タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第20話 戦闘技術を狩る

ここ最近の日課となったメズとの特訓。しかし、今朝のタツミはひとりきりであった。広場の隅に陣取り、想像上の敵に向けて拳を振るう。

 

一通り身体を動かすと、朝日が中天へと昇る時間になっていた。あてがわれた自室へ戻り、彼は汗を流すと集合場所へと向かう。

 

教主補佐ボリックの座する大聖堂、そこから扉一枚隔てた外にイェーガーズの面々がいた。全員が集まっての定時報告である。そこでタツミは、羅刹四鬼の壊滅を告げられた。

 

「一昨日の晩、ナイトレイドのアカメを発見。数分ほど交戦しましたが、撃破よりも情報を持ち帰ることを優先し、退却しました」

 

帝具を用いて空からの偵察を行っていたランが報告する。

 

「そして昨日、羅刹四鬼イバラの死体が発見され、状況から考えると彼女に殺害されたものと思われます」

 

大臣お抱えの処刑人の末路に、エスデスが嘆息した。せめて一人くらい道連れにしてくれ、と。

 

「処刑するはずが返り討ちにあったか。イバラだけでなく、他に2名が殉職したのだったな」

 

「はい。そちらについては、タツミくんとクロメさんの方が詳しいと思うのでお願いします」

 

クロメは普段通りの様子で、タツミは沈鬱な表情で、それぞれ頷いた。

 

彼らが現場に到着したのは、昨日の昼過ぎだった。ナイトレイドが街に潜入した知らせを受け、ペアで偵察を行っていたところである。護衛任務とはいえ、専守防衛を良しとするチームではない。イェーガーズの本領を発揮すべく、積極的に狩りに出ていた。ナイトレイドを探しつつ、人混みを歩いていると、遠くから2人の耳に悲鳴が届く。

 

「現場に駆けつけたときには、もう手遅れ。羅刹四鬼の女の腹を貫いたところだった。男の方は、すでに頭を吹っ飛ばされてたし」

 

「くそっ!あと数分早く駆けつけていれば、メズさんを助けられたのに……!」

 

淡々とクロメが口を開き、渋面を隠さず、タツミが続ける。その声音には後悔と怒りが滲んでいた。

 

「殺したのは金髪の女、ナイトレイドのレオーネだ。多分、シュテンを殺したのも。あいつら、許せねぇ」

 

「私達に気付いたら、すぐに撤退を決断したみたいで。追おうとも思ったけど、屋根の上を凄いスピードで逃げていって。残念だけど見失っちゃった」

 

レオーネの帝具「百獣王化『ライオネル』」の特性は獣化である。その速力は、人の身体にして、野生のライオンをも上回るほど。筋力、瞬発力、反応速度、感知力に至るまで、あらゆる性能を強化するのだ。

 

以前、タツミも交戦したが、明らかに戦闘に特化した帝具使い。その際には両脚を切断せしめたが、あれは相手側に心の隙があったゆえのもの。正面戦闘に限れば、同じくナイトレイドのラバックをも上回るだろうと、タツミは警戒のレベルを上げた。

 

なにせ、タツミが手も足も出なかったメズを、1対2で撃破するほどなのだから。

 

「クロメちゃん。ちょっと聞きたいんだけど、相手は変装とかしてなかったの?」

 

「……特にしてなかったと思う」

 

顎に手を当ててボルスが思案する。

 

「わざと見つかったのかもしれませんね。こちらを逆に狩るために」

 

「だとすると、伏兵が潜んでいた可能性もあるよね。僕達に顔の割れていないメンバーが……。もちろん正面から圧倒した可能性もあるけど」

 

「羅刹四鬼の強さは帝具使いに匹敵するそうですが、相手は生粋の戦闘者。彼ら2人を同時に殺害できる戦闘力、あるいは我々の知らない暗殺者がいる。どちらにせよ厄介なものですね」

 

わずかに表情を硬くするラン。対照的にタツミは怒りを込めて、自身の拳を叩きつける。

 

「相手が誰だろうと関係ねぇ。エスデスさん。こっちからナイトレイドを狩り出しましょう」

 

「そうっすね。俺らもやられっ放しのままは癪ですし」

 

タツミの言葉にウェイブも同調する。彼らの視線が隊長のエスデスに向けられた。彼女は嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

「無論、護衛任務だからと、襲われるのを待っているなど性分ではない。潜伏場所を割り出し、攻め込むつもりだ」

 

だが、と一度口を閉じる。メンバー全員を見回し、それぞれの表情を窺った。この場にナイトレイドとの交戦に怖気づく者などいるはずもない。それを確認した。

 

「羅刹四鬼が2人同時に殺す連中だ。こちらも万全の態勢で臨む必要がある。不用意に仕掛ければ痛手を受けるだけだ」

 

キョロクへ来る前、ナイトレイドに待ち伏せされ、奇襲を受けたことを思い出す。相手は歴戦の暗殺者。数的不利は避けるべきである。

 

