音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった 作:樫田
翌週の木曜は、グリフィンドールと合同での飛行訓練があった。
まだ「物語」に関してなんの情報も把握できていない以上、本筋を変えないためにもできるだけ主人公と接点を持ちたくないが……誰にも説明できない理由で授業をサボってまで避けるわけにもいかない。既に決まっていることを変えるのも問題になってしまうだろう。全く物語がどう進むか分からないため、動くも動かないも正解か分からないのは悩みどころだ。
肝心の授業内容である箒の乗り方については、他の科目と同様あまり心配していなかった。クィディッチなどというシーカーの活躍に重点が全振りされた競技にはさっぱり関心が持てないが……残念なことに魔法界において僕のような人間は稀だ。当然、僕の父も標準的魔法使いとしてクィディッチを愛好している。彼は当たり前のように幼い頃から自分の息子を箒に乗せ、上手な箒乗りになることに期待をかけて憚らなかった。それゆえ、僕はすでにある程度箒に乗れた。
魔法族育ちなら、幼い頃から箒に親しんでいる子供は珍しくないだろうが、そうでない子たちもそれなりにいた。
純血出身としては異例なことに、クラッブとゴイルはホグワーツに来るまで箒に乗ったことがなかった。元より知っていたことではあるが、彼らの両親は子供の世話を基本的に屋敷しもべに放り投げて育児放棄気味なのだ。純血一族の闇を感じてしまう。
二人以外にも箒未経験者らしき子はちらほらいた。けれど、それを口に出すのは躊躇われるようだった。この雰囲気の中ではそれもそうだろう。スリザリンでは一年生の誰も彼もがひっきりなしにどれだけ箒に乗ってきたか自慢している。ここまで来ると逆に恐怖心が透けて見える者もいるのだからなんというか……かわいそうだ。
できるだけ安心させたくて、箒の乗り方について色々と喋ったが、かえって逆効果だったかも知れない。そもそも、僕はそんなに箒に乗るのが得意じゃない。どうせ授業で訓練するのだからアマチュアがクチバシを突っ込むもんじゃないということにようやく気付いたのは、当日の昼食だった。
訓練場に向かうため、晩夏の陽光に照らされた道をクラッブとゴイルと連れ立って校庭へ向かう。スリザリン生は生真面目に早々と場所に着いていた。「悪」の印象とは反して、意外とスリザリン生は守れる時にはルールを守る。……逆に、守らなくて良いと判断する範囲もかなり広いのが、この寮に所属する子供の特徴だった。
しばらくするとグリフィンドール生とマダム・フーチもやって来る。緊張した面持ちが並ぶ中、いよいよ飛行訓練が始まった。
マダム・フーチは前置きなく箒のそばに立つよう、生徒に厳しく命令を発した。箒を触る前に事前説明などはないのだろうか。古式ゆかしい体育会系といった雰囲気の先生である。
生徒たちはおとなしく箒の脇に並び、先生の指示で「上がれ!」と叫ぶ。幸い僕の箒はすぐ手元に収まってくれたが、クラッブとゴイルは少し苦戦していた。この手順は前に屋敷で箒の乗り方を教えてもらった時にもやったことがある。けれど、僕は大人の魔法使いが箒に「上がれ」といちいち命令しているのは見たことがなかった。なんのためにやってるんだろう。体面?
