音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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五年目のホグワーツ特急

 

 斯くして、ホグワーツに発つ日はやってきた。

 

 少し慌ただしい朝食の席で、緊迫した面持ちの父と母は、闇の帝王に目をかけられるようなことはしないように、と僕に厳しく言いつけた。明確に口にされたわけではないが、二人の表情には息子は絶対に()()()()()()に関わるのに向いていない、という思いが表れていた。

 騙しきるのも気が引けて、つい口先だけと分かるように返事をしてしまったが……これは明らかに失敗だった。一瞬にして両親の表情に広がった悲痛な色──父の沈痛な面持ちや、何より母の目に光った涙──に、こちらの方がらしくもなく動揺してしまった。

 結局、二人が落ち着くまで、言葉を尽くして危ない真似はしないと弁明するはめになった。そして話が終わってなお、最後まで両親の間に漂う緊張感は拭いきれなかった。

 

 その上、家を出発する直前に両親がいない部屋で、ビンクにも散々心配だと言われてしまった。そんなに僕は危なっかしく見えるだろうか。こう見えても「学年一の成績で、先生方の覚えめでたく、周囲の生徒にもよく慕われている」はずなんだが……というのはまあ、冗談だ。

 ヴォルデモート卿とただ接触するということ自体が、凄まじく危険なのだということは昨日嫌というほど実感したし、気持ちは分かる。というか、僕だって心底父にヴォルデモート卿と関わるのをやめてほしい。

 

 ……しかし、それにしても、本当に居た堪れない。

 父と母の僕への愛が深ければ深いほど、これから取れる選択肢の一つは有効なものになっていく。しかし、そこに至るまで二人の気持ちを真っ直ぐ受け止められるほど、僕は強い心を持っていなかった。

 

 

 そういったゴタゴタの後、僕ら一家は例年通りキングズ・クロスへと向かった。太陽は九月の薄雲に隠れ、少し肌寒い駅はマグルで賑わっている。いつものように、クラッブとゴイルと待ち合わせて汽車に乗る予定だったのだ。

 

 まだ出発までそれなりの時間がある九と四分の三番線ホームは、表と比べてそこまで混雑していない。機関車の煙がうっすらとただよう駅舎内で、目当ての二人を見つけるのは簡単だった。……というより、二人がこちらを見つけるのは簡単だった。

 猛然とこちらに向かってくるクラッブとゴイルは、僕の目に容易く入った。もともと二人とも大柄だが、この一ヶ月でさらに背が伸びたようだ。そんな筋骨隆々の二人が走ってくると、なかなか迫力がある。

 二人はこちらの目の前まで駆け寄ると、挨拶することもなく険しい顔で僕の全身をじっくりと見た。その目はまるで、僕の手足が全部揃っているか確認するようだった。

 

 「久しぶり。何、どうしたんだ?」

 状況を飲み込めず、少し後ずさる僕を前に、みるみるクラッブの眉根に皺が寄っていった。

 「この、馬鹿が──これを見ろ!」

 両親が背後に立っているというのに、クラッブは随分と荒々しい口調だ。いつもは親同士の関係もあって、親族の前では大人しくしているのに。

 クラッブは乱暴に、持っている何かを僕の眼の前に突きつけた。その手に輝いていたのは、緑と銀が美しいPの字のバッジだった。

 「監督生はクラッブだったのか。おめでとう!」

 下級生の面倒を見る、という点ではゴイルの方が適任かもしれないと考えていたが、規則を守らせ集団を統率する厳格さがクラッブにはある。女子の監督生がダフネかミリセントだと考えるならば、バランスの取れたいい人選だと言えるだろう。

 

