超昂大戦SS 合縁奇縁! はみ出し閃忍たちと頭領の決断   作:環 藍河

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※原作第2部10章(2023年5月現在最新話)までのネタバレを含みます。


第2章 共存共栄! 迷える閃忍に安らぎの抱擁を

(ふう…)

ライカの裁定を終え、3日ぶりに自室に戻ったトキサダ。

(やっぱりライカは、何をしでかすか読めない…委細は明日考えよう。)

シャワーは済ませたばかり。明かりを消し、このまま床につこうと自分のベッドに潜り込む。

 

 ふにゅっ。

 

(ん…?)

 

先客は、ベッドを温める小動物。

「トキサダ頭領、ハロー。」

「…おかえり、イノリ。」

ちょくちょくこうして寝床に潜り込むイノリ。トキサダも、すっかり慣れてしまった。

だが今日は…波瀾万丈のネオノロイ党との一戦に、上弦衆総力結集のノロイ退治、さらに三日三晩の捕物劇と、裏切り者の誅伐…諸々の擾乱にやっと幕を引いての、特別な添い寝。

 

「ライカはどうなるの?」

「罰は与えるが、数日で終わるよ。あいつなら、きちんと勤め上げるさ。」

「むー…私のせい?」

「…そうでもない。ライカ自身の早とちりと、やり過ぎが原因だ。」

「うん。ライカはすごかったぞー!」

「…なぜ尊敬の念を込める、イノリ?」

イノセントなイノリが、日に日にライカに毒されていく…。

 

「まあ、イノリを護ろうと必死だったんだろうが。」

「…あ。」

(…?)

 

「私…ライカに護られた?」

「…お前、もしかして、わかってなかったのか?」

「ん…今も、わかってない。」

 

トキサダは、ライカの行動の意味を易しく説明する。

反撃をするなと念を押したのは、想破にイノリが戻れる可能性を残すため。

二手に分かれて追っ手を分散させたのは、イノリが全力で反撃しないように手を回すため。

そして何よりも、逃亡途中でイノリを残して投降だってできたライカが、最後までイノリと同行したことの意味…。

 

「何で…そこまでしてくれたんだろ…?」

「…俺にもわからん。」

「やっぱりライカはすごいなー。弱いくせに、私を護りきった。」

ぎゅっ。

(…?)

枕を抱き寄せるように、イノリがトキサダの胸ににじり寄る。

「私…ライカのおかげで、トキサダ頭領にまた会えた…。

逃げてる最中、ずっと頭領に会いたかった…何でだろう?」

(な…?)

 

「こんな、くそダサベルトろりこんヘンタイやろーなのに…」

「いろいろ、台無しだなあ!!」

 

……

 

「…私…ノロイを倒した後、ぜんぶどうでも良かった。狩りたい、倒したい、潰したい…そんな敵が居なくなったら、私…からっぽだった。」

「イノリ…?」

「それに、みんなノロイに死にものぐるいで立ち向かった。だから今度はみんな…ゴウカもフウカも、せつにゃやこいぬも…もしかしたらルビーもハルカも…ノロイの次は私をノロイと同じくらい憎んで、怖れて、恨んで、潰すんだって。

だから…私は、消えた方がいいのかなって…。」

「なっ…!」

暗がりのベッドの中、イノリの肩は…いつになく小さい。

 

「バカなことを言うんじゃない。俺は…」

「…だから、トキサダ頭領に会いたかった。

ノロイの力を吸い上げて戦う…私がノロイと同じだって知ったトキサダ頭領は、どう思うのかなって。」

目を見据えて諭すトキサダに、今の本心を答えるイノリ。

 

「頭領が『帰ろう』って言ってくれたとき…胸がぽかぽかした。

ここに帰れて、敵じゃないみんなにまた会えて、ほっとした。」

普段から眠たげな目をさらにまどろませ、イノリは心からの安堵の眼差しを向ける。

 

「…トキサダ頭領…教えて。」

「?」

「トキサダ頭領は…なんで私を討たないの?

