タツミ in イェーガーズ   作:蛇遣い座

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第21話 敵アジトを狩る

宗教都市キョロクでの任務は、数ヶ月が経った今でも続いている。内容は暗殺集団ナイトレイドからの護衛である。周囲を大量の罠と兵士で固めた上で、イェーガーズが交代でボリックの周囲を警戒していた。

 

朝日が昇り始める頃、ウェイブとクロメは勤務時間を終えて交代する。夜通しボリックの寝室の前に立ちっぱなしで、眠気が襲ってきたところだった。エスデスとタツミが愛用の武器を装備して、ボリックの寝室の前に立つ。あくびを噛み殺しながら、自室へと彼は戻っていく。

 

それから半日後、十分に睡眠を取ったウェイブは街の警備に参加していた。ナイトレイドの襲撃を恐れ、イェーガーズの戦力の大部分でまとまっての行動である。護衛中のエスデスとタツミ、常時周囲の警戒を人形にさせているクロメ、この3人を除いた総員。そこに羅刹四鬼最後の生き残り、スズカという若い女が加わった。

 

一行は街中の人混みを歩いていく。大通りから裏通りまで巡回する。相手はお尋ね者のナイトレイド。当然、パッと見て分かる格好で出歩いてなどいない。人で溢れるメインストリートで、変装した人間を探すのは容易ではないだろう。だが、それを可能にするのが羅刹四鬼、スズカという女性である。

 

「おおっと。ちょっと遠くだけど、怪しい女を見つけたかも」

 

スズカが口を開く。彼女の観察眼は不審人物、つまり隠れた革命軍を見つけ出すことができるのだ。対象の視線の動き、歩き方。その他もろもろから、闇社会の人間を判別する。身体操作を極めた羅刹四鬼にのみ許された観察眼である。これにより彼女達は、すでに革命軍密偵の中規模のアジトを三箇所殲滅していた。

 

「どこですか?」

 

「あっちのフードの女だよ」

 

不自然にならないよう、ランが目を凝らす。フードの隙間から覗く顔立ち、金髪、背格好。変装をしているようだが、見覚えのある人物だった。

 

「……大物が掛かりましたね。ナイトレイドのレオーネです」

 

「やったぜ。ようやくか」

 

ウェイブが獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ということは、帰還先はナイトレイドのアジトの可能性が高いね」

 

「悪の本拠を一網打尽にできますね」

 

ボルスが緊張感を漂わせて口を開き、セリューが無邪気な笑みを浮かべた。彼らはこれを千載一遇の機会と見る。エスデスへと伝令を送り、ナイトレイドの殲滅に向かう。レオーネらしき女の尾行を慎重に開始した。

 

 

 

 

 

 

 

尾行を続けると、どうやら彼女は郊外へと向かうようだった。乾燥した空気に、ひび割れた大地。強い陽射しの下、フードを被ったレオーネは荒野を黙々と進む。それを一行は距離を取って追いかける。徒歩でおよそ十数分。街から数kmほど離れたそこに、石造りの遺跡があった。神殿のような建物で、所々に風化しているが人が住むには十分だろう。彼女はその内部へと迷わず這入っていく。

 

「さて、どうしましょうか?」

 

あごに手を当て、ランが問い掛ける。皆の視線が、手元の円盤状の機器を凝視するセリューに向けられた。彼女の武装『十王の裁き』の9番、都市探知機による索敵を試みる。

 

「遺跡内部に複数の生体反応があります。おそらく、ここが悪のアジトでしょう」

 

ナイトレイドの殲滅。待ちに待った機会に、いやがおうにも緊張感が高まっていく。エスデスとクロメ、タツミを欠く状況だが、このチャンスは逃せない。アジトの場所を変えられては堪らない。ランとボルスは、ここで強襲を掛けるべきと判断した。セリューとウェイブ、スズカもそれに同意する。

 

「どうする?突っ込むか?」

 

「いえ、ナイトレイドの全戦力を相手にするのは不利です。全面戦争は避けましょう」

 

ウェイブの言葉にランが返す。一斬にて問答無用の死を与えるアカメ。超級危険種を単独撃破したスサノオ。元将軍ナジェンダの指揮もあなどれない。

 

「各個撃破されないよう、布陣はこのまま密集陣形で行きましょう」

 

「遺跡を囲んで逃がさず殲滅、ではなく。こちらの被害を抑えるんだね」

 

はい、とランが頷く。包囲陣形はナイトレイドに各個撃破されかねない。ならば、あえて逃げ道を作って正面衝突を避けようという狙いだ。初手の強襲に全てを懸け、仕留め切れないときは逃げる。相手戦力の削り、あわよくば殲滅という安全策である。

 

「ならここは、僕とセリューちゃんの出番だね」

 

「正義の光で、悪を滅します」

 

火炎放射器の帝具を構え、ボルスが引き金に指を掛ける。目標はナイトレイドのアジトと思しき遺跡。そして、凶悪な形相を浮かべたセリューは、コロの口内に右腕を突っ込んだ。生物型帝具であるコロの体内は、物理法則を超越した収納力を有する。そこから取り出したのは、Drスタイリッシュの製造した近代兵器の数々。オーバーテクノロジーの武器の類であった。

 

「十王の裁き――2、7、8番を組み合わせたこの殲滅装備で、砲撃します」

 

右腕に大型大砲「正義泰山砲」、左腕に小型連装ミサイル、そして両肩に装着した十以上の砲門を持つ水陸両用魚雷。帝具でこそないが、単独でこの火力は帝国でも五指に入るはずだ。両足を開き、反動に備えた構えを取る。照準を定め、隣のボルスに視線で合図を送った。ボルスも帝具の銃口を遺跡に向け、頷いた。

