タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第18話 拳法少女を狩る

ナイトレイドとの死闘にもひとまずの幕が閉じ、タツミ達はロマリーの街へと戻った。南に向かったエスデス達と合流するためである。彼女達も異変を察知して、ほぼ同じタイミングでイェーガーズは再集結を果たす。

 

休息もそこそこに帝都から伝令が届く。内ロマリーの街から東にある宗教都市キョロクでの護衛任務をせよ、とのものだった。エスデスの指揮の元、今度はイェーガーズ全員で馬を出す。

 

先ほど待ち伏せをされたのが、そのキョロクへの道である。ナイトレイドはそこへ向かう道中のついでにイェーガーズを狙ったのだろう。護衛対象の要人はナイトレイドの標的と推測した。次なる激闘の予感に身を引き締めながら、キョロクへと到着する。

 

 

 

 

 

 

 

宗教都市キョロク。帝都の遥か東に位置するこの街は、豊富な地下資源により急激な発展を遂げる。近年は『安寧道』と呼ばれる宗教の施設が数多く建設され、独自の文化を形成する巨大都市と化していた。

 

ちなみに安寧道とは、帝国全土に広く流行している宗教である。圧倒的なカリスマを誇る教主によって、ここ10年で信者数は増大。帝国の東で巨大な勢力を形成していた。

 

そして、現在の腐敗しきった国の状況に民の怒りは暴発寸前。帝国側も近々安寧道が武装蜂起するのでは、と危険視する。それを防ぐため、大臣は事前にスパイを送り込んでおり、いまや副教主として確固たる地位を築いている。それが、今回の護衛対象、ボリックである。

 

 

 

「そんなわけで、武装蜂起をさせたい革命軍は、穏健派のボリックを消しておきたいのだ」

 

エスデスの説明に、タツミとウェイブは納得した様子で頷いた。なるほど、と感嘆の声を上げる2人。それを横目にクロメが茶化すように笑う。

 

「これって一般常識だよ。記憶喪失のタツミはともかく、ウェイブが知らないって世間知らずすぎない?」

 

「う、うっせぇ。タツミに合わせてたんだよ」

 

図星を突かれ、焦った様子で声を上げるウェイブ。彼は辺境の地で仕事をしていたため、世界情勢には疎い。

 

現在、彼らはボリックの屋敷で行われているパーティに参加していた。女性陣はドレスを身に纏い、男性陣はスーツで決める。タツミやウェイブ、セリューなどは落ち着かずない様子で上体を揺らす。対照的に、エスデスやランなどは慣れた様子で振舞いも上品に仕上げていた。

 

エスデスの華麗なドレス姿と、タツミの凛々しいスーツ姿に、それぞれ見蕩れ、頬を染めて褒め合うという一幕もあった。

 

広大な敷地に建てられた豪華な屋敷。その大広間には数十人の参加者が集まっていた。ゆったりとした白の制服に身を包んだ、安寧道の者たちである。ここには教主補佐ボリックの手の者のみ。信者から巻き上げた金による、贅を尽くした宴であった。

 

「いやぁ。最近身の危険を感じて、大臣に戦力の補強を要請しましたが……。まさか帝国最強と謳われるエスデス将軍が来てくださるとは。心強いことこの上ありませんぞ」

 

美女に囲まれる中年の男、ボリックが豪奢な椅子に腰掛けて笑う。

 

「私が受けた指令は、お前の護衛だ。いくつか部屋を借りるぞ」

 

「もちろん。フフ……私の屋敷は退屈しませんぞ」

 

周りにはべらせた美女や、給仕をしている美貌の男達を視線で示す。だが、エスデスは興味ないと言った風に左右に首を振った。

 

「そいつらにはまるで興味ない。だが……天井裏から私達を覗いてるやつらとは会ってみたいな」

 

「さすが。お気づきでしたか」

 

ボリックが自慢げに指を鳴らす。それを合図に、天井から4つの人影が現れる。

 

「こやつらこそ、教団を牛耳るために帝国から預かった暴力の化身――皇拳寺羅刹四鬼」

 

