音割れポッターBBの知識だけでドラコ・マルフォイになってしまった   作:樫田

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書くのが久々すぎてこれまでの内容をよく覚えていません。
描写に矛盾があったら優しく教えてください。(ハーメルンのコメント欄ってそういう使い方をしていいのかも忘れています。)


授業開始初日

 

 新学期になってから初めて間近でお会いしたマクゴナガル教授の表情は、とても、とても厳しいものだった。当たり前だ。新学期早々、監督生が自寮から寮生を追い出すのも、他寮生が公然と外泊するのも前代未聞だろう。

 予想に反して、即座に雷が落ちることはなかった。彼女は額に青筋を浮かべながら──そしてその青筋を話が進むにつれてどんどん増やしながら──僕らの供述を最後まで、我慢強く聞き取った。けれど、事情聴取が終わった瞬間、もはや恒例行事と化している強烈な叱責が僕らに降り注いだ。いや、正確には、今回一番責任があるハリーに。

 

 「ハリー・ポッター。あなたは一体、監督生のバッジをなんだと考えて受け取ったのですか? 他の生徒に対し尊大に振る舞えるチケットとでも? 気に食わない寮生を追い出すのがあなたの最初の仕事ですか?」

 教授の鋭すぎる言葉が突き刺さるのが見えるようだ。ロンに対しての怒りがたっぷり残っているハリーは思いきり眉を顰めた。 

 「別に追い出そうとしたわけじゃありません。ロンが言ってはいけないことを──」

 ハリーの言い訳に、教授は厳しく首を振った。

 「それは分かっています。しかし、そこで怒りに任せて行動を取るのではなく、そのような事態に陥らないよう、冷静さをもって他の生徒を監督するのがあなた方に与えられた職務です。

 ダンブルドアも、そして私もあなたならそれができると信じて、監督生に指名したのですよ」

 

 「……でも、最初に挑発したのはロンです」

 さっきよりも落ちたトーンの反論に、マクゴナガル教授の片眉がピクリと動いた。けれど、意外なことに返答は静かなものだった。

 「そうかもしれませんね。監督生とは、特別な敵視に遭う職務であることは事実です。

 しかし、私はだからこそあなたはこの職にふさわしかった、いえ、ふさわしくなるべきだと考えています」

 

 なるほど。僕としてはむしろハリーの負担になるんじゃないかと危惧していたが、マクゴナガル教授は教育的試練となることを望んでいたらしい。

 不可解そうな表情をするハリーに、教授はまっすぐ視線を向けて話を続けた。

 「ポッター。残念ながら、今までもあなたの置かれている状況は特殊で、そして、これから更に特別とみなされることが増えると思います。周囲の人々は、何を考えているかではなく、どんな人間に見えるかであなたを測るでしょう。

 そのとき、あなたは人々から向けられる視線を乗り越えて、自分が何をすべきかを選ばねばならない。

 無理解な視線に傷つくのは当たり前です。しかし、立ち向かう力を持たなければ……状況に流されるだけになってしまう。自分がどのようにあるべきなのか、ありたいのか。よく、見据えて進む視野を持たなくては」

 ハリーの視線がどんどん下に下がっていく。マクゴナガル教授の言葉はずいぶんと効き目があったようだ。自業自得ではあるが、なかなか哀愁がある姿である。

 彼自身、監督生という立場になったあとのビジョンがあったのかもしれない。一晩でその立場にある名誉に、かなり大きい傷がついてしまった。ハリーだってこんな滑り出しを望んではいなかったろうに。

 

 そんなことを考えていたせいで、口からどう考えても言わなくていいことが滑り落ちてしまった。

 「まあ、ロンの反感が明らかに嫉妬由来である以上、ハリーが監督生として立派になればなるほど、二人の溝は深まりますし、ハリーの方からどうにかできる余地はあまりないと思いますが……」

 たちまちマクゴナガル教授の眉が元の位置に戻る。緑色の瞳がギッと音を立てるように、素早くこちらに向けられた。

 「何を他人事のように構えているのですか、マルフォイ。今回の件についてあなたにも、言いたいことがたっぷりとあります」

 ですよね。というか、先学期についても、本当はおっしゃりたいことが沢山あったはずですよね。申し訳なさすぎて、大人しく姿勢を正すことしかできない。

 

