タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第13話 ネズミを狩る

帝都の東に位置するロマリー街道。そこから少し離れた山地で、ナイトレイドのリーダー、ナジェンダは手紙を読んでいた。

 

大き目の岩に背を預け、スーツ姿で思案する。彼女が手にした手紙とは、帝都で内偵を担当する革命軍メンバーからの知らせだった。内容はイェーガーズが総員で東、つまりはロマリー街道方面へと向かったというもの。自分達の居場所がばれたということだ。だというのに、彼女の顔には薄く笑みが浮かんでいた。予想通りの行動だったからだ。

 

これは、イェーガーズを誘き寄せるためにわざと流した情報。罠である。

 

ナジェンダはすぐにナイトレイド全員を呼び寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

先ほどまで近場の川で遊んでいたためか、全員が水着で現れる。生物型帝具であるスサノオはともかく、唯一の男であるラバックは今にもよだれを垂らしそうなほどの顔の緩みようだ。そんな彼の様子に呆れた風に溜息を吐くナジェンダ。とはいえ、イェーガーズとの直接対決に向けて、束の間の休養にはなったらしい。コンディションは良好のようだ、と彼女は感じた。集まった全員を見回して、口を開く。

 

「先ほど、帝都から連絡があった。イェーガーズが全員、東へ向けて出発したそうだ」

 

その言葉に、ナイトレイドの面々の顔が引き締まる。

 

「アイツらを誘き出すことに成功したって訳ね」

 

「だが、ここからが問題だ。まず、顔の割れているマインとアカメ。2人は作戦通り、さりげなく街で人目についてくれ」

 

「了解、ボス」

 

「二手に分かれたように見せればいいのよね」

 

手配書の回っている2人は、これから街でわざと姿を現し、メンバーの集まる場所まで市民に追跡させる。そこで全員を2つのグループに分けて街を出るのだ。

 

東と南に隊を分けたと見せかけて、追ってくる相手を分断。そこへナイトレイド全員で待ち伏せして暗殺するという策である。最も懸念しているのは、エスデスが隊を分けるかどうか。罠であると彼女ならば見抜くだろうが、もしも慎重を期すならば乗ってこない可能性もあった。その場合はマインの遠距離狙撃でひとりふたり暗殺して退く予定である。エスデスを相手に現有戦力では心もとない、というのが事実。

 

「まあ、性格的に乗ってくるとは思うが……」

 

かつての同僚の姿を思い浮かべ、ナジェンダは小さくつぶやいた。

 

「それで……ボス。全員ってことは、タツミもですか?」

 

マインが気にしていない風を装って問い掛けた。だが、その声音からは不安がありありと窺える。

 

「そうだ。総勢7名。タツミについては、敵として処理しろ。無論、確保できれば最良だが、実際は無理だろう。帝具持ち相手にそんな余裕があるとは思えん。殺す気でなければ逆にやられるだけだ」

 

「そ、そうよね……」

 

あえて厳しい言葉を掛けるナジェンダ。特にマインとアカメは落胆した様子で肩を落とす。

 

「今後の展開次第になるが――ラバック。お前がタツミの相手をしろ」

 

「え?俺?……なるほど、了解」

 

急に名前が出されて驚くラバックだが、すぐに指令の意図を察する。糸の帝具を所有する彼こそが、生きたまま捕獲するのに適しているのだ。マインとアカメの顔が嬉しげに綻ぶ。だが、それに釘を刺すのを忘れない。

 

「もう一度言うが、殺す気でやれ。帝具(エクスタス)を持ったタツミは脅威だ。お前の帝具『クローステール』との相性も、特段良い訳ではないしな」

 

「わかってますって。直接対決は避けますよ。もちろん、ガチでやれば負ける気はしませんけど」

 

「余裕かましてていいのかよ?アイツは、私の両脚を斬り落としてるんだぜ」

 

以前、タツミと交戦した金髪の女、レオーネが自分の両膝の辺りをさすりながら笑った。かつて、エクスタスに両断されたはずの両脚は、傷ひとつ残らずにくっついている。彼女の帝具の特性である、自己治癒力強化によるものだ。しかし、それでも普通ならば再起不能の損傷を受けたことに違いない。タツミは非常に危険な敵対者となっていた。

 

「って言っても、驚いて油断しただけで、もう一回やったら私が圧勝できるだろうけどね」

 

「本当かよ」

 

胸を張って笑うレオーネに、ラバックが疑わしげにつぶやく。

 

「ただハサミとして使うだけなら、それほど脅威ではないだろう。だが、武器として使いこなすならば、正面対決は厳しいぞ」

 

「そうね。でも、あれからまだ一ヶ月も経ってないし。シェーレほどに使いこなせるとは思えないわ」

 

