理事長が告げる。
それはとっても気高くて、とっても残酷な言葉。
まるで棘付きの花のよう。
求める者のうち、その言葉を真にするのはたった一人。
そこの子も、あそこの子も、いずれ私とその座を奪い合う事になる。
それでもなおその座に挑むと誓った。
だから私は理事長を見据え、心のうちで叫ぶ。
唯一抜きん出て、我に並ぶ者なし。
さて、入学式はつつがなく終わった。
私は今両親との集合場所に向けて歩いている真っ最中。
周りには、私と同じ新入学生のウマ娘達がごった返していた。
「うひゃあ、すごい人数…こんなんじゃ集合場所着くのにだいぶ時間かかっちゃうな」
私は思わずそうぼやいた。
さすがはマンモス校と言ったところか。体勢を変えることすらままならないような混み具合で、みんながゆっくりと学園の正門の方に移動していく。
このペースで行ったら正門まで何分かかるか分かったもんじゃない。ちょっと回り道してでも、別のルート見つけたほうが早いだろう。そう判断した私は、ギュウギュウ詰めになっている新入生の列からなんとか抜け出して脇道に出ることにした。
人と人との合間を縫って端に端にとずれていく。
昔から、この人混みスルスル行くのだけは得意だったんだよね。
とはいえこんなにも混んでいるとその特技も大した役には立たないようで。結局私は密着しきったウマ娘の壁を力技で突破するのだった。
「アイタ、足踏まれた。あ、すみません通ります。通ります。んんーっ…っぷはぁ!」
ふぅ、なんとか抜けた。
振り返れば、私が出てきた穴など一瞬で消えた歩いていくウマ娘の壁。もう列には戻れそうもない。
私は圧迫から解放された体をほぐすように、軽く伸びをした。
人が密集していて熱がこもっていたからか、列を外れた今は少し涼しくも感じる。
さて、他の出口に向かう道でも探そう。
そう思い私が動き出そうとしたその時、新入生の列からニュッとウマ耳が突き出てきた。
「…?」
「んー!んー!」
困惑して私が眺めていると、さらにそこからズボッと両手が突き出してくる。
しかしウマ娘の列でできた壁を突破する事は叶わなかったようで。
プルプルと震え力を込めているようだが、手よりも先は列から出てこない。
バタバタと手が動く。
なんとか列を出ようとしているようだけど、やっぱりうまくいかないみたい。
…なんか必死だし手伝ってあげよっか。
「えっと…そこの子、出るの手伝うね」
私は列から飛び出している手をそっと掴む。
その手は一瞬ビクッとした。まあそりゃいきなり手掴まれたら驚くよね。
しかし、手はすぐに受け入れるようにこちらの手を握り返してくる。
よっぽど列から出たいんだなぁ。
気持ちはわかる。ちょっと苦しいもんね。
私はその手を思い切り、グッと引っ張った。
☆☆☆☆☆
まず目に入ったのは、綺麗なピンク色の瞳でした。
大きくて、吸い込まれそうなほど澄んでいて。
目の中に星の模様があって不思議…って、これは私が言えたことじゃないですね。
垂れ目なのに、じっとこちらを見据えてくるその目にはどこか迫力があって。芯があるその眼差しに私は少し気圧されました。
“ヒュウ…”と風が吹けば、綺麗な黒髪が靡く。
胸あたりで切り揃えられたそれはローツインテにまとめられていて。
右耳につけられた白いリボンの髪飾りが、黒髪によく映えていました。
「あなたは…」
…はッ!
いけません、見惚れてて感謝をいうのを忘れていました!
私は姿勢を正して、彼女の目を見て口を開きました。
「ありがとうございます!助かりました!サクラバクシンオーです!新入生同士、これからよろしくお願いします!」
うんうん。我ながら、ハキハキとした良い自己紹介です。
さて、この子の名前を聞きましょう…って、あれ?
目の前の彼女は、なぜか目を見開いて動揺していました。
小声で「やっぱり」とか「こんなことって」とか呟いていますが…どうしたんでしょう?
うーん、ちょっと声が大きすぎましたかね…?
「あ、いや、えっと…あのね。ちょっとデジャヴを覚えちゃったっていうか。初めて会った気がしないような、数年後に…いや数年前に友人だったみたいな、そんな気がしちゃって」
私と目が合い困った顔に気づいたのか、ハッとした彼女は手をわちゃわちゃと動かしながら早口でそう捲し立てました。
アワアワとしているその光景がちょっと面白くて、私は思わず吹き出してしまいました。
「あー!笑った!私は真剣に言ってるんだよ!」
でも、デジャヴですか。
むむむ…あながち間違いじゃないのかもしれませんね。
私も彼女のピンクの目を見た時、どこか他人じゃないような気がしましたから!
ここで出会ったのもきっと何かの縁でしょう。
私はさっきから繋いだままだった手をギュッと握って、ぷりぷり怒っている彼女に謝りました。
ピンク目同士、仲良くしましょう。
「あ、握りっぱなしだった。ごめん、離すね」
「いえいえ、先程は本当に助かりました!いやはやここまですごい混み具合になるとは…」
「ほんとにね。さすがトレセン学園」
ふふっと彼女が小さく微笑む。
チラリと見ればいまだにウマ娘達の列は途切れてないようです。
いまだにあそこの中にいたら、押しつぶされていたかもしれませんね。
…というか、この子はよくあの列を突破してこれましたね。
私は目の前の少女をじっと眺めました。
力技だけで突破してくるほどムキムキにも見えませんが…。
むむむ、私が知り合ってしまった子は実は結構な大物だったのかもしれませんね。
確かに彼女の言う通り、さすがは名高いトレセン学園。
並のウマ娘はいないようです。
「改めて、学び合う同級生としてよろしくお願いします!」
私がそう言うと彼女は息を飲み、そして嬉しそうに笑うと頷きました。
きっと彼女とはこれからも関わっていく。
同級生として。そして、競い合うライバルとして。
なぜかはわかりませんが、そんな予感がしました。
…あ。
「そういえば、
─────それは、なんて事ない独り言。
でも私がそう言った瞬間空気がガラリと変わりました。
そう、なんというか。
ウマソウルが震えるような感覚、というべきでしょうか。
彼女から伝わってきたのは、高揚?闘争心?
「ああ…そういえば。そうだね」
彼女は、首にかけたネックレスに付けた銀の飾りを握りしめ、目を閉じました。
それは何かを祈るようで。
何かを詫びるようで。
私にはその光景がとても美しいように感じました。
彼女にとって、とても大事なことなのだとなぜかわかってしまいました。
その名が彼女にとってどんな物なのか。
私に名乗る事に、どんな意味があるのか。
私にそれは計り知れませんでしたが、思いの大きさだけは。
だから私は、ただ彼女を待ちました。
ちょうど空に雲がかかって私たちのいる場所に影ができると、ゆっくりと彼女は目を開きました。
そのピンクの瞳は、少し爛々と輝いているように見えて。
「初めまして、
「イースター、カクタス」
じっと見つめられた私は、その目の中に渦巻く感情の熱に息を飲みました。──────
口調トレースが1番苦手
誤字報告ありがとうございます