タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第14話 罠を狩る

ロマリー街道から東へ進む一行。馬に乗って山岳地帯を駆け抜ける。切り立った高い崖とまばらに広がる森が地平線まで続く。二手に分かれ、こちらの東ルートのメンバーは4名。クロメ、ウェイブ、ボルス、そしてタツミである。ナイトレイドのひとり、狙撃用の帝具『パンプキン』を所有するマインを警戒して、タツミは馬上から周囲を見回した。

 

「つってもなぁ。こんな見晴らしの良い荒野じゃ、狙撃ポイントなんか絞りきれないぜ」

 

ウェイブが視線を慌しく動かしながらぼやいた。

 

ナイトレイドを追うため、彼らは最も馬が走りやすい平地を進んでいる。山岳地帯ゆえに、高所から狙い撃ち放題の地形だった。しかも、所々に森林地帯が点在しており、隠れ場所にも事欠かないだろう。もしも待ち伏せされていれば、発見は困難である。

 

「ボルスさんはどう思う?罠だとしたら、どう攻めてくるかな」

 

覆面の大男に向かってタツミが声を掛ける。

 

「どうだろう。やっぱり狙撃か、待ち伏せて囲むかじゃないかな」

 

「そうすると、この状況はあまり良くないですよね」

 

「そうだね。でも罠でなかった場合、最短コースで向かわないと追いつけないかもしれない。街に到着したら、また姿をくらますだろうし、私達が急いでにはリスクは避けられないよ」

 

最大限の警戒をしながら、彼らは馬で走らせる。奇襲に備えつつもウェイブ達は自然体で会話を続けている。ただ、この中で唯一、ナイトレイドと交戦したタツミの顔色だけはわずかに青い。本人も知らないうちに緊張感で全身の筋肉が固まっていた。

 

「おいおい、緊張しすぎだぜ。安心しろよ、何かあったら俺が守ってやるから」

 

隣を併走しつつ、ウェイブが馬上からタツミの肩をバンバンと叩く。励ますように笑いかける。そこでようやく、タツミは自身が平常でないことに気付いた。意識的に首を左右に曲げ、背筋を伸ばす。

 

「悪い。ちょっと普通じゃなかった」

 

「おう、だいぶマシな顔になったな。大丈夫、力を合わせれば勝てるって」

 

「とか言っちゃって。ウェイブが一番足引っ張りそう」

 

からかうようにクロメが口を挟む。

 

「なにおぅ!俺の実力が信用できないってことかよ!」

 

「うん。なんか、ここぞってときに弱そう」

 

「俺だってグランシャリオを装着すればなあ!」

 

2人が楽しげに言い合いをしていると、前方に不審な物体を発見する。道の真ん中に屹立している。人間大の案山子だった。

 

「……明らかに怪しすぎるな」

 

「ちょっと調べてみようか」

 

タツミ達は警戒して馬を降り、徒歩で近寄ってみる。何があっても対応できるよう、細心の注意を払ってゆっくりと歩き出した。タツミは背負った帝具を取り出し、構えながら進む。このとき、目の前の案山子らしき物体だけでなく、全員が奇襲を警戒して周囲にも意識を向けていた。だからこれは、彼らの予想を超えた出来事だったのだ。

 

ナイトレイドのマイン。自身の帝具『パンプキン』の銃口を彼らに向け、虎視眈々とチャンスを窺っていた。数キロメートルもの距離を置いての潜伏。警戒の範囲外、認識の範囲外からの狙撃――

 

 

――視認すら困難な超長距離からの殺意が放たれる。

 

 

標的はクロメ。認識不能の超高速で殺意を込めた一撃が迫る。回避など不可能。無防備な脳天へのヘッドショット。気配など察知しようもない、はずだった。

 

「なっ、かわされた……!?」

 

驚愕の声を上げるマイン。完全に決まったはずのタイミングだった。しかし、放たれた必殺は、寸前で察知したクロメに回避されてしまう。とっさに左に跳躍し、マインの殺意は彼女のいた場所を砕くだけに終わった。即座にクロメの視線が、遥か彼方に位置するマインの姿を捉える。わずかに遅れて、他のイェーガーズも彼女の存在を視認する。