 マクゴナガル教授は息を整え、先ほどよりも声を張って続けた。

 「一つ目に、あなたは独断専行がすぎる! 監督生でもないのに、他寮のいざこざに軽率に首を突っ込んで、良い結果が得られると本当に思っていたのですか?」

 おっしゃる通りです。ぐうの音もでない。首を縮こまらせるが、叱責の勢いは止まらない。

 「善意であったかもしれませんが、こと対人関係に関してあなたは良かれと思って、考えなしのときに失敗する。あなたはあなたで、自分の手に負える事態なのかを判断できるようになるべきです。

 今回であれば、グリフィンドール寮に突撃する前に私を呼ぶという選択肢を持つべきでした」

 「でも、ネビルが──」

 

 僕の口ごたえを、マクゴナガル教授はぴしゃりとはねのけた。

 「人に頼られたら何もかも引き受けなければと考えているのですか? あなたは自分がどうにかできる範囲を過大に見積りすぎています。

 軽率な行動を取る前に、他人に頼る癖をつけねばなりません。私でも、あなたの寮監でも。周囲があなたを頼りすぎる以上、良い結果は一人だけでは導けないことが多いでしょう」

 身に染みる指摘だった。マクゴナガル教授の言葉の節々に、僕の昨年度までの行いに対する忠告がにじみ出ている。マクゴナガル教授は、やはりどんな生徒のことでも本気で心配してくれている。

 「……申し訳ありませんでした。肝に銘じます」

 大人しく頷くと、教授の瞳にあった厳しさがふっと薄れる。彼女は僕ら二人に向き直った。

 

 「ポッター、あなたは監督生の職務を放棄し感情的に振る舞いました。グリフィンドールは10点減点。マルフォイは了承を得てからとはいえ自寮の外で外泊しました。スリザリンは5点減点。

 今回のことは今後一年、いや、卒業するまで再び起こりうることでしょう。あなたたちに必要なのは、同じ轍を踏まないこと。いいですね」

 おや、罰則なしな上に、マクゴナガル教授にしては、かなり控えめな減点だ。しかし流石にこの状況ではその意外さを顔には出すべきではない。

 僕らは声を揃えて返事を返し、研究室を後にした。

 

 朝食に向かう道すがら、ハリーの足取りは重たかった。可哀想になってつい、君が頑張っていることはみんな知っている、マクゴナガル教授は公平だし、ロンからたっぷり点を差っ引くだろうからどうせグリフィンドールの得点はゼロだ、最初から完璧にできる人はいない、教授はこれから君がやれるって信じている、もちろん僕も、云々を言い続け、ようやく大広間の前でハリーは明るさを取り戻してきた。

 

 しかし、それは地下牢に続く階段を上がってきた人物の顔が見えた瞬間に、きれいさっぱり消えてしまった。遠目から見ても分かる、あの背の高い三人はクラッブ、ゴイル、それにロンだ。すでに顔が真っ赤になっているロンと心配そうなゴイル、どこか満足げなクラッブの顔を見るに、すでにスネイプ教授のところに行ってきた帰りらしい。

 大広間の奥をちらりと見てみると、案の定、グリフィンドールの砂時計はすっからかんだった。

 おまけに、クラッブとゴイルは大広間にそのまま向かってきたが、ロンは口をへの字にしたまま僕らをきれいに無視してすれ違い、そのまま僕らが来た方向──つまり、マクゴナガル教授の研究室へ向かっていった。

 

 二人と合流し大広間に入ると、ハリーは足を止めた。どちらのテーブルに行くか迷ったのだろう。去年度までなら、この組み合わせでスリザリンに行かないという選択肢はない。

 けれど僕が口を出すより早く、クラッブがハリーの肩を叩いた。

 「ポッター、仕事をしてこい」

 ハリーは少し目を丸くした後、クラッブに頷いてグリフィンドールのテーブルへと向かっていった。ちらりと見たところでは、やや好奇の視線を向ける他のグリフィンドール生も、そこまで悪感情を持っている様子でもない。ロンのことは先行き不透明だが、監督生としては心配いらないのかもしれない。

