音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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監督生バッジ

 

 グリモールド・プレイスは陰気な場所だったが、この一ヶ月余りをダーズリー家で過ごしたハリーにはその埃っぽさも湿気たような臭いも気にならなかった。

 そこにもうロンとハーマイオニーがいたことや、子供扱いされて「不死鳥の騎士団」──ダンブルドアが組織した対ヴォルデモート秘密同盟──のことについて大して教えてもらえないことに苛立ちはしたが、仕方ない。今のハリーはいつヴォルデモートに情報を漏らしてしまうか分からない、ヒビの入った大鍋のようなものなのだから。ダンブルドアがグリモールド・プレイスを訪れたとき、昨年度末のようにハリーと話をしてくれないのも、そういうことなのだろう。

 だから、『閉心術』の訓練はもっぱらスネイプが担うと伝えられたときにも、ハリーは何も言わなかった。シリウスは怒りと不信を隠せないようだったが、どうしようもないことだ。ダンブルドアはハリーの知らないところで「騎士団」の活動をする必要があるのだろう。

 そうして鬱憤を溜め込みながらも、ハリーはそれを吐き出す先を見つけられずにいた。

 

 こうしてダーズリー家を離れた喜びは、すぐに薄れてしまった。

 屋敷でハリーを待ってくれていたシリウスと、どうにも上手くやれないのも孤独感を深めた。原因はいろいろあった。シリウスはかつて飛び出した大嫌いな自分の生家──グリモールド・プレイスはブラック家の屋敷だった──に閉じ込められて塞ぎ込んでいたし、ホグワーツへの帰還を楽しみにしているハリーにとってその陰鬱さは重荷だった。

 

 館にはクリーチャーという屋敷しもべ妖精がいたのだが、その扱いに対する考えもシリウスとハリーはずれていた。

 ルシウス・マルフォイに仕えていたドビーと、ドラコに仕えていたビンクを比べれば、クリーチャーにどう接するべきなのかはなんとなく分かる。手ひどく扱えば、まさにルシウスのようにしっぺ返しを喰らってもおかしくないだろう。ハーマイオニーだってS.P.E.N.D.S.の活動からシリウスに苦言を呈していた。

 しかし、シリウスはハーマイオニーやハリーの考えをまったく聞き入れなかった。それほどまでに、この屋敷とクリーチャーはシリウスにとって憎むべきものらしい。

 ハリーだって、ダーズリー家に閉じ込められてバーノンおじさんやペチュニアおばさんの機嫌を取れと言われたなら、絶対に嫌だ。でも……ビンクのことを知ってしまったせいだろうか? ハリーはシリウスがクリーチャーを怒鳴りつけるところを見たくなかった。

 決して口に出しはしなかったが、ハリーはシリウスよりも、むしろクリーチャーに自分自身を重ねて見ていた。クリーチャーが騎士団のことを漏らすかもしれないとグリモールド・プレイスに縛られているように、ハリーもヴォルデモートに情報が流れないようプリベット通りに缶詰にされていたのだから……

 

 けれど、それらはある意味些事だ。一つ、何より大きな問題があった。シリウスは、ドラコを含めたスリザリンの友人に対するハリーの心配をそこまで真剣に受け止めてくれなかったのだ。

 騎士団員の会話の中に、ドラコはしばしば魔法省のファッジの部屋に出入りしているという話があったので、ひとまずは安心できたのだが──医務室でのダンブルドアとのやりとりはドラコを信頼できない人間だと判断させるのには十分だったらしい。ハリーの心配を取り合わないどころか、シリウスはドラコがファッジに服従の呪文をかけるのではないかという危惧すら見せた。

 ドラコがどれだけ命懸けでハリーとその周囲の人間を守ろうとしてきたのか、訴えればよかったのかもしれない。一年生の禁じられた森、二年生の秘密の部屋、三年生の狼人間、四年生の第三の課題……けれど、ハリーはそれを口に出せなかった。まさに加害の張本人であるルーピン先生が近くにいたということもあるし、それを大っぴらに言って困ったことになるのは、多分ドラコ自身なのだ。彼はあくまで「あちら」の立場でいなければならないのだから。