 喜びを隠さず肩を叩いて祝うと、パッと手を払い除けられてしまった。目を丸くする僕を前に、クラッブは腕を組んで顔を顰める。

 「何が『おめでとう』だ、ふざけるな。なぜお前じゃない?」

 ある程度予想していた反応ではあるが、それにしたって荒々しい。自分が選ばれたんだから素直に喜んでくれればいいのに。

 ……いや、無理か。流石にクラッブがこの状況を素直に受け入れてくれる子じゃないことは、この十年近くの中で分かっている。かといって自分が選ばれるはずだったのに、みたいな気配を漏らすのは恥ずかしいし、本当の理由だって言えない。

 

 「……僕はあんまり監督生に向いてないと思われたんじゃないか?」

 答えに窮して軽い調子で返した言葉に、クラッブはさらに怒りのボルテージを上げてしまったようだった。ただでさえ巨躯なのに、憤怒のオーラのせいで今日はいつもの五割増しで大きく見える。

 「笑わせるなよ。……監督生のコンパートメントに荷物を置いてくる」

 それだけ地鳴りのような低い声で言うと、クラッブは自分の鞄を引っ掴み、両親と僕、ゴイルを置いて汽車の中に乗り込んでしまった。

 

 なんとか気を取り直してゴイルの方に目をやる。ゴイルは憐れみとも、呆れともつかない絶妙な表情でこちらを見ていた。

 「……なんでクラッブはあんなに怒ってるんだ。そこまで気に障るようなことかな?」

 途方に暮れる僕を見るゴイルは、少し呆れの雰囲気を強くした。腕を組んでこちらを眺める視線には、明らかにうんざりした気配が漂っている。

 「あのね、どう考えても、本当にどう考えても、ドラコが監督生になると僕らは思ってたよ」

 反論しようと口を開こうとしたのを、手で制される。ゴイルはそのまま言い聞かせるように話を続けた。

 「それなのに、自分のところに監督生バッジが来たらどう思う? 君が選ばれなかったというより、君が選ばれることができないような状態に陥ったんじゃないかと思わない?」

 いまだに話を飲み込めていない僕に、ゴイルは少し目を細めて口を開いた。

 「はっきり言おうか。死んだのかと思ったよ」

 

 思わず言葉を失った。どうしてそうなる。誰かが監督生に選ばれなかったというだけで、話が飛躍しすぎだ。

 「八月はずっと手紙のやりとりをしてたじゃないか!」

 「ここ数日はしてないよ」

 なんとか気を取り直して口にした返事に、ゴイルはピシャリと返した。普段より随分と冷たい口調だ。クラッブはともかく、ゴイルにまでそんな態度を取られたら傷つくじゃないか。

 「……僕のせいじゃない。選んだのは先生方なんだから」

 「本当に?」

 投げかけられる視線は心底疑わしげだ。

 「本当に! ……多分」

 付け足された一言に、ゴイルはぐるりと目を回した。実際、僕が監督生にしないでくれと頼んだわけではないのだから、この主張は正しいはずだ。おかげでヴォルデモート卿と対面を済ませるというラッキーイベントをこなせたので内心とてもありがたくはあったのだが……でも直接の原因ではない。たまたまヴォルデモート卿が僕が監督生に選ばれなかったと知られることになるなんて、手紙が来た日を考慮するなら到底考えられないだろう。

 

 後ろで話を聞いていた父が、僕の隣に歩いてきた。

 「……ドラコ、やっぱり私がダンブルドアに直訴……」

 「いや! 大丈夫です! 本当に!」

 こうして再び僕は父を必死に説得する羽目になったのだった。

 

 

 例年より随分長い両親からの抱擁からようやく解放され、僕とゴイルはホグワーツ特急に乗り込んだ。監督生は専用の車両があるので、クラッブとは別行動だ。少しの寂しさを覚えながらも、とりあえずいつものようにコンパートメントに荷物を置いて他の子たちの到着を待った。

 いまだにゴイルは少しぶすくれている。そこまで心配をかけてしまったのだろうか? まあ、僕のせいではないが……いや、ダンブルドアにその選択をさせた、という点では僕のせいなのか? ヴォルデモート卿のことまで予想していたはずはないが、ファッジ対策なのは火を見るよりも明らかだ。