今日だけじゃなくて、びしょうじょが襲ってきたときも…ううん、山の中で初めて会ったときから、ずっと…。」

「イノリ…?」

 

「私は…トキサダ頭領の大事なものや大事な人を、めちゃめちゃに壊すかもしれない。

りるかの心臓でノロイが目覚めたみたいに、何かで自分の気持ちが明日突然変わって、頭領やみんなを襲って殺して回る私になるかもしれない。」

「…今はそんなこと、したくないだろう?」

「…今は。でも…明日もこのままでいられるか、私にもわかんない。

たぶん私、誰かがもう一回りるかの心臓引っこ抜いて私に押し込めば、ノロイと同じくらい暴れて、じょうげんしゅうも潰せる。ルビーやエスカレイヤーとも戦って、倒せる。」

 

「…そのときは、悪いのはイノリを操った奴だろう。イノリは悪くない。」

「ううん…誰にも操られなくても…私、みんなを殺すかもしれない。

前にびしょうじょに襲われて、剣で胸を刺されたとき、私…心が黒く染まった。

自分を殺そうとする者、襲う者…みんな憎めばいいんだって。

あのままぜんぶ憎んで…びしょうじょもトキサダ頭領も、みんな殺せばいいんだって、本気でそう思った。

頭領が叫んで止めてくれなければ、きっと本当にそうしてた。」

「ああ…。」

 

イノリは認めていた。自らの中に今も眠る魔性を。

 

「どうしよう…またあの気持ちになったら…。

次も、その次も、その後も…。

私、ちゃんと自分を抑えられる自信、ない…!」

(!!)

 

自分に見つけた、おぞましい破滅の因子。

自らの闇の深淵を語る少女は…依る瀬を失ったように怯え、トキサダの目の前で哀しくうずくまる。

 

……

ほんのわずかな時間だけ、沈思黙考し。

言葉を選んだトキサダが告げる。

「イノリ…自分が怖いんだな。」

「…そっか。」

世界だって滅ぼせる自分を覆う、弱くて情けない感情を…イノリはこのとき思い知った。

 

 

「イノリ…その感情は正しい。

自分が怖いのは、そのままでいいんだ。」

「…こわい、まま? 自分が?」

 

「俺も自分の中に魔王がいる。今この瞬間にも人類を滅ぼしかねない、その崖っぷちで踏ん張っている。

これまでもノロイだけじゃなく、アルダークやオルタナスタイン…いろんな敵と戦ってきた中で、自分が滅びの魔王になりかけたことも、2度や3度じゃない。」

「おお…ギリギリバーサーカー…!」

「そんな俺が、自分は抑えてみせる、って強がりながら、イノリは手に負えない、目覚める前に消す…なんてのは、自分勝手だろ?

…これが、俺がイノリを殺さない理由の1つ目だ。」

(…1つ目?)

 

トキサダが言葉を続ける。

「2つ目。自分の力が怖いのは、暴走ギリギリの俺やイノリだけじゃない。君が知っている閃忍たちや超昂戦士、神騎も魔女も…みんなそうだ。」

「…みんな?」

「ああ。どんな力も、善くも悪くもなる。昨日まで正義の戦士でも、今日は自分の大切なものを…ときには自分自身を壊すかもしれない。

…そんな恐怖を、イノリだけじゃなく、みんな背負っている。」

 

イノリは怪訝そうに首を傾げる。

「自分を壊す…?」

「そうさ。護るべき相手を傷つけてしまったとき、その痛みは自分を傷つける。

例えば、もしもイノリが我を忘れて、俺たちを殺すことが万が一あったなら…苦しいだろう? それが、自分で自分を傷つける行いだ。」

「あっ…!」

 こくり。

 当惑し、伏し目がちだったイノリが、ようやく得心したようにうなずく。

「だから、俺達と同じく、イノリにも自分の力に向き合ってほしいし、君ならできる。」

 

「でも…頭領…。私のは、自分でどうにもならないよ。この先ずっと間違えないなんて、自信無いよ…?」

「ああ…心配するな。間違えたっていいのさ。そのときも、やり直せる。」

「えっ?! そんな、むちゃくちゃ…!」

イノリが我を忘れたときは、世界が滅びかねないが…?

