス・マルフォイなど今相手にする可能性がある人間の中では最大の敵だろう。僕はムーディ教授と穏和にやりとりする方法に目星を付けながらも、話の流れに沿って言葉を紡いだ。

 「わざわざ他の寮と敵対する価値がどこにあるでしょう? ただでさえ、スリザリン生は目の敵にされやすいのに。僕らは出来るだけ友好的にやって来たつもりです」

 「それで、え? お前の親父殿のやっていることをわしが知らんとでも思ったか? クィディッチ・ワールドカップ、アレをやったのが誰かなんて、ちっと頭がある奴なら分かる。

 ドラコ・マルフォイ、お前の父親だ。わしの手をすり抜けた卑怯な下衆よ……」

 痛いところを突かれてしまった。僕は父のしていることを黙認しているようなところがあるので、罪悪感が胸に湧いてくる。しかし、それでも僕は誠実そうな態度を崩さず話を続けた。

 

 「父や、僕らの上の世代のしたことが許されるだなんて思っていません。けれど、それを子供に当たっても改められることはないのではないでしょうか。

 貴方のご懸念は……理があるところもあると思います。けれど、一度今のスリザリン生がどのような子供たちなのか、見極めてからとる態度をお決めになっても遅くないのではないですか?」

 「そう言う割にお前の父親はスリザリンと他の寮の仲を裂こうとしているんじゃないか? 奴のはそういう振る舞いだ。え? ルシウス・マルフォイの愛息子よ……」

 徐々にムーディ教授の態度が見えて来た。彼はやはりルシウス・マルフォイの息子ということで僕に目をつけ、その僕がグリフィンドール側の人間の懐に潜り込んでいるのが気に食わないわけだ。

 だったら、僕が「ルシウス・マルフォイの息子」であることに被害を被っている側の人間であるように振る舞うのが一番穏当だ。

 父上、貴方を悪役に仕立て上げることをお許しください。

 僕はファッジに対してダンブルドアを悪様に言ったときより、はるかに罪悪感なく心の中で父に謝った。

 

 僕はムーディ教授の言葉に悲しむように目を伏せた。

 「父は……確かに成績優秀な誇れる息子のことを愛してはいますが……僕の言うことを真面目に取り合ってくれる訳ではありません。言い訳だとお思いになるでしょうが……」

 これでいきなりムーディ教授の態度が変わるわけではないだろう。最悪、さらに疑念を深められるかもしれない。それでもルシウス・マルフォイに対して隔意がある可能性を考慮してもらえれば大分話が楽になる。

 しかし、ムーディ教授は僕の言葉を聞いて嘲笑を顔から消した。

 「……父親が愚かで苦労していると、そう言いたいのか?」

 相変わらず疑いの言葉ではあるが、態度は先ほどまでよりずっと僕のことを真面目に取り合っているようだ。これは……いい調子かもしれない。僕は心の中でギリギリ嘘にならない父と僕の不仲要素をかき集め始めた。

 「僕は父の期待に応えているつもりですが……その分父が僕の言うことを真面目に取り合ってくれるわけではないのです。

 実は僕はクィディッチをするのが全く得意ではなかったんですが……彼はクィディッチができる息子が好きなんです。箒をチームにプレゼントして、キャプテンが僕をチームに入れるのを断れないようにしたんです。

 僕がスリザリンのチームでチェイサーをやっているのはそのせいなんです。僕より上手いスリザリン生だっているんですけどね。流石に二年生から選手をやっていたので同学年の子達より練習量はありますけど……」

 ……やりすぎだろうか? 今までずっと我慢して来たことを吐き出したようには振る舞ったが、いきなりの自分語りに逆に怪しまれたかも知れない。悲しげに俯きながら、チラリとムーディ教授の顔を盗み見る。ムーディ教授は表情を変えていなかった。よく言えば先ほどまでの僕の話を取り合ってくれない態度ではなかったが……分からない。もうちょっと感情を表に出して欲しいものだ。

 

 自分のやったことの良し悪しを判別しかねていたところに、ムーディ教授が大きく息を吐いたので思わず肩を跳ねさせてしまった。失敗だったか? やっぱり普通に下手に出続ける作戦で行くべきだったか?

 

 しかし、心配は杞憂に終わった。ムーディ教授は先ほどまでよりも誠実な口調で、僕に話しかけた。

 「お前はホグワーツの教育改革に意欲的だとダンブルドアから聞いた。前任のリーマス・ルーピンも前年学んだ内容を送ってきたが、そこにもお前の名前があった。去年、コロコロ変わる『闇の魔術に対する防衛術』教師のためにカリキュラムを作りたがっていたようだと。

 今年の口出しはならん。しかし、それ以降にできることであれば、多少は手を貸してやらんこともない」

 それだけ言うと、ムーディ教授は僕に行っていいと告げた。

 

 一人大広間に向かいながら、僕は思考を巡らせる。 

 正直……かなり意外だ。彼が死喰い人の子に親と不仲なことを匂わせるだけで慈悲をかけるタイプだとは思っていなかった。

 父との不和を聞いて態度が柔らかくなったのは確実だが、何が決定打になったんだ? こちらがしっかりと予測を立てた上で用意した話でないと、どうも相手の感情の動きに予想がつかない。話の流れとしてはクィディッチか? それとも、父と僕の違いか? いや、父に対する嫌悪のおかげで、それで苦労している息子という立場だったら共感を寄せられる。そういうことだろうか?

 

 穏やかなときの方がムーディ教授は感情が読みづらくて苦手だ。幸い、禁じられた呪文を教えていることとかなりエキセントリックなことを除けば、彼は良さそうな先生だ。今後は対面して何かする機会が余りないことを、僕は心中で祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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