皇拳寺の道着に身を包む四人の男女。誰も彼もが一級の戦闘者である、とタツミは即座に判断した。着地の際の身体の使い方、周囲に対する鋭敏な感知能力、そして身に纏う闘気が常人とはまるで別物。それ以上は戦闘態勢に入らなければ読み取れないが。仰々しい名前に負けないほどの戦士であることを理解した。

 

「将軍様が来てくださったおかげで、護衛に専念させていたこの鬼達を攻撃に使うことができます」

 

「ほぅ。帝国にいないと思えば、ここにいたのか」

 

エスデスは意外そうな顔を見せる。タツミも彼女から羅刹四鬼の話を聞いたことがあった。

 

曰く、大臣お抱えの処刑人。その戦闘力は絶大で、帝具使いを相手にすでに複数個の帝具を回収しているという帝具「クローステール」を回収したタツミであるが、それ以上の修羅場を彼らも体験しているということだ。4人を順番に注視し、観察し、力量を推し量る。

 

「待ってください!この街には悪の組織、ナイトレイドが潜入している可能性があります。そいつらと戦うのに帝具無しでは……!」

 

食って掛かるセリューに、羅刹四鬼が自己紹介がてらに力を見せてくれた。突如、彼女の背後に現れて首元に尖った爪を突きつける。

 

「心配はいらねぇよぉ。俺達は生身で帝具使いを倒したこともあるんだぜぇ。こんな風にさぁ」

 

セリューの反応速度を超え、瞬時に背後に立つ姿は身体能力、隠密力ともに超一級。目を血走らせた男の名はイバラ。格闘家であると同時に暗殺者でもあると、その動きだけで理解させた。

 

「私達が回収し、帝都に送り届けた帝具は実に5つ」

 

顔の中央に一筋の傷をつけた黒髪の女性、スズカが5本の指を開いて見せた。

 

「いくら帝具が強力とて、使う者は生身の人間」

 

筋骨隆々の大男、シュテンが重々しく口を開く。

 

「なら、勝ちようはいくらでもあるってことだよね」

 

褐色の肌の少女、メズは楽しげに笑う。

 

彼らを見回して、タツミは思考する。誰にすべきなのか。

 

 

 

 

 

 

 

宴の幕が閉じ、イェーガーズは解散となる。夜も深くなっており、各々が滞在用の自室へと戻っていく。その中で、タツミだけは別の目的を持って邸内を徘徊する。帝国最強と謳われる流派、皇拳寺の羅刹四鬼の捜索である。

 

パーティーが終わり、目的の人物が向かった方向へと足を運ぶ。屋敷から出てすぐの広場に、彼女はいた。褐色の肌をした少女が、はだけた道着を腕に掛けて、ベンチに座っている。

 

「こんばんは」

 

「あれ?さっきの……アタシに何か用?」

 

少し驚いた風にメズと呼ばれる少女は顔を上げた。

 

「ちょっとお願いがあって」

 

「へえ、なになに?」

 

彼女は面白がるように聞き返す。タツミは単刀直入に切り出した。

 

「俺と戦って欲しい。帝国最大流派、皇拳寺の最強のひとりとして――」

 

少女の瞳が鋭く細められた。口元が薄く吊り上がる。しかし、彼女の表情はすぐに元に戻り、左右に首を振る。

 

「うーん。私としてもやりたいのは山々なんだけどさ。基本、私らってそういうの禁止されてるんだよね」

 

「そんな……!」

 

「一応ほら、暗殺拳だしさ。人には見せちゃダメ、的なやつが」

 

頭の後ろで手を組み、残念そうに息を吐く少女。その返事にタツミは落胆の表情を見せる。

 

「どうしてもダメか?今は一戦でも多く経験を積みたいのに……」

 

シュンと顔を伏せるタツミの様子に、少女の心が少し動く。寂しげな表情に母性がくすぐられたのか。視線をそらし、言葉を濁す。

 

タツミが対戦相手に彼女を選んだことに、大した理由はない。残虐性を全身からあらん限りに発するイバラは論外だし、巨漢で威圧感たっぷりのシュテンも避けた。本当に殺されそうな雰囲気があったからだ。そうして選んだのが女性陣であるが、それはタツミにとっては好都合だった。ナイトレイド時代、ナジェンダは彼をこう評したことがある。

 

――年上キラーと。

 