 

「…そうだな。イノリ、やり直しに成功した戦士の話を教えてやろう。」

「…そんな人、いるの…?」

聞くのは怖いような、でも、わくわくするおとぎ話のような…無いまぜの気持ちでイノリが食い入る。

 

「前に俺達は、ある敵を倒した。ダイビートを全滅させようと、手始めに学校を襲い、立て籠もった敵だ。

だが、とどめを刺した戦士は、倒してしまったことを悔やみ、涙を流した。」

「…どうして?」

「彼女は戦いの中で、敵の過去の記憶に触れて…相手にも護りたいものがあることを知ったんだ。

だが…敵は強かった。全力を出さないと立ち向かえなかった。

俺達は勝利したが…相手を消滅させてしまった。」

「…。」

「基地に戻ったとき、その瞳に勝利の喜びは無かった。ずっと唇を噛んでいた。

『敵だから倒せばいいなんて、私には思えない。自分にもっと力があれば、倒さずに助けられた』…と。

彼女は…自分の力が及ばなかった、力を正しく使えなかったと言って、泣き明かした。」

 

「そんな…それじゃ、その人はどうしたの? 後悔して、戦士…辞めたりしなかったの?」

 

「いいや。その後は…今でも。

自分はまだまだだ、もっと強くなって、次に同じことがあったら、今度こそその人を護るんだ、って決意して、今日も頑張っているよ。

イノリでも簡単に倒せないくらい強くなった、今でもな。」

(…あれっ? その戦士って…?)

 

「イノリ…間違えたって、いいんだ。

俺の戦士が自分の力に苦しむときは、長官として一緒に苦しむ。

俺の閃忍が迷うときは、頭領として道を示し、間違えたなら一緒に裁きを受ける。

俺の神騎も、俺の魔女たちも。

…イノリもその一人さ。君の力の使い方は、俺も一緒に考え続ける。間違えそうになったとき、その前なら俺が止める。その後なら俺も責任を取る。

だから、イノリ…頑張ろう。」

「頭領…!」

 

そして。

「俺がイノリを殺さない理由、最後の3つ目。

…これは俺が何度か魔王になりかけて、そのたびに踏みとどまったときの経験もあるけどな。」

「むう…セルフ人体実験…!」

茶化すでも、呆れるでもない、イノリの真剣な返しを聞いてか聞かずか、トキサダが言葉を続ける。

 

「…それは、イノリの心の暴走を止める仲間が、ここにはたくさん居るからだ。」

「仲間?」

「俺が魔王の力に呑まれそうになったとき、いつも思い浮かべるのは、俺を信じてくれるユーノやアズエルやアカリたち…仲間達だった。

自分に正しさを期待し、願ってくれる大切な人の存在が、俺に一線を超えさせないブレーキになる。

たとえ自分が間違いそうなときでも、その人を忘れない限り、元に戻れる。

この人のためにも、自分はもう一度正しい方に進みたい…そう思わせてくれる。」

「むう…。」

「イノリにも、そういう仲間がいるだろう? 俺だって、イノリにとってのそういう存在になりたい。だから、大丈夫だ。」

「頭領…。」

 

思い浮かべたのは、カンザエルとの戦いの中、ノロイに喰われ、溶けていった自分の五体。

自分がノロイに根を下ろし、自分のあるべき姿に還るような感覚。

このまま自分はノロイになるのだと、溶ける意識の中…。

 

脳裏に蘇ったのは、ライカやアカリや、ユーノやトキサダとの、他愛もない日々のやり取り。

それは澱だと。不要なノイズだと、ノロイは断じた。

だがその心が、イノリの根をノロイから切り離し、渡りかけた三途の川からイノリを閃忍に引き戻したことを…イノリは思い出した。

 

……イノリは呟く。

「…命は、正しい事に進んでこそ。

磨いてこそ、価値が出る…。」

「…それは…。」

「ハルナが言ってた。見ず知らずの私に、何も判らない私に、正しさを願ってくれた…!」

 

ああ…そうか。

私がいま『正義のために戦いたい』って思うのは…。

ハルナやトキサダ頭領が、私に期待してくれること。

でも、みんなを見て、私が選んでいること…!