 だとすれば……そうだな、問題だ。これから僕に好感を持っている子から反感を買うと思うと、ダンブルドアに対して申し訳なさが湧いてきた。

 なんだか居た堪れなくなり、一言ゴイルに断って外に出た。車内は生徒でごった返している。手持ち無沙汰に任せて、僕は一年生らしき子のトランクを入り口の階段の上に押し上げるのを手伝い始めた。

 

 三つほど車両の中に運んだところでふと顔を上げると、駅のホームに見覚えのある赤毛が見える。

 「やあ、ロン。久しぶり。すぐそこのコンパートメントに席をとってるけど、座る?」

 声をかけて気がついたが、ロンの口はへの字に曲がっている。なんだかずいぶんと機嫌が悪そうだ。家族と喧嘩でもしたんだろうか?

 一年生のくせに何を入れているのか、凄まじく重いトランクをなんとか上の段に引っ張り上げる僕を見て、ロンは訝しげな顔をした。

 「どうしてここにいるんだ? 監督生は別に行く車両があるんだろ?」

 ()()()の言葉にどことなく含みを感じつつも、僕は素直に首を振った。

 「それは僕が監督生じゃないからさ。どこにもバッジはついてないだろう? スリザリンの男子はクラッブだよ」

 ついでに一人で来ていた一年生を他の一年生が座っていたコンパートメントに入れてもらいながら返事をする。振り返って見てみると、ロンの顔には衝撃と、微かな喜びが浮かんでいた。

 ああ、そうか。多分グリフィンドールの監督生はハリーとハーマイオニーだろうし、寂しかったんだな。……それが嫉妬と結びつかないといいが。ロンには既に去年、「危機に瀕した友人を嫉妬に任せて放置する」という、それなりに大きな前科があった。

 

 内心不安を覚える僕を前に、ロンはわずかに笑いを漏らして首を振った。

 「嘘だろう? ぜーったいに君が選ばれると思ってたよ」

 「あんまりそういうことを言わないでくれ。クラッブに失礼だから。で、こっちに来るの?」

 「行く!」

 先ほどまでの不機嫌が少し晴れた笑顔で、ロンは元気よく返事をした。

 

 

 それからすぐに警笛が鳴り、ホグワーツ特急は見送りの家族たちを残して速度を上げ始めた。僕は荷物をたくさん抱えたロンからとても小さなコノハズクの鳥籠とリュックサックを預かり、ゴイルの待つ席へ戻る。ちょうどコンパートメントの前にたどり着いたとき、中から勢いよく黒髪の女の子が飛び出してきた。

 それは我らが悪戯四人組の一人、パンジー・パーキンソンだった。彼女は僕を見ると目を見開き、口に両手を当てた。

 「ああよかった! 本当に無事なのね? 身体は大丈夫? 生きてても、トカゲに変身したまま戻れなくなったとか、そんなとこだと思っていたわ」

 なんだそれは。どんな話の飛躍だ。

 「反応がオーバーすぎる。いい加減うんざりしてきたよ……久しぶり、パンジー」

 パンジーは両手が塞がっている僕の代わりに扉を開けながら、快活に笑った。

 

 「女子の監督生はミリセントよ! 一昨年のことを考えるとちょっと意外だけど、まあブルストロードだしね? さっき、監督生の車両の前まで一緒に行ったの。それで、クラッブからあなたのことを聞いて……マジでビビったわよ」

 入学した頃は箱入りお嬢様だったのに、この子は年々口調がウィーズリー化している。元気でいい……と言っていいのか、正直判断に困るところだった。ロンの荷物を仕舞い込むのをみながら、パンジーは話を続けた。

