生物を殺すは重し
故に我らは、常に彼らにとっての簒奪者だ。
■ ■
炎が咲く。炎が荒ぶる。炎が猛る。
荒々しく、それこそ津波の様に大きく畝りを上げて、火炎が荒は廃した大地を燃やし尽くしている。
火炎の海。煉獄の大海。山本重國が持つ最古の斬魄刀、流刃若火が引き起こす炎は、全ての死神に恐れられている。
全てを焼き尽くす炎。真の力を解き放てば、尸魂界と自身すら燃やし尽くしかねない程の炎を内包している斬魄刀。
されど―――
「熱いな、これ」
死神は、それを意にも返していない。
それどころか、禍々しい妖気を纏った野太刀を握る右手を振り払い、剣圧を引き起こし、たったそれだけで炎を掻き消す始末。
それだけで、二人の最強は理解する。否、理解させられた。
コイツは―――本当の意味で、危険だと。
「良いな…俺も、あんたみたいな事をしたい。」
「……何だと?」
まるで、子供が玩具を欲しがる様な目で、山本重國が持つ炎熱系最強の斬魄刀―――「流刃若火」を見ながら、死神はそう呟いた。
「さっきの炎…熱かったけど、なんか強そうだった。俺も出来るのかな?」
例えるなら、そう。特撮ヒーローを見て、その技を自分もやってみたいと思う純粋無垢な子供の様。
自身が持つ、禍々しい妖気を刀身に纏う野太刀を構え上げ、その鋒を和尚と重國の二人へと向ける。
「そういえば、その刀を使う時に何か言ってたよな…俺も、何か言えば使えるのかな―――なぁ、どうなんだよ。」
問い掛ける。が、それは決して目の前の二人に向けて言い放った言葉ではない。
死神が問い掛けたのは、己が斬魄刀。今、己が握り締めて敵に向けている刃へと、それを問うているのだ。
ドクンッ―――と。その刃が、僅かに揺れた。斬魄刀が、その問いに答えた。
その答えを聞いて、死神は、
「―――そっか。それが、お前の名前ね。良いじゃん。」
心の底から、満足した様な顔をした。
そして、その名を呼ぶ。
「生きろ――――――死太刀」
瞬間――――――
何もかもが、死に侵された。
空が死んでいく。青い空が、色を失って鉛と化していく。
大地が死んでいく。明るかった地面が、くしゃくしゃになった紙の様に脆くなっていく。
空気が死んでいく。清々しいと思えていた酸素が、息絶えて無くなっていく。
何もかもが、死んでいく。更木という区域に在る有象無象の全てが、悉く息絶えていく。
死んでいく、死んでいく、死んでいく。消えていく、消えていく、消えていく。
朽ちていく、朽ちていく、朽ちていく。崩れていく、崩れていく、崩れていく。
殺されていく、殺されていく、殺されていく。亡くなっていく、亡くなっていく、亡くなっていく。
歴史が死んでいく。建物が死んでいく。
人々が死んでいく。知識が死んでいく。
死体が死んでいく。概念が死んでいく。
空間が死んでいく。時間が死んでいく。
兎に角、何もかもが―――死んでいく。
その解号に似合わぬ力に、二人の死神は気圧された。古くからこの世界を生きている古の死神ですら、その力に気圧されたのだ。
妖気の正体とは、即ち死そのもの。この世界に存在する、ありとあらゆる全ての死である。
この世界に存在するあらゆる黒を司る和尚が居る様に、今、その和尚の目の前にはありとあらゆる全ての死を司る力を持った男が居るのだ。
やはり―――同類だ。
「同じよな、やはり―――黒めよ、“一文字”」
筆の鋒が太刃となり、死神が鋒を此方に向けた様に、同じくして鋒を向ける。
「この世に存在する、あらゆる黒は―――儂のモノじゃ。」
「―――格好良いね。結構好きかも。」
今、この時。
黒と死が、対峙した。