結局、全員の手に箒が飛び込んでくるのを先生は待たなかった。何人かは手で箒を拾い上げ、次の段階に進む。箒の跨り方と握り方だ。僕はフーチ先生に握り方を直されたのだが、反対側であからさまに嬉しそうな顔をするウィーズリー少年が嫌でも目に入ってきた。嫌われたものである。自業自得ながら、彼に対してはもっと上手くやれたかもしれないという後悔が付き纏った。
いよいよ実際に箒に乗る段になった。早速二メートルというなかなか高い指示と、そこらで竦み上がっている子どもに嫌な予感がしたが、大人しく従う。
マダム・フーチは子どもたちを見渡して首に下げた笛を持った。
「笛を吹いたらですよ一──、二の──」
三が口に出される前に、彼女はカウントをやめた。一段と怯え切っていたグリフィンドールの子が勢いよく飛び上がってしまったのだ。
マダム・フーチは戻ってくるように地上から叫ぶが、恐慌状態に陥った子どもにそれを聞く余裕はない。彼は自分の箒を全く制御できなくなっているようだった。暴走する箒に怯えるばかりで、今にも柄が手から離れそうだ。流石に僕も杖を引っ張り出そうとしたが、時すでに遅し──少年は箒から放り出され、六メートルは超えているだろう高さから真っ逆さまに落ちてしまった。
衝撃的な光景に、生徒から劈くような悲鳴が上がる。マダム・フーチは全くこんなことを予想していなかったかのように青ざめて、大慌てで少年の上に走り寄ってかがみ込んだ。もうちょっとこう、何かなかったのだろうか。それに、まさか死んでいないよな? あの高さから落ちて普通は無事なわけがない。
ここで死人が出たら、「ハリー・ポッター」の世界観を本格的に心配しなければならなくなっていたが、どうやら少年は手首を折るだけで済んだようだ。フーチ先生は誰も動いてはいけないと厳命すると、その少年──ネビルと言うらしい。恐らくロングボトム家の嫡男だ──を連れ医務室に向かった。あんな事故の後で、意外にも彼は立って歩いていた。腰が抜けていてもおかしくないだろうに、強い子だ。
あまりにも唐突な事故にしばらく生徒たちは呆気に取られていたが、時間が経ち徐々に落ち着きを取り戻した。グリフィンドール生とスリザリン生に分かれ、皆おしゃべりをし始める。墜落現場の周辺でわちゃわちゃと話していたグリフィンドール生の中で、ロン・ウィーズリーがロングボトム少年のポケットから落ちた玉のようなものを拾い上げ、ポケットにしまったのがチラリと見えた。
一方僕は、自分の中に湧き上がる呆れと失望を持て余していた。
魔法界には高さ制限のあるおもちゃの箒が存在する。それを使わない以上、マダム・フーチは何らかの落下防止措置を取っているものと思っていたが……どうやら彼女には期待しすぎていたようだ。
そこまで若輩といった印象でもなかったが、新任で不慣れだったのだろうか? それとも魔法族は屋根の上の高さまで簡単に登れる道具の扱いを安全対策なしで教えるのが当たり前だと思っている愚か者ばかりなのだろうか? 今回は手首だったから良かったものの、首がへし折れていても全くおかしくなかったのに。
ビンズ教授もスネイプ教授も教師としては落第だったが、マダム・フーチは論外だ。今回の一件はボロ箒に初心者生徒が組み合わされば容易に想像がつく事故だ。それなのになんの対策も講じず、生徒への最低限の命の保証さえできない事実を彼女はまざまざと披露した。
失望が一周回って少し頭が冷えたような気がしてきたところで、もう好き勝手にする事にした。どうせ彼女はしばらく戻ってこない。だったら、せっかくの機会はしっかり活用させて貰う。
僕はローブを脱いで、片方の袖をクラッブの箒の柄に、もう片方をゴイルのものに括り付けた。手綱のようになった裾を自分で掴み、二人の箒を制御できるようにする。彼らを箒にまたがらせ、先ほどとは違い落ちても安全な高さから箒に慣れさせることにした。足を二十センチほどだけ浮かすよう言い、裾を引いて箒が前に進む感覚を教え込ませる。