 

 「戦部…いくさべ…」

 

さらに思い浮かべ、無意識にイノリが口ずさんだ二文字は、トキサダと自分を、そしてハルナと自分を繋ぐもの。

 

何度も口ずさんだ。

そのたびに、トキサダと、ハルナと。

心が繋がる感じがした。誇らしかった。

自分が生きる意味を、与えられたように感じた。

「これでいい。」ともらっただけの苗字なのに、そのたった4音の苗字は…2人と出会って閃忍になったあの日から今日まで、ずっと自分に道しるべを灯してくれる。

 

「…頭領…。」

「…イノリ、どうした?」

「私…やっぱりここに居たい。頭領に名前を呼ばれて、ライカと一緒に動いて、みんなと混ざりたい。

その代わり、ノロイに墜ちないように頑張る。

…ダメだったときは、トキサダ頭領が私の心臓引っこ抜いてプリーズ。…いい?」

 

「…万が一、そんなことがあったら、な。

…俺も、イノリがここに居たいと、そして正しく力を使いたいと思ってくれるような頭領になる。改めて…よろしくな。」

「…トキサダ、頭領…」

甘えるように、まどろむように。

上目遣いで見つめるイノリに、トキサダの鼓動が高ぶる。

 

庇護欲のような。でも、それだけではなく。

愛のような。でも、恋人とも、家族とも異なる距離感で。

 

「イノリ…!」

(あっ…!)

三日三晩戦っても、イノリの淫力は無尽蔵。

それでも、トキサダは優しく逞しく躰を包む。

 

とくん、とくん、とくん…

 

その胸から伝わるのは、受け入れる胸の鼓動と肌の温もり、そしてどこか懐かしい淫力。

 

(あった、かい…。)

 

ベッドの残り香が濃縮されたかのように、強くイノリの鼻腔を、肺腑を、五臓六腑を。

久方ぶりのトキサダとの触れ合いに、全身を熱く心地よく包まれ…。

 

(頭領に、護られてるんだ。私…。)

 

皆に怖れられ、自分すら自身を怖れた、イノリの長い家出が終わった。

今はトキサダの胸の中、深く息を吸い…。

……

 

…!!

 

「…ライカの匂いがする。頭領、さっきライカを抱いたな。」

「っ!?」

シャワーは十分浴びたのに。イノリの野性的嗅覚、恐るべし…!

「そ、それは、あいつを諭すために…!」

「やっぱり頭領はヘンタイだ。体で言うこと聞かせる、くそSろりこんベルトやろーだ。」

「そういう言葉をっ! どこで覚えてくるんだっ!」

 

図星を衝かれてうろたえ、逆ギレ気味のトキサダの声が寝室に響く。

だが、イノリの心に去来するのは。

 

《うああ~っ!! ダメだこいつっ、もうツッコミきれないっ!

生きる意味が無い!? 消えたい? 死んだほうがいい?!

あんた、こんだけあたしら散々振り回しといて、誰とも接点ないとでも思ってんの!? バカなの?!》

《…ライカ、何を怒ってる?》

 

ライカの匂いで思い起こした、逃亡中のライカの嘆息。

(…あっ。)

あのとき気づかなかった意味が、トキサダの説諭と重なり…イノリの腑に落ちる。

 

ハルナもトキサダも、ユーノも閃忍たちも。

私がここに在ることを、みんなが望んでいるんだ…。

 

……

「こらっ、イノリっ、聞いている…の…か?」

 

 (…すう…。)

 

「…寝たか…。」

 

世界を恐怖に突き落とすほどの力を秘めた少女は…今は優しくあどけなく、満ち足りた心持ちのまま…トキサダの傍らで無防備な寝息を立てる。

 

まだまだ、自分はわからないけど…。

それでも、今は少しだけ、生きたいと思える。

居てほしいと望まれることを、嬉しく思える。

 

わからない自分の中には、こんな温かい気持ちが、もっとあるのかな…。

そうだったら、いいな…。

 

夢心地のイノリの、小さな願い。

叶う未来は…また別の話。

 

 




筆者です。投稿間隔めちゃくちゃ空いてしまい、ご迷惑おかけしております。
第2話、お届けします。
超昂大戦は母娘乱館コラボ中で、こちらのSSは旬を逃し気味ですが…末永く、この先イノリたちが活躍する中で、時々読み返していただけるような中身を目指して書きました。
もう一話、ムツカのサイドストーリーを投稿してこのシリーズは完結予定です。第11章の予習になる頃までにお届け目指して執筆中です…。

私事ですが、今日でログイン連続366日目、個人的2年目突入です。まだまだ楽しませて貰えそうで何より。今後とも宜しくお願いいたします。
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