 ドラコについての話を聞いていたクリーチャーは、日常こぼすブツブツにシリウスの従姉妹である「ミス・ナルシッサ」のご子息がいかにお優しく、いかに晩年のシリウスの母を健気に見舞ったのかを付け足すようになった。それもまた、シリウスの逆鱗に触れた。シリウスの中でドラコは憎むべき生家の一員に振り分けられつつあるようだった。

 

 きっと、この家に閉じ込められているのが悪いのだろうし、シリウスのことが嫌になったわけではない。けれど、価値観の違いは長く過ごすごとに露わになる。「どうして分かってくれないんだ」という気持ちはハリーの心の中にしこりとなって残っていた。

 

 ハリーは昼間は屋敷の掃除に、夜はシリウス以外の人と話すことに少しずつ熱心になっていた。もっとも、騎士団員はハリーに情報を漏らさないために口をつぐんでしまうことが多かったのだが……ジェマ・ファーレイは騎士団の活動以外のこと──魔法省や日刊予言者新聞の動向なんかを教えてくれた。

 今のところ、魔法省はヴォルデモート復活に関して口をつぐんではいるが、ダンブルドアをこき下ろすようなことはしていないらしい。しかし、ファッジの説得の目は薄いままで、このまま気を抜いている間に闇の勢力が動かないか見張るよう仕向けることが目下の課題だそうだ。

 

 彼女は今、キングズリー・シャックルボルトという闇祓いの下で訓練中らしい。キングズリーとマクゴナガル先生の推薦で勧誘され、不死鳥の騎士団に加入したそうだ。しかし、彼女は控えめに言って、ダンブルドアを信用しておらず、大っぴらな批判も憚らないため、一部の騎士団員からはあまり良い目で見られていなかった。

 特に、ウィーズリーおばさんはジェマをどう扱ったら良いのか判断しかねているようだった。もともと同学年だったパーシーは、優秀なライバルであるジェマの愚痴をたまに家族に漏らしていたらしい。パーシー自身がダンブルドアに反目して家を出て行ってしまった後でも、おばさんはジェマに「でしゃばり」という印象を持っているのだ、とはフレッドの言だった。

 ジェマは成人だからという理由でセドリックを使ってハリーを見張らせたが、それが同学年のフレッドとジョージのやる気に火をつけてしまったのも問題だった。二人は自分達にもやらせろと直訴したが、ジェマはウィーズリー夫妻の許可が出ないと無理だと言い渡したらしい。セドリックだって正式な騎士団員ではないし、おそらくエイモス・ディゴリーには説明していない。だが、流石に反対する保護者の面前で任務を言い渡すことはできない。そんな状況に憤る双子は、大いにおじさんとおばさんの手を煩わせたらしい。

 

 そんなわけで、ウィーズリーおばさんは夕食の席にジェマがやってくることに良い顔をしなかった。しかし、彼女はまだ魔法省内では下っ端で手が空いている分連絡役を任されているらしい上に、並はずれて肝が太くウィーズリーおばさんの険しい表情を完璧に無視してにこやかにしている。結果、ジェマはハリーたちが一番顔を合わせる騎士団員になっていた。

 

 

 

 新学期を翌日に控えた火曜日の朝、ハリーは割り当てられた部屋でヘドウィグの鳥籠を掃除していた。そこへロンが、封筒を二通持って入ってきた。

 「教科書のリストが届いたぜ」

 ロンは鳥籠を置いている飾り棚の上に封筒を一枚ポンと放った。見かけに反して、封筒からは何か硬いものが当たるゴトっという音が響く。首を傾げて手紙を手に取ったハリーを、ロンは自分の封筒も開けずにじっと見つめていた。

 「なんだよ?」

 「……いいから、開けてみろって」

 妙に辛気臭いロンに促されるまま、ハリーは封蝋を剥がした。中には、羊皮紙が三枚入っていた。いつもの新学期が始まるお知らせと、教科書リスト。それに──「監督生の選出について」。まったく予想していなかった手紙に、ハリーは一瞬事態を飲み込めなかった。

 そのとき、バシッという大きな音を立てて、フレッドとジョージがハリーの脇に『姿現わし』した。二人は固まっているハリーとロンを訝しげに見て、フレッドがハリーの持つ羊皮紙を覗き込んだ。

