音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった 作:樫田
慌ただしく日々を過ごしているうちに、気づけば学校に入学してから1ヶ月以上が経っていた。残念ながら相変わらず僕は寮内で微妙に浮いたままだ。
クラッブとゴイルがいつも僕と一緒にいてくれたからあまり気にしていなかったが、周囲との軋轢を感じてしまう出来事も少しずつ増えている。例の飛行訓練の後、上級生を含めた何人かに何故グリフィンドールにまで箒の乗り方を教えたのかと問い詰められもした。ジェマ・ファーレイの忠告を完全に無視してでしゃばった真似をした自覚はある。彼女には大いに心労をかけて申し訳ない。
適当に「ダンブルドア下の学校教育の腐敗の可視化」だとか、「罰則にならないようグリフィンドールを巻き込んだ」だとか言い訳を並べればひとまずは納得してくれたが、グリフィンドールの真面目少女ことハーマイオニー・グレンジャーはマグル生まれの「穢れた血」だから、純血の名誉の為にも近付くのは控えるようにと釘を刺された。「控える」止まりで一切関わるな、でないところに彼らの僕に対する遠慮を感じる。ここで僕に強く言い切れないのが、純血家系至上主義の悲しいところだ。
それにしても、グレンジャーは魔法使いの家系──超一流魔法薬師協会設立者であるヘクター・ダグワース=グレンジャーの関係者だと思っていた。マグル生まれだというのに、驚くべき魔法への造詣の深さだ。魔法界を知ってまだ数ヶ月だとは信じられない。僕も見習わなくてはならないだろう。
話は戻って、寮内での人間関係について。僕の先生方への態度も、同級生から遠巻きにされる原因になっていたようだ。スネイプ教授に始まり、その次の週には直接ではないとは言えマダム・フーチ。さらにその翌日にマクゴナガル教授にも挑発的なことを言ってしまったのだから、さもありなんと言ったところだろう。
子どもたちだって、先生の陰口など裏で湧き出でる泉のように言っているじゃないかと思うのだが……先生方から反論されないように理論武装した上で挑んでいるように見えるところが良くないらしい。そばで僕を見ていたクラッブが六割心配、四割呆れと言った様子で忠告してくれた。おまけに、いざこざがあった先生方は皆、大小程度の差はあれど厳格なイメージを持っている。ただでさえ彼らに口答えする人間は少ないので僕が目立ってしまうのは必然だった。
詰まるところ、僕は怖そうな先生に片っ端から噛み付く人間のように見えるのだろう。同級生たちからの印象は、「家柄を盾に暴れ回る狂犬」といったところか。……先生方に反抗しているという点ではあながち間違っていないのが、どうにも手に負えないところだった。
流石に反省して、僕はできるだけ寮内で親しみやすく感じられるよう同級生に接した。遜ることはないが、それでも最大限親切に。いざとなったとき、頼れる人間だと思われるように。
今ここで仲良くなっておけば、いつ来るとも知れない青白ハゲの再臨に何か役に立つかもしれないし、ここの子達は放っておけば闇側につかざるを得なくなってしまう。できる限り、コミュニティを広く持ち、発言権を得る。社交が生業の純血一族としても放棄してはならない方針だった。
そんなこんなで態度を少し改めたこともあり、十月は先月とは打って変わって穏やかに過ぎていった。まあ、スリザリン寮内では、という但し書きはつくが。
飛行訓練の翌日、何故かウィーズリーとポッターに恨みがましげな目で見られたが心当たりはなかったし……しばらくそれを引きずっていたらしい彼らも、一週間ほど後に届いた細長い何か──恐らく箒だろう──に夢中になって僕のことはどうでも良くなってくれたようだ。
その日の変身術の授業では、いつも以上にマクゴナガル教授が固い顔をしていた気がするが、もう知らん。しばらく大人しくすると決めたのだ。勝手にしてくれ。
他の授業の内容もいよいよ導入を過ぎ、本格的になってきた。寮内で浮遊呪文の練習をしたり、ビンズ教授が虚無の川に放り投げた歴史の内容を物語的に再説明したりして、スリザリン全体の学力の底上げを図りながら、少しずつ寮生の支持の獲得を図る。
絶対僕のことをうざったいと思っている子もいると思うのだが、皆表に出さず優しく接してくれている。我が純血家系に感謝である。
グリフィンドールにも僕同様浮いている子がいたが、彼女──グレンジャーには当然のことながら純血家系の恩恵はなかった。それゆえ、彼女は多方面に存分にうざがられていた。その輪に加わっていないグリフィンドール生は、スネイプ教授のイビリに耐えかねているネビル・ロングボトムくらいのものなのだろう。彼は魔法薬学の授業でグレンジャーが命綱だと言わんばかりに縋りつきながら調合をしていた。