 「おったまげー、ね? 今年の男子の主席はセドリック・ディゴリーよ。相変わらず彼女といちゃついてて、頭が軽そうったら──」

 こちらの目線が厳しくなったことに気がついたパンジーは、鼻白んだように肩をすくめ、話を変えた。

 「新しい監督生は全員見たわ。レイブンクローはゴールドスタインとパチルの片方。ハッフルパフはマクミランとアボット、グリフィンドールはもちろん、『我らがチャンピオン』ハリー・ポッターとグレンジャー。まあ、あなた以外はぜーんぶ妥当って感じね」

 そこで、ゴイルと話しているロンの顔が少し曇った。これはよろしくない。慌てて話題を切り替えようとしたところで、タイミングよくウィーズリーの双子がやって来てくれた。

 これ幸いと挨拶を交わすが、またしても監督生のことについて二人は話し出してしまった。

 「やあドラコ、聞いたぜ? じゃあ君は、監督生になるというこの上ない不名誉を見事に回避してみせたわけだ……素晴らしい功績じゃないか、え?」

 双子の片割れ──多分フレッドが、腕を組んで満足げに笑う横で、もう片方──おそらくジョージが訝しげに首を傾げた。

 「一体全体どうやったんだ? 学期最後の日にスネイプの薬品庫を糞爆弾で吹き飛ばしたとか? 言ってくれればいくらでも手伝ってやったのに、つれないな」

 またしてもロンの顔がわずかに強張る。さっきはハリーの件だけだったのに、「ドラコ・マルフォイが監督生に選ばれないのは異常」という主張に関しても彼のセンサーは働き始めてしまったようだった。

 

 「そんなバカな真似はしていない。普通に……選ばれなかっただけだよ。ほら、パンジーを連れて行きなよ。そのために来たんだろう?」

 嬉しいことに双子はそのままパンジーを回収して、自分たちのコンパートメントに帰っていってくれた。しかし、その後にもザビニやノットを始めとした知り合いたちが次々にコンパートメントに顔を出し、そしてその度に僕の胸に監督生のバッジがないことに驚くものだから──そして、その度にロンの顔に不穏な色が走るものだから──僕はすっかり疲れ切ってしまった。

 ロンの様子に気付いたゴイルがチェスを取り出してくれたところで、ようやくこのコンパートメントを訪れる知り合いの列が切れた。昨夜の睡眠不足もあって、うつらうつらとしている間にも、ホグワーツ特急は田園地帯を飛ぶように進んでいった。

 

 

 列車が駅を出発して一時間ほど経ったころ、監督生の任務を終えてクラッブとハリー、ハーマイオニーが僕らのコンパートメントにやって来た。

 ハリーがずいぶんと勢いよく扉を開けたせいで、コンパートメントの中に大きな音が響く。不意の騒音に跳ね起きて入り口を見やると、焦燥がありありと浮かんだハリーがこちらをじっと見つめていた。彼らも他の子達と同じだろうと身構えてはいたが……そこに表れている必死さには、一瞬言葉を失ってしまった。

 後から追いついて来たらしいクラッブが、どこか満悦した様子で笑みを浮かべた。

 「ポッター、グレンジャー、お前らからも言ってやれ」

 クラッブに言われるまでもなく、ハリーは口を開いた。

 「あんまりびっくりさせないでよ!」

 その剣幕には、たじたじとなってしまう。

 「いや……だって僕にはどうしようもないし……」 

 なんで新学期早々こんなにも人に弁明する羽目になっているんだ、僕は。これがヴォルデモート卿と楽しくおしゃべりした代償だと言うのか。

 ハリーの後に続いてその隣に座ったハーマイオニーも、眉を顰めている。

 「監督生のコンパートメントでバッジをつけているクラッブを見て、私たちがどんな思いをしたか──」

 「クラッブに失礼だろう。それは」

 思わずハーマイオニーの言葉に言い返すが、当の本人であるクラッブは鼻で笑っていた。

 「いいや、微塵も失礼じゃないな。もっと言ってやれ」

 ちらりと窓際に座っているロンを見る。彼はずいぶんと熱心にチェスの勝負に打ち込んでいた。……いや、打ち込んでいるフリをしていた。不穏すぎる。どうにかこの会話の流れを切りたいが、入り口側に座った三人は、流石にこの雰囲気を感じ取ることができていないらしかった。