 

 いつまでも入り口に突っ立っていられない。僕らは三人でスリザリンテーブルに席を取った。早速クラッブに訊ねる。

 「で、どのくらいスネイプ教授に持っていかれたんだ?」

 「スリザリンは減点なし。グリフィンドールは50点引かれた。土曜に地下牢でナメクジの下処理。魔法なし」

 クラッブはベーコンをいくつか皿に取りながら淡々と答えた。おお、重たい。むしろ得点のほぼない初日で良かったね、という印象だ。

 「この後もたっぷり絞られると考えると、ロンはさらにヘソを曲げそうだな……マクゴナガル教授が二重に罰をかけなきゃ良いけど」

 希望的観測を口にするが、ゴイルがかぼちゃジュースを前に、残念そうに眉を下げた。

 「今回は期待しないほうがいいよ。でも、ロンも昨夜はけっこう落ち込んでたんだよ?」

 「だろうね。その様子をストレートにハリーに見せてやれれば話は早そうなんだけど」

 「無理な話だ」

 ばっさりと切り捨てるクラッブに、僕とゴイルは深くため息をついた。ゴイルはこの三人の中で一番ロンと親しい。しわ寄せも大きいだろう。

 

 しばらく黙々とトーストを口に詰めていたが、ふと別の懸念が頭をよぎった。

 「そういえば、僕は呼び出しなし? ハリーのことはマクゴナガル教授が処理したから、スネイプ教授もこれから追加して罰則はしづらいだろうけど。こっちの無断外泊はお咎めなし?」

 クラッブはぎゅっと眉を顰めた。

 「それが意外なんだ。後から手を回してくるかもしれない。気をつけろよ」

 口調にはありありと不信感が表れている。スリザリンの監督生よ、それでいいのか?

 

 もっとも、僕としてはそこまでホグワーツ教師としてのスネイプ教授について、懸念を持ってはいなかった。お互い、学校の日常生活にかかずらっている場合じゃないのは分かっているだろうし、寮間宥和がここまで進んだ状況で、たかが減点や罰則でぐちぐち言うメリットもない。

 ただ、昨年末から彼の言動は読みきれていなかった。そもそも本当にダンブルドア側なのかが、僕の手元にある情報だけだと証明できないし……

 ぼんやりと考え事をしていると、新しい時間割がスリザリンのテーブルを一人でに飛び回り始めた。普通は寮監が配るが、スネイプ教授はお忙しいらしい。

 「1時間目は何になったんだろう?」

 ゴイルの言葉にポリッジの大鉢すれすれを滑ってきた時間割を覗いてみると、月曜日の1時間目は──変身術。最高だ。

 その後の魔法薬学は見なかったことにして、僕はさっさと朝食をかき込み、準備をするために地下牢へ走って戻った。

 

 

 変身術で上向いていた気分は、その後のグリフィンドールとの合同授業で、かなり下方修正されることになった。もちろん、スネイプ教授が相変わらず生徒いびりを続けているというのもあるし、O.W.L.を前にして『安らぎの水薬』というなかなか厄介な課題に初日から当たったというのもあるが……やはり問題はグリフィンドール生だ。

 

 ハリーはマクゴナガル教授の諫言を真剣に受け止めて、できるだけ周りの模範になるように気をつけているようなのだが、明らかに劣等感を突かれたロンがそれをバカにしている。

 魔法薬学の教室で後ろの方の席にディーンとシェーマスと座り、前の方のハリーに視線を向けながらクスクス、スネイプ教授に意地の悪い言葉を投げかけられているのを見てはクスクス、ネビルが落とした道具を拾うハリーを見てはクスクス。

 どこか力みというか、本心からいじめを楽しめている笑い方ではないものの、十二分な不愉快さだ。いや、自己防衛じみたところが見える分、なお見苦しい。

 ロナルド・ウィーズリー……君、本当にグリフィンドール生だよね? ロンの持ちうる残酷さが遺憾なく、いや、遺憾極まりなく発揮されている。隣の二人もちょっと困っているし、そろそろハリーがキレそうだ。