羅刹四鬼で最年少の彼女であるが、年齢はタツミよりいくつか上であり、さらに結構好みのタイプでもあった。

 

「そ、そこまで言われちゃあ、しょうがないなぁ。まあ、内緒でちょっとなら……」

 

「やった!ありがとう、メズさん!」

 

「ま、まぁ仕方なくだからね」

 

少女の手を握って喜ぶタツミに、わずかに頬を染めて答える。正面から目を見据えられ、照れ隠しで少女は顔を横にそむけた。この場にエスデスがいなかったのは幸いだっただろう。もしもいたならば、冷徹な瞳で射すくめられ、背筋を震え上がらせたはずだ。

 

 

 

 

 

 

夜も深まる闇の中、照らし出す屋敷の光が届く広場の一角で、2人は向き合った。先ほどの会話が終わるやいなや、彼らは戦闘態勢に入る。雑草ひとつ生えていない平地。夜中ではあるが、視界はそれなりに良好。あまりにも殺傷力が強いため、タツミは帝具の使用は控えて、持参した木刀を下段に構える。対する少女は自然体の構え。はだけた、というよりも腕を通しただけの道着が風に揺れる。

「それじゃ、やろっか」

無邪気な顔で、少女はそう口にする。全神経を集中させ、無言でうなずくタツミ。帝具無しの純粋な体術勝負。軽い口調と脱力した姿勢だが、油断は一切感じ取れない。警戒と共に様子を窺うタツミ。

 

「あれ?来ないの?だったら……」

 

右手の5本の指をタツミに向けた瞬間、少女の爪が凄まじい勢いで伸び始める。5本もの鋭利な槍が迫ってくるかのよう。驚愕に顔を歪め、タツミは右へと飛び退く。続いて突き込まれる左の5本の槍。さらに右へ転がるようにして、間一髪で避ける。

 

「な、何だよこれは……」

 

「あははっ!アタシら、羅刹四鬼はこういう身体操作を極めてるんだよね」

 

「クッ……遠距離はこっちが一方的に不利か」

 

諦めて突っ込むタツミ。伸縮自在の鋭い爪を、木刀で弾き、左右に跳び、体を捻り、かわしていく。この辺りの対応力は、数々の激戦を潜り抜けてきた経験のたまものであろう。

 

だが、彼自身はその動きにかすかな不安を覚えていた。ラバックとの極限の戦闘に比べて、手足の反応が鈍い。感知力や先読みも茫洋としている。ほんのわずかな違いだが、五感と五体が研ぎ澄まされたあの感覚との差異に苛立ちを覚えた。

 

「うおおおおっ!」

 

雑念を振り払うように、掛け声と共に少女の間合いまで接近する。一歩踏み出せば斬りつけられる距離。一足一刀の間合いに迫られ、少女は感嘆した風に笑みを浮かべた。

 

「さっすがイェーガーズ。やるじゃん」

 

「そんな余裕そうな顔を!」

 

一息のうちに木刀を上段に構え、少女の右肩へと振り下ろす。木刀といえど、打ち所が悪ければ死に至る。そんな配慮をした一撃だったが、結果を言えばまるで杞憂だった。

 

「えっ……?」

 

高速で振り下ろされる木刀の剣先に片手を添えたかと思えば、次の瞬間にはタツミの身体が宙を舞っていた。投げ飛ばされたことも分からないほどの、滑らかな動き。天地を逆にした体勢で、呆気にとられた顔をする。予想外の出来事に思考停止したまま、頭から地面に衝突した。

 

「勝負あり、だよね?ダメだよ、忘れちゃ。暗殺者であろうと、アタシは拳法家。近接戦闘の技術で負ける気はないよ」

 

「……まいった。俺の負けだぜ」

 

仰向けに倒れたまま、タツミは大きく息を吐いた。

 

「思った以上に強いなぁ。ちょっと技とか教えてくれないか?」

 

「いや、だから暗殺拳は他人には……まぁ、皇拳寺の一般的なやつならいいか」

 

少女は溜息を吐き、笑いながら肩を竦めた。

 

「よぉし、私の修業は厳しいぞ!」

 

拳を突き上げて無邪気に笑う少女に、タツミは「はい!師匠!」と答えるのだった。

 

 

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