 「ああ、やっぱり君が監督生か」フレッドはニヤッと笑い、ハリーの肩にきついパンチを食らわせた。

 「そうだろうとも。生き残った三大魔法学校対抗試合チャンピオンよ。そこに汚名が一つこびりついちまったのは不思議でもあるまい?」

 ジョージはハリーのもう片方の手に握られた封筒を奪い、逆さにひっくり返した。中から、赤と金の「P」の字が書かれたバッジが転がり落ちた。二年前、悪戯四人組が偽物を量産していた、あのバッジだ。

 

 監督生。ハリーが監督生。パーシーやジェマと比べて、随分と自分は向いていないように思える。別に下級生の面倒を見たりしていないし、望んだわけではないが規則破りをしょっちゅうしている自覚はあった。

 「でも僕──監督生ってガラじゃないよ」

 フレッドは軽蔑したように鼻で笑った。

 「じゃあ誰にやらせるんだよ。ネビルか? それともまさかロニー坊や?」

 「まあディーンなんかは良かったかもしれないな。人当たりがいい。だが、名声で君を押しのけられる人間はいないぜ」

 ジョージはハリーの背中を叩き、軽く笑った。

 

 そこで、部屋のドアがパッと開いた。勢いよく入ってきたのはハーマイオニーだった。

 「ねえ──もらった──?」

 ハーマイオニーはハリーが手にしたバッジを見て、歓声を上げた。

 「そうだと思った! 私もよ、ハリー、私も!」

 「ああ、ウン──そうだよ」

 ハーマイオニーの勢いに気圧されて、ハリーは少し後ずさった。

 「ああ、寮監のマクゴナガル先生がお選びになるって聞いていたけれど、やっぱりあなただったわね! 監督生って、ホグワーツ特急でも仕事があるんですって! 一年の最初だし、しっかりやらないといけないわ。生徒が何か変なものを持ち込んでいないか、パトロールするの。不慣れな一年生もいっぱいいるでしょうし──」

 ハーマイオニーの後ろで、フレッドが呆れたように目をぐるりと回した。ジョージは腕組みして肩をすくめている。二人は常々、監督生という役職がいかに高慢ちきで鼻持ちならないのか、喧伝していた。熱を上げるハーマイオニーを前にして、ハリーは自分が監督生に選ばれたことがきまり悪くなってきた。

 「僕、今年が監督生の選ばれる年だって忘れてたよ」

 ハーマイオニーは機関銃のような喋りを一瞬切り、片方の眉を上げた。

 「選ばれたからには、自覚を持たなくちゃ。大丈夫よ、私がいるし、それに他の寮だって──」

 そこにローブを抱えたウィーズリーおばさんが入ってきて、話は切り上げられた。おばさんはハリーが監督生に選ばれたことを、まるで我が子のことのように喜び、その日の夜はハリーとハーマイオニーを祝うと言ってくれた。しかしハリーは、正直それどころではなかった。部屋の隅でむっつりと黙り込むロンは、去年の対抗試合選出の頃を彷彿とさせた。

 

 でも──じゃあ、ロンは自分の方が僕より監督生に相応しいと思っているのか? 対抗試合で優勝した僕より?

 ハリーは嘲るような気持ちが自分の胸に湧き上がってきたことに気づき、慌ててそれを振り払うようにローブをトランクにしまうのに集中した。

 

 

 

 その日の夜、地下の食堂は人で大賑わいだった。シリウス、ルーピン、トンクス、キングズリー、ジェマ、マッド-アイ──今までまばらにグリモールド・プレイスを訪れていた騎士団員が、一堂に会したような様子だった。

 乾杯したあと、ハリーはジェマを探した。彼女に、監督生のことについて色々と聞ければいいと思っていたのだ。ジェマは部屋の隅で、マッド-アイとルーピンと何やら話し込んでいた。ルーピンはハリーの視線に気がつくと、にっこり笑って振り返った。

 「やあ、監督生おめでとう。私もそうだったから……君が選ばれてくれて嬉しいよ。最初のうちは戸惑うかもしれないが、そこまで重荷ではないはずだ。尤も、君たちの年代には四人組がいるから手こずるかもしれないが」

 ルーピンは本当に喜ばしいことのように微笑んでいる。一方、ジェマは値踏みするようにハリーを見て口の片端を上げた。

 「あら、先生、私たちがいた頃から双子とパンジー、ザビニはもっと手強くなったそうですことよ。何やら、怪しげな商売まで始めているとか。セドリックも手を焼いているらしいわ」