 

 「見てられなくなってきた。回収してくる」

 空気が限界を迎え始めたところで、準備を口実にゴイルがロンを巻き取りに行った。ハリーはクラッブと同じ机になり、僕はハーマイオニーと横並びで作業を始める。

 ゴイル、我が幼馴染ながら面倒見が良すぎる。しかし親友の成長に感涙している暇はなく、今度は理不尽に友人二人が死ぬほど険悪になってしまったハーマイオニーの愚痴がこちらに向けられることとなった。

 スネイプ教授にバレないよう、ハーマイオニーはほとんど唇を動かさずに囁いた。

 「ああ、本当にもう──1時間目が魔法史だったの。ロンとハリーは去年までほとんど寝てたんだけど、ハリーは今回は頑張ろうとしてて、でも昨日あんまり眠れなかったらしくて──で、ちょっとだけよ? うつらうつらしてた格好をロンがマネしたの」

 おお、終わってんな。眠れなかった原因はロン、君なんだけど。

 しかし、ハーマイオニーはまだ続けた。

 「そうしたらハリーが……『君も起きてる努力くらいはしたら。ハーマイオニーのノートを持ち込ませてくださいって、O.W.L.の試験官に泣きつくつもりじゃないんだったら』って……」

 おい、ハリーもハーマイオニーを巻き込むのかよ。しかも絶妙にロンの劣等感を突くところを……

 そこでスネイプ教授がこちらに近づいてきて、僕らは『安らぎの水薬』の調合に集中し直した。元々片手間にやるにしては少々厄介な作業が多い。

 とはいえ、僕もハーマイオニーも問題なく調合を終えた。喜ばしいことにハリーの大鍋も──この薬は完璧に調合すれば軽やかな銀色の湯気が立つのだが──液面に銀色の湯気が漂っていた。ハリーの魔法薬学の才能は徐々に開花してきているようだ。なお、後方で淡い緑色の湯気が上がる大鍋を前にして顔を顰めているロンは見ないものとする。

 

 授業が終わり、昼食の時間になった。僕らは魔法薬学の机のペアのまま、二人ずつで大広間に向かう。そのときには、ハーマイオニーの愚痴は去年の三大魔法対抗試合のところまで遡っていた。

 別にうんざりしたわけでもないが、そろそろ彼女の気分もマシにしたいところだ。そこで、一ついいニュースが頭の中に浮かんだ。

 「ああ、そういえば君に伝えておきたいことがあったんだった」

 唐突な言葉に、ハーマイオニーは歩きながら訝しげな顔を向ける。

 「屋敷しもべ妖精の待遇改善のことだけど。

 この夏、ファッジ大臣とビンクが顔を合わせることがあって、というか闇の魔術に対する防衛術のカリキュラムについて、ビンクにかなり事務処理を任せていた関係で、大臣のお手伝いみたいなことをビンクにしてもらうことがあって──

 まあ最終的に、ファッジ大臣は大いにビンクの優秀さに感服されていたよ。なんなら、僕がホグワーツにいる間は、ビンクはもっぱら大臣付きみたいになるかもね」

 まあ、大量殺人鬼が突撃してくる危険性満載の実家に大切なおばあちゃんを残しておきたくないがため、僕が後押ししたという裏事情はある。しかし、概ねファッジ大臣がビンクを気に入っているのは事実だった。

 僕の言葉を聞き、ハーマイオニーの顔はみるみる明るくなる。

 「それって、大臣から、S.P.E.N.D.Sに支援を得られる可能性があるかもしれないってこと?」

 「まだそこまでは。でも、扱いによって屋敷しもべ妖精の能力が変わるっていう印象づけには成功したと思う」

 今やハーマイオニーは飛び上がらんばかりだった。相変わらず、屋敷しもべ妖精に関する彼女の熱心さは常軌を逸しているところがある。

 「ありがとう! 配り続けているビラが大臣の目に入れば、ビンクのことと繋げてもらえるかもしれないわ!」

 そうして、僕らはグリフィンドールのテーブルの端っこで今後の方針を立てながら短い昼食の時間を過ごした。

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