 

 クラッブが僕の隣に腰を落ち着け、コンパートメントの席はいっぱいになった。六人がけの席に七人以上で座っていた頃が懐かしい。

 監督生三人組は、相も変わらず注目を僕に向けていた。

 「それにしても、スネイプとやっぱり何かあったの? それとも、まだ三年生のときのことを怒ってるのかな」

 「ああ、いや……」

 ハリーの言葉に曖昧に返す。まさかここまで色々な人に弁明しなければならない目に遭うとは思っていなかった。完璧に、想定が甘かった。

 僕の代わりに、クラッブが重々しく首を振った。

 「いくらなんでもスネイプ先生の仕業ではないだろう。ルシウス・マルフォイとの仲もあるし、家格を無視できるレベルでドラコに()()()な問題はない」

 ずいぶんと「表面的」に力が入っていた。やっぱりまだお怒りは継続しているらしい。

 「じゃあ、ダンブルドアが? どうしてそんなことを……」

 首を傾げるハリーの隣で、ハーマイオニーは頭を振った。

 「信じられないわ。まさか、医務室でのファッジ大臣との話のせいかしら? あなた……一応ファッジ側だったもの」

 ハーマイオニーが気遣わしげに僕の方を見る。誰に聞かれてもあそこでの真意は煙にまき続けていたのだが、ハーマイオニーは僕が仲裁役を買った、という方に賭けているらしかった。信頼してくれるのは嬉しいが、あまり言いふらさないでくれると助かるのだが。

 

 ハーマイオニーの言葉に、クラッブは肩をすくめた。

 「ダンブルドアは耄碌したのかもな。歳をとって堪え性がなくなって、なりふり構わず純血一族排除に動いたとか。絶対に反発があると分かっていながら、こんな選択は不合理だ──」

 「君も純血一族だろう。ビンセント・クラッブ」

 いい加減、ロンのチェス盤を見つめる視線が固まりすぎだった。ハリーとハーマイオニーも気付いてくれ、頼むから。

 

 僕は話題を切り上げるため、ぱんと手を打った。

 「とにかくこの話は終わりだ! クラッブ、ハーマイオニー、ハリー、監督生就任おめでとう。三人とも、立派な五年生になってくれてとても誇らしい。不安もあるかもしれないが、君たちならしっかりと職務を全うできると信じているよ」

 

 「どこから目線?」

 「さっき首席のディゴリーが言ってたこととほとんど同じだったな……」

 「素でこういうことを口にしてしまえる人間を監督生に選ばないのは、少し無理があると思わないかしら?」

 口々に好き勝手なことを言う三人に負けそうになるが、なんとか気を保つ。

 「思わない! もういいから……そういえば、教科書の中身は確認した?」

 「昨日リストが届いたばかりだよ!?」

 声を上げるハリーを、ハーマイオニーが横目ですがめ見る。これは予習をバッチリ済ませた顔だ。僕は荷物棚から鞄を下ろして教科書を引っ張り出した。

 「今までのものを使う科目もあるだろう。今年はO.W.L.があるし、目次だけでも見て全体の目安を掴んでおいた方がいい……スリンクハードのやつは読まなくていいけど」

 そこまで言って、ようやく監督生の話は終わった。しかし……クラッブとハリー、ハーマイオニーが他の生徒の監督のために席を立つ時間になっても、ロンはゴイルとのチェスに意識を向けたまま一言も喋ろうとしなかった。

 

 不穏だ。果てしなく不穏だ。しかも、今回の嫉妬の対象はおそらくハリーとハーマイオニーだけではなく、「絶対に監督生になると思われていた」僕も含まれている。拗れてしまえば僕だけでの対処は不可能だ。

 このまま何事もなく時間が感情を和らげることを、僕は切に願った。

 

 

 

 


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