言われるがまま箒を握る二人に、焦りを産まないようゆっくりと指導を続けた。
「予想しない方向に飛んでいきそうだったらすぐに右足から下に落ちるんだ。躊躇してはいけない。流石に二人で持ち上げられたら僕も飛んでいくぞ」
少し動いて足をつける、少し動いて足をつけるを繰り返していると、それを見つけたグリフィンドール生の方から非難の声が上がった。……流石に放っておいてはくれなかったか。
声の主は、魔法薬学の授業で手を挙げていた賢そうな女の子だった。彼女は目を釣り上げてこちらを見る。
「フーチ先生がおっしゃっていたでしょう? 動いてはダメだって!」
彼女は随分と正義感が強いようだ。その指摘は、真面目で、正しく、僕にとって無価値だった。思わず顔に苦笑が滲んでしまう。
「残念ながら、フーチ先生のやり方では次に誰かが飛んでいったって止められないだろう。僕はそれが僕の友人だと我慢ならないのでね。初授業にむざむざと醜態を晒した人間に文句を言わせるつもりもないよ」
意図せず厳しい口調になってしまったが、少女はそれでもなお言い募る。
「あなた、退学になってもいいの?」
自寮でもない人間に対し、よくそこまで規範意識を求められるものだ。そのバイタリティには感嘆に値するところがあるが、残念ながら今の僕にはどうでも良いものだった。肩をすくめ、ネビル・ロングボトムが落ちたところを顎で指す。
「あんな死人が出てもおかしくない杜撰な授業をしておいて、生徒を退学にするなんて笑わせる。もしマダム・フーチが本当にそのつもりなら、その前にあらゆる手段で彼女をこの学校の教師の座から引き摺り下ろして見せよう」
まあ、僕がマダム・フーチの言うことを聞くつもりがないのは、実際のところ魔法界の慣例としてこの程度で退学になるわけがないと知っていたことが大きい。親戚にホグワーツ出身者がわんさかいる純血一族に一年生用の脅しなど通用しない。
頑ななこちらに対し、栗色の髪の少女は少し怯んだようだ。……魔法界の適当さに対する苛立ちを理不尽にぶつけてしまったかも知れない。
そこに言い争いを嗅ぎつけたウィーズリー少年がやってきた。彼はもう僕と喧嘩したくてたまらないようである。100%自業自得なので文句も言えないが、内心辟易してしまった。
ただ、ここはスリザリン内で浮かないための対グリフィンドールヘイト値の稼ぎどころだし、実際のところ叱られて目立つのは面倒なので僕らが目立たない程度にみんなに箒に乗って欲しい。彼には悪いが、この口論の流れは絶好の機会だった。
「さっきフーチ先生に箒の持ち方を直されていたくせに、よく人に教えられると思うな。お前に訓練されたってそこの二人は人の背丈くらいもまともに飛べるようにならないだろうさ!」
おっしゃる通り僕は箒に乗るのが上手くない。痛いところを突いてくる。それでも僕は堂々と、そしてこの後の会話の筋書きを考えながら、彼の言葉に挑発を返した。
「僕のことは好きに言えば良いが関係ない子を巻き込むのは止めろ。姦しい、口ばかりのウィーズリー」
「君のほうこそ、クィディッチのことだってどうせ口先だけなんだろ!」
「おやおやそんなに大言壮語で、本当にまともに箒に乗れるのかな? その割に、地面にしっかり両足がついているようだけど」
ウィーズリー少年は易々と煽りに乗ってくれ、下で憤死しそうになっている少女をよそに、箒を掴み空へ舞い上がった。……自分で唆しておいて何だが、チョロすぎる。それを見て、グリフィンドール生の何人かは後へ続いた。大量にルールの違反者が出れば罰も有耶無耶になるだろうと思っての行動だったが、予想外に上手く行きすぎてしまった。勝手に飛び始めた子の中にはハリー・ポッターもいたのだ。勘弁してほしい。君はマグル育ちで箒に乗ったことなどないだろうに。
その内楽しくなったのか、慣れてきた子どもは高いところまで行って飛び始める。馬鹿である。その馬鹿の中に主人公もいるのだから最悪だ。思わず、「そこまで高いところに行くと危ないぞ」と声をかけるが、ウィーズリー少年は負け惜しみだと思ったのか、全く話を聞かなかった。彼はただご満悦と言ったように笑い、更にハリー・ポッターと遊び始めるのだから始末に負えない。