ロングボトムも魔法薬をはじめ、あらゆる事が苦手なようなので、授業で組む相手としては他の子から敬遠されている。十一歳の子どもたちに性格が合わない同級生とまで仲良くしなさいというのは無茶だと思うが、グリフィンドールの世知辛い面を見たくない者としては、内心複雑である。
とは言え、気がかりなことなどその程度だった。子ども同士の可愛らしい諍いにのほほんとできるほど、この平和な状態が当たり前だと思ってしまっていた。それがこの物語の中において完璧に誤りであることを、ハロウィーンの事件に出くわして僕はようやく気づいたのだ。
ハロウィーンの夜、ホグワーツ城は浮足だった生徒たちでどこもかしこも騒がしかった。一日の授業を終えて賑やかな大広間でみんなと一緒にいつもより豪勢な食事を取る。子供が楽しそうな雰囲気は見ているだけで嬉しくなるな……とぼんやり辺りを見ていると、突然大広間にクィレル教授が駆け込んできた。彼の顔は蒼白で、一目見て尋常ではないことが起こったとわかる。
「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」
それだけ告げて、クィレル教授はその場に崩れ落ちた。予想だにしなかった出来事に子どもたちはあっという間にパニックになる。場を収めるために校長がすぐさま爆竹をいくつか鳴らし、監督生に自寮へと生徒を引率するように命令した。
僕は内心で、彼の対応に文句を言わざるを得なかった。なんでだよ。この場に止まれよ。スリザリンとハッフルパフは地下にあるんだぞ。僕が知らないだけで大広間から寮へ向かうまでの間は絶対に害されない魔法でも掛かっているとでも言うのだろうか。恐怖が忍び込む心中で、なんの解決にもならないことを考えることしかできなかった。
まあ、結局僕らはトロールと遭遇する事なく寮に辿り着いたので、ぐちぐち言うのもやめておく。ただ、ダンブルドアが耄碌しているんじゃないかという懸念は消すことができなかった。頼みの綱なのだからもう少し揺るぎなくあってほしい。
僕は漸く実感したのだ。ここは、あのハリーとヴォルデモート卿のバトルの過去なのだということを。ここでは命のやり取りが平気で行われるかも知れないのだ。
物語がどう進むのかわからないが、確か何作にも分かれていたはずだ。主人公はまだ幼いが、一作一作にメインとなる事件があって然るべきで、これからそれがこのホグワーツで起きることは容易に想像できた。
ハロウィーンの騒動の後、僕は図書館に篭り犯人の手がかりになりそうな情報を探した。
こちらが何もしなくても物語は進むだろうが──というか、下手に手出ししたらもっと悪いことになるかもしれないが、目隠ししながらこの危険地帯を歩く真似はしたくない。少なくとも、誰が注意すべき人物なのかくらいは把握しておきたいところだ。僕は根っこのところではどうしてもアンチヴォルデモートなのだ。もしそれが闇の陣営にバレれば、同級生を気にしている余裕などなく消されかねない。そんな事態を避けるためにも、危うきに近付かないための策は必要だった。
付け加えると、忌々しいことにこの世界には「開心術」なる人の考えを読み取る手段が存在した。生憎僕は閉心術のまともな訓練を受けた事がないし、もし開心術に長けた人に目をつけられようものなら一巻の終わりである。
「音割れポッターBB」をしゃぶり尽くしている者として、この情報がその馬鹿馬鹿しい外柄に反して多くを教えてくれていることには気づいていた。だからこそ、絶対に誰にも悟られたくない。正直、ハリー・ポッター以外に絶対に正義陣営だと太鼓判を押せるのは、アルバス・ダンブルドアくらいのものなのだ。むしろ、この世界の価値観で言うと、ぽっと出のハリーの方がダンブルドアより信用できないかもしれない。しかし、僕には音割れBBがある──そう思ったところで、「闇落ち」という単語が頭をよぎったが、とりあえず考えないことにした。……児童書でその展開は重すぎるし、少なくとも今ではないと信じたい。
とにかく、ハロウィーンの容疑者を考える上での焦点は「どんな人間がホグワーツに入れるのか」だ。一応この学校は城自体とダンブルドアによって万全の守りを与えられていることになっている。「ホグワーツの歴史」を始めとした書籍からはホグワーツの防衛は完璧だとか、ふんわりした情報しか出てこないため、実際にホグワーツで事件を起こした人間に狙いを絞って過去の新聞などを当たった。
調査を行った結論として、犯人不明のものを除けば、直近で見つけられた事件は全て学校内部の人間による犯行だった。彼らは先生や生徒といった、許可を得てホグワーツ城に入ることができた人物だったのだ。参考になるレベルで実例があったのが少し泣けた。