 

「何ていかれた反応速度よ。でも、こっちの暗殺は二段構えよ」

 

苦々しげにマインがつぶやくと同時に、案山子が破裂した。人間大のサイズの案山子。その中には、やはり人間が入っていた。ナイトレイドの中においても上位の戦闘者、スサノオである。全員の視線が遥か遠方の山に向かった瞬間、最も危険なタイミングでの奇襲。突如、姿を現した男に対する反応が遅れる。

 

「くっ……タツミ!気をつけろ!」

 

一番早くに反応したウェイブが叫ぶ。すでにタツミの目の前にまで男は迫っていた。カバーに入ろうとするが、位置取りが悪かった。先頭のタツミまでは少し距離があった。ウェイブの援護は間に合わない。だが、彼の声でようやくタツミも正面の敵の姿を補足した。

 

「うっお……!」

 

後方に振りかぶっていた棒状の武器を、タツミに向けて叩きつける。大音量で響く、鈍い金属音。間一髪でエクスタスを盾に受ける。だが、予想を遥かに超える衝撃に、思わず目を見開いた。激烈な打ち込みに、タツミの両脚は地面から浮き上がり、凄まじい勢いで身体ごと弾き飛ばされる。スサノオの怪力による威力は比類なく、発射台から飛ばされるロケットのごとく、崖を越えて森の奥にまで吹き飛んでいった。

 

「やべえ、助けに……行く余裕はねえか」

 

同時に四方の物陰から現れる人影に、ウェイブが舌打ちする。気付かぬうちに囲まれていた。数は3。アカメ、ナジェンダ、レオーネ。そしてスサノオと、狙撃手であるマインを含めれば5人である。対して、イェーガーズはウェイブ、クロメ、ボルスのみ。帝具使い同士の戦いで、この人数差は厳しい。とてもタツミの救援に人を割く余裕など無かった。

 

「……すまん、タツミ。だが、ボルスさんとクロメは、俺が守るぜ」

 

ウェイブは剣を鞘から抜き払うと、その場に真っ直ぐに突き立てた。必勝の決意を込めて叫ぶ。

 

 

「グラン……シャリオォォオオオオオ!」

 

 

――鎧の帝具『グランシャリオ』

 

高硬度の超級危険種を素材として作られた、鉄壁の鎧である。使用者の身体能力を増幅する効果もあり、そのウェイブの実力は帝国全体でも五指に入るほどであった。漆黒の鎧を身に纏い、彼は半身で両手を上げる構えを取る。

 

「鎧の帝具……アイツのと同系統とはねえ。こんなところで見るなんて、これも因果かな?」

 

獣化した金髪の女、レオーネが何とも言えない表情で肩を竦めて見せた。

 

「確実に仕留めるぞ。一人も逃がすな」

 

肩を回しながらナジェンダが命令する。アカメが鞘から刀を抜き、スサノオは棒状の武器を槍のように構え。獣化したレオーネが両拳を打ち合わせる。四方を囲み、じりじりと迫っていく。

 

「この人数……東は全くのフェイクだったんだね。僕らを暗殺しに来たのか」

 

覆面で顔は見えないが、ボルスの声音には焦りが滲んでいる。彼の帝具は多方向からの襲撃への対応が難しい。火炎放射器の左に陣取るスサノオに向けるが、人数で劣る現状の不利を感じていた。

 

「お姉ちゃん。……よかったあ、生きてたんだね」

 

対照的にクロメは無邪気に笑う。生き別れの姉に向けて、朗らかに声を掛けた。この緊迫した雰囲気に似つかわしくない、まるで感動の姉妹の再会であった。

 

「凄く会いたかったんだぁ」

 

「クロメ……」

 

複雑そうな表情で言葉を漏らすアカメ。敵として目の前に現れ、殺し合いをせざるを得ない状況に忸怩たる思いを抱えていた。ポンと両の掌を合わせ、心底嬉しそうに笑う。

 