流石にウィーズリー少年は箒に乗り慣れている。あそこまで習熟しているなら落ちるようなことは滅多にないだろうが、絶対はない。さきほどは全く間に合わなかったクッション呪文を反復しながらポケットに突っ込んである杖に手を添え、彼らを監視した。
下の方でも感化されて練習も盛んになってきた。スリザリンはそもそも飛べる子が多い。一方グリフィンドールの方がマグルに囲まれて育った子どもが多く、当然彼らは箒に親しみがない。クラッブとゴイルが自分で安全な高さから降りられるようになってきたので他の子と組むように言い、僕はグリフィンドール生に近づいた。すでに派手にやらかしている自覚はある。死なば諸共だ。
先ほどまでの攻撃性を引っ込め、できるだけ感じ良く聞こえるよう、近くにいた子に話しかける。
「初めのうちは飛ぶ一人と下に繋ぐ一人で組になった方が良いよ。さっきの飛んでいっちゃった子は飛んですぐ制御不能になったのが問題だったんだ。
初めはちょっとだけ浮いて、コントロールできないと思ったらすぐ右足から落ちること。最初はみんなうまく飛べないものだから、寧ろ落ちる練習だと思ってやろう」
後ろのスリザリン生から「グリフィンドールと仲良くして大丈夫なのか」という視線が突き刺さっているが、既に口実は用意している。……というか、実際彼らも箒に触ってくれたらマダム・フーチは全員を怒らなくてはならなくなるだろうし都合がいいのだ。
グリフィンドール生の多くは遠巻きに僕を見ていたが、幸いなことに友達に置いて行かれた男の子が興味を隠しきれずやって来た。僕は自分が優しそうだと思う微笑みを浮かべ、彼のローブを借りて補助をする。そばにいた先ほどの真面目な女の子にもう片方の袖を差し出してみたが、そっぽを向かれてしまった。まあ、そうだよな。つくづく彼女は厳格だ。
けれど、他のグリフィンドール生は彼女ほど規律に従順ではなかった。少しすれば地上組にも二人一組が大体出来上がり、図らずも彼女はあぶれてしまったようになる。少女の様子を見ていると、ディーンと名乗った傍らの男の子が彼女に聞こえないよう、僕に耳打ちした。
「放っておいた方がいいよ。あの子、ハーマイオニーっていうんだけど、ずーっと知ってることをペラペラ喋ってて、鬱陶しがられてるんだ」
それはまあ……気持ちは分かるが……。グリフィンドールでもハブとかあるんだな。どこか落胆を覚えながら、僕は監視と補助を再開した。
地上での訓練は円滑に進む。上空組も、手を滑らせて落ちそうな子はいなかった。ウィーズリー少年もたまにこちらに侮蔑の目線をくれながらも、もう飛ぶことに夢中になっている。その調子で僕の無礼を忘れ去ってくれたら、大変ありがたいのだが。
飛び回るうちに、ウィーズリー少年のポケットから何かが滑り落ちた。キラキラと輝くそれは、さっきのロングボトム少年の落とし物だ。それにすぐ近くを飛んでいたハリー・ポッターも気付く。彼はそれを重力に引かれるままにしてくれなかった。無謀なことに、彼はその玉を追って垂直に地面へと飛び始めたのだ。地面と激突せんばかりに急降下する姿に、周囲も異変を察知し悲鳴を上げる。──嘘だろ、勘弁してくれ! 慌てて僕は杖を構えた。
「アレスト・モメンタム──」
しかし、呪文は必要無かった。彼は地面にぶつかる寸前で玉を掴み、見事に箒を水平に立て直したのだ。
あまりのことに皆箒を降りて彼の様子を確認する中、ハリー・ポッターは誇らしげに玉を掲げる。彼は僕の視線に気づくとにっこり笑って口を開いた。
「ドラコ、どう──」
しかし彼が何を言おうとしていたか、最後まで聞くことは叶わなかった。ものすごい勢いでマクゴナガル教授が訓練場に入ってきたのだ。彼女は目を見開き、他の生徒に対してほとんど何も告げないままハリーを連れて行ってしまった。危険走行をさせてしまった発端は僕なので申し訳ない気もしたが……あまりにも無茶なことをしたのは事実だ。自分のことを棚にあげ、僕はハリーが少しばかり叱られることを願った。