そこから順当に考えれば、この学校は闖入者を容易に許す作りはしていない。今回のトロール侵入の犯人も、前例と同様に生徒か教師だろう。本人の背景を完全に無視して対象を術者の手駒とする服従の呪文を考慮すると、対象は無限に拡散してしまうのが痛いところだったが……それにしたって校内の人間を使う必要がある。であれば、ハロウィーン周辺で不審な動きをしていた人物から考えるという普通の方法は、魔法界というかなり何でもありな場所でもある程度効果的なように思えた。
とりあえず僕が目星をつけた容疑者は、クィレル教授とスネイプ教授だ。
そこに森番のハグリッドも加えたいところだったが、彼はわざわざ城に招き入れたりせずとも自分が管理する森で好きなだけトロールと戯れられるだろうし、パーティの席に座りながらトロールを誘い込むような事ができる人ではない。完全に疑いが晴れる訳でもないが、第一容疑者からは外した。
生徒から容疑者を考えるのはあまりにも人数が膨大すぎるが、トロールを扱えそうな学年でハリーと接点がある──すなわち伏線が張られていそうなのはパーシー・ウィーズリーとクィディッチチームのメンバーだけだ。彼らも「服従の呪文が使われている」と考えるなら準容疑者候補だが、傍から見ててそういう役をしそうなキャラクターがいるようには見えない。
そこで、残った候補は先生方に絞られた。
クィレル教授は行動を見るなら一番怪しい。「トロールが地下室に」って、なんであなたは宴会にも出ずにそんなところにいたんだという話だ。彼は過去のPTSDで尋常じゃなく臆病になっているから来なかったとも考えられるが……それにしたって城の管理人のアーガス・フィルチが先に見つけた方が自然だ。その上、発見者である以上、彼は報告の時間を調整できる。そこに何か意図がある可能性は否定できなかった。
ただ、あまりにも怪しすぎて、逆に物語の悪役としては馬脚を露わしすぎなようにも思えてしまう。もし本当に彼がトロール事件の実行犯なら、彼を利用する第三者がいるという可能性も捨てきれない。
もう一方のスネイプ教授は、そもそもそのキャラクター性が怪しすぎる。ただ性悪教師なだけでなく、彼には元死喰い人疑惑という大きすぎる懸念点があった。怪しすぎて物語だとブラフにすらなりそうだが、はっきり言って要注意人物である。オマケに、ハロウィーンの後からずっと足を引きずっている。どこで怪我をしたのか知らないが、今回の件と全くの無関係ではないだろう。
ここまで考えても、残念なことに犯人の目的は想像ができなかった。一番物語の流れとしてあり得るのは、闇側の敵対者であり、ようやく魔法界に姿を現したハリー・ポッターを始末することだろうが──ヴォルデモート卿の生死が不明な今、誰がそれをしたいのだろうか? 偉大なるアルバス・ダンブルドアが目を光らせている間は校内でハリーに手を出すことなど出来なさそうだし、もしこの後サクッと暗殺できたなら今までやっていない理由が思いつかない。
トロールの侵入というのも中々目的の掴みづらい手段だ。いくら大きいと言っても、知能の低い魔法生物の一匹ごとき、先生方に鎮圧されてしまうのは目に見えている。だから、それ自体が目的だった訳ではないだろう。あの騒動を利用して一体何をしたかったのか推測しなければならない。それゆえにクィレル教授が「あの時」に報告しに来たことに何かあるのだろうか、と思うのだが──非常時の対応の確認? 陽動? 警備体制の調整? 僕の知らない魔法の手順に「地下でトロールを這いずり回らせること」とかがあったらもうお手上げだ。
物語の展開に関する手がかりを何一つつかめないまま、十一月に入り日々は過ぎていった。予想していたよりずっと「ハリー・ポッター」の物語の流れは一生徒にとって見え辛いものだったらしい。
……そういえば、あのハロウィーン以来、何故かグレンジャーはポッターとウィーズリーと仲良くなったようで、僕は勝手に少し安心した。
聡明で真面目な女の子をハブにしない人物の方が、「闇堕ち」なんてしなさそうではないか。
ホグワーツレガシーをプレイしてみた感じ、スリザリン寮・ハッフルパフ寮と教室のある北西側の棟の地下室は繋がっていないので主人公の安全管理に関する愚痴を削除しようと思ったのですが、逆にプレイしていないとなぜ消えたか分からないかな、と思って残しました。原作小説だとハリーとロンは「ハッフルパフ寮生にまぎれ込」んでハーマイオニーのいるトイレに向かっていたので、同じ建物の地下階層らしいというのもあります。
ホグワーツレガシーの構造を参考にホグワーツ城の原作での描写を整理できるのはありがたいですね〜。