 しかし、ルーピンはゆったりと首を振った。

 「彼らは本当に悪質な悪戯はしないだろう? 一年しか見られなかったが、いい子たちだったよ」

 ルーピンの言葉に、ジェマはハッと鼻で笑ってハリーをすがめ見た。

 「あの四人に甘い態度を見せれば身内贔屓だと謗られることになるわよ。覚悟することね」

 しかし、思い返してみれば今までだって四人はドラコに一線を守らされている。どうせドラコも監督生だろうし、そんなに心配することはないのかもしれない。

 

 勝手に安心しているハリーに対し、ジェマは思いついたように言葉をかけた。

 「ところでポッター、『闇の魔術に対する防衛術』の指定教科書はなんだった?」

 「えっと……『防衛術の理論』だったかな? スリンクハードっていう人の。あんまり面白そうではなかったけど……なんで?」

 ジェマは顎に手を当てて、少しだけ言葉を彷徨わせた。

 「うーん、そうね……まあ、話していいことだと思うから教えてあげるけど、『防衛術』の講師になる予定だった人周りに色々あったのよ。あなたの吸魂鬼事件をきっかけにね」

 予想していなかったところに結びつきが生まれていたらしい。目を丸くするハリーに、ジェマは頷いて話を続けた。

 「あの事件自体はあんまり大ごとにはならなかったわ。でも、誰が差し向けたのかは突き止められた。つい最近、吸魂鬼の管理体制が厳しくなったことが幸いしたの」

 話を聞いていたマッド-アイが説明を続けた。

 「魔法省は、当面の策として吸魂鬼の個体を識別する魔法をかけたのだ。お前の事件があったほんの二、三日前にな。クラウチの件で吸魂鬼が暴走したことが後押しになったらしい。

 ポッター、お前を襲った吸魂鬼がアズカバンに戻る前にダンブルドアが捕獲し、それに接触した人物を洗い出してみると──ドローレス・アンブリッジという役人だったわけだ」

 ジェマは肩をすくめた。

 「まあ、正規のルート以外でアズカバンにやってきた誰かが吸魂鬼をけしかけた、っていう線は消えてないんだけど、ファッジはそちらを考える方が嫌だったようよ。そこに触れたらいよいよ死喰い人の線に繋がりかねないもの。

 それに、アンブリッジ自体もだいぶそういうことをやりかねない人間だったしね。ものすごく周囲に嫌われてたから、庇う人間も少なかったわ。

 結局、アンブリッジはしばらく調査を受けるってことでファッジとダンブルドアの意見も一致したのよ」

 

 「ダンブルドアからしてみれば、かなり運の良い展開だ」

 ルーピンの言葉に首を傾げたハリーに、ジェマは説明を続けた。

 「アンブリッジは『闇の魔術に対する防衛術』教師に志願していたのよ。ダンブルドアが新しい人を見つけられなかった場合にって話ではあるんだけど……まあ、それで決まりそうではあった。

 でも、生徒に吸魂鬼をけしかけたかもしれない人物にダンブルドアがホグワーツで教えさせるわけはないし、アンブリッジに全責任を押し付けたファッジもそれはわかってる。ダンブルドアがこれからどうするかは聞いてないけど……少なくとも、アンブリッジよりはマシなのをファッジから引っ張り出したんでしょう」

 「しかし、今回の事件を公表しなかったのはいただけん。まさにポッターが、『あの人』の帰還を知らせたポッターが危険な目にあったことを知らせれば、世間も少しは危機感を抱くはずだ」

 マッド-アイの言葉に、ジェマは首を振った。

 「容疑者が省内の人間とあっては、死喰い人たちを警戒させる理由にはならないわ。魔法省不信にはメリットとデメリットの両面があるし。今暴露するより、ファッジの弱みを握っておいて、今後の交渉をうまく進めることを優先させたんでしょう」

 恐ろしいベテランのマッド-アイに対してすらズバズバとものを言うジェマに、ハリーは少し驚いた。けれど、ジェマもマッド-アイも特に気にした様子を見せることなく話を続けていた。