その日の夕の大広間で見かけたハリー・ポッターは、予想に反してなんだか輝かしい顔をしていた。話しかける理由もないので背後を通り過ぎようとしたが、彼はこちらを見つけるとなぜか元気よく声をかけてきた。
「やあ、ドラコ!」
「……やあ、ポッター」
思わず馴れ馴れしいぞと口から出そうになるのを抑え、無難に挨拶を返す。そもそも最初にダイアゴン横丁でちょっかいをかけたのは僕なのだから。
彼は妙に嬉しそうで、その対面に座っていたウィーズリー少年はあからさまに嬉しくなさそうだ。
「あの、さっきの僕のダイブどうだった? 初めての割によく出来てたと思うんだけど……」
呑気である。
「そりゃ見事だったが、自分のところの寮監に叱られた後で元気だな、君は」
僕の言葉に一瞬キョトンとしたポッターはすぐにまた喜色満面になった。
「ううん、マクゴナガルは僕を叱らなかったよ。それどころか、僕をクィディッチのシーカーにしてくれたんだ!」
なんだって? 耳に入った情報が一瞬整理できず、言葉を返せなかった。
「マクゴナガル教授が、君をクィディッチの選手にしたと? 一年生で、規則を破った君を?」
明らかに欲しい言葉じゃなかっただろうハリーが気落ちした顔になったが、それを気にする余裕が無いほど僕には衝撃的な事実だった。それを見て友達を守ろうと優しいウィーズリー少年が噛み付いてくるが、その相手をする余裕もない。
ぼんやりしていると代わりにクラッブとゴイルがウィーズリー少年と喧嘩を始めてしまった。夕食前の大広間でこの行動はすごく、かなり、目立つ。案の定いざこざを見つけることに定評のあるマクゴナガル教授が、すばやく上座からやってきた。
「あなたたち、何をしているのですか?」
「先生、マルフォイがハリーがクィディッチチームに入ったことに文句を言うんです」
ウィーズリー少年の言葉に、マクゴナガル教授は一瞬言葉を詰まらせた。
僕は彼女に向き直り、少々不躾な態度を隠せないまま問いかける。
「一年生は箒の所持が禁止、クィディッチチームに所属するのは二年生以上と、規則によって決まっていたと思うのですが」
僕に対し、マクゴナガル教授はキッパリと答える。
「危険性を考慮しての規則です。その危険性がないと、保証されるのであれば────」
「なるほど。今回は、あなたが特別にその保証をするんですね。マクゴナガル教授。公平な判断として」
彼女は毅然とした態度を崩さなかったが、僕が何を言いたいのかは悟ったようだ。その顔には、わずかに意地を張ったような頑なさが滲んでいる。ここで食い下がったとしても、一度なされた決定を覆しはしないだろう。
僕は思わずため息をつき、彼女に対して冷ややかに言葉を放った。
「文句などありません。それがグリフィンドールの誇る正義によってなされた決定なのでしょう」
嫌味に対し、マクゴナガル教授の顔はさらに固くなった。失礼な態度をとってしまったことに後悔する気持ちはあるが、彼女自身はそれを咎めるつもりはないようだ。いまだにウィーズリー少年とこそこそ口喧嘩をする幼馴染二人を回収して、僕は挨拶もせずスリザリンのテーブルへと素早く向かった。
その晩、なぜかクラッブとゴイルは僕に何の用事かも告げず、執拗に寮を抜け出そうとしていた。彼らのベッドのカーテンを閉め切って石化呪文をかけながら、僕はぼんやりと今日あったことを考える。この前例は、どの程度スリザリン内でのマクゴナガル教授の評判を落とすのだろう、と。
マクゴナガル教授だってルールを曲げたくなるほど好きなことの一つや二つはある。人間として自然な感情だ。ただそれだけのことなのに、ひどく失望を感じてしまう。──主人公陣営はいつでも完璧に正しくいてくれるわけじゃないというこの世界の現実に、ようやく僕は気づいたのだった。