 

現在、彼らは目標の遺跡から数十メートルの距離の岩陰に隠れている。この距離は両者の重火器の射程圏内。暴力の嵐が吹き荒れる。

 

 

「正義一斉射撃!」

 

 

セリューの声と共に、無数のミサイルが撃ち込まれる。数秒の滞空時間の後、爆音が轟いた。第一陣の着弾は数十発。ひとつ撃ち込まれるごとに、強烈な閃光と鼓膜を叩く破裂音、そして石造りの神殿が、粉々に砕かれ、崩壊する。所々風化してはいるが、かつての荘厳な建物を感じさせた遺跡。それはほんの数秒のうちに見る影もない、更地になっていた。

 

「うおっ、すっげえ威力」

 

ウェイブが感嘆の声を上げた。他のメンバーも同様に、驚いた様子で爆炎と土煙に塗れる破壊跡を見つめている。だが、これで終わりではない。

 

「悪いけど、燃やし尽くすよ」

 

 

――火炎放射器の帝具「煉獄招致『ルビカンテ』」

 

 

かつては革命軍に与した街ひとつを焼き払った帝具である。その圧倒的な範囲殲滅力は、帝国最強と謳われるエスデスにすら匹敵する。まるで巨大竜巻に巻き込まれたかのような、天災クラスの破壊規模。そしてそれが風ではなく、超高熱の炎なのだ。危険度はハリケーンの比ではない。

 

セリューの砲撃によって建物が完膚なきまでに破壊され、遮蔽物が意味をなくした状況。ここに一帯を焼き尽くす炎の渦が生まれれば、生き残る方法などありはしない。

 

「……土煙に紛れて、悪が一匹逃げてます。させるかっ!」

 

探知機の画面を眺め、忌々しげにセリューが報告する。同時に右腕の大砲からの攻撃を開始する。

 

「あれは……レオーネですか」

 

彼女達から逃れる方向に、ひとつの人影を確認した。高速で駆ける金髪の女の姿から、ナイトレイドのレオーネと判断する。獣化により身体能力や反応が極限まで高まっているようだ。凄まじいスピードで荒野を走り、背後から次々と撃ち込まれるミサイルや砲弾を回避する。

 

「クッ……射程外まで逃げたか」

 

「どうする?追撃してみる?」

 

羅刹四鬼、スズカが今にも駆け出そうとするが、それをランは制止する。

 

「あの速度には追いつけないでしょうし、それに遺跡内のナイトレイドを確実に仕留めるのが最優先です」

 

その間にも周囲一帯は炎で熱せられ続けており、真っ赤に空間ごと焼き尽くされる。そして、ようやくボルスが帝具の使用を停止した。次第に炎の勢いは弱まり、赤色が消える。

 

「ちょっと待ってくださいね。ええと……」

 

セリューが手元の探知機を確認する。炎が消えることで、少しずつ遺跡内部の反応が現れだす。

 

「生体反応なし。全滅した模様です」

 

ホッと一息を吐く一同。

 

「レオーネを逃したのは痛いですが、他のメンバーを狩れたなら十分ですね」

 

「そうだな。一応、確認に行こうぜ」

 

燻っていた炎が消え去った遺跡の残骸へと向かう。降り注いだ爆撃と轟炎により、辺りは砕かれた石が積まれているのみだ。そこを念のため警戒しつつ歩いていく。探索すると、周囲には真っ黒に炭化した複数の死体が見つかった。ボルスの帝具『ルビカンテ』。さすがの威力である。表面どころか芯まで焼け焦げているが、原型は保っていた。そこにランが座り込み、それらの死体を検分する。

 

「これは……まさか」

 

彼は目を見開き、そして苦々しげに唇を噛み締める。

 

「この死体、すべて男性です」

 

仲間達もその事実の意味することを理解し、顔色が変わった。

 

「リーダーのナジェンダは、右腕が鋼鉄製の義手だったよね。それが無いってことは……」

 

「はい。それに、周囲に帝具も残っていませんし。彼らはナイトレイドではないようです」

 

こちらの攻めの姿勢を逆用された形になる。相手の策に嵌められたのだ。

 

「となると本物のナイトレイドは、逃げていったレオーネだけですか……」

 

セリューが悔しげに唸る。唯一のナイトレイドをまんまと逃し、革命軍の下っ端を叩いただけということだ。無駄足と言うほか無い。このアジトと思しき場所は囮。イェーガーズを郊外に引き付けるための。

 

「彼女に誘き寄せられたってことはさ。つまり……」

 

スズカの言葉に続けて、ランが焦りの色を浮かべて答えた。

 

「罠だということです。おそらくは陽動。イェーガーズの戦力の半数以上を、街の外に出してしまった」

 

 

――ボリック暗殺の絶好の機会

 

 

本来の任務であるボリックの護衛。キョロクの街の中には、エスデス、タツミ、クロメの3人しか残っていない。帝具使いの多くと羅刹四鬼を抜いた防衛戦力は、数の上でナイトレイドに劣る。無論、多数の兵士達が控えているが、帝具使いには決定打となりえないだろう。苦戦は必至、どころかすでに暗殺されている可能性もある。

 

「早く街に戻りましょう」

 

全速力でボリックの邸宅へと向かう。だが、残念ながらランの予測は的中する。彼らが引き返そうと判断したこの時、すでにボリックの命運は決していたのだ。

 

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