 「一番意外だったのは、ダンブルドアがそういう腹芸じみた真似をしたことね。あの人、こんなことがあったら即吸魂鬼禁止、魔法省からの出向禁止、事件の公表を要求──で、交渉決裂って感じになりそうじゃない?」

 マッド-アイは言葉では肯定しなかったが、沈黙はより雄弁だった。

 

 「でも、防衛術教師の候補がいなくなって大丈夫なのかな? 見つかってなかったからアンブリッジって人が来ることになってたんだろう?」

 ジェマは思いっきり眉を顰めてハリーを見た。

 「随分呑気なことを言っているのね。はっきり言って、あなたは両手を上げて祝うべきよ。アンブリッジって、本当に悪夢みたいな女だから……スネイプ先生とアンブリッジどちらがマシかって言ったら、比べるまでもなくスネイプ先生だわ」

 「それは君がスリザリンだったからそう言えるんだと思うけど」

 ハリーの言葉に、ジェマは肩をそびやかした。

 「おやおや。スリザリン生とカエルにエクスペリアームスぶつけて遊んでたチビが、随分生意気なこと言うようになったじゃない」

 一体いつの話をしているんだろうか。ハリーはなんだか気恥ずかしい思いがした。

 「あのカエルは本物じゃなかったよ」

 言い訳にもならない言葉に、ジェマはフンと鼻を鳴らした。

 「知ってるわよ。あなたとドラコ・マルフォイ、とっても周囲の視線を集めていらっしゃいましたもの」

 

 「スリザリンの監督生はドラコかな?」

 話を逸らすための話題だったが、ジェマは案外すんなりそちらに流れてくれた。

 「まず間違いなくそうでしょうね。家格、成績、外面、どれを取ってもパーフェクトだもの。まあ、スネイプ先生とちょっと仲がよろしくないってのはあるけど」

 「そう? ドラコはスネイプのお気に入りじゃない?」

 ハリーは首を傾げたが、ジェマは頷かなかった。

 「ずっとそうだったわけじゃないわ。私が卒業する年、一時期信じられないくらい拗れたことがあるって聞いたわよ」

 「それは私のせいだな」

 ずっと横で話を聞いていたルーピンが、少し苦笑いを浮かべて口を開いた。言葉の意味を飲み込めないハリーに対し、ルーピンは少し言いづらそうに言葉を続けた。

 「あー、セブルスは……私の危険性を適切に理解していた。だから、生徒に私が狼人間であることを暗に伝えようとしていたんだが……ドラコはそれを看過しなかったそうだ。私の扱いについて、ずいぶん揉めてしまったと聞いている。その上、ドラコはどうも昔のジェームズを彷彿とさせるところがあってね」

 「父さんを?」

 目を丸くしたハリーに、ルーピンは頷いた。

 「そう。成績優秀で裕福な出身、おまけに優れたチェイサーで正義感がある。ジェームズをよく知る人間なら納得しないだろうし、セブルスはジェームズの影を追いすぎなところがあるが……要素だけ見るなら、そうだね。似ている部分があるだろう」

 

 「まあ、君の父は監督生ではなかったが」

 そこに、話を聞きつけたシリウスがやってきた。

 「で、どうなったんだ? ドラコとスニ──スネイプは」

 尋ねながら酒の入ったグラスを傾けるシリウスに向かって、ルーピンは少し悲しげに微笑んだ。

 「三年目の最後の件で、スネイプは本当に怒り心頭だったんだ。それなのに、ドラコは私を庇ってしまった。その後、二人がどれだけ関係を修復したかについては、正直予想が難しい」

 そんなことがあったとは、ハリーは全く気づかなかった。確かに三年生のとき、一時期スネイプはドラコの特別扱いをやめていたことがあったが……あれはミリセントたちの影響だと思っていた。ルーピンが人狼だと他の生徒に言うわけにはいかないし、誰にも知らせずスネイプと戦っていたのか。

 なんだか寂しいような心地になるハリーをよそに、ジェマは皮肉っぽく口の端を上げた。

 「流石のスネイプ先生でもドラコを監督生に選ばないのは無理でしょう。残念ながら、他の誰が選ばれても誰も納得しやしないでしょうから」

 

 

 しかし、その日ウィルトシャーの歴史あるマルフォイ邸に届けられた封筒の中には──Pの飾り字のバッジは、入っていなかったのだった。

 

 

 

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