「本当によかった。だって、私の手で斬れば――」

 

ゆっくりと腰に差した刀を鞘から抜き、天高く掲げた。重苦しく、暗く、凶々しい、負の空気に満ちていく。真昼だというのに、夜中の墓所へと迷い込んだかのような。背筋が凍る感覚をアカメは感じ取った。

 

 

「――お姉ちゃんを八房のコレクションに加えてあげられるもんねぇ」

 

 

突如、大きな地響きが発生する。大地を割って出現する多数の人型の物体。地の底から這い出る亡者達である。その数は5。いずれも生前と同様の姿の、歴戦の猛者達だ。

 

――死者行軍『八房』

 

それがクロメの帝具である。その特性は、帝具で切り殺した生物を操作すること。彼らはクロメが殺した中で、最も強力だった者たちなのだ。そして、その最たるものが、地を割ってせり上がる巨大な骨組み。

 

「うおっ!なんて大きさだよ」

 

レオーネが驚きの声を上げる。同じくこの場の全員が戦慄に固まる。ウェイブとボルスですら、初めて見た光景に絶句する。

 

それは、小さな山よりも大きな骨の怪物だった。超級危険種デスタグール。帝具の素材ともなった、天災クラスの化物である。聳え立つ恐竜、デスタグールの掌にクロメが腰掛けた。涼しげな表情で、謳うように宣言する。

 

「人数差は逆転。さあ、帝具戦の始まりだ」

 

 

 

 

 

 

 

一方、森の奥に飛ばされたタツミはというと。

 

「痛ったたた」

 

大木の叩きつけられ、地面に倒れた身体起こす。衝突した木の幹はあまりの威力に半ばからへし折れている。立ち上がるときに、軽い節々の痛みを感じた。

 

「なんつー威力だよ。恐ろしい打ち込みだったぜ。っと、早くウェイブたちと合流しないと……!」

 

あれほどの一撃を受けたことはなかった。たしかスサノオと呼ばれていたか。データで知る以上の強さの男だった。救援に向かわなければ危険だと即座に感じる。こっちが罠だとすれば、部隊を二つに分けたこちらは人数的に不利なはず。クロメの帝具の性能を知らないための勘違いだったが、どちらにせよ救援に行くことはできなくなる。

 

「んっ?これは……」

 

駆け出そうとした身体を停止させるタツミ。非常に見えづらいが、光の加減でわずかに確認できた。彼の進行方向に、水平に張られた一本の糸を。

 

「へえ、よく気付いたじゃん」

 

突如、耳に届いた男の声に、タツミが反射的にエクスタスを構える。辺りを見回すが、人の姿は見られない。続く声が森の中を反響する。

 

「惜しい惜しい。そのまま走り抜けてれば、身体中にくまなく糸が絡み付いてたんだけどな。意外と注意力あるじゃん」

 

「誰だ……!」

 

「あれえ?やっぱ分かんないか、残念」

 

声の出所は巧妙に隠されており、注意して視線で探すもまるで隠れ場所がわからない。しかし、その際にタツミは周囲に張り巡らされた、多数の糸を確認した。木々の間に掛かる線が、彼の逃走を許しはしないだろう。

 

「糸の帝具を操る帝具使い――ナイトレイドのラバックか」

 

タツミの背を冷や汗がじっとりと濡らす。この場所に誘い込まれたことを悟った。同時に、地の利において圧倒的に劣っていることを。木々に囲まれた周囲は糸を引っ掛けるフックだらけで、使い手の姿を隠してくれる。正面からの戦闘を得手とするタツミにとって、最悪の立地条件だった。

 

「それじゃ、盛大に歓迎させてもらうぜ」

 

どこからともなく発せられる声が、森の中で反響する。

 

 

「ようこそ、糸の結界へ。ここはもう、お前を捕らえる網の中だ」

 

 

 

糸の帝具『クローステール』――その特性は、『千変万化』。

 

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