ナジェンダの言葉にマインが反拍する。

 

前所有者であり、元相方のシェーレは帝具の戦闘法を確立していた。ハサミを武具として昇華していた。それに比べれば、彼女の見たタツミの一撃は稚拙だった。

 

「シェーレがあれを使いこなすのに、半年近くの練習が必要だったもの」

 

「だが、それは暗殺者の訓練も含めてだろう?私は2週間で使えるようになった」

 

フフン、となぜか得意気に自慢するナジェンダ。ただの一般市民だったシェーレと戦闘のエキスパートである帝国軍元将軍の違いだろう。実際に武器を扱った経験の有無で、エクスタスの場合は習熟速度に差が出る。それを彼女は知っていた。

 

「エスデスが指導しているのだ。ある程度の戦闘法は確立できたと考えるべきだろう」

 

「まあ、どっちでもいいさ。俺の持ち味は変幻自在。糸とハサミで相性は悪いけど、やりようはいくらでもあるぜ」

 

数々の暗殺経験を積んできた、プロフェッショナルとしての自負が軽い口調にも滲んでいた。

 

「問題は他のメンバーだな。数名ほどだが、帝具の概要すら不明。こちらは以前の戦いで、ラバとレオーネまで帝具を見られたというのに」

 

アカメがあごに手を当てて思案顔を見せる。ナイトレイドにとって未知の帝具使いはウェイブとランの2名。逆にイェーガーズが把握していないのは、チェルシーとスサノオの2名である。厳密にはスサノオは生物型帝具であるため、情報面において、ナイトレイドは遅れを取っていると言える。

 

「把握していない相手の帝具にもよるが、今回はやつらが帝都から出てきた絶好の機会だ。今後、帝国側の精鋭であるイェーガーズとの対決は避けられん。ここでやつらが二手に分かれるようであれば各個撃破のチャンス」

 

ナジェンダは義手の右拳を目の前で強く握り締め、決意を込めて言い放つ。

 

 

「――ひとりも生きて帰すな。確実に仕留めるぞ」

 

 

雰囲気が一変する。絶対の殺意と共に、ナイトレイドが動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

翌日のロマリー街道。中央の噴水のそばで、7名の男女が話し合っていた。ナイトレイドを追ってきたイェーガーズである。3時のおやつのクレープを口に運びながら、聞き込みの成果を報告した。

 

「ナジェンダはそのまま東へ、アカメは南へ。ここに来て一行は二手に分かれて街を出たところを目撃されている」

 

エスデスが得た情報を確認する。東には安寧道の本拠地であるキョロクという都市が、南には反乱軍の息がかかっているだろう都市がと、どちらもキナ臭い。目的地に到着させるのは危険。

 

「急いで追えば、まだ間に合いますよ。行きましょう」

 

「まあ、待て……」

 

ウェイブの言葉にエスデスは制止の声を掛けた。そして、ランが確信を持った声音で続ける。

 

「都合が良すぎます。高確率で罠かと」

 

「ゲッ、マジかよ……ってことは、追うとマズイですね」

 

「だが、追う。これまで巧妙に隠れていたナイトレイドが、わざわざ表に出てきたのだ。罠であることを知った上で、その罠ごと踏み潰す!」

 

帝都に残る最後の賊たるナイトレイド。それを今回で叩き潰す腹なのだ。こちらも二手に分かれ、東と南の両方を殲滅する。

 

「二手にチームを分ける。編成は……」

 

少しの間、思案してから発表する。しかし、その顔には珍しく、不安げな色がわずかに窺えた。

 

「ナジェンダの向かった南ルートは、私とセリューとラン。アカメの向かった東ルートがクロメ、ボルス、ウェイブ、タツミだ」

 

意外な組み合わせだと、全員が思った。タツミを別ルートに分けるとは予想外だった。不測の事態が起きたときに守れるよう、同じルートにしたかったはずだ。自分の眼の届く範囲から外すことへの逡巡だったのだろう。だが、あえてそうしなかったのは、タツミを一人前の戦士として認めたから。その気持ちを彼は察する。

 

「安心してください、エスデスさん。必ずナイトレイドを狩ってくるぜ」

 

虚勢を張って、口元を余裕げに吊り上げてみせる。不安はある。新たに創り出した技術が通用するのかどうか。以前のナイトレイドの襲撃からは命からがら敗走し、この間も、フードの男に完膚なきまでに敗北したところだ。それでも、エスデスからの信頼には応えると、タツミは誓った。

 

「帝都に仇なす最後のネズミだ。着実に追い詰め、仕留めて見せろ」

 

了解、と全員が声を揃えて返答した。

 

 

 

――それから数時間後、南ルートのタツミはあろうことか、単独でナイトレイドのひとりと対決することになる。

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