「よって今後、一切の単独行動を禁ずる。ボリックから羅刹四鬼の生き残りを、指揮する権限をもらってきた。偵察等で街に出向く際は、必ず3名以上で行動せよ」

 

エスデスは胸の前で拳を強く握りしめる。鼓舞するように、鋭い声音で告げる。

 

「やつらは帝都に巣食う最後の鼠だ。隠れ住む獲物を狩ってやれ」

 

この日より、キョロクに点在する革命軍側のアジトが襲撃され始める。ナイトレイドの協力者や情報提供者が次々と消され、彼女たちの動きは停滞せざるを得なくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、まだまだ日の高い頃。木刀で打ち合う乾いた音が響いていた。タツミとエスデスの2人の姿がある。ボリックの仕事場である大聖堂の、正門からすぐの広場だった。

 

イェーガーズはエスデスとタツミ、クロメとウェイブの2組が交代制で護衛の任についていた。他のメンバーは団体行動を義務付ける。羅刹四鬼の最後のひとりも含め、これ以上の犠牲を防ぐ構えだ。

 

そして現在、エスデスはタツミに稽古をつけながらも、護衛対象の気配や感知し、索敵まで行っていた。しかも壁越しにである。野生で磨いた超人的な察知能力だった。

 

「片手持ちにするのはいいが、剣筋が荒いぞ」

 

「はいっ!」

 

タツミが右上から振るう剣閃を、彼女は弾き返す。元々の彼の主武装は、今も腰に下げている剣である。帝具を所有してからは使う機会が減ったものの、剣術の腕前も相当なものだ。残念ながら、エスデスやクロメには劣るが。しかし、珍しく彼は片手のみで剣を振り回していた。

 

一流の武芸者であるタツミである。筋力的にも技術的にも片手剣を扱うことは問題ない。女性であるエスデスもクロメも片手剣である。だが、普段の両手で振るのに比べると、わずかに鋭さと精密性に欠けるのも事実であった。

 

「ふむ……まあ、意図があってのことだろうが。今度はこちらから行くぞ」

 

左胴を狙うタツミの剣を半歩下がって避け、木刀での強烈な打ち下ろし。脳天を切り裂く一閃を、間一髪で受け止める。木刀同士のぶつかる乾いた音が鳴った。

 

互いに力を込め、鍔迫り合いになるかと思われたが、やはり技術でエスデスが上回る。彼女の剣は力の向きを誘導し、タツミの剣を右手ごと弾き飛ばした。

 

「ぬるいぞ、タツ……!?」

 

 

――彼女の眼前に、タツミの左拳が迫っていた。

 

 

とっさに握った刀の柄で受け止める。エスデスの目が驚きに見開かれた。重く、正確な拳撃。これまでの力任せの我流ではない。帝国最強たる彼女でさえ反応が遅れたほどの滑らかな動き。エスデスは一目で看破する。

 

「これは、皇拳寺の正拳突き……!?」

 

続いて放たれるローキックを、後方に跳んでかわす。距離を取りつつ、エスデスは瞬時に理解する。この下段蹴りからも皇拳寺の色が感じ取れた。

 

「なるほど。剣法と拳法の融合か……」

 

エスデスがつぶやくと同時に、タツミも片手に剣を、片手に拳を構えて再び臨戦態勢に入った。その構えさえも試行錯誤の段階なのだろう。彼女の目から見れば隙もあるが、しかしその構想は間違っていないと感心する。

 

「色々やってみるので、気づいたことがあったらお願いします」

 

タツミが構えを微調整しながら口を開く。それに頷きながら、エスデスは左手を顎に当て、わずかに思案する。

 

「羅刹四鬼と訓練したとは聞いたが、ほんの数日でここまで……。やはり凄まじいセンスだ」

 

皇拳寺の神髄そのものと言える羅刹四鬼。彼らの身のこなしは、一挙手一投足がそのまま奥義である。たった数日間の訓練と指導は、理合いの極限をタツミの目に焼き付けた。そして何より、それを実行に移すことのできる戦闘センス。少なくとも現時点で、皇拳寺の皆伝クラスの実力はあると、彼女は静かに認めた。

 

タツミのセンスに対する誇らしさと、同時に悔しさも感じた。本当は自分が育てるはずだったことにである。

 

エスデスの強さは他人の真似できない強さである。幼い頃から危険種を狩り、野生で身に付けてきた。天性の才能と野生の勘による強さである。これはいかにタツミといえど真似のできるものではない。それに比べて皇拳寺の拳法は万人に向けたもの。何代も受け継がれ、体系立てられた、誰もが使える技術なのだ。ゆえに、タツミはその技術を短期間で修得しつつある。

 

喜ぶべきことだな、とかぶりを振って、エスデスは剣を握りなおす。本気で鍛えようと心に決めて。

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイドとの決戦は、この2ヵ月後に勃発する。遊撃に回ったラン達が街に潜む諜報員を狩り尽くすことで、相手の動きが鈍くなったことが原因である。それは、タツミが新たな戦闘スタイルを確立するのに、十分過ぎる期間であった。

 

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